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第六回 十訓抄『博雅の三位と鬼の笛』現代文アレンジ

 その日の夜は、満月のであらゆるものが紅く妖しく光り照らされている夜だった。

 その前日の夜に、ある男が営業時間を終えてシャッター通りと化した商店街でギターを弾いていた。

 彼の名前は平永(ひらなが)宗也(しゅうや)。ギタリストだった父に感化されて、小さいころからギターを弾いていて、大人になったらギタリストとして出世して父に手向けるというのが夢だった。

 彼の父は宗也が11歳の時に胃がんで死去し、以来、彼は父のためにギターを演奏するようになっていった。

 宗也のギタリストとしての腕前はなかなかのもので、いつもなら4,5人の観客がいる。

 しかし、最近は何故か人が集まらなくなってしまい、通行人はいるものの、誰一人足を止めて聞き入る人はいなかった。

「なんだかなぁ……」

 宗也は思わず溜息とともに少量のイライラを吐き出した。最近誰も集まらなくて、彼はかなりイライラしていた。そのイライラが演奏にも反映されて、更に人が集まらなくなっているのだが、彼はそれに気が付いている。しかし、気が付いているからと言って直せるものではなく、されに対してもさらにイライラしていくという悪循環に陥っている。

「……これ以上やってもしょうがない、今日はこれくらいにしておこう」

 宗也はそう言ってカントリーロードを弾き終わり、ここから立ち去るべく片付けを始めた。

「しっかし、なんでこんな急に人が集まらなくなったんだろうな……」

 何故かは知らないが、ちょっと前からぱったりと人が来なくなってしまったのだ。

「この辺りに何かできたのか? まあ、明日はちょっとこの辺りをうろついてみるか」

 片付けを終えた宗也は、そう言って闇夜の中に消えていった。


 ◇ ◆ ◇


 翌日。

 宗也は月が紅く光る夜の下、特に目的もなくギターを持ってふらふらと商店街近辺を探索していた。

「もしかすると、俺より上手いやつが現れたのかもしれないな……」

 宗也はそう独りごちた。すると、この発言がフラグとなったのか、少ししてかすかにギターの音が聞こえ始めた。

「……え? おいおい、すごくいい音じゃないか」

 聞こえてきたギターに耳を傾けると、とてつもなく綺麗な音色が聞こえてきた。宗也が持っているギターは12万ほどのなかなか良いギターなのだが、そのギターよりもさらに重厚で、しかし儚さを孕んでいるという、矛盾を体現した音だった。

 100万近いギターなのか? 彼は頭の中でそう思った。彼の知る限り、良い音のギターというのはこれくらいしか思いつけなかった。

 やがて音を発している人物がいる場所のところまで来た。しかし、もう8時だというのに十数人の観客がいて、ギターを弾いている人の姿を見る事が出来なかった。

 宗也が弾いている人を見ようと位置を変えようとしたその時、急にギターの音が止んだ。どうしたのかと思って彼がギターを持つ人物の方を向いた時、

「弾いてみないか」

 そう言う声が聞こえてきた。宗也はその高いアルトの声の美しさに、無意識に首を縦に振っていた。その時には観客はモ―セの奇跡のように綺麗に二つに割れていて、彼らが囲んでいた人物のもとに一直線の道ができていた。

 そうして見えた彼は……他に例えることができないほど絶世の美男子だった。女子かと見間違うほどの肌理(きめ)細やかで白く、鼻目立ちはすっと通っており中世的な顔立ちで、(つや)やかで(あで)やかな髪がそれらを一層引き立てている。極め付けはその瞳だ。髪に劣らず漆黒のその眼は、一切の曇りなきもので、もう最高……なんて言っているのかわからなくなってきた。

 宗也は誘われるようにその男の元へと立ち、気付けば差し出されたギターを受け取っていた。

「おお……」

 思わず声が出てしまっていた。ギターに使われている木の質感からして違うのだ。宗也は弦を(はじ)いてみた。そして奏でられた音に、更に感嘆の溜息を吐き出した。低域も広域もしっかりと出てきて、演奏しなくとも音だけで魂に響いて来る。この音の感じは恐らくアッシュだ。しかし、木の肌触りが違う。なんとも不思議なギターだった。

「そのギターを貸してくれ」

 男が宗也の背負うギターを指さして言った。宗也はうなずき、男にギターを渡す。男もうなずき返してカバーからギター本体を出し、男も一度(はじ)く。顔こそ変わらぬものの、満足そうに頷いた彼は、宗也にアイコンタクトで演奏を促してきた。

「……いいのか?」

 宗也もそこまで図々しくは無い。声に出して確認をとる。観客の方も今から何をするのかを察したらしく、しんと静まり返っている。

「適当に合わせる」

 男がそう言うと、宗也は了承の意をこめて頷き返し、演奏を始めた。曲はあいみょんのマリーゴールド。

 ギターの鳴らす相手の心をつかむような調べに宗也を含め各々が酔いしれていると、男が入ってきた。なんと、オリジナルの旋律で、宗也の鳴らす音に合わせて一音一音和音が発生している。観客は次々に魅了されていく。宗也も魅了はされずとも、人がこっちに集まっている理由を知り、納得していた。

 まずこのギターの音。ギターなのに、人を癒す力がある。『音楽が』ではなく、『ギターの音』が癒しを与えてくれるのだ。更に、この男の才能。そもそも主旋律に合うように和音を作るなど、常人には不可能に近い所業だ。絶対的な音感が無いと難しいだろう。

(そりゃあ人も集まるわな)

 逆に、十数人しか集まっていないとも言えるレベルだ。ここまですごいのに、これだけしか集まっていない。逆に何かあるのではないかと思ってしまう。しかし、宗也のそんな疑問はすぐに霧散し、演奏に集中していった。


 マリーゴールドの演奏が終わり、聴衆からは惜しみの無い拍手が送られる。ああ、これだ。宗也はそう思っていた。彼はまだ7人以上の観客がいる中で演奏をしたことが無かった。だから、彼はこの十数人以上の観客の中で演奏をして、こういった満足感を得ることができた。

「あなたのおかげです。ありがとうござ……」

 ギターを貸してくれ、更には一緒に演奏してくれた男に礼を言おうと宗也は後ろを向いた。しかし、そこには誰もいなかった。

「あれ……?」

 男の姿を探して周りを見ると、男はここから去っていくところだった。宗也のギターを持って行ったようだ。しかし、こちらの方が確実に高いギターなのだ。わざわざ持って行く理由は無いはずだ。

 聴衆のまた聞かせてくれという声に適当に返しながら、彼は足を進める。男が角を曲がり、彼も曲がると、男の姿はそこにはなかった。その道は一本道で、どこかで曲がるということは不可能だった。

「何だったんだ……」

 

 ◇ ◆ ◇


 男がギターをわざわざ交換して行った意味を考えていた。何故わざわざギターを交換したのか。その不可解な行動は宗也の頭をパンクさせるには十分だった。 考えても仕方がない。だから宗也はもう寝ることにした。


 ◇ ◆ ◇


 次の夜。満月の次の日の今日はかなり冷え込んでた。空は雲に覆われ、直に雨か雪が降り出しそうだ。宗也は雨に振られないうちにと足を早め、昨日あの男と演奏した場所までやってきた。しかし、そこには人影も気配も何も無く、ただ閑散としているだけだった。当然昨日の男もいない。まあ毎日いるような暇人でもないだろう。少々待って来なかったら帰ることにして、宗也は少しの間待つことにした。

 宗也はギターを丁寧に降ろし、自分もそのまま地面に座る。あの男は来るのだろうかと、取り留めのない考えが浮かんでは消えていく。男が来たらこの素晴らしいギターは返さなければならない。そう考えると少し、いやかなり勿体無く感じてしまい、それと同時にこんな考えも浮かんできた。自分に渡して消えたのだから、ちょっとぐらい引いてもいいのではないかと。

 宗也は気付けばギターを手に取り、ジョン・レノンの『イマジン』を弾いていた。英語が苦手な宗也は意味はあまり分かっていなかったが、リズムと曲の独特な雰囲気が好きでよく歌う曲だった。なにより、この曲を歌うと人に癒やしを与えるギターの力も相まって、非常に落ち着くのだった。

 曲を弾いているといつの間にか数人ほどの観客が集まっていて、それに気合いが入った宗也は更に数曲演奏した。すると近場の酒場からも人が集まってきたらしく、次第にどんどん多くなっていき、最終的には五十人ほどの観客が集まっていた。

 最後に押尾コータローのSPLASHを弾き終わると宗也に大きな拍手が贈られた。それを全身で受けた宗也は、身体が充足感と幸福感でいっぱいになっていた。

(父さんも、こんな気持ちだったのかな……)

 宗也の父はもういないが、やっと父に一歩追いつけた気がしたのだった。

 宗也が幸福を噛み締めていると、一人の男が群衆を掻き分けて宗也の前へと出てきた。

「素晴らしい! ギターのモノもそうだが、君の歌と演奏技術もかなりレベルが高い! そこでなんだが、私はレコード会社の者でね、是非君にCDを出して欲しいのだが、どうだろうか」

 男は自分がレコード会社の者だと名乗って名刺を渡し、そう提案した。父のためにギターで出世したい宗也にとって、これは願ってもない話しだ。胡散臭いだとかそういったことは考えず、宗也は即座に同意した。

 男は明日の10時が働いているというレコード会社に来て欲しいと告げ、その場から立ち去っていった。宗也もその後を追うようにその場から立ち去った。観客が幾度も凄かったなどの感想を述べていたが、宗也は全てに生返事だった。


 ◇ ◆ ◇


 その後、ビートルズの『ペーパーバック・ライター』やHIDEの『ピンクスパイダー』などの計16曲のカバーが入ったCDをリリースすると、新米な上、オリジナル曲などは一切入っていないにも関わらず14万枚の売上を誇り、一躍有名人に。本人は『このギターのおかげだ』と言うのをファンたちは謙遜だと受け取り、更に宗也の名声はとどまることを知らずに上がり続け、彼が59歳で死んだ時には三代目明石家さんまと呼ばれてる大河原香野(こうの)や池上彰の跡を継ぐ形で台頭したジャーナリストの明坂(さとる)などの著名人が参列し、一般人も参列して総勢2万名の大規模な葬儀となった。


 ◇ ◆ ◇


 葬儀参列後、祖父の宗也から形見としてギターを譲り受けた孫の颯真(そうま)は、ギターと一緒に渡された手紙に書いてあったあの商店街へ向う途中だった。何でも、そこが宗也にとってすべての始まりの場所だという。颯真はギタリストになる気はなかったが、超有名人の祖父の始まりの場所だというのだから、気になるに決まっていた。

 手紙に記されていた地図の指す場所に着き、颯真は背負っていた形見のギターをカバーから取り出した。ギタリストになる気はないとはいえ、祖父が超有名ギタリストなのだから、それなりにギターを弾くことができた。

 時間は七時過ぎ。颯真が選んだ曲はあいみょんの『ハルノヒ』だった。相当古い曲だが、颯真はこの曲が気に入っていた。

 ちょっと早い時間だったからか、聴客は誰もいなかったが、颯真の耳に『やはりなかなか良い音なのだな』と、男の声が聞こえた気がした。

 どうも、四季冬潤とか言う者です。


 大幅に遅くなってしまい、大変申し訳ありません。

 弁明を致しますと、私は高校生なので、冬休みの宿題と検定勉強が忙しく、なかなか時間を作ることができませんでした。

 スマートフォンを入手したので、これからはもっと速いペースで投稿していけたらいいなと思います。


 さて、今回のお題は文芸部顧問の先生からのおだいとなります。

 途中を省略しているところがありますが、知識&能力不足で書けませんでした。なので大目に見て頂きたいです。


 まだまだお題は募集中です。どうぞお気軽にお題を出してくださいね。

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