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第五回 転生したけど転生者しかいない異世界だった

「ここは……」

 佐潟(さがた)東生(とうせい)は小屋の中で目を覚ました。

 そこは6畳ほどの大きさの部屋で、壁も床も木でできていた。家具は机と東生が寝ていたベッドしかなく、木の温かみを感じるには少々殺風景な部屋だった。

 見慣れない部屋を見渡し、彼は自分が先ほど何をしたかを思い出す。

「そうだ、俺はボールを追っかけて道に出た少女を助けて……」

 トラックに轢かれた。そう言ったが、元々声が小さい彼の声は急に開け放たれた扉の音にかき消された。

 東生は急な大音量に身をすくませ、恐る恐る扉の方を見ると、そこには一人の男が立っていた。

 その男の身長は大体180㎝程、スーツを着て、オールバックの髪形をした……いわゆる『極道』というのにふさわしい見た目の男だった。

「どうだ。体は大丈夫か?」

 だが、その男はそのいかつい見た目とは裏腹に、心配をにじませた声音で淡々と東生に声をかけた。

「は、はいっ! 大丈夫です!」

 東生の声が緊張と恐怖に震える。無理もない、彼は高校1年生という、まだ社会の理不尽も人の恐怖も感じたことのない年齢。始めて見た、恐怖の象徴である極道のような格好をした男に恐怖を覚えるななどと言う方に無理があった。

「そうか。……俺は逢阪和磨(かずま)だ。おまえは?」

 和磨と名乗った男が、おそらくこれが普通に発した声であるのだろうが、ドスの効いた声で東生の名を尋ねた。

「お、俺は佐潟東生と言います! 佐は佐賀の佐で潟は新潟の潟、東生は東に生まれると書きますっ!」

 東生は裏返った声で自分の名前を言った。

「東生……良い名だな。急だが東生、お前は既に死んだ」

「……は?」

 和磨のあまりにも突拍子もない言葉に東生は思わず素っ頓狂な声をあげた。

「言葉が足りなかったか。ここは異世界で、お前は転生した」

「いや、ちょっと待ってください。嘘でしょう? 異世界だなんて」

 東生は理解できないという感じでかぶりを振った。

「嘘ではない。そこの窓から外を見てみればわかるだろう」

 和磨はあくまで淡々と告げる。東生が外を見てみると、

「……おい……嘘だろ、これって……っ!」


 窓の外は焼け野原だった。


 草の一本も生えず、あるのは焼け焦げた土だけ。かろうじて小川があるものの、あるのはそれだけであり、生物が、そして生物が暮らしていると感じさせるものは一切無かった。また、遠くの方には山と城だったらしき建築物が見えるも、城は壁がすべて焦げ、ほぼ全壊といっても過言ではないほど壊れており、遠目にも人が住める環境には無かった。さらにその奥に見える山々はすべて裸山で、緑など一つも残っていなかった。

「戦争があった。すべてが焼け、生き残った者は俺を含めて40人ほど。今は俺達で細々と暮らしているだけの世界に過ぎない。かろうじて作物はあるが、動物などほぼいない。7頭だけ牛がいるが、そいつらも今は増やしている最中だ」

 東生は言葉が出なかった。一面が焼け野原など、今の地球では見る事の出来ない光景だ。瓦礫も残骸も残らず、焼け焦げた土しかない状態など、広島や長崎に原爆が落ちた時ですら瓦礫などは残っていたのだ。どれだけ過激で熾烈(しれつ)な戦争が起きたのかは想像することなどできはしない。この光景が何が起きたのかを鮮烈に物語っていた。この光景以上に今の状態を表すことなどできないであろう。

「俺はこの世界に関しては今いるメンバーではかなり古参の方だが、俺が来た時にはもう大国同士で戦争がはじまりそうになっていた。いくら極道の幹部だったとはいえ、一介の人間に戦争を止めることなどできはしない。すぐに戦争が始まり、国々はチート能力を持った転生者たちを競って囲い、脅し、戦争に利用した。その結果がこれだ」

 割と饒舌なことが判明した和磨の声音は更に低く、何も知らない人からしたら恐怖しか感じられないものになっていた。

「……そんなの、第二次世界大戦と同じじゃないですか」

「ああ。それより酷いがな」

 東生の絞り出した声に和磨は皮肉気に唇の端を歪め、返した。それは諦念とも、怒りとも、後悔とも感じられるもので、東生は怒りと捉え、身を震え上がらせた。

「和磨さん。そろそろ時間だ」

 突然、ドアの外から声がかかる。その声は男で、まだ若い男の声だった。

「今行く」

 和磨はその声に返答し、東生を見た。

「今から食事をもらってくるが、お前も来るか?」

 東生は即答した。

「はいっ!」


 ◇ ◇ ◇


(何なんだろうな、この人)

 ベットから起き上がりながら俺はそう考えた。

 この人は極道っぽい雰囲気と見た目で、しかも本人が元極道と言っていたけど、あまりにも俺の極道のイメージとはかけ離れていて正直驚いた。ここは異世界にも関わらず、さらに滅亡寸前ということは食料も何もかも余裕がないはずなのに俺の面倒を見てくれるという優しさ。あくまでも俺の意見でしかないが、現代日本でもなかなか見られないような良い人ではないだろうか。

 しかし、まだ警戒を解いていい訳ではない。信頼に値する人だとは思うけど、まだこの人のことはよく知らないのだ。何をされるか分かったものではないからまだ警戒は解かない。


 ◇ ◇ ◇


「おお……緑だ……」

 小屋の外に出て、東生は思わず声を上げた。

 さっき見ていた窓からは焼け野原しか見えなかったが、こっちから見てみると違った。

 あるのだ。緑が。

 といっても沢山ある訳ではない。牛を囲む柵があるのだが、その中とその周辺にあるのと畑だけで、しかも作物は7種類だけで、芋、葉野菜2種、根野菜2種、ナス、小麦しかない。それでも、何とか自給自足が可能な程度には作物があった。

「放射能汚染が無かったことだけがせめてもの救いだな。こうして作物が作れる」

 和磨はそう言って人が集まっているところに歩みを進める。東生はそれに慌ててついていく。

「おっ、和磨さん来たか……ってその子目覚めたのか?」

 一人の男が和磨に声をかける。その声は先ほど和磨を呼びに来た声と同じ声だった。その男は175㎝程の身長と黒髪黒目、やややさぐれたような風貌の男だった。

「ああ。名前は東生というそうだ」

「東生、か。おはよう東生君。調子はどうだい?」

 男は東生に笑いかけ、体の調子を尋ねた。

「そ、そこそこっす」

 東生は少々どもりつつ返答した。それを聞いた男は安堵したように息を吐き、再度東生に笑いかけた。

「そこそこなら大丈夫だな。俺は芦田(あしだ)(のぶ)っていう。よろしくな」

「は、はい。……ところで、黒髪の方しかいないっすけど、まさかここの人って……」

「お、やるね、もう気付いたか。そう、今この世界には


 俺らのように転生してきたやつしか残っていないんだ」

どうも、四季冬潤とかいう者です。

今回のお題は綿飴なごみさんからのお題、『転生したけど転生者しかいない異世界だった』でした!


今回は続編製作可能な終わり方をしています。そのため、作品指定していただければ続編を書きますよ!

その際は次のように記入をお願いします。


お題:○○○○○○○○ 作品:第五回


お題は随時募集しております! どしどし下さいね!

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