第二話 中立魔導保全都市、迎撃戦 /ミドルフェイズ13:高塔恭兵VSゴーレム
何とか更新しました……最近どうしても遅くなってしまっているのが難点ですね……
「さて、この人ごみの中で立ち話するのも具合が悪い。二人とも、行くあてが無いなら少し俺に付き合って貰いたい。勿論、事情は十分に説明させてもらうし、させるが……大丈夫か?」
ルミセイラが必死で詠唱してゴーレムを生み出そうとしているのに対して何らかの妨害を行う片手間に実はそんな提案を恭兵とエニステラにしてきた。
突然襲い掛かってきた理由や今後、このようなことが起こらないようにするための話し合いの場が必要だと判断し、そしてどうせ夕方になるまで二人して用事の一つも思いつけなかったこともあり、二人はその提案に応じることにした。
それから、実に首根っこを無理矢理引きずられる形で一緒に連行されていっているルミセイラを含めた四人は彼の先導の元、"翡翠の兎亭"に到着した。
「結局ここに来るのか」
「ここなら座れるからな、元の世界ならカフェとかあったがな。このマナリストでさえそんなもんは無い」
"翡翠の兎亭"の酒場では冒険者達がまばらにたむろしている。そんな中の隅の席に四人はついていた。
「それで? お前がここまで俺に固執してた理由は結局何だったんだよ?」
「……ぐ、言うに事欠いて、心当りが無いと言うか……!」
ここまで実が無理矢理に連行してきた事でぐったりとしているルミセイラが何とか気力を振り絞り、顔を上げその怒りを再び恭兵へと示した。
「分かっているのは、俺が盗まれた魔導書の一部を利用して作られたゴーレムを倒したことにお前が怒ってるってこと位だ」
自身の扱うゴーレムが破壊された故の怒り。例え盗まれて盗賊に利用されたとはいえ、その矛先が徹底的に破壊した恭兵に向けられるのは仕方ない面もあると恭兵自身も考えていた。
(いくら、命の危機だからって自分のものを壊されて何とも思わない奴はいないだろうしな……悪い事をした、のかもな……結局、何かを壊す事しかできやしないのはどこまで言っても変わらない、か)
頭の片隅でそのように考えた恭兵は何だか、ゴーレムを破壊してしまった事に対する申し訳なくなってきていた。
もう少し何かやりようがあったのではないか、と自分勝手に反省をし始めようとした所でルミセイラの口が開く。
「そうだ……! 私が寝る時間を惜しんで必死に作り上げたゴーレムの構築式のその一部! 部分的な記述のとは言え、それだけでも十分に脅威に値するであろう、それをッ……!!」
「お待ち下さい、ルミセイラ様」
ルミセイラの責め立てにエニステラの凛とした声が挟まれる。
その身に鎧の一つも纏ってはいなくとも、彼女自身は聖騎士であり、堂々とした態度は変わることは無い。
「確かに、ゴーレムを破壊したのはキョウヘイです。しかし、それは私の及ばぬ事を、この手の届かぬ所を行って貰ったに過ぎません。例え、彼が居なくとも私が必ずゴーレムを破壊に至らしめたことでしょう。ですから」
「責めるのならば自分にしろと? そんなものは関係ない。確かに破壊したのが貴方でなるなら、この収まらない怒りはそちらに向けられただろう。だが、実際に破壊をもたらしたのはそこの大剣使いだ! それは事実だろう!」
ルミセイラの怒りは収まる気配は無い。寧ろ語れば語る程にその怒りは増していくばかりであった。
ここまで来れば、ただ所有物が壊されたという怒りには収まらないであろう。道路のただ中、衆前で襲い掛からなければならない程に彼女にとってはゴーレムが大切なものであったのだということになる。
誰かの大事な物を破壊してしまった。その事実を改めて突きつけられ、恭兵は自身の行いに後悔を抱えてしまう。
「そこまでにしておけよ、姉弟子。あんたがいくら憤慨しようが勝手だが……往来で暴れまわって迷惑を被るのは俺と師匠何だからな」
「口を出すなよ、弟弟子。そもそも、お前が手助けなどしなければ破壊されずに済んだものを……!」
「手助けも何も、例えそこの大剣使いと聖騎士が相手をしなくてもどのみち俺が破壊していた。それ自体はあんたも承知していただろうが」
一方的に恭兵を責めて立てているルミセイラに対して、実が口を挟む。
その一部に何やら聞き逃せない言葉があったのを、恭兵は逃さなかった。当然、エニステラの方も疑問を持ったのか僅かに首を傾げる。
「それはそうだろう! お前に壊されるのであれば仕方がない面もある。憎たらしいが、我らが師から直伝された魔法によって破壊されるというのは仕方がないと納得ができる。そもそも、魔導書の一ページ程度の記述で対策の一つも無いのだからなッ!」
「……お前、破壊された事については事前に承知済みだったのか……?」
「承知していることと、怒っていることは別の話だ! いずれにしろ、結果としては師匠の魔法とは関係なく破壊されただろうが!」
「狂人の言う事でお前が反省することは無いぞ、高塔。大体、姉弟子が怒りを覚えている理由など、十中八九ぽっと出の冒険者にご自慢のゴーレムを破壊されたからだろうからな」
実が切り捨てるようにそう言った。
ルミセイラはそれに対してこう言った。
「当然だ! 師の偉大なる魔法によってゴーレムを構築する要素を破壊されるならまだしも! そこらの冒険者に対応させられて、怒りの一つも湧き上がらないとでも思ったのか! まして! その背負って大剣で四肢を潰されながら何一つできずに破壊された等と知った日には……私はあまりにも無念で………!」
恭兵は反省して損したと、少し思ってしまった。
エニステラさえも首を傾げて少々固まっていた。
「いっその事、重症者がでただとか、再起不能となった冒険者がいた、と報告を受けて師から研究塔を追い出される覚悟をしていたにも関わらず……けが人の一人もでていないとはどういうことだ!」
「え、ええ……?」
「狂人だと言っただろう。姉弟子はな、自分のゴーレムを完成させるためにはどんな被害が起ころうとも特に気にしない。それどころか、自分が生み出したゴーレムが街を破壊するのを見て高笑いするような性質だ」
「当然だろう。それほどに私が作ったゴーレムが完成されているという証になるのであれば、街も本望だというもの!」
ルミセイラは小柄な胸を張りながら完全に言い切っていた。
その言動を全て聞き入れたエニステラが傾けていた首を戻して、カップに口を付け一息いれた後に一言。
「―――投降して下さい」
「まて、待ってくれ。今はもう魔法騎士団と師匠からの裁きは食らっている。これ以上、その件で神殿の方で裁かれるのは流石に問題があるぞ……!」
「ですが、先ほど私達、いえ、キョウヘイが襲われたことについては些か問題となるのではないでしょうか」
エニステラは静かにそう言った。
そこには確かに怒りが込められていた。
「だから、俺が途中で割って入った。魔法騎士団が来る前に離れたから奴らにもばれてはいない。師匠にはおれから言い聞かせて罰を受けさせてもらう……」
「だから、見逃せと? 私は確かに裁きを与える"執行官"ではありませんが……神殿へと連行することはできますよ」
「いや、いいよ。エニステラ、俺は、そこまで気にしてない」
エニステラがテーブルから乗り出そうとするのを恭兵は押しとどめる。
「ですが……!」
「実際に危害加えられた訳でもないし、都子にもこの件で迷惑をかけるかも知れないからな……だから、俺に関しては大丈夫だ」
「……キョウヘイがそこまで言うのであれば……分かりました。今回の所は引きさがりましょう」
ですが、とエニステラはそこで言葉を置く。
「――今後も同じことが起こるのであれば意味が無いでしょう。当人の反省が無いのが一番の問題ではないのでしょうか?」
「当たり前だ! いくら師に諭されたとしても、私自身が納得できん! 尋常な決着を付けなければ私の命題が果たされない!」
「命題?」
もはや恭兵には付き合い切れなくなってきていた。
とは言え、ここで何らかの結論、落としどころを付けなければ何時までもこちらを追いかけてくるであろう事は目に見ていた。
結局、ルミセイラの話に合わせて最後まで付き合わなければならないのであった。
「命題は、マナリストで魔法を研究している者が掲げる研究テーマのようなものだ。姉弟子だと―――」
「当然、最強無敵のゴーレムを作ることだ」
「小学生の夢かよ……!」
「当然、その最強のゴーレムを私が作るからにはそこらへんの冒険者に負けることなど許されないのは当然だろう!」
「お前の師匠と実には壊されてもいいみたいなこと言ってたじゃねえかよ。それはどうなってんだよ」
「それも先ほど言っただろう。あの一ページ程度で作ることができるゴーレムに魔法に対する対策なぞ施せる筈も無かったんだ。それはそこの《対魔十六武騎》にしても同じことだ。だが、通りすがりの奴にやられるのはどうにも納得がいかん!」
「……もう一度、戦えって? 納得するまで」
「違う、私のゴーレムが勝つまでだ」
ルミセイラは全くと言っていいほど引き下がらない。
むしろ、段々頑なになって言ってるのではないかと思える程であった。
恭兵は暫く考えた後、結論を下した。
「……取り敢えず、お前も街中でやり合うことになれば厄介な事になるのは分かってるよな?」
「……忌々しいが、確かに他の魔法使いの横やりが入る事を考えれば問題があることが否めない。先ほど弟弟子に邪魔されたのは確かだ。だが、それで諦める訳にはいかない。そうだろう?」
「同意を求めるなよ……兎も角、勝手に街中でやるのは無しだ。今度は俺の方が全力で逃げるからなもうお前の話には付き合わない」
「……それでも、追いかけて戦う。そうしなければ、敗因が分からない」
「……分かったよ。街中での突発的な戦闘じゃなくて、練習場とかの他に迷惑の掛からない模擬戦なら受けてやる」
恭兵が仕方なく、と言った風にそう告げた所でルミセイラ本人は完全に唖然としていた。
「――正気か? 私なら受けんぞ?」
「いやいやいや、何でお前が疑問に思ってんだよ、おかしいだろ」
「普通受けることによって得る利益も道理もお前には無いからな、だからかと言ってマナリストの外で襲撃を掛けて衛兵やモンスターに邪魔されるのは最悪だ。よって、街中で行うのが確実に戦闘に持ち込むことができると踏んだのだが……」
どうやら何も考えずに戦いを挑んでいた訳では無いのがはっきりとしたことで改めて恭兵が馬鹿にされていることに変わりなかった。
というよりもほとんどルミセイラの望んだ状況へと運ばれてしまっているのは確かであり、恭兵としては面白くは無かった。
「けど、取り敢えず今日は休みだからさ。また後日にってことで……」
「ダメだ。後日と言いながらお前が何時やるのかは結局分からん、二週間後に旅立つという時間制限があるからな。それにお前が弟弟子と一緒に依頼でマナリスト郊外の森に行っていることは分かっている。それで死なれては結局できないだろう―――模擬戦をやるのであれば今からにしろ」
「言ってることはまともだよな……」
「狂人だが、馬鹿では無いからな……厄介な所ではあるが……確かにお前が模擬戦をできる保証は無いぞ。俺達がいくら依頼を安全に遂行するといった所で、失敗する可能性はゼロにはならん。姉弟子は結局お前を襲えばいいということになるからな……何だ? 最悪か? 何で俺はこの狂人のフォローをせないかんのだ?」
「お前も苦労してるんだな……はぁ、エニステラ悪いけど―――」
「私は構いませんが、よろしいのですか? あなたが断わってもいいと思いますけど……」
確かにあまりにおかしな話ではあった。
とは言え、ここで戦いを避けた結果、迷惑をこうむる人が出てくるのは明らかである。
そして―――
(――師匠にここで逃げたって知られるのは流石にムカつく結果になりそうだしな)
「いや、やるよ。今すぐだ」
「まて、ルール位は決めた方がいいだろう。決着は……高塔の方はゴーレムを破壊したら勝利……となると再生機能が面倒だな……」
「弟弟子、こっちはその再生機能はつけないでやってやろう」
「いいのかよ、俺もそれがあるとちょっと面倒だなとは思ってたんだけど」
ゴーレムを破壊するという事を考える上で最も困難であるのは再生機能を司る呪文が何処にあるか探さなければならないことであり、一度倒す事ができたのも実が呪文の場所を示したからであり、恭兵が単独で呪文の場所を探し当てるのは困難であった。
「そもそも、再生機能は関係なく四肢を潰され続けていたと聞いている。私が目指す完璧なゴーレムがその様な訳が無いだろう」
「じゃあ、それで。姉弟子の方は生殺与奪権を握る事でいいな? 模擬戦だから互いに殺すのは無し」
「妥当なところだろう、弟弟子」
「ああ、俺もそれで―――いや、一つ条件がある」
恭兵は席を立って、テーブルに建て掛けておいた大剣を手に取り背負う。
「――制限時間は日没までな」
◆
「《足は二つ、腕も二つ、人と変わらぬその形、されど作りは異なるその形》ッ!」
幸い模擬戦を行う場所は直ぐに"翡翠の兎亭"の練習場を使わせてもらうことができた。朝に借りた上でまた夕方も借りることができるのは使う人がいないのか、それともここ一週間程の間ずっと朝の内に利用していたのがあり申請が通りやすかったこともあったのかということなのか、その真相は定かでは無かった。
「《素は大地、あまねく横たわるその一欠片を宿すなら、その形もそれを持つ》ッ!」
ルミセイラはゴーレムを構築するべく呪文を詠唱している。
詠唱に応じるように彼女の足元の地面が輝き、そしてそれが図形を描くための線を構築する。
線は先ず円を象り、その中を線対称の多角形を取るように線が引かれていく。
恭兵の勝利条件がルミセイラのゴーレムを破壊することである以上、恭兵は待たなければならない。
今の内にある程度の戦略を練っていく必要があった。
想定するのは一週間程前に倒したゴーレムである。再生機能は今回ついてないということだが、それで話が済むとは思えなかった。
ルミセイラの言い分からして、魔導書の一ページの記述から作られるゴーレムと魔導書自体の記述を利用して作られるゴーレムとでは性能の差が明らかに違うものとなるのだろう。
変わるのは背丈か、強度か、或いはまた再生機能とは異なる別の機能であるのか、そのどれであるかは定かでは無いが、以前のように四肢を簡単に砕く事ができるとは思わない方が良いというのが恭兵の結論であった。
「《その手に剣を、目前の敵を打ち払うために、今その形を表したたまえ》、《構築・土巨人》ッ!」
ルミセイラの呪文が終了したと同時に光は難解な図形を象り、魔法陣となり、それが地面へと吸い込まれるように消えた所から地面よりせり上がり、起き上がったのは以前に戦った大人が抱えられないような石を積み上げ、連なったような人型では無く、正に土で出来た巨人であった。
石のように節がある訳では無く、より人型に近づいていた。
そして以前のものと異なるものはもう一つ、地面からせり上がる巨人の右腕は剣を、左手は盾の形を取っており、当然その巨体に見合った大きさを誇っていた。
「それじゃあ、やるか」
「ああ、始めよう、お前が私のゴーレムを圧倒できたことが偶然で―――」
ルミセイラに一応の確認を取った所で、既に恭兵はゴーレムへと駆けだしていた。
「さて、一応我々が見届け人ということになるが……一応聞くが、どちらが勝つことになると思う?」
「どちらが、ですか。キョウヘイに関してはある程度実力の程は分かりますが、あちらの出方はまだ分かりませんから……そうですね。私はキョウヘイが勝つと思いますよ」
練習場の中、恭兵とルミセイラの二人から十分に距離を取った上で実とエニステラの二人は模擬戦を観戦していた。
実は、エニステラがさらっと恭兵が勝つと言ったことに対して、特に異論を挟むことは無いようであり頷いていた。
「成程、ちなみに何故そんな予想したのか聞いても?」
「―――恐らくキョウヘイは対人戦よりも対モンスター戦の方を得手としています。加えて相手が人型であればより得意としているかと」
「ほう、そうなのか……いや、成程確かに思い当たる節はあるな……他には?」
「いえ、その、申し訳ありません。私もこう言ったことは初めてでしてあまりうまく言葉には出来ないのですが――ええ、勝てると思います」
ですが、とエニステラは言葉を切って視線の先の戦いを見ていう。
「勝算がある限り、どちらにも勝ち目はありますから、それが消えない限りはどちらが勝つかというのは分かりませんよ?」
――恭兵は背から赤い大剣を振り抜く。
ゴーレムの反応は遅い。故に先手は取れる。
恭兵の狙いは先ず下半身、足、より正確に言えば膝から下を破壊することで機動力と共に体長差を縮めることでリーチ差を埋めることである。
間合いを瞬時に詰める恭兵の眼前に大地が現れた。
それはゴーレムが左腕としている土製の盾であった。
このままでは、恭兵は盾に激突することは避けられない。
足を止めるにはもう遅かった。方向転換を起こしたとしてもゴーレムの規格に合わせたような盾を完全に避けることはできない。
激突までの瞬間が加速するのを感じた。
ゴーレムが左腕を駆動させて、盾を恭兵へと押し付けているのであった。
迫りくる盾は、まるで恭兵自身が地面へと落下するのではないかと錯覚する。
思考し選択をする猶予さえ無く。恭兵は体に刻まれた直感と経験のままに動いた。
(一瞬、反応は遅れたが、選択は間違えなかった。結局は距離を詰めさせなければいい、このまま押し潰す)
ルミセイラとて自身のゴーレムが一方的に破壊されたという事に対して何も想定していなかった訳では無い。
得られた情報は少ないが、それでも取る事ができる対策はあった。
いかに大剣を背負っていようともその破壊力が及ぶ範囲は限られており、同時にそれはゴーレムの規格にあった剣と同時にその巨体が組み合わさることで範囲外からの攻撃を可能とする。
ゴーレム自体の強度さえ一ページで構築することができるものの二倍を超えており、盾となる部分に関していえばさらにその三倍の強度となる。
またその素材の違いから石を積み上げる形での構成ゆえに生まれる節という弱点が限りなく減らされている。
初動に関しては他にも仕込みが存在していたが、生かせる場面はまだある。
先手を取られたが、状況は有利に持っていけることができた。このまま盾の強度を生かして押しつぶすことで十分に勝てると判断した。
衝撃が伝わる、盾が何かと衝突したことが分かる。
ルミセイラは違和感を覚える。盾とぶつかったことで起こった音が奇妙であった。
「生物が衝突した音じゃない?!」
続いて二度目の衝撃が起こった。その場所はゴーレムの頭部だった。
「アイツ、跳んだぞ……!?」
ルミセイラの視点からみれば状況が理解し難いものであったが、実やエニステラからすれば一目瞭然であった。
迫る盾に大剣を振り下ろして突き刺し、その勢い、反動を生かして大剣から手を放しての跳躍、そこから頭部を《念動力》を込めた飛び蹴りにて破壊していた。
ゴーレムの巨体に遮られたことによりルミセイラにはその一連の流れが見えず。また大剣を手放すという行動すらも想像すらできていなかった。
「機動力の差が出ていますね」
「しかし、ここまで一方的になるものなのか?」
「本来、体の大きいもの程、相応の馬力があります。なので速さにおいては攻撃範囲の差を埋める程の要素には成り難いのです」
「成程、奴はそこで馬力となる《念動力》がある……!」
「長物の攻撃範囲は先端に集中します。従ってその内側に潜りこんでしまえば彼の有利となります。更に言えば、キョウヘイの攻撃は一度で終わる訳ではありません」
ゴーレムの頭部を砕き、地面へと着地、そのまま転がった後に姿勢を整える。
着地した位置はゴーレムの背後であり、理想に近い位置取りである。
恭兵は特に思考せずに次の行動へと移った。
相手との最近接距離、即ち自らの拳が届く範囲での攻防では自身の攻撃も一瞬で届くが相手の攻撃も一瞬である。
恭兵は佐助のような読みによって次の攻撃を避けることはできない。飽くまで瞬時の直観と経験から辛うじて避けることが可能となっているだけである。
攻撃を畳みかけて守勢に回らないことが肝要、そしてそのための段取りも予め幾つか想定はしていた。
「オォォォッ!」
「なッ! 何時の間に!」
気づかれたとしても既に問題は無い。
声を上げながらそのまま拳を振りかぶり《念動力》を込めて腰を回転させて打ち込む。
――狙いはゴーレムの右肘、剣を象る部分の境目。
「《念動超拳骨》ィッ!」
土塊に一切の加減は要らない。
その一撃がゴーレムの肘に触れた瞬間に、あっけなく右腕は衝撃と土を周囲にまき散らしながら砕けた。
「キャッチ」
剣となる部分だけあるのか、右肘から先は衝撃を受けても形状を保ったまま地面へと落下し、触れる直前に恭兵が《念動力》によって捕える。
ゴーレムは一撃の衝撃により僅かにのけぞった状態からバランスを取ろうと姿勢を制御するためにたたらを踏んでいる。よって、無防備である。
「アンド、スイングッ!」
なのでそのまま奪った剣先の部分を右膝へと叩きつけた。
強度の問題か折れて破壊することは敵わなかったが、突き刺さり右膝は地面へと落ちる。
ゴーレムの右半身はほとんど無力化された。
「舐めるなッ! 《結合解除、回転開始》ッ!」
ルミセイラの声と共にゴーレムの腰の部分に綺麗に境目となるようなに線が刻まれた。そしてその線の上が反時計回りに回転を開始する。
人体では無しえない上半身が回転を始める。
加えて左腕の盾は頑強であると同時に相応の質量を秘めており、直撃すればタダでは済まない。
「危ね!」
ゴーレムの回転が加速していく。
それを見て恭兵は一度引き下がり、距離を取る。
その手には赤い大剣が握られていた。
それを見ていた実は思わず唸ってしまった。
「何時の間に!」
「ゴーレムの上半身が回転し始めた瞬間、最も自分との距離が狭められた時に盾から抜き取っていましたよ。早業ですね」
「一瞬だったがよくも器用に抜き取ったな、これも《念動力》の力か」
「そのようですね……そして、次でこの模擬戦は終わるでしょう」
「片や文字通り半壊したゴーレムだがあの回転速度から繰り出される盾の重量を生かした一撃は高塔も慎重にならざるを得ないか」
「いえ、あれは――助走距離ですね」
エニステラの放った一言を合図に恭兵は高速回転する大地へと踏みだした。
一歩、二歩、三歩、と軽くステップを刻みながら距離を調整し、上半身を限界まで捻る。
遠心力を加えながら、《念動力》を籠めて、赤い大剣は振りかぶられて、放たれればフルスイングとなる。
まるで臆することなく進み続け攻撃を続ける恭兵にルミセイラは思わず一歩下がってしまうが踏みとどまり叫びをあげる。
「ッッなにをッ! 正面から圧し負けるとでもッ!」
「《|念動フルスイング》ッッ!」
叫びと同時に赤い残光が走る。
―――両者は中央で激突した。
衝撃が四散する。
片や静止し、片や回転を未だに続けていた。
ゴーレムは回転し続けており、未だにその回転数を跳ね上げ続けている―――
―――しかし、その左腕は肘から破壊されており、その先、盾の部分は赤い大剣が突き刺さる形で空中に静止していた。
壊れた機械のように意味も無く回転し続けるゴーレムはまさしく虚しい土人形であった。
「さてと、まだやる? 一応、武器はもうなさそうだけど」
「ッ! いや、まだだ。まだ、胴体と下半身は壊されて―――」
「あっそ」
恭兵は赤い大剣から盾を《念動力》によって外して、軽く放り投げる。
「バッター構えまして、第三球――」
再び、赤い大剣による赤い残光が走った。
カーンという打球音と共に一直線に空回りしているゴーレムに直撃、はりぼてのように倒れた。
虚しい回転が地面を削り、やがて止まった。
「ピッチャー強襲ライナーか、で? あの人形どうする?」
「―――参った………私の、負けだ……!」
ルミセイラは膝から崩れ落ちると同時に負けを認めた。
恭兵は彼女の意志が折れた事を確認した所で空を見上げた。日はようやく赤く染まり始めていた。
「ゲームセットっと、ようやく長い一日も終わるか、な」
溜め息と共に恭兵は休みなのにあまり休めなかったな、とそんな事を考えていた。
続きは一週間以内に更新する予定です




