第二話 中立魔導保全都市、迎撃戦 /ミドルフェイズ8:依頼、それに伴った戦力確認と自己紹介
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「さて、改めて聞かせてもらうが、お前らここで何をやっているんだ?」
「何をと聞かれればお前らの依頼を受けに来た冒険者をやってるんだよ。昨日、掲示板に張ってただろ」
早朝に見える赤神星も既に空に溶けるように消えて、人々が働きだす朝方の時間帯、それは冒険者への依頼の斡旋を行う、《冒険者協会》の窓口となっている宿屋や酒場でも同様に忙しなく依頼を受ける冒険者やそれに対応する職員が動き出しており、それは恭兵達が滞在している"翡翠の兎亭"でも同じことだった。
少しでも割が良い依頼を受けるべく、掲示板に貼られた依頼書をもみくちゃになりながら奪い合う冒険者達から離れたテーブルにて彼らは対面していた。
「なんでお前等がこの依頼を受けているんだよ。それならそうとここまでくる間に言えばよかっただろうが」
「まあ、成行きというかなんというか。顔見知りの方がいいかなって」
「いいじゃないっすか。後で話すのも前に話すのもあんまり変わらないっすし」
冒険者の一党が座れるように六人掛けの円卓テーブルに彼らは座っていた。
実の丁度正面に座る恭兵やその隣に頬杖をつきながら着席している佐助の言葉を受け、依頼主である"迷人"であり研究塔に属して魔法を研究している真辺実は額に手を当て呆れていた。
困った表情をしながらも、彼は依頼を受けた面子を眺めて一先ずの判断を伝えることにした。
「問題といえば……お前等の実力はこの目で見せてもらったことではあるからお前たちを雇い入れるという形となるのは問題無いが……生憎、決定権は俺には無い」
「うん? お前が依頼したんじゃないのかよ」
「いえ、その……私が依頼したんです」
恭兵の疑問に答えるように真辺実の背後から来たのは彼と行動を共にしていた"迷人"にして神官の野々宮志穂梨であった。
地面を引きずらない程度の長さの修道服に身を包んだ彼女はどうやら、実とここで待ち合わせる予定であったらしく、その姿を見つけてこちらへと近寄ってきていた。
「すいません。私の方が早くから待っていなきゃいけないのに」
「気にすんな。こっちが予定外にというか早く出ることになったからな。待ち合わせの時間までには着いているし問題は無い」
「実際、そんなに待っていないしな。それにしても、魔法使いの実の方が依頼主であるのは分かるけど、野々宮の方からの依頼ってのは予想外だったな」
「依頼書に記載されていた内容から考えれば護衛の依頼みたいで、募集していたのは恭兵君みたいな前線を張れる戦士系と斥候系でしたっすよね。それで二人の護衛というのは……」
「はい。私が今回依頼したいのは、その、護衛というよりも一緒にある依頼を達成して貰えないかということになるんです……」
「なんで、そんな回りくどい真似何かすることに……?」
おずおずと、野々宮が告げた内容は何とも回りくどいものであると言えるものであった。
普通に考えれば、このように態々依頼により人を募集するのでは無く。"翡翠の兎亭"のように《冒険者協会》の窓口を置いてある酒場や宿屋に集っているフリーの冒険者を誘った方が依頼を通す手間とお金が掛かる手間を省くことができる。
よって、彼らは些か遠回りの事をしており、また実がそんな非効率的な行動を取ることになっているのは何かしらの事情があるのではないかという考えに至るのは自然なことであった。
「色々な事情があってな。一先ず後で説明させて貰うことにするが、その前に……そこの机に突っ伏している奴を何とかしろ」
実の指摘を受けて恭兵はまさにその指摘通りに隣で突っ伏している人物を見る。
肩より少し長く切りそろえられた、明るい茶色に所々赤い線が入った髪が特徴的な少女は自身に声が掛けられたことに気づき、何とか気力を絞り上げるかのようにしてのっそりとその顔を上げる。
「……何よ」
「いや、何時まで不貞腐れてるつもりなんだよお前。いい加減、現実を受け止めろって」
「現実を受け止めた結果こうなってるのよ。しょうがないでしょ、今日は私にやる事なんてないんだから、暇なんだから、一刻も早く帰りたいのにやることがまるで無いんだからしょうがないじゃない」
「もう完全に不貞腐れてるじゃねーか」
「やはり、あれが効いていたのかとはいえ、仕方ないことだろう。教授とて暇な訳では無いんだからな」
明石都子が普段の不機嫌な様子を通り越して不貞腐れているのかと言えば、それは単純な話であり、本日の彼女の魔導書の正体を解き明かすという研究が中止となったからであった。
「中止した理由も、突然の急用が挟まれたからでそれもこのマナリストを統治している人達招集を掛けられたからってことだからしょうがないだろ?」
「教授も研究を優先したかった所を招集されて致し方無く今日は中止に、という事になったのだからあの人も好きでこうなった訳では無いことを理解してくれ」
恭兵達が朝早くからヴァンセニック研究塔へと向かった際にマニガス本人から残念そうに中止を告げられたのだが、当人そのあまりの無念は告げられた都子が文句を言えずに研究塔を後にしてしまった程であった。
「……あの状況で心底悔しそうにしてる人に文句なんて言えないわよ……それはそうとして私は一刻も早く帰りたいのに、ここに来て完全に足止めされてる気分だわ……」
「まだ、三日目だろうが。パオブゥー村で一週間待ったあの粘りが影も形も無いじゃねーか」
「……あの時はまだ目標が見えてたでしょ? でも、今回に至っては……元の世界へ帰ることには直接繋がってる訳ではないじゃない……」
「珍しく参ってるな……」
最終的な目標である元の世界への帰還、そこへ至る道筋は《開かれた瞳の預言者達》から示されたが、得られた情報は僅かであり、そして辿ることさえ困難にも思えるものであった。
ここまで都子が何とか目の前の目標に向かって行動し続けていた所を、マナリストでは足踏みをさせられている気分なのだろう。責任感が強いエニステラもそうなのだが、都子も自信が何かの目標に向かっていけないということに無力感を感じている様子が伺える。
(……それでも、都子がそう簡単に腐ったりするか……? あの絶対に元の世界に帰るって言ってたのに?)
恭兵は都子の様子にどこか違和感を覚えながらも、今この場では言及することは無いだろうと結論づけた。
「分かったよ。でも、ここで何時までも突っ伏してたってしょうがないだろう? 暇なら俺達の依頼に付き合うとかすれば――――」
「無理でしょ……私今、そこの聖騎士の人から監視されてんのよ?」
気分転換にも何もしないでいるよりかはマシだろうと、自分達の依頼に同行させるかと考えた恭兵であったが、都子は机に顔を伏せたまま、隣に座る人物を示す。
そこには、この三日の内に慣れつつある鎧を着こんだ大男、ヘンフリートが座っていた。
「そうであるな。まあ、依頼というのであれば吾輩が付いていけば監視という分には問題無いである」
「でも、結局私とヘンフリートさんの分もそこの二人が雇い入れる形になるんでしょ? そんなお金あるの?」
「聞きにくいことをずけずけと聞くよな……まあ、その通りではあるけど」
確かに都子も依頼を共にするとなれば、彼女にもその分の護衛料が入ることになり、加えてついて行かなければならないヘンフリートの分もとなれば、合計で四人も雇い入れることになる。
《冒険者協会》では複数の冒険者で組む、一党における人数は二人から六人を推奨している。
多数の役割の人材を持ち合せつつ、依頼をこなす上での機動力と単純に依頼料等の山分けが考慮された上での人数であり、これ以上の人数で組む徒党なども存在しているが、上手く噛み合う事無く解散することが多いとのことである。
つまり、ここにいる人数は一度の依頼で行動を共にするにはぎりぎりの人数でありその内、三分の二を野々宮志穂梨が一人で雇い入れた上で依頼料を適切に払うことができるのか、というのは十分に懸念できる状況であった。
「四人分を雇うのは、その問題は無いと思いますけど、その流石にヘンフリート様を雇うとなるには……私ごときが恐れ多いというか、それ以前に問題が……」
「問題?」
「後ほどお話をさせていただく予定だったんですけど……その今回の依頼は私が《巡回神官》になる試練の一環でして……」
「ほう……成程そういうことであったか」
ヘンフリートは何か疑問に得心がいったのか頷くが、自身に注目が集まった所を咳払い一つで話を先へ促す。あくまで自分は話の主導権を持つ気は無いようであった。
相変わらずの態度だなともはや慣れつつあった恭兵は一先ず、今生まれた疑問について聞くことにした。
「それで、《巡回神官》ってのはあれか、ヘンフリートのおっさんとかそれこそエニステラと同じだよな。二人は聖騎士だけど、それとは違うのか?」
「え、ええと、そうです。私は聖騎士の方はあまり詳しくは無いのですが、聖騎士となるにはそれこそ厳しい訓練とその上で適正がある人物が認められるものでして、そこからヘンフリートさんやエニステラ様のような各地を巡るといった方は限られるんです。その多くは大陸全体を魔から守るために各地の神殿や教会に就いたり、《聖域》で組織される聖騎士だけで構成される騎士団に就いたりすることになると聞いています」
「それが、聖騎士か」
「はい……それは私のような神聖魔法が扱える神官も同様に街の神殿や教会に仕えたり等でここは騎士団のようなものと似たものだと思っていただければ。つまり基本的にはこの世界で神に仕える神官は単独での行動をしないことになっているのですが」
「それだと、問題があったのか」
「どうしても集団で動く必要に迫られてしまう、という事で対処が遅れる場合がでてきてしまい、それではモンスターが蔓延る神聖大陸で人々を救うことはできないということから、単独で行動し、人々を救うことができる《巡回神官》が成立されたとされていますね」
恭兵の疑問にもてきぱきと答える志穂梨、自身の専門分野となれば堂々と話すことができるようであり、口数も多くなるようである。
「それで……その《巡回神官》は誰でもなれる訳じゃないんだろ。何かの資格がいるようだし」
「はい。確かにその必要があるんですけど……実は《巡回神官》の資格を取ること自体はそこまで困難ではないんですよ」
「そうなのか?」
「はい。そうでなくては冒険者になる神官がどうしても少なくなってしまいますから、なので必要最低限というか町や村の外にでてモンスターと戦えるようになれば認められますから、後は簡単な筆記試験があるだけでして、それこそ実は冒険者となる分にはもっと簡単なんですよね」
「冒険者になるためには必要なのにか?」
「ええと、正確な手順としては、先ず自身が所属している教会や神殿のある町にある《冒険者協会》の窓口を開いている宿屋などで冒険者になるんです。そこから暫くはそこで依頼を受けた上で認められれば筆記試験を受けてその後に指定された依頼を無事に達成できれば晴れて《巡回神官》になれるのです」
「もはや、当たり前すぎてあまりそう呼んだり、名乗ることはなくなっているがな。大体は冒険者で神官を名乗ることが一般的になってる。最もそこに妙にこだわっている奴もいるにはいるがな」
「と、兎も角。私は今、筆記試験を無事に通過して後は指定された依頼をどうにかするだけなのですが……」
「確かに、それにヘンフリートさんが出張るのはまずいっすよね……」
《巡回神官》となるための試練ともいうべく依頼をその資格を持った上で更に聖騎士でもあるヘンフリートに同行してもらい手を借りることになるのは問題になるだろう。
「仲間を集う分には問題ないのか?」
「はい。いずれにしろ、単独で大陸を渡り歩きモンスターの相手をすることなんて一人前の聖騎士にだってできることではありません。むしろ信頼のおける仲間を作れるかどうか、というのも採点の基準となっているみたいなのです」
「それじゃあ、仲間を依頼扱いで集めるのは問題ないのかよ。お金で集めたって見られるのは正直心象悪いと思うぞ」
「うう。私も出来ればこんなことはせずに仲間を集めて徒党を組んで依頼を達成したかったんです……でも、その深い事情がありまして……」
「一先ず、そこについてはお前等には迷惑が掛からないようにしているから気にすんな。一応あれは人材募集というか徒党を組む人材を募集する名目で依頼したものだからそこまで問題にはならないだろう」
落ち込む志穂梨を助けるように実がそう付け加えた。
それを受けて恭兵は正直に言って、依頼を受ける気が薄れているのを感じていた。
都子を参加させないで佐助と二人で参加するにしてもあまりにもうさんくささを感じてしまう。
しかし、それでも同じ"迷人"として、恭兵としては彼らに協力したいという気持ちは強かった。
「どうする? 佐助、俺は……正直受けてもいいかなって思ってるんだけど、割もいいし」
「まあ、ちょっと気になる事があるんで俺もこのまま受けるのは問題ないと思うっすけど……問題は都子さんっすよね……」
恭兵は佐助と二人で同じ方向を見る。
相変わらず都子は志穂梨の話を聞きながら、突っ伏すことは無くなっても項垂れて気分が優れているようには見えない。
このまま都子をヘンフリートに任せて二人の任務に共に行くこともできるが、ここまで落ち込んでいる都子を仲間として放置していくというのは恭兵には憚られた。
「……お主らに任された指定の依頼書を見せてもらっても大丈夫であるかな?」
「え、あ、はい。これですけど……何か気になる点でも……?」
「うむ……成程、少しこの依頼書を持って行っても?」
「か、構いませんけど……何か不備があったのしょうか?」
「いや、そうではないが少し確認することがあってな」
恭兵達がどうするべきかと悩んでいると、それまで黙して場の様子を伺っていたヘンフリートが動いた。
志穂梨から差し出された依頼書を少し眺めたヘンフリートは志穂梨の了承を取った上で依頼書も手にもって窓口に立つ受付嬢の所まで赴いた。
そして、十数分後。どうにか解決策は無いかと話が紛糾しつつも結論がつかなくなり二人だけで行くことに決定しようとした恭兵や佐助の所にヘンフリートが戻ってきた。
「吾輩抜きでミヤコ嬢を加えての依頼の参加が可能になったである」
「え、いや。どうやって!? いや、何やったの!?」
「何、少し話を通しただけである。《巡回神官》の件も吾輩が行動を共にしなければ問題はあるまい」
軽く言うヘンフリートだが、そう簡単に話が決まるとは恭兵には信じられなかった。
その真偽は確かでは無いものの、都子は現在、《災厄の魔導書》の保持者と考えられている注意人物であり、本来ならばここまで連れて来たエニステラと行動を共にしなければいけない身である。
その代行であるヘンフリートが同行しているからこそ、比較的自由に行動することが許されているという認識を恭兵は持っていたのだった。
それがあっさりと覆されてしまっていた。
「いや、でもアタシは……」
冒険者として活動することを以前からあまり納得していなかった都子が、それでも自分のために誘ってくれた恭兵のこともあり依頼へと参加することに逡巡していると、それを見たヘンフリートが助言をする。
「冒険者として活動して依頼を成功させればそれだけお主の実績となるであろう。良い行いをしたからといって罪が許される訳では無いが、何もしない者を悪人では無いと評価するのは難しいものである。それは神の前での裁きとて同じことであり、人ならざる身であるからこそ、その行いが重要になってくる場合もある」
「……この依頼を成功すればそれだけ私の疑いが晴れるっていうこと?」
「そうでなくとも、これから先は冒険者としての活動は重要となってくるのは違い無い。例え目的の為には毛嫌いしていることとにも目を向けなければならないこともあるであろうからな」
「……前から思ってたけれど聖騎士の割には随分と緩いというか、もっと厳格な方がいいんじゃないの?」
ヘンフリートの助言を聞きながら徐々に項垂れていた様子から顔を上げて、いつもの釣り目の不機嫌な様子へと調子が戻って行く都子。
その様子を見て満足気に頷きながらこう締めた。
「何、実は吾輩、実家から家名を辛うじて残されたとは言え出奔した身でな。元よりそこまで真面目な聖騎士では無いのである」
◆
「じゃあ、改めて。今回の依頼を確認することにする」
マナリスト郊外の平原を覆う森の入り口、そこで五人は円になって森へと進む前の打ちあわせを行うことととなった。
ヘンフリートの助言を受けて結局依頼に参加することにした都子を加えて、恭兵、佐助、実、志穂梨は周囲を警戒し安全が確認できた所で話を始めた。
「三人にも話したかも知れないが、最近マナリストでは"盗み屋"が横行していてな。その対処に魔法騎士団も対応に追われているようで最近は都市を西へ東へと行き交う甲冑姿が多くなっている」
「その"盗み屋"を捕まえられないっていうのはそいつがよっぽどの腕なのか、それとも騎士団の練度がどうなのかは、あまり言わない方が良かったか」
「正確にはどちらもという所だな。"盗み屋"が横行していると言ったがこれは単純な話じゃ無かったようでなこれまでに五人ほど逮捕されているんだ」
「五人もかよ、それで誤認逮捕されてるんじゃ世話はねえよな」
「突っ込まないわよ」
恭兵のダジャレを都子が切り捨てるが佐助は白い目で恭兵の方を見ており、志穂梨は少し吹きだしそうになっていて、実は特に触れずに話を続けることにした。
「……続けるぞ? 兎も角、それはそれで問題だったんだが、話はよりややこしくなっていてな。その捕まえられて五人は五人とも実際に魔法使いから何かしらの魔法の研究を盗んでいたらしい」
「何かしらって、五人とも本物だったのかよ」
「ああ、だから正確に言えば"盗み屋"が横行しているというより、流行っているといった方がいいな」
「五人が組んでいたって訳では無いんすか?」
「いや、特に互いに深い仲では無かったらしい。いても顔見知りで一度一緒に酒の席を一緒にしたことがあるとかでな」
「単独犯がそれぞれ五人っていうこと……? 何か私嫌な予感がしてきたんだけど」
都子は嫌な予感を感じて、後悔し始めているが、既にここまで来てしまった以上は帰った所でまたあの無気力を感じながら明日を待つことになることを思えばまだマシだと思い当たり実の話を聞くことにした。
「しかし、五人が捕まっても"盗み屋"の横行が収まることは無かった。だが、先日六人目が捕まえられたことであう事実が浮かび上がった」
「ある事実?」
「ああ、何でも"盗み屋"をやるように扇動した奴がいるとのことだ。しかもただ盗みを行う誘導するだけでなくて、そのやり方も考案されたらしい。だが、どいつも諭した奴の顔をろくに覚えていないようでな。特徴がバラバラで凡そこの世の人間とは思えないような顔の特徴をしていたらしい」
「でもこの世界だといそうだよな……そもそも、言葉が話せるのに人種どころじゃないドワーフとかいるんだし」
「それはそうなんだが……結局、犯人の特徴を見つけることはできなかったのでせめて諭された場所はどこだという話になったら――」
「ここっていう訳か……」
森の奥の方へと視線を送る恭兵、まだ日は高く、そして森の入り口であるためかまだ光が差しており、そこまで深さを感じることは無いが、それでも何者かが待ち構えているのではないのかというだけでどこか背中に寒いものが走る。
「とは言え、ここは数ある候補の内の一つであるだけだ。他の所にも依頼を受けた冒険者が集っていってる」
「成程な……それで、ここ本命の可能性はどの位なんだよ」
「俺達二人に任される位だぞ、精々が一割を割って五分、つまり5%位だろうな」
「随分と具体的だけど……まあ、あれか一応モンスターが蔓延る森林調査って所か」
「それならまあ、何とかなりそうっすよね」
「いや、アンタ達、元の世界の感覚狂ってきてるから」
本命に当たる心配が低くなったという所で少し一安心した一行に都子が待ったを掛ける。
「いい? 5%で命がけの戦闘になんのよ? そこらへんを気分転換だか何だかに誘ったその神経は一体全体どうなってんのかって話よ」
「う、まあそうだけど。でも、そうやってあの街にずっといても何にもなんないって話に……」
「それは承知した上で来てるわよ。その上でそこらへんの常識まで一気に失って気を抜くなって話よ。命懸けの上にまともな前衛の戦士はアンタだけなんだから手を抜いて私の方まで攻撃が届かないようにしなさいよ。最初に誘ったのはアンタでしょ?」
「……っ、それも、そうだな。ちょっと気が抜けてたよ。悪い」
「分かればいいのよ」
都子の一言で恭兵は気合いを入れ直す。こういう時にまだ常識と良識を持ち合わせて、それを異世界での道理とすり合わせて尚、譲ることは無いのは都子の美徳であると思う恭兵は漸く彼女の様子が戻ってきているのを実感する。
その二人のやり取りをどこか遠い目で見ている佐助は話を変えることにした。
「……二人で何かやっているのは置いておくとして……取り敢えずどこまで行くんすか?」
「森の入り口から中腹までだな、一先ず今日の所はという感じだが……そこまで行けば今日の所は帰還してまた後日、ということだ」
「了解っす。それで日当が一人頭8ギルクなんでまあ、そこそこと」
「ちなみに8ギルクってどの位あの宿で泊まれるの?」
「あー俺と恭兵君でとまったタコ部屋は一泊で2ギルクなんでこれで大体3泊っすね」
「2ギルクってことは――あの代筆もしかして宿一泊分なの!?」
「手数料込みだから実際にはもう少し安いがなき……そう言えば昨日、そこの忍者擬きがなにかカウンターの近くでやってたような……」
「神殿の方でも何かやってましたよね。神官の方を見るとどこか行ってしまってましたけど」
「ま、まあまあまあ」
佐助が密かに代筆の内職をやっていたことが明らかになっていた所で一応の依頼の内容確認は終わった。ここからは森の中を進んでいく上での方針会議である。
「さて、五人の内訳は前衛が二人で戦士と斥候――そう睨むな、忍者、それで後衛の魔法職二人に神官一人、か」
「ヘンフリートさんに来てもらった方がよかったんじゃないっすかねバランス的に」
「帰るわ」
「あ、ちょ、待った冗談ですって! 都子さんは十二分に頼りになりますとも!」
佐助の失言が飛んだが、その指摘は全うなものであり、都子が来てしまったことで後衛の三人を前衛の二人で守らなければならないという構成にならざるを得なくなっていた。その内の前衛の一人は斥候を兼ねる佐助である事も考えれば少しばかり不安が残る構成ではあったが、恭兵としてはそこまで問題であるとは考えていなかった。
「取り敢えず、佐助の《接触感応》で周囲警戒しながらモンスターの不意打ちを防げば―――」
「あ、ちょ、わー、わー、わー! ちょっと人が謝罪している所に何を人様の能力をばらしてるんすか!」
「何をって、正直べつに良くないか? 同じ"迷人"なんだから、教えても良くない?」
「いや、こういうのは人の口からでればそれだけ世間に広まるというかですね……!」
「それもそうよね。私、明石都子、《発火能力》で炎を出します。いざとなれば森を焼くのでよろしく」
「くっそ! 誰だよこのひとを常識人だとか普通だとか言ったのは!」
「はい。俺は高塔恭兵、《念動力》で触れる事無く物を持ち上げたりできます。これで木を倒してモンスターにぶつけるのとかが得意です」
「アンタもかよ!」
佐助が半狂乱になりながら頭を抱えていた。普段は失言をして突っ込まれる役割の分、他人を諫める側はあまり慣れている訳ではないようであり恭兵に完全に振り回されていた。
そんな二人の様子を見てなのか実と志穂梨は互いに顔を見合わせて思わずといった様子で笑ってしまった
「そうだな。これから依頼を共にする者にあまり隠し立てする必要もないか。改めて、真辺実、魔法研究者であり《透視能力》で森の中の暗闇でも見通してモンスターを視認可能だ」
「そ、そうですよね。はい。あ、改めまして野々宮志穂梨、神官でして《瞬間移動》で、そのえっと森の中ではあまり使いたくないのでそれ以外で頑張っていきます!」
二人が続けて自己紹介を行い追い詰められたことで佐助は漸く観念した。
「あー、ハイ。そうですね。 はい、加藤佐助、忍者でありまして能力は《接触感応》です。触ったものの事なら大体分かるんでこれを生かして斥候に務めていきたいと思うのでよろしくお願いいたしますぅ!」
やけくそ気味な忍者の叫び声が森に響いた所で恭兵達の依頼は始まった。
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