第4話 その名も学園広報部!
第4話更新しました。
二時間目、物理の授業が始まった。
一時間目の業間休みに「うぇぇぇ、物理きらいだよぉぉ…」と唸っていた恵先輩も、いざ授業が始まると集中して取り組んでいた。後ろを振り返ると有斗が気持ちよさそうに寝ていた。なんだかつられて俺も眠くなってきたな、人間眠い時は寝るべきだろう。
目の前に物理の副教材を開いて壁を作って教室の視界を誤魔化す。椅子を引き、姿勢を楽にした時に俺は突然右脇腹を小突かれた。「痛っ!」思わず口に出してしまったことで、教師に怪しまれたようだ。
…目を付けられた以上もう寝ることは出来ないだろう(この後2回ほど問題を当てられた)。諦めて教科書を開くと、机の上に一枚のメモ用紙が投げ込まれた。そのメモを開くと。
『授業ちゃんと受けないからだよ笑』
右を向くと恵先輩がこちらを見てクスクスとお腹を押さえて笑っていた。
「いやあんたが小突いたからだよ!」と、思いはしたが口には出さないことにする。左隣の東雲も反対側を向いて笑うのを必死にこらえているからだ。この二人は似てないようで妙に気が合う。
そんな二人の様子を見ると怒っていることが馬鹿馬鹿しく思えてくる。去年の部室でのいつものやり取りが懐かしく思いつつ、こんな現状が楽しく思い始めていた。
ちなみに八つ当たりで有斗を起こしたが、有斗は「ふわぁ、ありがとね~」と素直に感謝していたので、余計に自分が惨めに思えた。純粋な人間はどこまで透き通っているのか。俺は随分、汚れてしまっているようだ。
午前の授業も終わり、俺は有斗に連れられて、駆け足で食堂に来ていた。学生の懐事情を加味しても比較的良心的な価格設定なので、多くの生徒が訪れるため急いでいかないと席が埋まってしまうのだ。
俺はメニュー表を見ることもなくコスパ最強のカレー(大)を選ぶ、男子学生の大半はこれだろう。
有斗はBランチと日替わりデザートを選んだ。どう考えてもコスパは悪いが、女子学生の定番セットなんだから不思議なものである。
そんなことを考えながら有斗の方を眺めていると、彼は視線を手に持つプリンと俺の顔で行き来させ始めた。有斗は少し考えた後思いついたようにスプーンで一口分のプリンを掬うと、自分ではなく俺の口の前に運んだ。
「はいっ!一口だけだよ?」
「ん?あぁ、すまんな、別にそういうわけじゃないんだ」
差し出されたスプーンをさりげなく受け取り、逆に有斗の口の前に運ぶ。有斗は不思議そうにしながらも「あーんっ!」と勢いよく食いついたあと、幸せそうに味わいながらこちらを見ている。口をもぐもぐさせている姿はとても愛らしく、さながら小動物のようだ。
男とはいえ、見た目が女子に近い有斗からプリンを貰うのは恥ずかしいと思った上での判断だったのだが、やってみると彼女に「あーん!」をする彼氏のようでこれはかなり恥ずかしい。
「えへへ、でも燈くんプリン見てなかった?」
「プリンじゃなくてお前を見てたんだ」などという突如降ってきた痛いセリフを噛み殺す。こいつの上目遣いはあらゆる男子の調子を狂わせる、意識的に平静を保つ必要があるから大変だ。
「いや、ちょっと考え事をしてたんだ」
「そうなの?…あっ!だから甘いもの食べたくなったんじゃない?」
「ほほう、というと?」
「あれだよあれ!考え事してる時は甘いものが食べたくなる~ってテレビとかでよくいうやつ!」
「なるほど、確かにそれはあるかもしれないな。でも、それを言うなら有斗は考え事に関わらず甘いもの食べたくなるよな?」
「…逆に考えてみると、僕はいつも考え事をしている…ってことにならない?」
「有斗…お前さては天才か?」
なんて有斗と馬鹿話(有斗は本気)をしていたらあっという間に時間が過ぎてしまったので、手早く下膳を済ませて教室に戻る。不意に視線を感じた気がするが、おそらく気のせいだろう。気のせいだと思う時は大概何かあるのだが、この人混みの中から視線の主を見つけ出すのも難しいのだ。
「おかえり〜、ともくんとあるくんは仲いいんだね〜」
教室に戻ると恵先輩と東雲が机を挟んで談笑していた。呼びかけられたあるくんこと有斗は「あるくん?」と自分を指さしながら慣れない呼び名を復唱していた。俺が頷くと、有斗は少し考えてから「いいね!」と言いたげにドヤ顔で親指を立ててきた。どうやらお気に召したようで、恵先輩とも打ち解け始めているようだ。
ちなみに有斗は、恵先輩が留年生であることを気にしていないようで、普通に恵ちゃんと呼んでいる。
先輩も喜んでいるから問題はないだろう。
午後の授業も恙無く終了し、今年初めての課外活動の時間がやってきた。渡り廊下を進み、西棟(通称部活棟)の3階に向かう。最上階の突き当たりに位置する少し狭めの一室。ドアを開くと中にはいたって普通な小会議室程度のスペースに本棚やテーブル、椅子などの簡素な設備が揃っていた。
「ここは世を忍ぶ仮の部室…そしてここが、私たちの本拠地だ!」
やけに大きな本棚を横に引っ張ると、1枚の扉が現れる。そこには大きなテーブルやソファが既に用意されていて、完全なる別室が広がっていた。大きさは先程の部屋の2倍以上だ。おそらくこれも全て恵先輩の手配だろう。
「すっごーい!ここが僕達の部室になるの!?」
「これは…去年より手が込んでますね」
「だな…一体何が始まるんだ…」
「まぁまぁみんな落ち着きなさ〜い!ここが学園広報部の本拠地!広報部室よ!」
恵先輩は「まぁ、簡単に言えば遊び場なんだけどね」とついでのように言っているが、テレビや冷蔵庫まであって、下手すれば家より快適じゃないのか?などと考えるレベルだ。
有斗は既にソファに寝転がりくつろいでいる。俺はとりあえずソファに掛けたが気が休まらない。東雲にいたっては完全に入口で固まってしまっている。そんな中、恵先輩は反対側のソファに腰掛けると早速話を切り出した。
「今日の内容はこれ!今日は〜、今週末何をするか決めましょっ!」
東雲と俺は悲しいような懐かしいような気持ちになった。去年の活動内容とはこの通り、先輩が行きたいところ、やりたいことを決めて、その度にそれに同行する。ある程度の費用や移動用の足は提供されるが、各地で先輩がやりたい放題するため、そのフォローに骨が折れるのだ。
本来は各学年2人ずつの合計10人のはずだが、去年は特別枠ということで恵先輩に俺と東雲が加わった3人での課外活動となっていた。今年はそこに有斗が1人加わるだけなので、あまり変化がない。当の有斗はやけに適応力が高く、テーブルの上のクッキーに手を伸ばしていた。
「それでは発表します!」
ババンッ!という掛け声と共に、恵先輩は備え付けのホワイトボードに目的地を書き込む。俺と東雲が不安がる理由、それは目的地の話し合いと言いつつも、既に先輩の決めた目的地を発表するだけだからだ。こちらの意見は基本通らず、拒否権も当然ない。
去年なんて「明日から1泊2日の北海道旅行よ!」なんて言い出すもんだから慌てて準備したものだ。
「くっふっふ〜、今週は…お花見するわよっ!」
「みんなでお花見?楽しそうだね〜」
「そうだな、今回は軽めのやつが来たな」
東雲も安堵の表情を浮かべていた。一発目ということでかなり身構えていたらしい。有斗は既に「何を持っていこうかな〜?おやつはバナナに入る?」なんて言っている。バナナはおやつに入る?と言いたいのだろうがとりあえず入るんじゃないか?と言っておく。
「恵先輩、ちなみに場所はどこなんですか?」
「場所は学園の管理棟裏にします!いつもは生徒達は立ち入り禁止なんだよねーあそこ」
広報部の活動の一環ということで理事長から許可を得たらしく、周りに気兼ねなく使えるため本人曰く絶好の花見スポットのようだ。この人はなぜか頭は回るのだ、たまに抜けてるけど。
「というわけで!ののちゃんは当日のお菓子の用意、ともくんとあるくんは一緒に準備の方を頑張ってね〜」
「お菓子ですね?花見なら和菓子にしますか」
「いいですよ、具体的に何をしたらいいですか?」
「そうだね〜」と言いながら、人差し指を口元に当て何やら考え始めた恵先輩。どうやらお菓子のことを考えているようで、口元が緩んでいる。そして思いついたように顔を上げると、こちらに向き直る。
「そ、そうだ!なんか華やかさが足りないなぁ〜って思ってたんだよねっ!なので〜、桜の木20本くらい追加で用意して貰えるかなっ?」
そうだね、こういう人だったよ。有斗は「頑張ろうね!」なんて言っているがそんな簡単にはいかないだろう。花見開催の今週末まで限られた時間は残り僅か。俺達はこの難題をなんとか出来るのか…