第一話 始まりの異邦人 / エンディングフェイズ 3: 赤き輝きの下での決断
何とか間に合いました。
真夜中の国境の街、マージナルは静まり返っていた。
外を歩いているのは巡回中の兵士と、家も宿も無い浮浪者か酔いつぶれて地べたに寝ている者たち位であった。
そんな誰もが寝静まっている深夜、高塔恭兵は眠れずにいた。
未だに慣れない天井を見つめていると、妙に気分が落ち込んでしまう。
ベッドに横になりどれぐらい過ぎたか、少なくとも一時間は経過していることは確かで、それでも全くと言って言いほど寝れる気がしなかった。
しかし、眠れずにいる原因ははっきりとしていた。
「これから一体どうなるんだろうな……」
恭兵の声は虚しく教会の客人用の寝室に虚しく響くだけであった。
◆
時刻は遡り、日が完全に沈みマージナルで歓楽街にあたる区画が賑わっている頃、真夜中であることを考慮したとしても異様に人の気配を感じさせない街の一画が存在していた。
人の気配どころか、猫やネズミの類すら姿を見せず、生き物と呼べる者はその区画の中央の広い通りで立つ四つの人影だけであった。
静寂が包んでいたその場所で、突如とした熱気が膨れ上がった。
明石都子がその身に持つ《発火能力》が彼女の高ぶる感情と呼応するように本人の身体から炎が漏れ出ていた。
今にも爆発するのでは無いかと佐助は判断し、いつでもこの場から退避できるように身構える。
都子が高い興奮状態にあるのが明らかであるのが恭兵には分かった。
だが、原因である人物、《開かれた瞳の預言者達》の一人であるゲネレイズは都子の様子を見ても毛ほども動揺することも恐れる様子も無い。
そして、都子に向かって告げた。
「もう一度言いましょう――明石都子さんには《対魔十六武騎》の一席であるエニステラ=ヴェス=アークウェリア様に投降するのがよろしいかと」
「いや、もう一度言うか!?」
恭兵はゲネレイズが発言した瞬間には既に都子の方へとその手を向けた。能力の暴走で何かが傷つくのは、まして彼女にそれを背負わせるわけにはいかなかった。
しかし、恭兵の懸念は他所に、都子はその能力の制御を手放してはいなかった。その体からは未だに熱気が漏れ出ていたが、それでも彼女の意志は自身の力の暴発を許すことは無かった。
どう考えても、元の世界への帰還へとつながるとは思え無い選択肢の行動であり、どう考えても捕まった時点で望みを絶たれるのは間違いない。そんな提案をされて怒り心頭となるのは避けられないはずであるのに、都子は自身が力を、暴力を振り回すことを良しとはしなかった。
「……とりあえず、何故投降しなければいけないのか教えて貰えるかしら?」
「ええ、私の提案には三つの根拠があります」
「三つ?」
「はい。まず一つ目、神に会うという目的に際して彼女、エニステラ様の本拠地である聖地アークヴァイトに赴く必要があります。そこには彼女を筆頭とした聖騎士が大勢おり、身分を隠して入ることはあなた方には非常に困難であると」
「……この魔導書の、魔法じゃどうにかできないの? 姿を変える魔法とか……」
「聖地では神々の目が行き届いていますので、都子さんの魔法では到底ごまかすことはできないかと」
「……そんな中に呪いの魔導書の持ち主である都子が行けば」
「呪いの魔導書に対処するのも彼ら聖騎士の役目の一つですから、自ずとそうなりますね」
神に会うための手段として聖域に行く必要があるが、そこは聖騎士が本拠地とする場所である。聖騎士の頂点であるエニステラ程の聖騎士がいるかどうかは定かでは無いが、それでも自分達を追うことを役目としている集団の群れに飛び込むことは無謀であるだろうことは、恭兵にも理解できた。
「二つ目としては、罪ある身では、世界を脅かす存在として認識されている呪いの魔導書の持ち主とされている以上、行動は制限されるでしょう。唯でさえ"迷人"というこの世界における立ち場が無いあなた方ではその正体を隠したままでは立ち行かないことが多くなるかと」
「つまり、神様に会うに際して、ある一定の身分保証が必要っていうことっすか?」
「詳しいことは言えませんが……非常に不利であることは避けられませんし、その上に追手はいますからね」
元々、追手の一人である佐助もそうだが、これまでも何人かの追手が来ている。これまでは何とか退けることができていたが、佐助ほどの手練れが現れれば次はどうなるか分からない。
恭兵の師匠や佐助が追っている人物も呪いの魔導書を探している。彼らと同じ実力を持つような奴らに追われ続けられれば、確かにそれどころではないだろう。
「そして、三つ目、これはごく単純な事実として―――あなた方ではエニステラ=ヴェス=アークウェリアから逃げ切ることはできないでしょう」
「――――」
「それは最初から理解していたことなのではないですか?」
ゲネレイズの言葉に三人は沈黙した。彼の言う通りであったからだ。
「そもそも、何故彼女がここにいるのか。かのリッチに関してはこの街に到着してから得た情報であり、この場所、都市国家同盟群の境目の街まで来ているのか? それは、都市国家同盟群の一つ、ダレナスクからの情報で災厄を撒き散らすとされる呪いの魔導書について調査に赴いたからですよ」
「それはッ――――」
都子は喉から出かかった言葉を飲み込んだ。既に彼女から漏れ出る熱気は霧散しており、温度さからか凍えるような寒さを感じる。
異形は聖騎士を、エニステラを狙って行動してマージナルを通過することを知りそこに罠を張った。そのために異形は幾人もの犠牲者をだした。
(でも、そもそもエニステラがここにくることになったのは私が来たからで―――そうじゃなかったら―――)
都子は自然に考えないようにしていたのかもしれなかった。
自分の所為で誰かが傷ついてしまうかもしれないことを、意識してしまえばもう自分は一歩も前へと進めなくなってしまう。
自分の都合で、自分の利益のために誰かを踏みにじるなんて、そんなことができて平気な顔をしていられるなんてきっと普通じゃないから。
だから、意識してしまえば、都子は自分の願いに付き合わせてしまっていることを受け入れるしかない。
「以上の三つの問題を解決するには、投降するのが一番よろしいでしょう。無駄な争いを無くし、そして自ら名乗りでることで印象は良くなるでしょう。エニステラ様の性格であれば何か便宜を図ってもらえるでしょう。都子さん自身は呪いの魔導書を悪用した訳ではありませんし、魔導書を手放せば、何も問題は無いかと」
都子のことを無視したまま、ゲネレイズは話を続ける。やはりこちらの心境などを考慮するきは一切ないらしい。その助言も必要なのではないかと思わせるものではあるが、いかんせんその信憑性が確かなものだとはとても思えなかった。
「いずれにしろ、決めなければなりません。明石都子さん、あなたがどうすればいいかということに対しての助言としては一先ずここまでです。これ以上はまた今度、あなたが決断を下し行動した先にお会いしましょう」
「テメェ!? 言うだけ言って終わりかよ!」
「後は彼女の問題であると私は判断しました。それ以上もそれ以下もありませんよ。それに――あなた方も何時までも人の心配をしていられないのではないでしょうか?」
「ッッ!!」
恭兵は背負った赤い大剣に手を伸ばすが、それよりも前にゲネレイズ背後へと一瞬で佐助が回りこみ、流れるように首に手を掛ける。
風よりも早く背後に回った佐助がゲネレイズへと触れる瞬間にその白いローブは霧散してゲネレイズは消え去った。
後に残されたのは何もできずに立ち尽くす恭兵と初めて見せたような感情の高ぶりが嘘のように消えていつも通りの様子へと戻っていた佐助、そして、突き付けられた事実の前に茫然としていた都子だけだった。
三人のいる通りに段々と人の気配が現れ始める。今までどこに隠れていたのかと思うほど、次々と人の気配が現れ始め、遂にはこちらへと歩いてくる人影も現れ始めた。立ち尽くす三人を見て不思議そうにこちらを見る人とすれ違って、恭兵はこれまでの出来事がまるで幻であるかのような事を否応なく感じさせられた。
◆
その場で何かを決めれるはずも無く、一先ず恭兵達三人は教会へと戻り、今日の所は寝ることになり、現在へと至る。
「俺は……どうすればいいんだろうな」
恭兵は寝返えりを打って思考を巡らす。
ゲネレイズは都子が決めなければいけないと言っていた。それは確かに事実なのだろう。
佐助は都子が持つ呪いの魔導書を目的としている人物を探している都合上、都子についていくことだろう。そして、自分も師匠が探している呪いの魔導書の傍を離れることは無い。加えて、ここまで来て彼女と行動を共にしない理由も無い。
あえてあるとすれば自分が暴走して彼女を傷つけてしまう恐れがある場合であるが、それでも師匠の頼みを優先したいと恭兵は考えていた。暴走は自分で何とか押さえつければいいだろう。
(それに、今更あいつを置いて一人で何とかしろっていうのは、どうにも格好が悪い)
だから、恭兵にもどちらを選ぶかという選択肢は意味の無いものだと思える。だが、果たして決断を彼女一人に任せてしまっていいのだろうか。
これからも行動を共にする仲間としてあまりにも無責任ではないのだろうか、何より彼女を放っておくことはこの世界にくるまでに何もせずに、何にも関わらないようにしてきた自分と同じなのではないか、そんな考えが恭兵の頭を何時までも巡り続けていた。
この教会を預かるシスターは、エニステラは明日の早朝に戻ってくるということだった。
どうやら、恭兵と都子が一週間程、馬小屋で見張りをしていたパオブゥー村のマドナードとナスティの夫妻にお礼をしに言ったようだった。
怪我も完治してはいないはずなのだが、それでも山一つを軽々と乗り越えていくのは流石に呆れてしまった。《対魔十六武騎》とは底知れない実力を持ち合わせていなければ到底なることができないのだろう。
そして、そんな彼女が自分達と戦うかもしれないと思えば憂鬱な気分になるのは仕方がないことだった。
できれば彼女とは心情的にも戦いたくは無い、できれば彼女にはこちらの事情を正直に話したいとさえ恭兵は考えていた。
しかし、これは恭兵の決めることができる問題では無いことは確かだ。
(アイツも、きっとエニステラと戦いたいとは思っていないはずだ。強いとか困難だからだとかそんな理由じゃなくて、一緒に戦った仲間と戦うことはきっと、アイツの普通じゃないと思う)
恭兵がいくら考えた所で、時間は進み、決断の時間は近づく一方である。
彼は未だに眠れずにいた。
いよいよとなり、一度水分でも取れば寝られるだろうとそう考えた恭兵は体を起こした所で、この部屋へと近づく気配を感じた。
佐助では無い。
彼は都子への追手を警戒すると共に外で眠るのが習慣だか好みだかであるらしく、都子によれば夜間はずっと部屋の外にいるらしい。
しかし、忍者であるはずの彼がこんなにも分かりやすい気配や足音など立てるはずも無いだろう。
或いはここの教会のシスターが見回りに来たのかとも思ったが、それにしては足元がおぼつかないという印象を恭兵は受けた。
足音の気配は恭兵がいる部屋の前でとまり、木製のドアを二回ノックした。
「ねえ……起きてる? 起きてたら……返事して……」
恭兵が想像していたよりも弱々しい声が聞こえて来た。か細く今にも消えてしまいそうだった。いつもの不遜で譲らない意志をもつ声では無かった。
都子だった。
「ああ、起きてるよ。待ってろ、今開ける」
「ま、待って! 待った! このまま、扉越しで話したいの……お願い」
恭兵が立ち上がり、ドアを開こうとした時に都子の方から静止がかかり、恭兵はドアノブに掛けた手をひっこめた。
ドア越しに彼女の息遣いが聞こえてきてしまい、恭兵は妙に意識してしまうのを、ドアにもたれかかるように座り込むことでどうにかした。
「え、まあいいけど。大丈夫か?」
「だ、大丈夫。夜中に、そのごめん……」
「ああ、気にすんな。俺も眠れなかったし」
「そうだったの……? ごめん」
「あーうん……気にすんな」
「うん………」
恭兵は完全に調子を狂わされていた。普段の都子の不機嫌かつ不遜さを感じられる態度が嘘のようだ。声色は勿論、その口調すらも自信が無さそうであった。
完全に気まずい状況となってしまった。恭兵には落ち込んでいる女子を励ますなんて経験は当然なく。身近な女子の区分に入る姉も落ち込むといった感情に無援な性格だったので尚更だった。
「……私、いつも帰ることばかり考えてた」
「ああ、うん。知ってる」
「うん、こんな私の世界の常識とは全く違う世界なんて、本当にどうでもいいって、最初は考えてたの」
「その割には、色んな事に首突っ込んでた気がしたけどな」
「それは私の信条上、仕方なくだったの。例え自分に関係なくても、私が歩いてきた道から外れてしまうって思ったから。でも、それ以外は可能な限り関わりたくは無かった」
「まあ、そうだな。この世界のことも良く分からないし、知らないのに行動してもな」
「アンタ、前に二年位前からここに来てるって言って無かった? それなのに何も知らないの?」
「その二年間位、樹海にいたしな。修行つけてくれた師匠もあんまり外のことは教えてくれなかったし」
「そうなの……? 大変だったのね」
「まあな。鬼のような修行の日々だったぜ。なんせ途中で鬼と戦う羽目になったしな」
ははは、と力なく笑う恭兵の様子を扉越しから感じ取った都子の声色が心なしか芯を取り戻しつつあった。話は脱線しつつあったが、都子が落ち着きを取り戻すには十分だった。
「……そう言えば、お互いの事は全く話したこと無かったわよね」
「お前が話したがってなかったしな……いや、それは俺も同じか」
「そうね。直ぐに帰れるとは思っては無かったから……」
「そうだな。ま、今後も一緒にやっていくんだろうぜ、お前が昼にいった通りにな」
「ねえ、アンタが嫌なら別に私についてこなくても……」
「嫌じゃねえよ。そりゃあ、特別に良いって訳でもないけどさ。師匠の頼み事のついでにお前が帰るのを手伝ってもいいかなって思っただけだしな。他にやりたいこともねえしな」
「でも……私といたらアンタも危険な目に会うでしょう?」
「それも今更だろ、アイツの言ったことが気になってんのか?」
恭兵の言葉に都子は沈黙で返事をする。気まずそうにしているのがこの扉越しでも分かった。
「いいよ、別に気にしなくても。それに口には出さなくてもお前は分かりやすいからな、何かに首を突っ込む他bに申し訳なさそうだったし。俺は多少気にしてもらえればそれで良かったからな」
「それでも、私が気にする」
「お前、本当に面倒くさいよな」
「め、面倒くさいって、女子に言うことじゃないでしょ!?」
「だって、そうだろ。困ってる人がいたら関係ないとか言ってるくせに結局助けようとかして、それで後悔してるんだからな。もう慣れたよ」
「う、うん、それは申し訳ないと思ってるけど」
「……俺はさ、元の世界でそんな面倒くさいお節介することもできなかったし、しなかったからさ。だから、お前について行くのは結構楽しんでんだよ。だから、あんまり気にすんな。それで、困ってるんだったら遠慮なく言えよ。昼間のお前が言ってたように仲間なんだから、お互い様ってやつだ」
「……うん」
「それに、お前の所為で誰かが傷ついていたとか思ってるかも知れないけど、そんな事は無い。俺達がたまたまこの街を通っただけで、何か悪い事をした訳じゃないだろ? 多分」
「多分って、何よ。励ましてるんだったらもう少し、上手くやりなさいよ」
「仕方ないだろ、慣れてないんだから」
心なしか都子がうれしそうに感じた。上手くやれているのかは正直分からずにただ勢いで思いついた言葉を離しているのだが、何とか伝えられているようだった。
「あーー、だからさ。お前の判断はそんなに間違ってないとは思う。だからどうするかは好きに決めていいよ」
「うん」
「でも、あえて言うんだったら、俺はお前がそこまで悪い事をやったとも思えないし、だからエニステラが問答無用でお前を捕まえようとしても、俺は戦う。それと同時に、エニステラを信じたいとも思ってる。あのクソ予言者の言ったことじゃないけど、アイツには正直に誠意をもって話したいとは思う。俺はそう考えてる」
「うん、分かった。ありがとう話を聞いてくれて」
「ああ、うん気にすんな。それじゃあ明日に備えて、寝よう」
「分かった。それじゃあ、お休み」
「ああ、お休み」
恭兵が寄りかかっていたドアがぎしりと鳴り、足音は遠ざかっていった。
そう言えば、最初は眠れずにいたので水を飲みに行こうとしたことを思い出した。
しかし、今はそんなことをせずとも自然と眠ることができると確信できる。明日に備えるためにも恭兵はベッドに潜り直ぐにその意識を落とした。
◆
その日の早朝にも遠く東の空には赤く輝く赤神星が輝いていた。
早朝の教会の前、三人は集合していた。
それぞれの恰好は特に身構えたようなものでは無かった。佐助についてはいくらか装備を隠しているはずではあるが、都子はいつも顔を隠しているフードをおろし、顔を露わにしており、恭兵に至っては背中に何時も背合っている大剣の姿は影も形も無く、部屋に置いてきていた。
前方からこの教会へと向かってくる人影がある。
薄い白に金色の縁取りが施されていて、魔法の呪文のような紋様が刻まれた金属鎧を身に付け、白い布でまとめられた朝日に反射して輝く金色の髪を纏めた聖騎士、エニステラ=ヴェス=アークウェリアだった。
エニステラはこちらの姿を確認すると、足早にこちらへと駆けてくる。
「皆さん! 申し訳ありません、何も告げずに行ってしまって。できる限りはここにいようとは思っていたのですが、次の任務までの時間が取れるとは思っていなかったので時間がある時に戻るという約束がありましたのでそちらを優先する形に……」
「いいよ、気にしてないって。その布は? 返さなかったのか?」
「はい、マドナードさんに返そうとしたのですが、"今回みたいに、何時でも帰ってこられるようにそれをお守りにしてくれるといい”と言われたので、ありがたく受けとることにしました」
「そっか、それは良かったな」
「はい。キョウヘイも、元気そうで良かったです。私も起きるまでは看護しようとしたのですがミヤコが見てるからいいと言われ……すみません」
「いいよ。《聖騎士》様に看護されると、こっちも申し訳ないというか恐れ多いというか、どちらかというと謝るのは俺の方だし……その、心配をかけて申し訳ありませんでした」
「いえ、その、私は当然のことをしただけですから、そのように頭を下げなくても大丈夫ですよ」
頭を下げる恭兵にエニステラは気にしないようにと頭を上げるように言う。
四人の間には和やかな空気が流れるが、都子はその中で改めて決意を固める。
胸にせりあがる恐怖を勇気に変えて、都子はエニステラへと向き直る。
恭兵と佐助も都子の様子を見て都子の隣へと立つように動いた。エニステラは三人の様子に疑問を覚えたが、都子が向ける真剣な眼差しを受けて神妙な態度で彼女へと向き直った。
「エニステラ……私、あなたに言わなければいけない事があるの」
「はい、何でしょうか。ミヤコ」
「私、呪いの魔導書の持ち主なのよ。それも災厄を呼ぶと言われている。その、正直あなたを騙す気だった。隠し通してやり過ごそうと思ってたの、でも、あなたには隠し通そうなんてできなかった。本当にごめんなさい」
言い終わると同時に都子は頭を下げた。
都子の言葉をじっと聞いていたエニステラは都子が頭を下げたのを見て、そしてこう返した。
「はい、分かってました。ミヤコが持っている魔導書が、私が探していた災厄を招くものである事はあなたが最初に魔法を使った時に、疑問に思って、あのリッチと戦う時には確信していました」
「……まあ、素人の私程度の隠蔽なんてあなたのまえじゃあ意味も無いわよね」
「それでも、私は正直に話してくれて嬉しかったです。同時に、貴方が災厄をもたらすような人じゃないと信じて良かった」
「うん、うん」
都子の目からは自然と涙が流れていた。
これから、どうなるのかは分からないが、彼女たちの様子ならば、ここで対立することにはならないだろうと恭兵は胸をなで下し、佐助も衝突を免れたことを確信したのか姿勢を楽にした。
彼らのゆく道はこうして定まった。これからいくつもの艱難辛苦が降りかかるだろうことはこの場の誰もが承知していることだった。
それでも、勇気をもって決断した彼女の選択こそが尊いものであり、そして彼ら異邦人の行く先を定めた。
そして、そんな彼らも赤神星は何時までも紅く輝き照らし続けていた。
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Psychic×Strangers 第一話 始まりの異邦人 完
第二話、中立魔導保全都市での迎撃戦 へと続く
第一話を何とか終わらせてこれが一区切りとなります。
ここまで読んでくださった皆様には、感謝の言葉しかありません。自分の作品をここまで見て下さってありがとうございます。
少し話を挟んで次の第二話、中立魔導保全都市、迎撃戦へと行きたいと思います。
間の話は一週間以内に投稿したいと思います




