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はじめましての方もそうでない方も、どうも。
カメの更新ですが、悩む人、同じ思いの人に少しでも力を上げれたらと思います。
紅茶は温度管理が一番重要です。
ボコボコと沸騰したお湯をあらかじめ温めてたポットに注ぐぎ、一枚隔てたガラスの内側で葉が泳ぎ、優美な舞を魅せる様を見届けるこの瞬間が一番集中するし一番楽しいひと時だと私は思っています。
葉が泳ぐのはお湯が高温である証拠。葉が踊ることで紅茶は成分を抽出し香りを際立たせることができるのです。
「へぇ、じゃあ沙紀ちゃんはコーヒーよりも紅茶の方が好き?淹れるの」
それまで肘をついて私の話に耳を傾けていた彼は少し意地悪そうな、それでいてとても穏やかな顔で問いかけてくる。どうにも彼のその顔に弱い私は目を見た瞬間思わずポットに視線を戻し、美しく色づいた紅茶を湯を捨てたカップに注ぐことに意識を向けた。
「勿論、そんなことはありません。紅茶には紅茶の、コーヒーにはコーヒーの奥深さがありますから。私にはどちらも甲乙つけがたいですよ」
少し早口になりながら出来上がった紅茶をカウンター越しに彼の前に置くと少しだけ、彼は苦笑していた。
普段は飄々としてこちらに隙を見せない彼のそんな顔が珍しくて首を傾げてしまう。
「ごめんごめん、流石に今の質問は意地が悪かったかなと思ってさ。だって…」
そこで一度言葉を切り、カップに口をつけて静かに息を零した。私が淹れた紅茶で彼が優しく微笑むのは少々気分がいい。しかし思わず顔が緩む私の手を取りゆるりとこちらに視線を向けてきた彼に一瞬にして引き込まれてしまった。先程より一層甘さと柔らかさを纏った笑みを浮かべる一連の動きは優美で艶めかしく
なにより、美しい。
「君の真剣な顔は大好きだけど、それが俺以外に向けられるのは…ちょっと妬ける、かな」
「…私をからかうのはよしてください、相澤さん」
「だーからぁ、伊織って呼んで欲しいんだけどな」
拗ねたように口を尖らす彼の言葉に何も返すことなく、新たに訪れたお客人に私は笑みを浮かべた。
「ようこそ、いらっしゃいませ」