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Psychic×strangers   作者: さがっさ
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第二話 中立魔導保全都市、迎撃戦 /クライマックスフェイズ13:霧を越えた合流

展開に行き詰まり遅れてしまいました。申し訳ありません……


「これ、少し霧が薄くなったんじゃないか?」

「そうであるか? 我輩には先ほどと変わらないように思えるのだが」



 恭兵の呟きにヘンフリートが答える。


 二人は現在、赤い霧に覆われている魔法都市マナリストの中を進んでいた。


 複数の神官による神聖魔法によって安全地帯となっている神殿区域を抜け出し、赤い霧に晒され全身に激痛が走る症状に襲われている人々がそこら中に広がる危険地帯と化した都市を行く目的は、仲間の救出とこの赤い霧を終息させることであった。



「魔法騎士団の本部まであとどれくらいかかるんだ?」

「距離としてはもう半分は過ぎているのである。幸い、この霧の中で活動している魔軍は居らぬようであるし、この分であれば問題なく到着するであろうな」



 二人は神殿区域を出発した後に一先ず魔法騎士団の本部へと向かうことにした。

 

 これは、マナリストを騒がしていた"迷人(まようど)"であるユーリシアを追っていった都子と志穂梨の二人の行く先がユーリシアを見つけ出すために有効な超能力をもつ佐助と実の二人がいる本部であったこと。

 そして、既に二人が居らずとも、この視界がまるで開けない赤い霧の中で二人を探すには佐助が持つ《接触感応(サイコメトリー)》か、実の持つ《透視(クレヤボヤンス)》が必要であるとの判断からであった。




「しかし結果的に俺の仲間を優先する形になったけど……良かったのか?」

「無論だ。この赤い霧の中にあっては尋常の魔法は通用しないと考えた方がよいからな。それよりも、お主たち"迷人"の力の方がまだ通用する可能性もあると考えたまでよ。現に、お主の力は通用しているのであろう?」

「まあ、な」



 恭兵はヘンフリートに曖昧な解答をしつつ、自身の目の前の宙に対して《念動力(サイコキネシス)》を放った。

 すると、恭兵の目の前の赤い霧が弾かれ、宙に空白が生まれた。

 周囲の膨大な赤い霧によって、直ぐ様にその空白は赤く埋められたが、空白の大きさは優に半径二メートルを越える範囲の円球となっていた。 


 軽く指を鳴らした程度の出力にも関わらず、赤い霧をいとも空気よりも容易く弾いていた。



「こんなことになるとは全く思って無かったけどな……とはいえこれを常にやりながら前に進むとかはやりたくないけどな……」

「うむ。どうしても視界を確保したい時や、緊急避難先として用いた方がよかろう。試すにしても、本部に赴いて攻略に臨む段階となってからの方がよかろう。専門家でもない我らが手を出して事態を悪化させる方が問題であるからな」

「おっさんの方だとそこらへんは何か分かんないのか?」

「ある程度の範囲であるのならば、であるが」



 恭兵の問いに、周囲をつぶさに確認しながらヘンフリートが答える。



「しかし、如何せん相手が悪い。武辺一辺倒の我輩の生半可な知識で対抗すればこちらが痛い目を見るのは分かっているのである」

「でも、あの、マニガスのお爺さんなら、何とかなるかもって話だったか」

「元、とは言え《対魔十六武騎(たいまじゅうろくぶき)》であったお方であるからな。前線を引いている現在も尚、頼りになるお方ではあろう。特にこういった大規模の魔法による現象に対処などはあの方の得意とする事である」



 ヘンフリートが頼りとしているのは、まさしく、佐助と実と共に魔法騎士団の本部へと招かれていた元《対魔十六武騎》であり、対魔法において頂点であるとされているマニガス・ヴァンセニックであった。

 赤い霧を発生させ、それを維持してる魔法の大本に対抗するには彼の大魔法使いを頼るのが最も事態を収束させるための近道となると屈強な聖騎士は考えつつも、ある懸念を拭えないでいた。



(神殿区域に攻撃が仕掛けられた以上、魔法騎士団の本部に対して何も行われていないということは無い筈……、マニガス老に何事も無ければよいが……)


 

 赤い霧の発生からおよそ三十分が経過していた。 

 路地からは次第に激痛のあえぐ者達があまりの痛みに気を失っているのか周囲から聞こえる悲鳴が次第に消えはじめている。

 マニガスであれば、それだけの時間があれば何らかの対策を講じている筈だと考えるヘンフリートだが、魔軍がそう易々と事態を収拾させる筈も無いだろうということも理解しているだけに、その表情には苦悶の相が浮かぶ。

 一週間前に突然マナリストを訪れ、そのまま神殿区域内の治療院にて治療に専念していたエニステラと異なり、予めマナリストでの所在が明らかになっているマニガスに対して魔軍が何の対策も講じていない筈も無い。


 魔法都市を丸ごと覆う程の赤い霧を発生させるには予め生半可では無い準備が必要となることはヘンフリートでも理解はできる。 

 どのようにして、魔法騎士団の目を掻い潜り企みを果たしたのかはさておき、突発的に起こした侵攻で無い以上、マニガスに向けられた刺客は神殿区域に現れた蜥蜴巨人、リンブル・スーザと同等かそれ以上の敵である可能性が高いことが考えられてしまう。


 

「先を急いだほうがいいか?」

「いや、我々が確実に到着することが優先である」

「了解。先に進もう」


 

 思索に更けていいたヘンフリートに対して恭兵が《念動力》によって赤い霧を晴らすことで本部までの到着を早める提案をするが、屈強な聖騎士は直ぐに思考を纏め直して、着実に歩みを進めることを告げる。

 


「……、気を使わせたであるかな?」

「いや、多分俺も同じことを考えてたからな。神殿区域に来てるような奴らがアイツ等にも来てるなら、って」

「どちらにしても、お主に悟られるようであるなら我輩もまだまだということだな」



 口端を歪めるヘンフリートは目標である魔法騎士団の本部を見据えて確実に歩みを進めていく。


 そうして幾つか道を曲がった先に、彼らは着実に前へと進み、遂に魔法騎士団の本部まで辿りついた。


 道中で想定されていた魔軍の襲撃や赤い霧に晒された人々との遭遇は無く、視界が全く晴れなかったことを除けば不気味なほど静かな道だった。



 魔法騎士団の本部は魔法都市の中心に位置する古城であった。

 そして高くそびえ立つ研究塔に周囲を囲まれたその古城を覆うようにして青白く半透明の障壁があった。

 その立方体の障壁もまた、神殿区域と同じように赤い霧の侵入を阻んでいる。

 

 

「……結界か?」

「見事な手際であるな。神殿区域のものと同等の結界が構築されているな……。我々と魔軍の区別がつくのであれば尚よいのであるが」

「あー、神聖魔法はそこらへんの融通が効くんだったけか」

「で、あるな。結界を例に挙げるのであれば、発動者が敵対者であると認識しているものを弾き、味方とみなしているものを通す。偉大なる神々の恩寵である」

「本当に便利だよな。それで――、この結界をどうするつもりだったんだ? 中の連中に入れてもらうのか?」



 恭兵が軽く観察した程度でも強固な結界であることが伝わる。容易には破壊することはできないだろう。

 例え結界を破壊することができても、赤い霧を本部の中に入れてしまうようなことがあれば本末転倒である。

 従って、順当に考えるのであれば結界の内側、魔法騎士団に一時的に結界を開けてもらうという方法が挙げられる。

 


「我輩もそのつもりであったのだが……、迎えの者が現れないということは我らは警戒されているのかもしれぬな」

「魔軍の奴が冒険者と聖騎士に化けて中に入ろうとしてるんじゃないかって警戒してるっていることか。それなら俺達の潔白を証明するためにもぜひ誰かしら出てきてほしい所だけど……どうするんだ?」

「ふむ。ここは第二案といくか」

「どんな作戦?」


 

 ヘンフリートがそう言って、指を二本立てた。

 恭兵としても、具体的な方法は特に思いつかなかったので、素直にその第二案を受け入れることにした。



「魔法騎士団も何もせずにいる筈もなかろう。本部を出て、都市内の調査に向かった者もいる筈である」

「それで?」

「彼らが帰還する際には結界を解く必要があるだろう。その機会に乗じて中に入れてもらうのが良いと思うが」

「いや、そいつらが居なかったらどうするんだよ!?」


 

 途中から怪しいと思っていた恭兵はヘンフリートが提唱した第二案の問題点を挙げる。



「外に出ている奴がいたとして、もう中に戻ってる可能性だってあるし、俺達みたいにこの霧を何とかするまで戻らないつもりだったらどうするんだよ。そもそも、戻ってきた奴らがいてもそいつらが俺達を信用する保証もないだろう」

「だとしても、対話を行えるようになるだけでも状況は改善している」

「だからって、こうして突っ立って待っててもさあ……!」

「無防備に立っているだけであったとしても、無害を証明することにはなるであろう。魔法騎士団もこちらが魔軍では無いと察してくれるやもしれん。むしろ、下手に動くことで疑いが深くなる可能性もありうる。この赤い霧の中で闇雲に動いた所で事態の解決にはつながらないである。ここは待った方がよかろう、それに―――」



 ヘンフリートの言葉を遮るように、重厚な音と共に本部の扉が開いた。

 中から出てきたのは二人の人影で、見知った顔だった。


 

「いやいや、何とも元気そうっすねぇ」 

「――ええ本当、こんな所までわざわざ来てるっていうんだから流石よね」

「お主の仲間には、このような状況で頼りになる者がいるであろう?」

 

 本部に入る筈の加藤佐助と、本部へと向かっていた筈の明石都子であった。





   ◆





「さて、状況を整理しよう」


 


 本部前にて佐助の《接触感応(サイコメトリー)》による身の潔白を証明した恭兵とヘンフリートは無事に中に入ることができた。


 現在は佐助と都子の二人を案内役としながら、古城の中を進んでいく。

 そして通路の端のそこかしらに壁に寄りかかるように座りこんでいる者や、横たわる者がいた。赤い霧の影響を受けていたのだろう、誰もかれもがぐったりとしていた。




「魔法騎士団の方は都市内に現れた魔軍の対処に当たっていたそうなんすけど、そんな時に突如として赤い霧が発生、都市のほとんどとは連絡がつかなくなったみたいっす」

「態勢を立て直すためにも霧の影響を受けたものを救助しながら撤退して今に至る、と……、あの蜥蜴巨人が一人神殿区域まで特攻仕掛けて来たのは、他の奴らが魔法騎士団の相手をしていたからとうことのようであるな」

「そっちはそっちで大変でしたっすねえ、被害とかは?」



 目配せを来る佐助。

 本部まで既に辿り付いていた都子達から大方の事情は聴いているようであり、神殿区域に蜥蜴巨人、リンブル・スーザが現れたことも把握しているようであった。



「幸運にも実働の聖騎士達の損耗と、区域内の建物の損壊で済んだのである」

「首を落とした後も動く様子は無かったし」

「それで大丈夫なんすか? 特攻仕掛けたなら、タダでは死なないとは思うんすけど。腹に爆弾を抱えてるとか」

「それをやられる前にやったし、死体も残った神官の人達が焼くとか言ってたから問題は無いとは思うけど?」

「死を利用する魔法の類は大抵死霊術であり、それらへの対策については我輩を含む神官が得意ものとするである」

「うーん、まあ、専門家が対処してるなら俺としては文句は無いっすかね」



 佐助は二人の話を聞き、何か納得したように頷いていた。

 

 そして、恭兵は一同の先頭を行く都子に視線を移す。その背中と足取りは見るからに不機嫌そうであった。



「あーと、無事にここまで辿り着いたんだな……」

「ちっとも、無事じゃあないわよ。道中、変な奴らに絡まれたし、気づいたら霧の中に放り込まれてあまりの臭いに吐きそうになってたし……、散々だったんですけど??」

「――ッ、お前っ、大丈夫だったのか? 魔法騎士団はそれなりの装備があったから影響を受けづらかった理由は分かるけど、お前らじゃ――」

「それが確かに体中痛かったけど――、志穂梨が直ぐに結界を張ってくれたから助かったのよ。それからすぐに騎士団の人達に助けてもらったから……、体調も特に変わりないよ」



 どこか不機嫌そうな態度を隠さずに答える都子に気圧されながらも、恭兵は一抹の不安を抱く。

 恭兵は赤い霧が発生した直後の光景を見たことは無かったが、サイモッド達の話からすれば僅かに接触してしまっただけで呪文を唱えることすら不可能となるほどの激痛に襲われていたという。

 赤い霧に晒された時間が、極めて短かったために廊下に倒れている人達のように重度の症状にはならなかったのだと考えながらも、恭兵はどこか納得しきれないでいた。

 

 そんな彼の視界の端に佐助の姿が移り込んだ。

 どうやら、同じことを考えているようである。何かと色々と考えている佐助としても恭兵の意見を求めているのだろうか。

 ニヤリと笑みを浮かべて、佐助が耳打ちを仕掛けた。



「機嫌悪いっすねえ」

「いや、それだけかよ。何か聞きたいことがあるんじゃなかったのか?」

「うーん、無くは無いんすけど、他の人も集まってから話した方がいいかな、と。それよりここで機嫌を直しておかないとここから忙しくなると思うんすけど。彼女、恭兵君が本部の前に現れたの聞いて目に見えて不機嫌になりましたし」

「――俺が原因だと?」

「心辺りとかは無いんすか?」



 佐助の耳打ちに相槌を打ちながら、思い当たる節を考える。



《いつまでも不機嫌そうにこっちを睨まれても座りが悪いし……、さっさと誤っておくか俺が何かやらかしたらしいのは違いなさそうだしな)



 そこで、咳払いを一つしてから、恭兵は恐る恐る都子に声を掛ける。



「えっと、だな。その――」

「何よ」


 

 ギラリと都子は声を掛けた恭兵に対して、睨みつける。

 普段から愛想がよいとは思えない少女ではあるのだが、今回はより一層目つきを鋭くさせており、できるのであれば直視されるのは避けたい所だなとも恭兵が考え始めた所で、どうにも違和感のようなものも覚える。

 


「いや、こう、感動の再会って所に何とも言えない顔してるから、何かあったのかと思った訳で」

「別に、たかが三十分も経ってないのに感動の再会も何もないでしょう。それに、不機嫌そうだったのはここ最近のアンタも大して変わらないじゃない」

「まあ、それは置いておくとすても、あー、何時にも増して不機嫌なんで何かあったのかと思ったんだけど」

「これくらい普通でしょう? それとも、私が機嫌のよかった時何かあったかしら?」

「それは――、」



 自分の家の裏山で見る夜の星空を話しているときは随分と機嫌が良かったとこぼしそうになったが、この話をするとこれ以上不機嫌になるのではないかと判断した恭兵は口を噤んだ。

 藪をつついて蛇を出すような禁句では無いとは思うが、ここはあまり刺激しない方が身のためだと判断したためである。


 困った様宇の恭兵を一通り眺めた都子は溜飲が下りたのか、ため息混じりに恭兵に振り返る。



「――、はあ、もういいわよ。私が勝手に怒ってただけ、いつものことだから、そんなに気を使わないで。アンタに顔を窺われるような真似をされるほうが気分が悪くなるわ」

「大丈夫なんだな?」

「もう一回聞いたらその口に火の球を押し込んでやる位には元気になったので、あしからず。それより、もうすぐ目的地よ。私が言うまでも無いんでしょうが、切り替えた方がいいんじゃない?」



 そう言って、都子の足が鉄製の扉の前で止まった。

 扉の先からは幾人かの声が重なるほどに聞こえてきていた。



「戻ったッす」

「入るわよ」



 二人は声を掛けてから、扉を開けて中に入った。

 恭兵とヘンフリートも二人に続くようにして部屋の中へと進む。



「状況の把握を優先するべきでは? 現状は隣接している研究塔との連絡手段の確立を―――」

「事態の解決のためにも、発生している赤い霧の解析も同時並行で――――」

「一先ず動かせる戦力の確認を行った方が―――」



 部屋では甲冑に身を包んだ魔法騎士の面々がテーブルに広げた地図を中心に話し合いを進めていた。

 現状の打破について互いに協議をかわしている。


 

 そんな会議の輪を僅かに離れるようにして、またもや見知った者たちがいる。



「こっちじゃよ。報告は小耳に挟んでおったが、まさか本当にきているとはのう、うぐっ」

「教授! あまり無理に話さないで下さい。出血は止まって無いんですよ!」

「そうです! ああ、もうまた傷口が開いて――、《大いなる白き光、主神アーフラ=レアよ。我が手に我が手に汝の慈悲を授け、かの傷を癒したまえ》、《治癒(ヒール)》」



 胸部に捲いた包帯を地で濡らしているマニガス・ヴァンセニックと、それを諫める真辺実、マニガスの開いた傷口に対して神聖魔法を用いて治療を行っている野々宮志穂梨の三人がいた。



「ご無事――という訳ではないようですが、一先ず最悪の状況では無かったようで何よりですな、マニガス老」

「いやなに、お主たちの方も無事に敵を退けることができたようで何よりじゃよ。それで、こちらに来た目的はなんじゃかな?」

「最終的には事態の収拾を、短期的な目的としては神殿区域からの使者という形ですかな。孤立無援で何とかなる程容易い状況では無いでしょうからな」

「そう言ってくれるとこちらとしてもありがたい」



 ヘンフリートの言葉に合わせるようにして、魔法騎士の一人が声を掛ける。

 どうやら会議を通して一通り方針は固まったようである。



「《聖線》のヘンフリート殿が神殿区域に居られるのは把握していましたが、やはり心強い。聖騎士団の方は同なんているか分かりますか?」

「彼らは神殿区域の守護に専念してもらっているのである。敵の主力の一つが差し向けられたことも鑑みた結果、戦力として自由に動くことができるのは我輩だけとなってしまった」

「いや、この状況で動かせる戦力があるだけでもありがたい。この本部の中でも幾人か神聖魔法が扱える神官が非難してくれているが、彼らには治療に専念してもらっている都合上、一人でも聖騎士がいるのは助かる」



 魔法騎士を代表して、一人の男がヘンフリートと言葉を交わす。

 頬に古傷を残す彼は歴戦の戦士を思わせる風体の持ち主であり、その言動も堂々としていることから魔法騎士団の中でも相応の立場にあるのだろうことが伺える。



「では、早速だが……」

「あー、話を遮って申しわけないんだけど、俺達も居ていいのか?」



 ヘンフリートとマニガスを交えた作戦会議を始めようとした所に、恭兵はおずおずと手を挙げて発言した。 



「マニガス、さんは赤い霧の対策で、真辺と野々宮の二人はその付き添いだから分かるけど……、正直後の俺達はここにいても邪魔なだけだろう? 何かやって欲しいことがあればできる範囲では手伝いたい気持ちではあるけど――」

「いや、君たち、三人、いや五人にも意見を貰いたい」



 少し場違いなのではないか、という恭兵の意を汲んだ魔法騎士が答える。



「それほど手が足りてないって、ことなのか?」

「それもある。現にこの本部まで各自撤退した筈の魔法騎士達も全て帰還した訳ではなく。道すがら救助したものや、自力で赤い霧の影響を逃れたものも消耗している。動ける余力のある戦力が貴重であることは確かだ。だが、それ以上に"迷人"である君たちに私たちから協力を要請したいのだ」

「俺達に?」



 疑問の声をあげる恭兵だったが、頬傷の魔法騎士の言葉はどうやら真剣そのものであることを読み取り、一先ず話を聞くこととして、先を促すこととした。



「そうだ。我々も君の仲間から幾つか話を聞いていてね。その他、我々が掴んだ情報を鑑みた上で君たちの協力が必要であると判断した訳だ。勿論、君たちが力を貸してくれるというのであればという話ではあるが」

「逆に、この状況で協力しないなんて選択肢があるのか? 少しでも自分の命が助かるんなら、それに縋らない奴はいないだろ」

「そこは人によって見解は異なると思うが――、流石に敵は魔軍、その上に最強と称される《八魔将(はちましょう)》がいる可能性が高いとなれば、その力の前に恐怖に心折れるものも少なくないだろう」



 《八魔将》、その言葉を告げるだけで部屋の空気に緊張が走る。

 その名と意味を知っている者達の表情が心なしか白くなっているのを恭兵は感じる。

 


「我々も、緊張を隠せない。まして、かの《八魔将》を前にして、戦えないものを我々は責めることはできないだろう。……君たちの力は必要だ。だが、強いることはできない。もし、無理だと思うのなら、この部屋から出て何も聞かなかったことにすればいい」

「……でも、俺達の力が要るんだろう?」

「助力が得られないのであれば、それはそれで、我々のやることは変わらない。持てる力でこの魔法都市マナリストを守護するのが我らの役目だからな」



 はっきりと言い切った頬傷の魔法騎士の覚悟の前に、恭兵は少し考えて答える。



「話は分かった。俺は力を貸そう」

「こう言っては卑怯だが、《八魔将》の前に立って戦う可能性が十分に高いとしても?」

「今更だ。多分、いや必ずアイツ等は俺達も狙ってくる。それはここで立てこもっていようが、ここまで来ずに印伝区域に留まっていようが、変わらないだろう」

「何故? 魔軍が君たちを狙っていると?」

「それは、いや、それが俺達に力を貸してほしい理由なんだろう。アイツ等の、魔軍の狙いは"迷人"だから」


 

 恭兵は一度言葉を切って、反応を見る。

 しんと静まった空気の中、頬傷の魔法騎士が先を促すように頷くのを確認してから、彼は続きを話す。



「報告を受けたと思うけど、俺達が倒した魔軍の蜥蜴巨人は、"迷人"を探していた。正確には、この魔法都市に忍び込んでいた"迷人"で、恐らくだけど"盗み屋"騒動にも関わっている奴らだ」

「ああ、報告を受けている。しかし、彼らは君たちとは関わりが無いものであると証言を受けているのだが?」

「けれど、魔軍の奴らはそう認識していない。現に、あの蜥蜴巨人は"迷人"である俺を仲間にしたとか思ってそうだったしな。アイツ等に逃がす気は無いんだろう」

「成程……、しかし、それだけの理由でかの《八魔将》を向こうに回すことができるのかな?」

「そもそも、俺達は元々よそ者だしな。《八魔将》どころか一年後に来る予定の魔軍侵攻の事もあまり実感は無かったくらいで、文字通り遠い世界の事、他人事だとぼんやり考えてた位だ」


 

 だから、と恭兵は一度言葉を区切る。知らずに手に汗がにじんでいるのが分かる。

 恭兵とて、赤い霧の存在をその肌で感じて何の脅威を抱いていない訳では無い。 

 自らの冷静な判断もまた、今すぐにでもこの部屋からでて地下の牢獄に小さくうずくまっている方が生存確率は高いと警鐘を鳴らし続けている。

 危険は承知の上だ。



「けど、その《八魔将》を相手に命を懸けて今も戦ってる知り合いがいるのは分かってる」

「………」

「この目で確認できた訳じゃないけど。アイツが、エニステラ=ヴェス=アークウェリアが、この状況を前にただ待てる筈がない。短い付き合いではあるけど、それ位は分かるからな」

「……確かに、我々の方でも"生長外壁"へと向かった何者かがいることは把握している。情報通りであるならば、その人物こそが、対魔十六武騎のエニステラ殿であるのだろうな」



 頬傷の魔法騎士はテーブルに並べられた報告書の一つに視線を落としながら答える。

 恭兵としてはほとんど確信していたのだが、やはり、エニステラはこの事態においても、自ら積極的に行動しているようであった。



「エニステラとはここに来る前に一緒に戦った仲だからな。一度目ならいざ知らず、二度目を尻込みする理由はないだろう。戦友が戦ってるのに、指を咥えて待ってるなんざ――、師匠に顔向けできないからな。理由としてはこんな感じだ」

「成程」



 恭兵の返答を聞いて、頬傷の魔法騎士は頷きを一つ返す。

 


「では、改めて一同には協力して頂こう……、改めて状況を――」

「え、いや待ってくれ。俺個人としては確かに了承したけど、他の奴らは――」

「アンタが来る前に了承してたわよ。そうでも無かったらこんな所にわざわざ集まったりしないでしょうが」

「まあ、そうっすねえ」



 話を進行させようとする頬傷の魔法騎士に対して待ったをかけた恭兵。

 自分以外、実や志穂梨は別としても、都子と佐助に対して了承を取っていないことについて問いただそうとした所を、さらに当の本人である都子と佐助によって遮られた。



「え、いや、でも」

「もう一度、アンタにだけ同じ理由を言うのは面倒だから。文句は後でね。時間だってそんなにないんでしょう?」

「と、まあそういう訳でここは恭兵君待ちだっただけなんで、話を進めましょうか」

「え、えー」


 

 瞬く間に文句の一つも言うことができず、都子の言葉通りに状況が切迫しているのは確かであることも考慮して、恭兵はしぶしぶこの場は引きさがった。

 恭兵が引きさがったのを確認してから、頬傷の魔法騎士はテーブルに集った面々を見まわしてから口を開く。




「では改めて、これからマナリスト防衛作戦を練ることにしよう。これ以上、我々が後手に回る訳にはいかない。反撃の時だ」

 


続きは一週間以内に更新する予定ですが最低でも一ヶ月以内に更新する予定です

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