憑物
私新高1の美亜が
汚い文章ながら書き綴ってみました。
短く見やすいので、気休め程度に見ていって
ください。
僕、田中裕二は22歳になった。
いや、22歳になってしまった。
22歳といえば、まだ若いと言う人が大半だろう。
ただ、22歳になり僕に残されたのは
学生時代の学ランがまだ僕の背中を叩き続けているような、そんな学生時代への客観的に見れば気持ち悪い程の執念と自分には遠い夢を見るような虚しさであった。
近頃の話、
地元の学生時代の知り合い同士が遊んだという報告がSNSを通じて僕に伝わってくる。
本当はそんな情報見たくもないはずなのに、何故かそんな僕にとってはもう意味の無い情報に目を惹かれてしまう。
どれだけそんな情報を目にしても、僕の傍にいるのは微糖の缶コーヒーだけなのに。
そんな事を思って悲しくなった。
小学生の頃だ。
ちょうど3年生になる時、僕ははじめて「クラス替え」という悪魔と対面した。
明確な自己を持ち始めた僕にとって、はじめての環境の急変である。
勿論消極的だった僕に友達が出来ることは無かった。
唯一仲の良かった友達二人とはクラス替えをきっかけに疎遠になってしまった。
僕だけを違うクラスにした理由は「田中君なら誰とでも仲良く出来ると思った。」かららしい。
全くの見当違いにも程がある。今思い出しても言いようのない怒りがわいてくる。
僕はこの頃から、いやもっと前なのかもしれないが、
「異端者」として扱われていた。
他の人間が持つ「倫理観」を持っていなかったからだ。
自分は不思議な世界に住んでいると思っていて、人の鮮血をも、空気同然に捉えていた。
だが他の人間の気持ちは誰よりも理解出来た。
幼いながらにはっきりと目に映るそれは気持ち悪いものだった。
そして中学生になった。
結局「倫理観」がなんなのか見つける事が出来なかった。
クラスで馴染めなかった僕は、容姿が醜悪だったため学校でも、外でも、馬鹿にされた。
信号待ちをしている時、向かい側の道から女子二人が僕の事を指さしながら「うわ、気持ち悪い」と笑いながら言っていたのが見えた。聞こえた。
その瞬間、僕の中の何かが崩れた。
不思議の国に、住んでいた僕は急に現実に戻されたのだ。たかが二人から指をさされただけのはずなのにその描写はいつまでも頭の中に残って、空も地面も、乗っている自転車でさえも僕の事を指さしているように思えた。自分の中の「人の心」なんて砕け散った。そんな確信が僕の中に芽生えた。
担任から、「お前に人の心は無いのか。」と言われた。怒っているのではなく心底気持ち悪いと思っていたのが僕にはわかった。いや、誰でもわかるのかもしれない。
僕は、必死で努力し続け、やっと人と話せるようになった。中学三年の頃だ。
「うわ、気持ち悪い」と指をさしたあの子と、喋れるようにもなった。仲良くしてくれる人も増えた。
友達には、とても感謝している。
だが、その時の「人と話せる自分」は、もう既に僕では無かった。
今話している僕はこの「人と話せる田中裕二」に憑いている、「憑物」なのかもしれない。
こんな回想をしていると、
ようやく電車の光が見えてきた。
「憑物」をそっとポケットに入れて
少し空き気味の電車に乗る。
僕は二個隣の町の中学校に、「教師」として通っている。
「なぜ、教師になったのだろう。」
そんな疑問の答えは「憑物」だけが知っていればいい。
中学校に僕に似た生徒がいる。
鈴原杏里という生徒だ。
人とは最低限話せる。勉強も出来る。
だが、彼女の目には光が減っていっている。
この前、杏里に聞かれた。
「倫理観って何?」
久しぶりに僕はその疑問を聞いた。
しかし、案外あっさりと答えられた。
「作り物だよ。」
杏里はその答えに納得したそうで
「私、先生結構好きかも」
と僕が中学生の時に言って欲しかったような言葉を言って去っていった。
それからも杏里はたまに僕に質問をした。
「自分って何?」
「自分に使う労力より退屈なものってある?」
なんて哲学的な質問が多かった。
でもたまに、
「私は可愛いのかな」とか、
「私の頭ってホントにいいのかな」とか、
馬鹿っぽい質問もあった。
杏里の質問の中で一つだけ答えられなかったものがあった。
「なんで教師になったの。」
こんな簡単な質問にだけ、答えは出なかった。
駅のホームでふと「憑物」を取り出して考えてみた。
なんで教師になったのか。
中々答えは出なかった。出せなかった。
確かに中学生で教師になると決めた時、それはあったはずで、でも今となったら思い出せない。
電車の光が見えてきた。
今日は少しだけ暗く感じる。
ポケットに「憑物」をしまうのを忘れ、僕は考えながら電車に乗った。
電車に高校生が乗っていた。
彼もまた、目に光が無かった。
どこで失くしたかわからない希望を
新品を買いなおす事もなく、
ただ諦めていた。
憑物が僕に語りかけてきた。
「アレはオマエか。」
僕は答えた。
「違う。」
ふと、電車の窓を見る。
硝子には高校生と同じ目をした僕が映っていた。
僕は絶望した。
自分が「捨ててしまった」側の人間だと思いたくなかった。
だが、高校生に同情した。
絶望を、一緒に共有しているつもりになった。
電車を降りる時一言「無理はするなよ。」と高校生に声をかけた。
「はい。」という高校生の言葉が重く感じた。
三日後、学校で進路相談があった。
僕は杏里の担当だった。
杏里は僕が進路の話を出しても返事もしなかった。
まぁそういう子もいるだろうと思っていたら
杏里が、突然、
「ねぇ、なんで教師になったの。」と聞いてきた。
その目は光を失くしかけていた。
杏里の目は真っ直ぐ僕を見ている。
この質問には以前答えられなかった。
しかし、今はすぐに答えられた。
「君達が光を失わないためだよ。」
その答えを聞いた杏里は少し微笑んで
「なるほどね。」と言った。
その目には少し光が戻っていた。
僕の中の「憑物」も、笑っていた気がした。
帰り道、いつものように駅のホームで電車を待っていた。
杏里で進路相談は最後だった。
将来の夢には「教師」と書かれていた。
いつものように電車の光が見える。
今日はいつもより眩しかった。
ポケットを見ると「憑物」は消えていた。
電車に乗る。
ふと電車の窓硝子を見ると、
駅のホームで「憑物」が手を振っていた。
満面の笑みで。
ガラスの反射で見えた僕の顔は、
少しだけ、目に光が戻ってきた杏里に似ていた。
練習としてはじめて文章を書きましたが、
いかがでしたか??
感想コメントなどお待ちしております。
読んでくださりありがとうございました。