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Psychic×strangers   作者: さがっさ
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第二話 中立魔導保全都市、迎撃戦 /クライマックスフェイズ22:生長外壁での混沌戦線

何とか書けました。

 色褪せた緑が三人と一体に向けて押し寄せる。


 その全てが、茨の触手。

 打ち据えられればそれだけで皮膚は無惨に裂かれ肉は抉られるだろう。

 視界を埋め尽くすほどに広がったそれらはもはや押し寄せるに等しい。

  

 


「はっきりと言っておこう」


 

 "生長外壁"に対して貼り付くように立っている樹木の怪人、魔軍の参謀であるオークストが佐助達、特に偽蜥蜴巨人へと向けて告げる。

 


「我らは確かに貴様等の魔法さえすり抜けるような力について警戒していたが、それでもこうして目の前に引きずりだせば問題無くくびり殺せると踏んでいた。わざわざ、八魔将であるクドーラクセス様の手を煩わせることもなく……姿を誤魔化すような雑魚なぞ、簡単にひねりつぶせるわ」

「言ってろよ。この姿はお仲間のもんだろう? 実力が分かっているなら、そうとう厳しい筈じゃないのか?」

「それこそ戯言だ。姿形を真似たものの力を得られるのであれば、ああも無惨な逃走になる筈もなかろう。遠目かれみていたが、正に縄張り争いに負けた獣の如き敗走の足取りだっただろう」



 その口ぶりは正に、お前程度の姿だけの虚仮威し(こけおど)と断じ、安く見積もっているという証座であった。

 湧き上がる嫌悪のままに振るう力は稚拙なものにしては強大であると言わざるを得ない。




「来いやァァ!」



 対して、偽蜥蜴巨人は両手足を広げて叫喚を一つ。

 それから、迫る茨の群れをその巨体で受け止めた。



「ぐぅァッ、ハッ、ハハハハ! どうだァッ!? 見たかよ。これでも幻かどうか分からねえか?」

 


 殺到する無数の茨を僅かに地面をすり減らしながら後ずさりながらも頑丈な鱗と膂力で防ぎ抑えきる。

 偽蜥蜴巨人は受け止めた茨の塊を大きな両腕でそのまま抱え込み、渾身の力で引きちぎり放り捨てた。その身体には細かい傷が付けられているものの、強固な鱗を引き裂き血を流すには至っていない。

 


「大したものだといってやろう。だが、例え本物のリンブル・スーザがいたとしてッ! "生長外壁"を掌握した私に敵う筈もない! 貴様等の処刑は既に決定事項だッ!」



 苛立ちを抑えきれずにオークストは次の茨の群れを"生長外壁"から生やし、一気に解き放つ。  

 それに対して、先ほどと同じように偽蜥蜴巨人は踵を地面に付けないようにしながら僅かに腰を落として構える。 


 佐助からはそれを相撲に通じる構えだという印象を感じ取ったが、背後を守るような目的を持った構えは相撲には無い。

 我流断じるにはどこか洗練されたような修練と定型とも取れる基礎が見られるが、そのような武道、武術は佐助の知識には無い。

 

 

(この世界独自の流派か? それにしては何処かで見たことがあるような……)

 

 

 率直に感じて違和感を頭の隅に置きながら、佐助は次の行動について思考する。

 

 佐助としてはこのまま二人が共倒れになるまで待つ、選択肢は"有り"だと考えていた。

 味方となる、と共闘を持ちかけてきたが、正体もしれない相手の発言を信用する筈もなく、そもそもの話として魔軍が攻め込んできた理由である者達の一員であるというなら、その責任を矢面に立つことで果たして貰ってほしいと思っていた。

 背後に立つ理由はあっても、背中を預ける理由は無い。それが佐助の判断だ。

 


 とは言え、そもそも彼らにはそれほど時間が残されている訳では無かった。


 

 ズズン、とマナリストの中央から都市全体を揺るがすような地響きが伝わってきている。

 それは、突如として出現した二体の巨大モンスター同士の激突により引き起こされていた。

  

 今はまだ影響はこの場まで届いていないが、何時この場が怪獣同士の決闘場に早変わりするか知れたものではない。

 共倒れを待つ間に迫る災害の餌食になれば元も子も無いだろう。



「行けます?」

「……やらなければならんだろ。問題は俺が準備を始めたら矛先がこちらを向くだろうということだ。あの調子でこちらを見くびってくれているならいいが……、そこまで楽観的には考えられん」



 実は既に《透視能力(クレヤボヤンス)》にて"生長外壁"内にある筈の赤い霧の核を補足している。

 後はマニガスから託された対抗魔法を唱えて当てるだけである。



「何秒かかるっすか?」

「ぶっつけ本番であることを考慮しても二十秒あれば。アレを相手には長いと思うがな」

「そうですね。こちらの戦力にあの方を含めたとしても、些か苦しいかと」



 無駄なことをしているな、と佐助は率直に思った。

 段取りについてはここまでの道中はもとより、騎士団の本部にて待機していた時から大体の段取りは話し合っていたし、最終確認を行うにしては、些か場所が危険すぎる。

 そもそも、こうして話し合った所で自分達が行うことは変わらないだろう。


 

「ここで作戦をべらべらと話している暇も無い。……頼んだぞ」

「任せて欲しいっすよ」

「えっと、その気を付けてください」



 志穂梨の激励に背に受けながら、佐助は彼女が展開していた薄いベールの障壁を通り抜け、オークストへと駆けだした。



 それに対して、樹木の怪人は安全地帯から踊り出て来た佐助を一瞥したのみで偽蜥蜴巨人へ"生長外壁"から呼び出した茨の触手を放つ。



 "生長外壁"を掌握した自分に対して、たかが斥候風情に何ができるのか。

 相手がいかなる超能力を持ち合わせていようが、それが都市一つを襲撃してきたモンスター全てを鏖殺し栄養とすることで防衛する"生長外壁"を前にして何ができるのか。

 それができる個人などは対魔十六武騎のような者はこの場に居らず、残る可能性として考えられる魔王姫も、その姿を現すのであれば好都合であった。


 むしろ、彼女が姿を現しやすいように、オークストはわざと油断して誘っていた。


 彼にとって想定外であったのは、予想以上にリンブル・スーザの姿を借りた偽物が傷一つつかずに"生長外壁"からの猛攻を凌ぎ続けていた。



(ここまで無傷ということは、幻の類では無い、つまり奴は変身能力の方ということだが、それでもリンブルに変身できるのが限界。できるのであればそれこそ姫やクドーラクセス様に変身すればいい筈だからな)



 じりじりと押されながらも傷一つつかない鱗は正に魔軍の先兵として戦っていたかの蜥蜴巨人のものであり、しかし、その中身は彼のような狂気を備えず、ただひたすらに攻撃を凌ぎ続けることに専念している様子は全くの別物であった。



(想定より優れた能力であったことに違いはなかったが、所詮はその程度、"生長外壁"を相手取るにはまるで足りない)



 オークストは押し寄せる猛攻を耐え忍ぶ偽蜥蜴巨人を前にして、どうやって嬲り殺しにするか思考する。

 ただでさえ硬い鱗は健在であり、"生長外壁"は持つ茨で切り裂くことは困難だろう。皮膚まで棘を刺すというだけでもこれから一時間あまりかかりかねない。

 このまま攻撃をし続ければ何時かは疲労し膝を付くだろうが、その程度では溜飲は下がらない。

 

 自分の怒りを鎮めるに相応しい殺しを行わなければならない。

 その為のオークストの個人的な好みは、敵の完全なる屈服である。


 自らの諦めにより膝を折り、許しを請う様子をひとしきり堪能した後でそれを踏みにじり悲鳴を上げさせ続けたままで殺し切る。それでしか、彼は自分の内から湧き上がる憎悪の怒りを満足させることができないと考えていた。



(削り取るのは悪くは無いが、こちらが折れたようにも取れる。それしか手段が無いのかと舐められるのは我慢なならん。……押し潰すか)



 オークストの意志のままに動く"生長外壁"は彼の決定を淀みなく実行する。

 

 無数もの生垣から構成されている外壁から、幾つもの触手が飛び出す。

 それを一つ、二つ、四つ、八つ、十六、と縄を作るようにより合わせ束ねられていき、最終的に一つの大きな触腕とも思しきものが作られる。



 その大きさは大の大人が四人程手を繋いで輪になることでようやく円周を再現できる程の太さを持つそれは、まるで"生長外壁"に腕が生えたかのようであった。



「跪け」



 オークストは指揮棒を振るうかのように腕を振り下ろし、その動きに同調するかのようにして、"生長外壁"からの伸びた一つの触腕が振り下ろされた。


 その一撃はまさに巨人が振り下ろす鉄槌。

 それに対して偽蜥蜴巨人は、両腕で抱え込むようにして受け止める。



「ぐ、がはっ」

「中々の膂力だが、やはり先兵殿ほどの力は無いようだな。この程度なら容易くつぶれる」



 オークストは指を押し付けるように動かし、それに合わせるようにして触腕は偽蜥蜴巨人へと掛かる圧力は増大する。

 その負荷にまず耐えきれなくなった石畳が砕かれ、偽蜥蜴巨人の巨体が押し込まれる。



「埋めた後、その鱗を一枚一枚、丁寧に剥がしてから皮を剥いでやろう。中身は果たして蜥蜴か人か、或いは別の何かか? いずれにしろ、愉快な人形にしたてあげてから姫の眼前に晒してやるわ」



 オークストは再び指を指揮棒のように振るい、"生長外壁"から触手を伸ばし、それらを束ねて触腕をもう一つ作りだす。

 

 偽蜥蜴巨人を押し潰している触腕に重なるような位置に作りだされたもう一つは、瞬く間に形成され、落とした。


 轟音と共に陥没する石畳と偽蜥蜴巨人。彼の両足は既に膝まで地面に埋もれていく。

 


「やはり、ここに至るまでに我々を翻弄させてきた輩を無惨に叩きのめすのは気分が晴れやかになる。これで外面が同胞のものでなければもう少し素直に喜べるものなのだが、それも中身を引き抜いて茨の縄で括り付けて市中引き回しにすれば気にならなくなるだろうなぁ」



 肉の塊に変化していく様子をいつまで姫が眺めていられるかが見物だ、と考えたオークストは年輪をむりやり歪ませたような不気味な笑顔を浮かべて、()()()()()()()()()()()


 


「……??」



 一瞬の違和感が通り過ぎた次の瞬間に、彼の全身を激痛と喪失感が襲う。

 自身の身体から力が急速に失われ始めていることを認識した時には、樹木の怪人は地面へと真っ逆さまに落下していた。


 咄嗟に"生長外壁"から蔦を伸ばして自身の身体を受け止めさせようとしたが、その反応は亀のようにのろく、僅かにクッションとなって落下速度を僅かに落とすだけで、地面への衝突を避けることはできなかった。




「ぐ、あ、ああ……な、何が、起きた?」



 樹木の怪人は全身に走る痛みを地面に叩きつけられた衝撃で呼吸が儘ならない中、必死に自らを守る盾とするように"生長外壁"へと働きかけるが、やはりその生長速度はこれまでの動きが嘘のように遅くなっている。


 

(私と"生長外壁"は呪法とクドーラクセス様の血によって《アーティファクト》と"同調"しているのと同じように繋がっていた筈。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……!?)



 オークストは這いつくばりながら、自身が今までいた場所に立っている、切り立った"生長外壁"の垂直の壁に立っている影を仰ぎ見る。


 その影こそ、魔王姫の一派ではない"迷人"の一党の斥候だ。その手にはオークストを背後から刺したと思われる銀色に光る極端に切り詰めた刺突剣を握っていた。


 さほど意識を割かず、警戒を怠っていたのは確かだが、それでもは気づかれずに切り立った垂直の壁に立っていた自身の背後に立っていることさえ理解できなかった。しかし、それ以上にどのような手段を用いて自身と"生長外壁"との間の繋がりを断ったのか、オークストには皆目見当が付かなかった。


 


「どうやら、お前の番は終わりのようだな」



 ブチブチブチィ、と幾つもの植物が力任せに引きちぎられる音がオークストの背後より迫ってきた。

 洞のような瞳で直接その姿を捕えずとも、のそりのそりと地面を僅かに揺らしながら近づいてくるのが偽蜥蜴巨人であることがオークストには分かった。



「散々、上から目線でありがたく殴りつけてきやがって、お礼は倍返しでいいよなぁ?」



 ブオン、と空気を掻きまわすような音が肩慣らしに腕を回すだけで鳴る。

 偽蜥蜴巨人の身体能力が、元となったリンブルとは劣ったものであろうとも、後衛の魔法使いである樹木の怪人では、瞬く間に文字通りに木っ端みじんとなることが容易に想像できる。



「ふ、ふざけるなぁぁああぁ!」



 怒号と共に、まだ辛うじて繋がっている"生長外壁"に向けて限界を越えての生長と稼働の命令を送る。

 オークストからの指令を受けた"生長外壁"は本来の仕様を逸脱し、寿命をすり減らしながら、その身を爆発的に生長させた。



 それはまるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 所構わず伸びる根や茨の触手、花弁や果実に限らず、補食器官のようなもの、植物を構成するあらゆるものが生み出されては、次の爆発的な生長の糧となりまた新たな別の器官を生み出し続けていた。



 全く無秩序であり、植物の混沌を纏めて吐き出し続けているかのようなその生長爆発の一番の脅威は、恐るべき成長速度ではなく、そのもの自体の質量だった。


 都市一つを囲う程の防壁がもつスケールのままに、一秒ごとに自らの組織を食いつぶしながら生長を行い続けて体積を肥大化させ続けている。一切の規則性を持たない暴走的生長は、自らが守るべき魔法都市を破壊、蹂躙している。




「この野郎……!? 血迷ったか?」

「馬鹿か!? 突っ立ってるな、纏めて叩かれて押し流されるぞ!」



 驚愕に固まる偽蜥蜴巨人へと佐助が"生長外壁"から落ちるようにして離れながら檄を飛ばす。


 "生長外壁"が繰り出す破壊は、土石流のようにも喩えることができるがその実態はさらに酷い。

 土石流のように水がとめどなく押し寄せる代わりに、見上げる程の生垣を構成する蔦や茨が叩きつけらる。

 暴走した生長により生み出されたそれらは一つ一つが丸太の如く太い。巨体を誇るリンブル・スーザの肉体も簡単に飲み込むだろう。



「舐め、んじゃ、ね、があッ、ぐ、あ、ああああ~~~っ!」



 偽蜥蜴巨人は姿勢を低く取り、肉体に宿った力任せにその場に留まろうと試みたが、押し寄せる質量に耐えられない。抵抗むなしく無数の蔦や茨に押しつぶされるように消えていった。




「ち、アレが刺さったのに、まだここまで操れるっすか」



 佐助は絶えず爆発的な生長を続ける蔦や茨に手を置きながら、爆発的な生長により押し寄せる"生長外壁"を回避し続けている。

 《接触感応(サイコメトリー)》により爆発的かつ無秩序に発生する生長の予兆を読み取ることで危険な場所と安全地帯を見切っていたのだ。

 とても正気ではない手段を実行する覚悟と一瞬の判断を何十と積み重ね、その身に宿す生存本能に縋りながら佐助はなんとか生垣の波濤の中を切り抜けていた。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 血のにじむような修行を通して身に着けた集中力と身体操作は揺らぐことなく何時までも続けられるという自信があるが、それでも彼には体力という肉体の限界が存在していた。

 一切の精彩を欠かずに動き続けることができても、何時かは動き続けるために消費する体力が尽きる。

 限界が訪れるまで問題なく回避し続けることができても、結局死んでしまえばそれまでの神業に意味は無い。


 忍者は無尽とも思える体力を身に付けることはできるが、それでも無限の体力を持つことはできない。


 しかし、それは"生長外壁"も同じことだ。生長は、自身に蓄えた栄養を消費して行われることであり、そちらもまた無尽とも思える体力であろうとも無限では無い。

 修行を重ね、人並み外れた体力を持とうとも、あくまで人の領域を出ない佐助と、都市一つを守る防壁である"生長外壁"とでは、持ち合わせる体力において比較することがおかしい程に根本的なスケールの差が存在している。

 

 しかし両者の体力を消費するペースは同じでは無い。

 片や、生存を目指しながらも、可能な限り最小限の動きをすることで体力の消費を抑えることができる佐助。

 片や、備え付けられた生長機能を暴走によりその寿命を擦り減らしながら更に四方八方へと無秩序に生長を続けて、膨大な体力を使い潰し続けている"生長外壁"。


 総体力とその消費速度の関係を考慮しても、どちらが先に尽きるのか、明確な差は無い。

 《接触感応》によって"生長外壁"の体力状況について読み取ればどちらが先に尽きるか判明するが、佐助は意図的にその点について読み取っていなかった。

 

 その理由は、回避に専念している佐助にそこまで探りを入れる余裕は無いという点と、もう一つ。



(この規模で成長を続けられると二人が持たない……! 赤い霧を晴らす所の話じゃ無くなる……!)



 佐助が最後に実と志穂梨の姿を確認したのはそりたつ"生長外壁"を垂直に駆けのぼり背後から刺した時、彼らは佐助が注意を引くのに合わせてその場から一度身を隠すように路地裏の方へと引いていった。


爆発的な生長による被害は外壁の周辺部に留まっており、まだ建築物などの被害は数える程度でしかないが、それも時間の問題だろう。いずれは"生長外壁"へと近づくことさえ儘ならなくなり、埋め込まれている筈の赤い霧の発生源へと辿り付けなくなる。


 それだけならまだしも、二人にこの猛攻が凌ぎ切れるとは思えかった。

 志穂梨が貼る神聖魔法の結界も数秒しか持たないだろう。そうでなければリンブル・スーザの肉体を再現していた筈の偽物が一瞬で飲み込まれていない。


 故に佐助が目指すのは()()()()

 

 もう一度、樹木の怪人を刺す。目的を再設定してから佐助は逆手に握る切り詰めた刺突剣を握りしめた。

 魔法騎士団から借りたその刺突剣は同調を用いずに扱うことができる種類の《アーティファクト》、その名も《同調貫き(ジャマー・ピアス)》、その力はその針のような刃で貫いた対象と"同調"している《アーティファクト》の繋がりを断つことができる。アーティファクト用の《アーティファクト》である。


 通常、魔法騎士団が捕えた罪人が所持していた《アーティファクト》を没収するために用いられており、殆ど戦闘に用いることは無い道具のようなものであり、こうして戦闘の場で握る武器としては錆びた短剣やアイスピックよりはマシといったものである。魔法騎士団でも実際に戦闘で運用された例は多くない。


 元々は黒い影の剣、《インテリジェンスファクト》であるシャドーゼイズ対策の為に借り受けたものだったが、佐助は《接触感応》により《同調貫き》には幾つかの裏技があることを知った。

 

 そのうちの一つが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 《アーティファクト》への"同調"を切断する場合と異なり、即座に切断することができる訳では無いがそれでも、一種の対抗魔法のような働きをもたらす。

 そのためか、一度刺しただけでは効き目が中途半端だったが、もう一度、樹木の怪人の身体を貫けば"生長外壁"との繋がりを断てる見込みは十分にある。



 殆ど土壇場に思いついた策を用いたが、それでも簡単に通用したのはオークスト自身の油断があった。

 手の内を知られてしまった以上、優位を誇っているオークストと言えど最大限の警戒を払っているだろうことは予想できる。今度も上手く背後を取れるとは思えない。



(注意を引きつけるため、とは言え()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。らしくなく焦って失敗したツケは……自分の手で取り返すしかない……!)



 決意を新たに佐助は《接触感応》を最大限に稼働させて樹木の怪人の居場所を探る。

 意識を"生長外壁"の次の動きを読み取り、最小限の回避を続け、その間に生まれた余裕を縫って、視界を埋め尽くす程に広がる生垣の海に埋もれるように隠れるただ一人の標的を探す。想像を絶する程の難易度を、覚悟を抱いて実行に移す。


  

「く、そ」

 

 

 足元から伸びる棘を一歩で避け、首に迫る触手を僅かに前傾姿勢へと移ることで凌ぎ、爆発するように生長する足場の生垣から一跳びで隣の安全地帯へと逃れ出る。


 全ての猛攻を凌ぎ切りながら、それでも佐助の口から自らの不甲斐なさがこぼれる。


 やはり、この極限の回避に集中している中でオークストを探すことは不可能なのか。そんな弱音さえ佐助の内から溢れだす。

 せめて、もう少し、暴走的な生長の勢いが収まり探す余裕を確保するか、或いはこの生きる外壁全体の体積が減り探す範囲を絞りこめることができれば話が変わるが、そんな事は佐助のできる範囲を超えていた。


 不可能だと判断する脳裏の声を黙らせ続けながら佐助は再び、次の触手へと手を伸ばして《接触感応》により周辺の情報を精査する。

 

 掌から脳へと伝わる情報、そこから周辺の危険地帯と安全地帯の情報を手に入れて、次の危険を先読みする。その判断の間に、これまで無かった異常を読み取った。



 ──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



「あ、やば」



 思わぬ情報を手に入れた佐助が咄嗟に振り返った所で接近してくるもの正体を視認した。


 地響きを轟かせながら接近してきたそれらは先ほどまで中央部に出現し争っていた、溶岩を纏う大百足と赤い霧の大蛇だ。

 

 互いに長い体を絡みつかせもつれながら一直線に佐助の方へ、正確にはその向こう側の暴走状態にある"生長外壁"へと進撃を続けていた。


 巻き込まれれば死ぬ。


 二大怪獣が暴れまわる足元で"生長外壁"の暴走を凌ぎながら、必死に隠れ潜むオークストを探し当てることはできるかのか? 佐助は一瞬だけ悩んだ末に不可能だと判断。一先ずその場からの離脱を図った。


 数秒も経たずに暴走する"生長外壁"へと到達した二体の怪獣は絶え間なく押し寄せる生垣に少し引っかかるが、どちらも意に返すことは無い。

 大百足は器用に多脚と巨躯が持つ力を生かして肥大化する生垣を破壊しながら乗り越え、通り過ぎた後にはついでとばかりに身体から零れ出る溶岩によって生垣を黒く塗りつぶすように焦がし、灰と炭に変えながら残った部分には炎が燃え上がる。

 対する赤い霧の大蛇は生垣が壁になるはずも無かった。その体を構成している赤い霧は生垣の隙間を素通りしながら恐るべき速度で蛇行しながら大百足の後を追従する。


 

 何とか二体の足元から逃れた佐助が仰ぎ見るようにして見た二体、その頭上で幾つかの光が瞬く

 見覚えがあるモノに対して佐助が目を凝らすと、確かに赤い霧を灼きつくしながら、幾つもの雷電が走っていた。

 加えて光に合わさるように交差する二つの影と、絶えず溶岩による高温を発している頭上に立つもう二つの影があった。

 


「え、いや、マジっすか?」 

 

 

 予想もしなかったその正体に佐助は目を丸くするしか無かった。

 そこには、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()"()()()()()()()"()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()




「……、もしかして、いけるか?」


 

 どうして二人が大百足の頭上に陣取っているのか、高熱の溶岩の上に立っているにも関わらず平気そうにしているのはどうしてか、等の疑問が頭をよぎる中で佐助の脳裏に電撃が走り、ある作戦が浮かび上がった。

 ほとんど妄想の域を出ない発想から来た作戦であり、そもそも前提条件さえ合っているかどうかも定かでは無い。それでも、自分がこうしてじたばたと足掻くよりかは余程可能性がある策だと佐助は率直にそう感じた。




「やるしかないっすか」



 その作戦は極めて単純で、佐助自身がこれからやる事も極めて単純だ。

 彼は覚悟を決めて、実行に移した。



「ッ、恭、兵、君~~~~ッ!」


 

 腹の内側に力を籠め、肺の全ての空気を出し切りながら、大百足の頭上に陣取る恭兵へと声を張り上げた。

 声が届いたのか、頭上で立っている二人はしきりに周囲を見ながら声の主を探していた。


 向こう側からの返事を待っている暇は無い。佐助は声が届くことを確認してから、手短に要件を伝えることにした。

 


「その、大百足を操っているなら、"生長外壁”を破壊する勢いで思いっきり暴れさせてください。その間に、俺が、この"生長外壁"を操ってる奴を炙りだして、倒しますんでッ!」



 膨大な体積によってオークストを探すのが困難であるのなら、破壊してもらうことで《接触感応》で読み取る範囲を狭めればいい。

 或いは痺れを切らせて顔を出せばこちらのもの、今度こそ佐助の握った《同調貫き》で刺し止めをさせばよい。



「早くッ! 時間がないっすッ!」



 佐助の意図が通じたのか、頷いた恭兵は踵を返して、傍らの都子に話かける。佐助は先ず前提条件の賭けに勝った。


 


(大百足の制御を二人のどっちか、八割方都子さんが握っているとは思ったけど……、意志疎通の方法に関しては大声しか思いつかなかったのは我ながら情けないと思うが……今度持ち出しやすい短弓でも調達するかな)



 何にせよ。これで大幅に状況は動く。勝負はまだ終わっていない。ここからは互いに我慢比べとなる。

 オークストがしびれを切らせて顔を出すか。或いは、大百足の足元近くで対象を探し続ける佐助が何らかのミスを犯すか。

 


「賭けはあまり好きじゃないんすけど、個人的な名誉挽回のためにも付き合ってもらいましょうか。代わりにこっちも命を賭けるんで」



 命令を受けたのか、或いは偶然か大百足が自らの相手を大蛇から絶えず暴走的な生長を続ける"生長外壁"へと攻撃の矛先を変えた。

 

暴走する"生長外壁"に溶岩を纏う大百足、赤い霧の大蛇が加わり、外壁での戦いはより一層の激しさを増していった。

 


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