第一話 始まりの異邦人 / オープニングフェイズ 2:その少年少女はモンスターと戦う
三話です。
少々短くなりましたがよろしくお願いします。
ああ、やっぱりファンタジーってろくでもないわ。
それが現れた瞬間に明石都子が最初に思った事はそれだった。
森を突き抜け現れた鉄の猪、その大きさは大の大人の背丈を優に超える大猪であり、その牙は人間の胴体をたやすく突き破ることは容易に想像ができ、突進を受ければ死んでしまうだろうことは当然の事実として突き付けられる。
簡単に想像できる死は恐怖となって、二人の脳内を突き抜けていた。
しかし、そんなものにすくみ動けなくなってしまう程、二人の異世界での日々は平和では無かった。
「オーケー。それじゃあ、まず私からいくわよ」
「了解、かっとばす」
そういった短いやり取りを交わしてまず、最初に仕掛けたのは都子だった。
鉄の肌をもつ猪、どこかで聞き覚えがある気がしたが確かな情報でなければ意味が無いと捨て置き、攻撃を仕掛けた。
都子が持っている赤い装丁の施された黒い魔導書は、呪いが掛けられている。
その魔導書の持ち主となったものは魔導書を手放すことが出来なくなる。他にも呪いをかかっているらしいのだが、その内容を理解するにはまだ都子自身の知識が足りなかった。
それでも、危険を承知で魔導書を使うほかは無かった。
異世界に迷い込んでしまった都子にそうするしか生きる術等無く。元の世界に帰るという目的を果たすまで、呪いの魔導書の危険性など、考慮している余裕などな無かった。
悠長に魔法の呪文を見ている暇など無い。異世界に迷い込み、三ヶ月。ひたすら魔導書を手放すことが出来ない日々で、ページをめくる間の一瞬の隙により、危険な目に合うことは十分に学んだ。よって、幾つかの魔法を全くと言っていいほど理解も出来ない言葉の羅列を必死に覚えこんだ。
ここで放つのは拘束の魔法。まずは、相手の動きを封じる。
こちらに気づいた鉄の猪は興奮状態にあるのか、鼻息を荒くしながら迫りくる。
村を囲う柵をもろともせずになぎ倒し柵の残骸を踏み壊しながら、二人目掛けて突進する。
拘束の魔法の射程は二十五メートル、淀みなく呪文を読み上げると共に、恐れずに右手をかざす。
都子のかざした右手の手のひらに、黒い渦が走る。それは鎖のような形を取りながら、渦巻き続けている。
鉄の猪はそれに気を留めずに向かってくる。
じんわりとにじむ掌の汗、鉄の猪との距離は凡そ二十五メートルを割り、都子はかざした右手を鉄の猪に向けるとともに叫ぶ。
「《戒めよ》!!」
黒い鎖が鉄の猪に向けて放たれる。
狙いは足、四つの足を纏めて縛り、動きを封じる。
黒い鎖が、鉄の猪の足を拘束する。しかし、狙いが甘かったのか四つの脚の内、掛かったのは前の二つのみ。
とはいえ、前脚を縛られた四足の動物はまともに走ることなど出来ずに倒れることは自明であった。
それが、全うな動物であったならばの話であるのだが、
鉄の猪は前脚の拘束等ものともせずに強引に前へと脚を動かすことで魔法により作られた黒い鎖を強引に引きちぎる。
拘束の魔法により作られる鎖の強度はそれを扱う魔法使いの熟練度に比例する。
魔法を使い始めて三ヶ月と立たない都子では、鉄の猪の脚力を抑えきる拘束をかけるには至らなかった。
鉄の猪との距離は十五メートルを切り、今なお、都子へ目掛け、突進を続けていた。
このままでは、彼女は鉄の猪にぐしゃりと引きつぶされることになるだろう。
だが、都子はその目的を達成していた。
鉄の猪は拘束を振りほどき前へ進むが、拘束によりその突進速度は遅くなっていた。
都子の目的はその突進を妨害すること、一度でも足踏みをすれば、突進による脅威は抑えられる。
そうなれば、後は相棒に任せればいい。
――――鉄の猪の前に躍り出る影があった。
その背に担いだ自身の身長ほどの布に巻かれたもの、その布を取り払う。
――――布の中から出てきたのは赤い光であった。
否、それ自体は赤い鉱石のようなものでできていて、夕陽の光が鉱石の部分を通すことで剣身が赤く光るように見えていた。
それは剣の形状をしていた。巨大な赤い鉱石を削りだして作られたと思われる、身長ほどの大きさと剣というには肉厚の幅を持つ所謂、グレートソードと呼ばれるものに分類される大剣だった。
高塔恭兵はそれを肩に担ぐ。赤い鉱石の材質は不明であるが、あの大きさで武器として用いるのであれば重量は相当なものであるはずである。
大人が持ち上げられるかどうかも怪しく、異世界グゥードラウンダにいる冒険者共であったとしても戦いに用いるのはほんの一握りの豪腕の持ち主のみである。
しかし、恭兵はその赤い大剣を両手で握り、肩に担いだ状態から僅かに持ち上げる。
左脇を閉め、右脇を僅かにあける。
左足を浮かせ、右足に体重を乗せる。
グゥードラウンダに住まうものであれば少し奇妙に見えるそれは恭兵達のもとの世界のものであれば一目で分かるものであろう。
即ちそれは、野球におけるバッティングの構えであった。
当然、鉄の猪といえど、猪。モンスターにその構えの意味が分かる訳も無く、例え分かったとしても、その牙で貫けたものが無い自負により、鉄の猪はそのまま突進してくる。
さて、ここで高塔恭兵の持つ特殊な力、超能力についての説明が必要であろう。
彼の超能力は一言で言ってしまえば単純、しかし強力なものである。
それ自体に特殊なものがある訳では無く、ともすれば誰もが知っているモノ。
彼、高塔恭兵の超能力は《念動力》――――ある物体に触れなくてもその物を動かすことが出来るというものである。
しかし、それだけでは彼が行っている身の丈ほどある大剣を担ぎ自在に扱える怪力についての説明が付かない。勿論、彼がもう一つ能力を持っており、それが人並み外れた怪力を生むと考えることも出来るだろう。
だが、彼が持っている超能力は唯一つ、《念動力》のみである。
では、どのようにして彼は《念動力》で怪力を発生させているのか、これは《念動力》の性質に原因があった。
というのも、ほとんどの人が誤解を起こしているのかもしれないのだが、《念動力》は先ほど定義した通り、ある物体に触れることなくその物体を動かすことが出来るというものだが――――これは、自らから離れた場所にある物体に作用することが出来るだけで、接触している物体にもその力を作用させることが出来るのだ。
つまり、恭兵は自分の腕力に加えて、《念動力》を赤い大剣に働かせることにより、その怪力を実現させている。
そして、赤い大剣に《念動力》が働いているということは、その挙動をある程度であれば自在に動かすことが可能であり、これにより彼の目が目標を捉えているかぎり、《念動力》による誘導により赤い大剣はその暴力の矛先を目標に高い精度で叩き込むことが出来る。
よって、彼の全力を込めた大振りのスイングは目標を外す事は無い。
「かませ、ホームランッ……!」
左足で踏み込み、右足と腰を回転させながら前に鋭いスイングでもって振り回す。
大気を赤い大剣が切り裂き。ごう、という音が続く。そして突進してくる猪の突き出た鼻に吸い込まれるように赤い大剣の腹は激突し、
――――轟音が鳴り響く
硬い金属同士が衝突した音が牧場に響き渡り、同時に何かが砕ける音もした。
鉄の猪の突進は止められ、先に出た鼻はひしゃげたように潰れており、その身体は、宙に浮く。とはいえ、それは上体を仰け反らせ前脚を浮かせただけにしぎないが、彼にはそれで十分であった。
振り抜いた赤い大剣から右手を放し、仰け反った後に重力に従い前脚と共に上半身が落ちようとする鉄の猪に向ける、狙いは正確に鉄の猪の顎。
《念動力》とは要するにある特定の座標に、力、運動量を作用させるものである。それを瞬間的に発動させれば、その目標には瞬間的に《念動力》が働き、目標に運動量が衝突する。つまり、
「《念動張り手》」
――――《念動力》を用いた、遠距離攻撃。遠くにある物体に張り手を喰らわせることとなる。
地面に落ちるはずだった鉄の猪の身体は顎を中心に再度衝撃を受ける。その上体は完全に仰け反り、前脚の裏側まで恭兵には見えている。
しかし、それだけで終わりはしない。恭兵はさらに右手を何かを掴むように変えそのまま右腕を払うように振るう。
今度は単純な《念動力》その、物体の全体では無く、どの箇所へ力を与えるのかを意識すれば、
「《念動叩きつけ》」
――――その物体の特定の部位に対して力を加えることが出来る。
宙に浮いている鉄の猪の突き出した槍の如く鋭い牙は空中から突如として、強い力を加えられる。まるで、見えない巨人の腕で押し込まれているようだった。
そして、そのまま見えない巨人は鉄の猪の牙を地面に突き刺し、その勢いのまま鉄の猪を倒した。
鉄の猪は瞬く間に仰向けに倒された。その生の中で横転することはあれど、突進を仕掛けた上でそのまま仰向けに倒された経験は無かったのだろう、そのためか鉄の猪は混乱の極みにあった。今まで地を駆け続けた自慢の脚を必死に振り上げるが、ただ宙をもがくばかりだった。
猪はその巨体を大きく揺り動かし、どうにか仰向けの上体から体勢を立て直したが、既にその眼前には恭兵が赤い大剣を両手で天に掲げるように持ち上げていた。
「じゃあな」
鉄の猪が何か行動を起こす間もなく。恭兵は頭上に掲げた赤い大剣を猪の脳天へとめがけ振り下ろした。
赤い大剣は夕日の明かりを反射していることにより、その軌跡は赤い残光を残しながら、絶大な質量を猪の脳天へと落下させ、鉄できた肌を割り、頭蓋ごとその脳を叩き潰した。
◆
「うし、一丁あがりっと」
恭兵の目の前には頭蓋を潰された鉄の猪がその息の根を止めていた。
正直、あのまま突っ込んできたら対処できていたかどうか怪しかった。
そもそも、あのままひっくり返すことができたのも都子が速度を落としてくれたからである。
鉄の猪の肌は鉄でできており、最大の攻撃となる大上段からの圧倒的質量を生かした叩き潰すような一撃でなければ止めを刺すに至らなかったであろう。
恭兵が完全に息の根が止まっていることを確認していると、傍に都子が近づいて来ていた。鉄の猪の亡骸を一瞥すると、その死に様に少々青い顔を隠せないでいた。
「あーもう。ぐちゃぐちゃよねこれ、相変わらずめちゃくちゃするんだから」
「しょうがないだろ、確実にやるにはこれが一番なんだから。俺だって少しカッコよく鉄ごと両断したかったての」
「まさか、鉄の肌を持った猪が出てくるとは思わなかったわ。いい加減ファンタジーも大概にして欲しいわね」
「いやいや、これぐらいなら師匠と会った樹海で結構見かけたぜ。この世界にはやばいのはまだまだ一杯いると思うぞ」
「そのやばいのに会う前に私はできるだけ早く帰りたいもんなんだけど」
右手に構えた拘束の魔法を解いた都子が憂鬱そうにそうこぼした。
辺りを見回して周囲を警戒するが、どうやら他にモンスターなどはいないらしい。
「とりあえず、一件落着っていえばいいのか?」
「私もすごくそう言いたいけど、まだよ。最初の雷がまだ分かってないでしょ」
「やっぱり?」
そう、事の始まりは森の中で発生したと思しき雷であった。
二人とも最初は鉄の猪が生み出したものとばかり考えていたのだが、
「鉄の猪は突進しかしてこなかった」
「結局、それらしい攻撃は無かったからな。いや、出されたらこっちが危なかったから速攻で仕留めにかかったわけだが」
「でも、それなら転がった時にそれらしい攻撃はするんじゃないの? もしかして、他にも何かヤバいモンスターがいるんじゃ……」
揃って鉄の猪が来た方向を見る二人、鉄の猪がその突進によって薙ぎ倒した木々や踏み荒らした藪があるだけで、他に怪しい影は見当たらなかった。
雷が発生した方向とも一致していることから、この鉄の猪が雷と何らかの関わりがあるのは確かである。
「確認しに行くか」
「え、何でよ。わざわざ危険を侵しにいくことないでしょ。もしかしたら雷を操るようなやつなのよ、どう見たって危険しかないじゃない」
「でも、放置したところで雲も無いのに発生した雷の正体に警戒し続けてこっちが疲れるだけだ。それよりは、一応なんなのか確認した方がいいと思う」
「そうかもしれないけど、もしかしたらとっくに立ち去ってるかも知れないでしょ?」
「それならそれでいいだろ。何も正体を見つけなきゃいけないわけじゃないし、深追いするつもりはねえよ。怖かったら馬小屋で待っててもいいぞ」
「う…………、」
恭兵がそう告げると、言葉に詰まった都子。恭兵の意思は固く、自分がなんと言おうと確認しに行くだろうことは明白だった。
ここで、恭兵が雷を放つ何かに殺されたとすれば、自分一人ではまず間違いなく殺されてしまうであろうことはたやすく考えられた。
悩みに悩んだ都子は結局、確認できなかったとしても深追いしない、戦闘になりそうであっても撤退を前提にという条件をつけて共に行くことにしたのだった。
二人は鉄の猪の亡骸の傍から離れ猪の突進により壊れた柵から、森の開けた場所へと向かった。
木々は根元からえぐるように倒されており、遠目からでも見えてはいたが、間近でみるとその破壊痕からあの突進の恐ろしさが垣間見える。
都子によって速度が殺しきれて居なかったならばどうなっていたのか分からないことを察した恭兵は少しばかり、背筋に寒いものを感じた。
突進の跡は森の奥の方へと続いており、二人は十分な注意を心がけるように慎重に進んで行った。
しばらく歩くと、なにやら何かが焦げたような臭いがすることに二人は気づいた。
臭いの方向はやはり、猪が来た方向からしていることが分かる。
「とりあえず、あそこが雷の落ちた所で間違いないわね」
「ああ、何がいるか分かんないから俺が先にいく。ちょっと離れたところから着いてこいよ」
「りょーかい、くれぐれも気をつけなさいよ。私も魔法は用意しておくけど、雷なんて一瞬なんだからね」
「分かってるよ、いざとなればこの剣を盾にすれば……」
「それが電気を通さなかったらね。金属じゃあないのは分かってるけど、電気を通すかどうかとか調べたの?」
「……大丈夫だ、なんとかなる」
「いや、なんなのよその自信! 間があっただけに不安なんだけど!」
不安をあらわにする都子をよそ前進する恭兵、置手紙と共に譲り受けたこの赤い大剣ならば十分盾になることを信じることにした。
慎重に足音を出さないように前進する恭兵、その五メートルほど後方をついていく都子は右手に拘束の魔法を構えている。
焦げたような臭いを嗅ぎつけた場所から数分ほど進んだところで森の中の開けた場所にでた。
木々の間から漏れ出る日の光で成長した膝まで生えていたとされる植物などは、発生した雷によってもろともにこげて、地面までこそげていた。
そのあいた空間を囲う木々にも幾つもの焦げ跡がはしっており、その威力が窺い知れた。
そして何よりも、発生した雷が直撃したとされる先ほどの鉄の猪よりも大きな熊の亡骸が気に横たわるようにしていた。
「何よ、あれ。さっきの猪よりデカいんだけど」
「腹に当たって一撃……だよな……? どんな奴が…………って!」
巨大な熊の腹を貫通するように開けられた焦げた風穴、あの雷の一撃によって死亡したことが分かる。
恭兵は巨大熊がもたれかかっている大木の反対側、雷が放たれた方向へと振り返ると、
そこには、金色の女性騎士がいた。
辺りを転がったためについたであろう泥にもあせぬ美しい金色の髪、
俯き詳しいことは分からないが切り傷が垣間見えても美人だと分かる顔立ち、
その鎧は顔と同じく細かい傷と泥にまみれながらも騎士としての立派なものであり、果てには気絶しているにも関わらずその右手に掴むハルバードは決して手放してはいなかった。
もしも彼女が騎士で無いのならば、この世で騎士を名乗る者は大抵偽者なのではないかと、恭兵は一目見てそう思ってしまった。
「ちょっと、何見て、て、あれ騎士じゃない!? どうしてこんなところで気絶しているのよ?」
「…………」
「ちょっと? 聞いてんの?」
「え? あ、そ、そうだな」
思わず、金色の女騎士に見とれてしまった恭兵だったが、都子がこちらに気付き声をかけてきた所で慌てて返事を返す。
恭兵の様子に訝しげな視線を返す都子であるが、追及は目の前の女騎士について話した後にすることにした。
まず、状況証拠でしかないがあの雷を発生させ、大木の根に倒れこんだ巨大熊を倒したのは彼女であるのだろう。
他にできるものがいるとは考えられず少なくとも何らかの関係があることは違いなかった。
「とりあえず、ここに寝かして置くのはまずいわね……一先ず、マドナードさんの所まで運んだ方がいいんじゃない?」
「よし、俺が担いで……は大剣背負ってるから、こんな感じで、って」
「ん? どうしたのよ?」
「いや、ちょっと彼女の右手が武器を離さなくて……これは無理に解けねーな。そのまま運んでいこう」
「ちょっと、大丈夫なの?」
「ああ、平気だ。ちょっと鎧付けてるから俺じゃないと抱えそうにないけどな」
「……アンタ、今後私を抱えるようなこととかあったら、その口を開かないでね」
「え……? 何でだよ……」
恭兵が聞くも、都子はその目をジト目にして視線を切り、返事もせずにさっさと森の外への道を歩き出していた。
恭兵は首を傾げつつも、武器を離さない女騎士を何とか上手い具合に横抱きにして抱えて、二人は辺りを慎重に警戒しつつ、森を後にするのだった。
◆
「おお! アンタ達無事だったのか! 雲も無いのに雷が森の方に落ちたんじゃないかと心配になってきてみれば、牧場でアイアンボアが死んでる上に居なくなってて心配したんだが、どうやら、大丈夫そうだな」
森を抜けて破壊された牧場の柵を越えて、牧場まで戻ると、そこには松明を片手に牧場の主であるナスティが立っていた。
どうやら、森を探索している間に辺りはすっかり暗くなり、夜となっていた。
「おうおう、アンタ達が牧場の護衛をやってるって冒険者か。ちょっと話を聞かせてもらおうじゃねーか」
「そうですね、あのアイアンボアのこともそうですし、彼が抱えてる女性のことも聞きたい所ですね」
「…………」
ナスティの後ろから来た人影から声を掛けられる。
初めに声をかけて来た、腰に剣を下げ左腕に盾をくくり付けた戦士と、神官服を身に纏った物腰が丁寧である聖職者の男、そしてフードで顔を隠している軽装の男の三人の姿があった。
確か三人は昼間にすれ違った村に来た商人の護衛であることを、恭兵は思い出した。
彼らも雷が発生したことを受けて見に来たのだろう。
「ああ、あの時雷が落ちたと思ったら、あの……アイアンボア? だっけか、それが森の方から飛び出してきてな。何とか倒したはいいんだけど、雷が起こった原因が分からなかったから、突き止めるために森を調査することにしたんだ」
「そうでしたか。アイアンボアをお二人で倒すとは中々腕が立つ御仁達のようですね。それで、森の中で彼女を見つけたと。どうやら、恰好からして聖騎士の…………こ、この方はっ!」
「え、おい。この人がどうかしたのかよ」
恭兵が抱えてる女性へと視線を向けた神官の男は、何かに気づいたのか驚愕の声を上げながら再度自身が見たその事実を確めるように、慌てて彼女を覗き込んだ。
それに驚いた恭兵が踏み込んできた神官から離れるように後ずさり、周囲の目がまるで自分に奇妙なものを見ているようなそれを向けていることに気づいた神官は、こほん、と咳を一つ取り、落ち着きを取り戻して、こう続けた。
「えー、いいですか? この方は、この神聖大陸を邪悪な魔族の手から守るべくその力を振るう者の頂点である、対魔十六武騎のお一人、その中でも神と誓約を交わしその強い意志と大いなる使命のために力を振るう聖騎士の座を預かる、エニステラ=ヴェス=アークウェリア様です」
神官の男のその言葉に、ナスティは腰を抜かし、剣士の男もその顔を驚愕に染め、フードで顔を隠した軽装の男も動揺を隠せないのか、少し後ずさっている中、恭兵と都子は互いに顔を合わせ、首を傾げて、同時に神官の男の方に顔を向けると、
「「え、誰?」」
そんな場違いな疑問を投げかけ首を傾げる二人をまさか知らない人物がいるとは思ってもいなかった神官は、あまり予想していなかった事態に言葉を失ってしまったのだった。
また、一週間以内に投稿します。