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Psychic×strangers   作者: さがっさ
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第二話 中立魔導保全都市、迎撃戦 /オープニングフェイズ3:迷い訪れた二人と魔導都市への訪れ

何とか投稿できました……

「一先ずは大丈夫そうだな」

「そうっすね。追手とか残党、横合いから殴りつけてくる輩もいない……後は馬車に揺られて到着までのんびりとしてるだけっすね」

「お前は、見張りあるだろうが」

「いやいや、流石に走る馬車に並走するのはキツイっすよ」



 盗賊の頭を撃退した森を抜け平原へと出た商隊は、馬車に護衛の者を乗せてマナリスト中立魔導保全都市へと向かっていた。

 恭兵達も、商隊を纏める商人に雇われた御者に馬車を任せて、護衛を担当していた馬車の荷台に乗っていた。

 荷台には、積まれた荷物とその内の一つである木箱に乗る都子、文句を言いつつも荷台の入り口から外を眺める佐助、恭兵はその手に途中から折り曲げられた大の大人さえ振り回すことが困難であろう両刃の斧を抱えて、そしてエニステラは商隊を襲撃した盗賊の頭を拘束し、荷台に転がせて見張っていた。



「良かったの? 荷台になんか載せちゃって?」

「仕方ありません。マナリストまでは半日程掛かりますし、最寄りの村に寄るのは他の方々に余計な時間を取らせてしまいます。かと言って、あのまま放置しておけば再び盗賊団となることは目に見えてましたから」

「そこの頭は後が無いとか言ってたんだし、そんな直ぐ様に復活することは無いんじゃない? その内自然消滅すると思ったんだけど」

「確かにその可能性は高いのですが……《アーティファクト》を保有していたこの者の危険性を考えれば、拘束してマナリストの教会へと引き渡す方が後の被害が減るでしょうから」



 都子は自身の《拘束(バインド)》とエニステラの聖雷で作られた鎖、《神雷の鎖(レイジ・チェーン)》で拘束されて荷台に転がされている盗賊の頭をちらりと見て、一応の納得を得たのかその後は《呪いの魔導書》を開き読み込んでいた。


 

「やっぱり《アーティファクト》を持ってるだけで強さは変わるのか?」

「一概にそう言える訳ではありません。結局は《アーティファクト》と言えども、道具に過ぎません。魔法の力が加わっているからこそ、その扱いは難しいものであるとも言えます。例えばその風を生む大斧も、使いこなす事ができなければ望んだ方向へと突風を吹かせる事などできません」

「うーん、備わっている力が全然分からないものを使ってる身としては耳が痛いな」


 

 恭兵の背負う布に包まれた赤く発光し続ける大剣は彼の師匠から託されたものであるのだが、エニステラから聞かされて初めてそれが《アーティファクト》と知ることとなった。本来は師匠から教えてもらうのが筋というものなのだが、全くと言っていいほど説明されなかったので、師匠には山ほど言いたいことがある恭兵であった。



「赤い大剣だから……そこから炎とかでるんじゃないの?」

「師匠がそんな単純なもん使うとは思えないけどな、とてつもなく丈夫で重いだけの剣とかだったり、そうじゃなきゃめちゃくちゃに派手なものが出るとか」

「派手って何よ?」

「そりゃあ……ビームとか?」

「……魔法の世界ならあり得るんだろうから、妙にツッコミしにくいことを言うじゃない」

「……何がいいたかったんだ……?」

「発想が小学生よね。それも低学年の」

「うーわ、俺も言わなかったことを平気で……」



 都子の言葉に膝をつく恭兵。

 実は、中学の卒業式の前日に異世界に飛ばされた恭兵の最終学歴は実質的に中学中退の小卒であり、そのことを彼は結構気にしていた。

 尚、佐助はそれとなく知っていたので、恭兵に同情するように手を合わせていた。



「えっと、キョウヘイ? そのびーむと言うものは分かりませんが、その赤い大剣に秘められている魔法は、恐らく単純な魔法では無いと思いますよ」

「そ、そうなの?」

「はい、以前軽く触らせてもらった感じから、少なくとも私が持つこの《戦乙女の聖雷斧槍ヴァルキュリーズ・レイジハルバード》に劣らぬ業物であることは確かです。これを鍛えた鍛冶師は相当な腕の持ち主なのでしょうね。そしてそれを扱っていたあなたの師である人物もかなりの腕の持ち主なのでしょう」

「そんな大それたものをあんな気軽に渡されたのか……」



 恭兵は力なく笑うしか無かった。

 エニステラの見立て通りであるならば、背負った大剣は《対魔十六武騎(たいまじゅうろくぶき)》が持つ武器と同等の物である。

 それをかの師匠は、薪割り用の斧を手渡すような雰囲気で大木をへし折るために恭兵に渡し。後はなし崩しに恭兵のものとなってしまった。経緯が経緯であるがゆえに赤く発光しているただ丈夫なだけの剣だと思っていたのだが、思ったより立派なものであるようであった。

 


「でも、使えないんじゃ宝の持ち腐れだよなあ」

「その心配なら大丈夫ですよ。魔導都市であるマナリストには魔法について知見のある方々がいますし、《アーティファクト》を扱う鍛冶師の方も居られます。彼らならその赤き大剣に籠められた魔法の力を教えてくれるでしょうし、《同調》も行ってもらえると思いますよ」

「そっか、それも何か楽しみだな」


 その経緯はともかく師匠からの選別であるのは確かであり、できることであるならば使いこなしたいというのが心情である。

 都子の魔導書の真偽を確かめるという目的はあるというものの、時間が許す限りは赤い大剣について調べたい所ではある。

 

 そんなことを話している内に馬車の速度が緩やかに落ち始めており、恭兵達が乗る馬車の前方が騒がしくなってきていた。



「もう着いたのかしら?」

「いえ、もう少しほど時間はあると思いますよ。恐らくマナリスト名物の"生長外壁"が見えたのでしょう」

「せいちょうがいへき?」

「はい。丁度、前の方から見えるのではないでしょうか?」



 エニステラの薦めに従い、都子と恭兵は荷台の前方の業者台へと移ることができる作りになっている部分を開くと、荷台の外の光景が飛び込んできた。


 そとは森に囲まれた平原であり、視界の端には湖も見ることができる。

 しかし、それらよりも一際目立つものは平原の中心でそびえ立つ直径が長い円筒状の森のように見えるものだった。目を凝らしてみれば、まるで都市を囲う高壁にびっしりと苔が生い茂っているのか上から下まで緑に染まっていた。緑の高壁はその中の魔道都市を覆い隠すようにそびえ立ち、その奥のものはここからでは何一つ見ることはできない。



「苔だらけの……外壁? 確かに珍しいって言うのは分かるけど……ああも生い茂ってたらどこかから崩れそうよね」

「ふふ、あれは外壁に苔や蔦が生えているのではなく、生垣がそのまま外壁となっているのです。しかも、未だに成長を続けていて年々、その面積を広げているのですよ」

「生垣……!? あれが!? デカすぎるだろ!!」

「それに成長してるって、あの大きさで!?」

「ある魔法植物を成長させることで都市の外壁として利用しているのです。その強度は並みの城塞に劣らず、また長年の魔法研究により通常の植物のように簡単に焼き払うことはできないとのことです。そして、都市の拡張に合わせて拡張するように成長させているらしいですよ」


 

 生きる都市壁とも呼べ、植物であるがゆえに永い寿命と魔法植物であるがゆえに通常の石造りのものよりも向上した頑強性を誇ることを指して"生長外壁"と呼ばれる。

 魔法の知識と運用に長ける魔道都市であるからこそ取ることができることから、訪れた者の魔道都市への期待を高める光景であった。



「エニステラは随分と詳しいけど、もう何回も来ているの?」

「ええ、マナリストは他の魔道都市とは違い、聖域から近いためか教会や神殿がありますからね。国家都市同盟に向かう巡回神官達が立ち寄る機会も多いですし、大陸中を巡っている私も何度も訪れていますね」

「それで、ここに来るって決めてたのか?」

「はい。他の魔道都市は帝国や王国に所属していますのでどうしても国家所属の機関としての側面がありますし……正しく鑑定してもらえるとは思いますが……色々と問題がありますので……」

「あーうん、それなら仕方ないよな」


 エニステラは苦笑を浮かべ、彼女にしては珍しく言葉を濁していた。国家の政治問題などが絡んだ内容であることが察せられて、恭兵と都子はそれ以上聞かないことにした。

 元々、この世界の住人ではない"迷人(まようど)"である以上、余計な口出しをするものでは無いし、詳しくもないことを訳知り顔で語るほど面の皮も厚くない。

 都子の方はいずれ去る世界の政治事情になど興味はないし、恭兵も選挙に行く訳でもない政治に自分が関わるとは毛ほどにも思っていなかった。


 二人はそれ以上深入りをしないほうが良いと判断して、だんだん近づいてくる緑の高壁を改めてじっくりと見ることにした。

 商隊が近づくにつれて魔道都市を覆っている後壁には生命を感じさせる濃淡のある緑の葉の間からそれを生やす枝などが見受けられる。良く見れば、外壁の表面を覆う葉の裏に隠れているが、奥で何かがうごめいているのが見える。

 緑の高壁の上には見張り台と思われる物が生垣によりかたどられている。他にも上から蔦のようなものでぶら下がっている足場が幾つかあり、生垣の修繕を行っていると思われる魔法使いが何人か乗っている。


 そんなことをやいやいと言いあったり、後ろから何とか覗き込もうとしている佐助に変わったりなどしている内に、緩やかに馬車は速度を緩めていきやがてその歩みを止めた。



「どうやら、商隊が門の前まで到着したみたいっすね。結構並んでるみたいで……マナリストに入るにはもう暫くは待機みたいっす」

「ということは、護衛の仕事は完遂ってこと?」

「正確には門を抜けた傍で待っている商人の方に護衛した馬車などなどを受け渡した後に終了という形になりますね」

「最後まで油断せずにっていう奴か、そういや、そいつはどこに引き渡すんだ?」

「中に入り次第、マナリストの治安を取り締まっている魔法騎士団に引き渡すことになりますね。その後は執行官の方々に裁かれることになるでしょう」



 床に縛られて転がされている山賊の頭はまだ目を覚ますことは無く、恐らく引き渡す時も何とか引っ張っていかなければならないだろう。それを思うと少々面倒だなと思う恭兵ではあるが、エニステラは誰と言わずに引きずっていくだろうことを考えると、それをただ見ているのは申し訳ないので自分が引きずっていくことになるのだろうなということをぼんやりと思った。


 

「とりあえず、中に入ったら依頼人に担当した馬車を引き渡して護衛の依頼は完了、ついでにそこの盗賊も引き渡して、その後は……」

「ミヤコの持つ魔導書を鑑定できる魔法使いを探す……のですが、待たせてしまうようで申し訳ないのですが先に神殿の方に向かいましょう」

「神殿って、教会とは違うの?」

「どちらもこの世界を見守っておられる神々を信仰する者達のための施設ということに違いはありません。強いて言えば、教会では幾柱居られる内の一柱の神を信仰し、神殿では神聖大陸を守護されている全ての神々を奉っているということになります。なので、街によっては複数の教会が存在することもあります」

「ほーん」



 そんなことを話していると、パツパツと馬の蹄にしては奇妙な足音が近づいてきていた。

 門番の兵が商隊の荷物を改めにきたのかと考えた一行は、全員で取り敢えず外に出るとそこにいたのは奇妙な白地に黄色の水玉模様のダチョウを連れた二人組であった。



「探したぞ、ここにいたのか《ゴーレム殺し》」



 そう言って奇妙なダチョウから降りて来たのは緩い天然パーマがかかったようなくせ毛の黒髪の少年。眼鏡を掛けており、その背はいかんせん低めであった。手袋をはめており、よく言えばよく使われた、悪く言えば染みだらけの白衣を身に纏い、その胸ポケットには短杖が無造作に入れてあった。腰にはベルトポーチを提げ、中身はぎゅうぎゅうに詰められていた。



「み、実君! そんないきなり問い詰めるような言い方は失礼ですよ!」


 

 少年に続いて降りて来たもう一人、修道女の服装に身を包み、首筋からは僅かに切りそろえられた黒髪が見える。手には錫杖を持ち合わせており、肩からはポーチを提げた大人しい印象を受ける少女。服の上からでも細身であることが分かり、不安そうな表情は彼女のもつ黒いタレ目を強調するものだった。



「構いやしないだろ。ここの順番が来るまでは暫く時間がかかる。礼の一つ言う位の時間はある」

「ん? その声はお前、もしかして」



 恭兵は確かにその声に聞き覚えがあった、それは先ほどゴーレムと戦った際に援護してきた思念魔法から伝わってきた声であった。

 白衣の少年はその様子から恭兵が自分の事に気づいたことを察すると口端を歪めるように笑い、返答する。



「ふっ、気づいたか察しがいいな助かるよ。では改めて自己紹介をするとしよう、俺の名前はミノル・マナベ、いやお前たちには真辺実(まなべみのる)と言った方がいいかな? お前等三人と同じくこの世界に迷い込んだ科学者志望の魔法使いの"迷人"だ。そして!」

「え、あ、はい! 実君と同じくこの世界に迷い込んだ"迷人"の野々宮志穂梨(ののみやしほり)です! その、この神聖大陸を治めるアーフラレア様に御仕えする神官をありがたくやらせていただいています! い、以後よろしくお願いします!」


 

 高らかにそう言った白衣の少年に続けてペコペコと頭を下げつつ挨拶したのは恭兵達と同じ"迷人"であるようだ。確かに、彼らの黒髪と黒目、肌の色、そして名前から同じ日本人であることが伺える。恐らくは二人が言っていることに間違いはないのだろうが、と恭兵は疑問を抱えつつも自己紹介を返すことにした。



「あ、あっと、俺の名前は高塔恭兵、前衛の大剣使いの"迷人"だ以後よろしく」

「明石都子、目的は何か巻き込まれたから帰ること」

「加藤佐助っす、こう見えても凄腕の―――」

「自称忍者だ。取り敢えずこの三人が"迷人"だな」

「いやちょっと、俺の自己紹途中―――」

「それで、えっと、こちらは」

「いえ、構いませんよ、キョウヘイ。では、僭越ながら《聖騎士》を務めさせて貰っていますエニステラ=ヴェス=アークウェリアと申します。よろしくお願いいたしますね」


 

 エニステラの自己紹介を聞いた瞬間に、ここまで得意げな態度を崩すことは無かった白衣の少年の表情は驚愕に染まり、少女の方も一瞬聞き間違えかと自分の耳を疑ったが、それが真実であると分かると目を白黒させた。



 思わぬ人物との遭遇に固まる二人をよそに恭兵は彼らが自分たちの自己紹介を忘れていなければいいなと少しだけ思っていた。




  ◆




「成程、あのゴーレムを倒す弱点をキョウヘイに伝えた謎の魔法使いとはあなたのことだったのですね。先ほどはありがとうございました。貴方の助言が無ければ、ああも簡単に盗賊達を倒せたかとは言い切れません。」

「ああ、いや何、気にしないでいただきたい。あれは俺達のほうで後始末というか、連帯責任のようなものがあってな。こちらこそお礼を言わなければならない所だった」

「一応、倒したのは俺だけどな」

「ああ、本当に助かった。ありがとう。ゴーレムがいるという場所に丁度商隊が通りかかるかもしれないという情報を手に入れてな。何とか急いでこのガニャックに乗ってきたはいいものの、盗賊との戦闘中では近寄れずにいてな。遠目で見た所でそこの大剣使い、高塔恭兵と言ったか、お前が馬乗りになってゴーレムを叩きつけていたのは流石に驚いたな」



 一先ず、商隊が門を通る番までは時間があるのでその間まではと念のために馬車の外で話すことにした一同、件の二人は《対魔十六武騎(たいまじゅうろくぶき)》という大物であるエニステラと会うことになるとはおもw無かったようだが、今は落ち着いて会話ができているようである。最も修道女服の少女である志穂梨の方は同じ神職であることからか妙に畏まってしまっていた。



「それで、あのゴーレムにはどういう経緯があったんすか? あれが出てきた時に一緒に盗賊を区別して攻撃する知能がなかったんでおかしいとは思ってたんすけどね」

「色々話すと長くなるんだが、俺はマナリストである魔法使いの弟子をしていてな、そこで色々と魔法を学んでいるんだが、同じく学んでいる姉弟子にあたるのが……その、自分の魔導書のページを盗られたと言っててな」

「魔導書のページ一枚?」

「ああ、それも、ちょっと読むだけでお手軽にゴーレムを作ることができるという奴だ。それで調べていくとどうも魔法専門の盗み屋というのがいるらしくてな。それに引っ掛かった罰で師匠から折檻を受けてる姉弟子の代わりに俺達で何とかそのページを取り戻すか被害がでる前にゴーレムを何とかしようということになってな……」

「んん? そう言えば、そのページはどうしたんだよ」

「ああ、そのことでここまで来たんだ。多分、盗み屋が盗賊の誰かに渡したのは分かってる。その上でそういうのを使うのは盗賊の中じゃあ一番偉い奴が使うのが相場だ。 だから、その盗賊の頭がいるここまで来たっていう訳なんだが……アイツの懐には無かったか?」



 白衣の少年、実が確信を持った言葉で迫り、一同は顔を合わせる。

 盗賊の頭を乗せる前に一通りは身に付けているものは調べ上げたし、それらしき紙片は見つからなかった筈である。だが、実の言う通りであるならば確かに盗賊の一党ならばそういったものは頭が持つのが適切であるし、ゴーレムが出てきたタイミングを考えればどこかへ隠すような時間も無いと思える。

 恭兵達四人の中では話し合わずともその程度は考えられるし、そしてもし思いつかなくても、取る行動は同じであった。

 三人はほぼ同時に一人へと顔を向けた。



「サスケ、何か弁明はありますか?」

「待ってくれっす。そんなに俺が何かしたと思うんすか」

「思えば、貴方があの者はもう何も持ち合わせていないということから考えるべきでした。サスケ、嘘はいけませんよ」

「あーいや、その、違うんすよ」

「お前、もう少し上手い言い逃れできるだろ」

「何で、そこでダメだしを食らわなきゃいけないんすか……いや、嘘を言った訳じゃないんすよ。アイツの服とかポケットには何も無かったっす」

「言葉遊びとかどうでもいいから、さっさとこの場にその魔導書のページを持って来なさいよ」

「私からもお願いします。その、実君の姉弟子の人には私もお世話になっていて……このままだと折檻じゃすまされなく……」

「ああ、うん分かったっすよ。本当はあっちに引き渡す時に取り出したかったんすけどね。恭兵君ちょっと手伝って欲しいっす」

「え? 何やんの?」



 そう言いつつも、佐助の後に続くようにして馬車の中へと続く恭兵。

 中で何をやっているのかと少し気になり入り口の隙間から何か見えないかと少し首を伸ばす都子だが、あまり中の様子は見えなかった。

 そんな時突如、野太い男の声が馬車の中から響き、何かが暴れる音がした後に殴りつけるような鈍い音が続き、そして、まさに首を絞められたようなか細い声が聞こえた後、馬車は静寂を取り戻した。横を見ると実が馬車の方を見て何か嫌そうな顔をしている。

 それから少しして中から佐助と恭兵がでてきた。佐助の手にはなにかをこぼしたあとを必死に拭ったような紙切れがあり、そこに書かれている文字は何とかかすれてはいなかった。その文字から確かに魔導書の一ページだと思えるが、僅かに粘液のようなもので濡れていた。




「はい、どうぞ、約束のものっす」

「あーうん。成程、馬車の旅の途中で取り出すのは確かに躊躇われるな、うん。済まない助かった」

「はい! これでルミセイラさんも喜びますね!」



 無邪気に喜ぶ志穂梨をよそに手袋越しとは言え手渡しで魔導書の一ページを受け取った実はどこにかくしてあったのかを察したようであり、何とも言えない顔をしていた。


 そんな感じのやり取りを交わしていると丁度、恭兵達の商隊が持ち込む荷物の確認等を受ける番が回ってきた。とは言え、中身を詳しく調べるという訳でもなく、軽く荷物などを見るなどして自分達の番はすんなりと終わってしまった。調べている最中にチラチラとエニステラの方を見ていたことから貨物の確認については信頼がもてたということではないかと都子は邪推したが、必要以上に気にする必要もないだろうと結論づけた。

 


「それで……そこの三人は貴方の一党であると」

「はい。共に戦った私が確かに彼らの身分を保証します」

「まあ、貴方程のお方がそういうのであれば仕方ないか、そこの三人通って良し。エニステラ様に感謝しておけよ」

「ああ、十分に感謝してるよ。門番の人もお疲れ」


 

 エニステラの紹介ということもあり、都子も特に怪しまれることもなく門番からマナリストへ入る許可を得ることができた。


 そして、自分達が護衛を担当する馬車と共にこれも生垣でできている門をくぐり、張り巡らせた幹が血管のようにドクドクと脈打っているのを間近で見ながら通り抜けた。



 目の前に広がったのは幾つもの塔だ。


 そこかしこに高い塔が立ち並んでいて、どれもが自分が一番高いと主張しているかのようであった。

 塔の周りを箒に乗った人間が旋回するように飛んでおり、中には体一つで飛んでいる人もあった。

 門からは幾つもの道が都市へと広がっているのが分かり、その道のどこの端にも街灯らしきものが並んでいた。道の真ん中やら端ではマナリストを訪れた者をそこに立ち止まらせるべく様々な催しものが開かれていて、以下突きをその手に生み出して飲み干すものや、逆立ちのまま足裏からシャボン玉が滲みでて、その中には火の粉が薄捲いていた。

 行き交う人々のほとんどがローブ姿で手には巻物やら本やらを携えているのが分かる。そのほとんどが魔法を扱うことができる魔法使いであるのだろう。

 

 恭兵と都子にはそこら中に魔法が溢れてることが門から一歩踏み入れた瞬間に分かった。

 そして、そんな風に驚いている二人に自分の故郷を自慢するかのように、共に入ってきた実が高らかに声を上げた。



「ようこそ! 魔法の知識を蓄え、活用し、そしてそれを後世のために保存する。正に魔法を学ぶには最適の都市、魔導保全都市、マナリストへ!」

 

 

 その言葉によって恭兵達はマナリストに到着したことを実感したのだった。 












 



 


続きは一週間以内に更新したいです

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