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あの日の後悔

作者: 横鞘にぼし

 今から十年前。当時十八歳だった私は、入学したばかりで右も左も分からない学生でした。私が学内で迷子になっていた時、優しく声をかけてくれたのが先輩でした。


 先輩も入学当初は苦労したのか、自身の体験も混じえて、大学の案内をしてもらいました。


 大方教えてもらった後、先輩に「テニスに興味ある?」と聞かれ、私は先輩に近づきたいという思いもあり「はい」と答えました。


 始めたばかりは何もわからず、周りの視線に冷たさを感じました。居づらさも覚えました。けれど、そんな私を支えてくれたのは先輩でした。


 時には居残り練習に付き合ってもらったり、時には食べに行ったり。毎日が幸せでした。


 私がテニスを始めてから二か月が経ったころです。私もずいぶんと上手くなり、練習試合ながら初勝利を飾りました。その時も真っ先に喜んでくれたのは先輩でした。


 後日、先輩とファミレスで祝勝会を上げた帰り道、私は思いきって告白しました。


 言葉がうまく出ず、言えたのは「先輩が好きです」だけだったと思います。返ってきた答えは「はい」でした。


 それから私と先輩は夏、秋、冬、そして春を迎えておおよそ一年間付き合いました。先輩は三年生になり、就職で忙しかったのでしょう。テニスの練習に顔を出すことは減り、私は寂しさを覚えていました。後輩の指導に明け暮れるときもふと、頭の隅には先輩がいました。


 いつしか私は寂しさよりも、避けられているという疑心が募っていました。先輩との会話も少しぎこちなくなっていたと思います。言葉数も減ったと思います。


 そして、たまりにたまった不満が爆発したのは、翌年の春頃でした。私は二十歳になり、酒の味を覚えた頃でした。


 その日は私の家で先輩と宅のみをしました。先輩は就職のストレスがあってか、酒を飲む手は止まりませんでした。


 いつしか先輩は不満を吐露し始めました。私は少しムッとしたと記憶しています。私は先輩の話を一通り聞き、私も不満を爆発させました。


 先輩はあっけにとられたような顔で、私の不満をすべて聞いて泣き出してしまいました。私は少し言い過ぎたと思っても、止める理性がありませんでした。いままでの寂しさ、想い、果てには先輩の浮気を私は疑ってしまったのです。人として最低でした。


 先輩は泣きながら私にこう言いました。「貴方に何が分かるの」と。私は言葉に詰まりました。続けざまに先輩はこうも言いました。「何か言ってよ」と。何も言えませんでした。


 ただ、泣いて立ち去る先輩の後ろ姿を見送ることしかできませんでした。私はあの日をひどく後悔しています。


 その後、先輩はテニスをやめ、会う機会はなくなりました。


 私も同じ年、後に続くようにテニスをやめ、就職に励みました。その時に分かったのです。先輩は大変な最中、わざわざテニスに足を運んでいるのだと。


 辛さが分かった今だからこそ、私が言うべきことは、寂しさでも想いでも疑いでもないことに気づきました。「ありがとう」「お疲れ様」そんな些細な言葉でよかったのです。


 最後になりますが、これはフィクションです。お付き合いしてくださった方、騙してしまい申し訳ありません。


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― 新着の感想 ―
[良い点] フィクションでも読みやすい良くまとまったいいお話でした。楽しませて貰いました。
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