第一話 始まりの異邦人 / エンディングフェイズ 2: 予言者が語る道標
何とか間に合いました……
「と、言う訳で見つけてきたっすよ。予言者」
「仕事が早いな、流石忍者」
日がすっかりと落ちた夕刻、国境の街であるマージナルの一角にあるウォフ=マナフを奉る教会の一室でそのやり取りは行われていた。
「……良く見つかったわね。幻の存在とまで言われてるのに」
「まあ、ここに来て三日あれば人探すには十分っすよ」
「それでも、見つけるだけでも賞金がでる位の賞金首なんだけどな。予言者集団の内の一人でも探すために国庫が崩壊したとか言われてるしな」
教会内での来客ようの一室であろうか、そこにはベッドが二つ対となるように並べられている。部屋にいるのは三人。一人はベッドに腰かけている高塔恭兵、もう一人は恭兵の向かいのベッドに同じく腰かけている明石都子、最後の一人はこの部屋に唯一ある窓枠にもたれかかるように腰かけている加藤佐助であった。
「確かに本人だったのよね? これで人違いだったら……」
「確かに、本物だと思うっすよ。確かに白いローブに特徴的な瞳の意匠が合ったっす」
「でも、それぐらいどうとでも誤魔化せるんじゃないのか? 滅多に会うことができないって話だろ?」
「うーん、でも確かに恭兵君から見せてもらった意匠と同じだったっす」
「何時の間に……」
そう言って、佐助は懐から四つ折りにされていた紙を取り出した。
それは、恭兵に残された師匠からの手紙の一部であり、今は都子が持っている《呪いの魔導書》を探しだすための手がかりとしていたものである。
当初は何を示しているのか、まるで分からなかったが、苦悩して調べた結果ある集団の象徴であることが分かった。
それこそが、《開かれた瞳の予言者達》、グゥードラウンダの神聖大陸において古より存在している占術師達の集いである。
彼らの占い、占術の確定率は非常に高く、予言に等しいとまでされている。そのため、彼らを指して予言者と言う者も少なくない。また、それらの予言、占いにより出会った人々を導くとされており、歴史上だけでも、《勇者》を見出す、《対魔十六武騎》の空席を埋める人物を探し当てる、国に大災害が起きるのを事前に予言したことで奥の民を救った等、多くの異形が確認されている。
他にも記録に無いものの数多くの予言を残し、その悉く見事に的中させているとされており、正に伝説的な予言者達である。
彼らを巡っては幾つかの国がその正確無比な予言を手中に収めようと数々な権力者や国家に至るまでがその財力や権力を駆使したが、彼らはどこの勢力にも属すことは無く。彼らと接触できるのは二代目勇者が作り上げたとされるゲーウィット王国と現存する国家の中で最も古い歴史を誇る神聖ドラゲリア帝国の二国のみであるとされ、それら大国の二国であろうとも、彼らから予言を受けることは稀であるとされている。
このように国家でさえろくに接触することができない《開かれた瞳の予言者達》であるのだが、決して彼らと接触する事が叶わないわけでは無い。彼らは自分達と会ったならばどんな立場や身分のものであろうとも予言を残すらしく、冒険者や普通の村人から果ては路地裏の物乞いに至るまでが彼らの予言を受けることはあったようであるという。
ならば、恭兵達が彼ら《開かれた瞳の預言者達》から予言を聞くことも不可能では無く、彼らの予言であるならばグゥードラウンダから元の世界に帰る方法を知ることは十分に可能であり、少なくともその道しるべを知ることは出来るだろうというのが恭兵と都子の考えだった。
「なら――本物じゃないの? 私達だってその瞳のマークしか手掛かりが無かったんだし」
その予言者達の一人が直ぐ近くにいる。その事実を実感した都子は窓の外へと視線を向ける。
グゥードラウンダに迷い込んでから抱いていた願い―――元の世界への帰還の手がかりが漸くつかめようとしている。その事に都子は自分の気持ちが高まるのを感じていた。久しぶりに自分が暖かくなっている。
「……取り敢えず、会うだけ会ってみるか」
「今からで大丈夫っすか? 起きたばっかりなんでしょう?」
「明日になって、どっかに消えてたら元も子もないしな」
「それまで見張ってるっすよ」
「相手はどこの国も付け狙ってるような奴で、それでも捕まってないんだろ? お前の力を疑ってる訳じゃないけどよ。万一があっても困るしな」
「それもそうっすね。それじゃあ、行きますか」
恭兵はベッドから立ち上がり、軽く手足を動かす。痺れは残っているもの街を出歩くには問題ないと判断した。
恭兵の返事を聞いた佐助は応じるように腰かけていた窓枠から降りる。佐助も負傷して間もないはずなのだがその動きには支障は見られない。
動きだす二人に対して都子は慌てて立ち上がる。
「ちょっと。アンタは別にここで待ってても……」
「平気だって。いざとなれば能力使えば問題ないし……なんだよその目は」
「また暴走したらどうするつもりよ。次も無事な補償なんて無いのよ?」
「そうは言うけど、その予言者が逃げたらどうする気だ。俺の《念動力》なら捕まえるのに向いてるだろ」
「それはッ……そうだけど、でもアンタが暴走したら……!」
「大丈夫だよ。今の所暴走する感じは無いし」
「その自信には何か根拠があるの?」
都子が疑わしい視線を向けるが、それに恭兵は自嘲を籠めた笑みをもって返す。
「これでも、生まれた時から超能力者だったんだ。自分が暴走するかしないか位は分かる」
「……アンタ」
「いずれにしろこの先、能力を使うのは避けられないだろ。それなら、今でも後でも関係ないだろ」
「………もういい、勝手にして」
「ああ、勝手にするよ」
遮るように続けた恭兵の言葉で一応の納得は得たのか、都子はそう言い残すと先に部屋から出て行った。
残された佐助も、それに続くように部屋を去って行った。
「さて、俺も行きますか」
部屋に立てかけてあった自身の大剣を背負う。
何時の間にか誰かが回収していたらしく、赤く光る剣身も白い布に丁重に包まれていた。
背負うと、確かにその重い感触がする。まるで暫く背負っていなかったかのようで、少し背中が寂しく感じていた。
能力は問題なく機能しており、この分なら戦闘が起こっても大丈夫だと改めて確認した所で二人の後を追うべく、恭兵も部屋を後にした。
◆
既に日は落ちており、夜のマージナルを照らすのは稼ぎ時の酒場や夕食中の家から漏れ出る灯りばかりであった。道を照らすには心許なく、注意をして歩かねば曲がり角や建物の間から誰かが飛びだしてきても直前まで反応することはできないだろう。
三人は教会を出て、マージナルの中央部からそれて、街の路地裏の方へと足を運んだ。
入り組んだ構造の迷路のような道を、佐助を先頭として進む。
進む度に目に入るのは、浮浪者や暗闇でも光る刃物を見せびらかすようなごろつき(最も大抵は恭兵の背負った大剣を見るとどこかへと消えていくのだが)、路地裏を駆けるネズミのような小動物に酒場の裏のゴミ箱を漁っているネコ等であった。
路地裏を進んで幾度も右へ左へと曲がり、時には折り返すようにして道を行くので、先頭を行く佐助以外の二人はマージナルの地理に明るくないことも加えて今自分が進んでいる方向すら定かでは無くなっていたのであった。
そして、路地裏に入ってからかれこれ十五分程進んだ所で、佐助が右に曲がった所へ続くと突然開けた道へと出た。
辺りを見回すと、どこかの大通りにでたようだが人の気配は無かった。
勿論、日も既に落ちているために大抵は家や酒場にいるのだろうが、それでも人の気配が感じられない。大通りは建物に囲まれているのだが、他の大通りと同じように明かりが点いており、街灯も無い大通りを照らしているのだが、明かりが点いている建物からも人々の喧騒などがまるで聞こえてこなかった。
ひとりでに点いたような建物の明かりに囲まれながら、都子と恭兵が改めて周囲を見ていると、大通りの真ん中にいつの間にか人の影があった。
特徴的な瞳の紋章が施された白いローブに身を包んだ人影がそこにいた。
「お待ちしていましたよ。お三方」
白いローブに身を包んだ人影がこちらへと声をかけてきている。その声色は中性的で性別は男とも女とも取ることはできなかった。
「おや、どうしました? いつまでもそこに立ち尽くさずにこちらにきてもいいではありませんか」
白いローブの人影がこちらへと手招きしているが、その手すら覆い隠すように手袋が嵌められており、自身に関する情報を一切明かす気はないことが伺いしれた。
改めて眼前の人影を観察する恭兵だが、見れば見るほどその人影の正体が掴めない。
凝視すればするほど、白いローブの輪郭が崩れるようにぼやける。いくらか瞬きをすることでまたその輪郭ははっきりとするのだが、見続けるほどに再びその輪郭は崩れだしてしまう。
幻覚の類を掛けられているとしか考えられない。
恭兵は隣の都子へと目を向ける。彼女も同じく幻覚を掛けられているらしく同じようにしきりに瞬きを繰り返しながら人影を凝視していた。
一方、佐助の方は特にうろたえている様子は無い。先に見つけ出した際、既に経験していたからであろうか、瞬きをしつつも人影を注視している様子に迷いは見られない。
「ああ、申し訳ありません。我々の正体を探られては困るので、一応隠蔽用の魔法をかけさせて貰っています。これはあなた方の安全も考えた上での事でもあるので……どうぞご容赦のほどを」
「安全って……どういうことよ」
「そこの超絶占い師はどの国も総出で探す人材っすからね。会ったことがあるというだけで、情報を目当てに付け狙われることもあるっす。それなら極力情報を減らせば狙われないとか言ってるんすよ」
「……でも、会ったことがあるってだけで狙われるんだから、あまり意味ないんじゃない?」
「まあ、何事も細かい隠蔽から、ということですよ。捕まるようなことがあってはなりませんからね。一つでも、その可能性をつぶしておくにこしたことはありませんから」
そう答える白いローブの人影に、恭兵は確信する。
今のこの現状を客観的にみても確かな証拠などはありはしないのだが、この異様な雰囲気を放つ目の前の人物こそが、自分達が探していた《開かれた瞳の預言者達》の一人に違いないだろうと、確信した。
「では、改めて。初めまして、私は《開かれた瞳の預言者達》の一人、そうですね……仮にゲネレイズ、とでもお呼びいただければ」
「ゲネレイズ、か。当然偽名何だろうけど、それはこの際もう突っ込まない。それより―――」
「それより、アンタが《開かれた瞳の預言者達》で、私達の前に現れたということは、私達に預言を授けてくれるってことでいいのよね?」
恭兵の言葉を遮り、都子が白いローブの人影、ゲネレイズへと問いかける。
その声色は震えていた。
ゲネレイズは怪しげな雰囲気を変わらずに放ちながら答える。
「ええ、そういうことになりますかね。――明石都子さん、高塔恭兵さんそして加藤佐助さん。あなた方に預言、と言われているものを授けにきた、と。そのようになります」
「な―――」
「ッ!」
「……自分のまで知られているとは、これは忍者としてはまずいっすね」
ゲネレイズはさらりと三人の名前を告げた。
グゥードラウンダに迷い込んできた"迷人"である三人の名前を知っている人物などは数えるほどしかおらず、三人の共通した人物など、それこそエニステラ位しかいないだろう。彼女から聞いたというのは怪しいものがある。
これには、恭兵や都子ばかりでなく佐助も驚きを隠せないでいるようであり、動揺しているのが恭兵の目からも見て取れた。
「ああ、すいません。驚かせてしまいましたか。何分、色々と見えてしまうものですから、こういったことはつい言ってしまうのですよ」
「見えてしまうって、俺たちのことについて預言したってことか?」
「いえ、そうではありません。実際に見ているのですよ」
「……よく分からないわね、あなたは予言者で、未来に起きることを見ているというわけじゃないの?」
「いいえ、違います。これは、よくある勘違い、と言いますか我々にも色々ありまして、周囲の方々、というか世間一般には我々は預言者、ということになっているのですが、これは正確には違います」
「……どういうことよ、預言は無いってこと?」
「そうですね。正確なところを言えば予言と言われているだけで、私達が行っていることは本質的には異なるものとなります」
ゲネレイズの言葉一つ一つに都子は揺さぶられている。
自分の望みが叶うかどうかが掛かっているのに、肝心の預言者は遠回しに話を進めていることで完全に焦れていることが恭兵にもわかる。
いざとなれば無理矢理聞き出してしまいかねないと危惧する恭兵であるが、それを目前で見ており都子の焦りを感づいていると思われるゲネレイズは気遣うことなく話を続ける。
「正確には、我々の力はこの世界のグゥードラウンダのありとあらゆる場面、場所などを見ることです。それに加えて、我々が代々積み重ねてきた知識を元にこれから来ることについての予測を立て、伝える。これが予言ということになっています」
「つまり、正確には予言、というよりも精度の高い予測、とそういう訳っすか」
「ええ、そうなります。すなわち、我々が伝えることが確実に起こるというのでは無い。このことをしっかりと理解して頂ければよいかと」
「じゃあ、お前は俺達が来るということも知っていたというより、予測した。ということなのか」
「はい、おっしゃる通りです。よく予言する相手をえり好みしている、とそう言われるのですが、これも否定しきれません。とは言え、思いがけずに遭遇してしまう場合もあるのですが」
恭兵の言葉に返答するゲネレイズ、その言葉は恭兵の考えを先回りするかのような言葉選びであった。
こちらの考えすらも見通されているのはどうにも気味が悪いが、それこそ、能力の高さの証でもあると考えられる。
煮え切らない思いではあるが、恭兵は自分以上に冷静では無い都子を思えばここで深入りするべきでは無いと判断する。この際、予言では無かったとしても問題は無いだろうと考える。目の前の人物が本物であるのならば、自分達が望む情報を持っているだろうと、信じるしかない。
そして、当然、この話を切り出したのは明石都子であった。
「アンタが、予言をしていない、というのは分かった。それでもいいわ。でもそれなら、それでも、私が聞きたいことは大体分かってて、その上で私の前に姿を現したということは、私が欲しい情報を持ってる。ということでいいのよね?」
「ええ、確かに。あなた、明石都子さんが求めていることについて、私は助言することができます」
都子の求めに対するゲネレイズの解答は、予言によるものでも、予測によるものでも無かった。
緊張が走る。
恭兵は、自身の隣から熱気が漂い始めていることを感じて、何とか真意を聞き出そうと試みることにした。
「えっと、助言? 具体的に教えてくれる訳じゃないのか?」
「ええ、助言です。これは非常にデリケートな問題でありまして、具体的な方法、つまりこのグゥードラウンダから元の世界に帰る方法というのは……これだ、という物が存在しないのです」
「そ、それは、帰る方法が無い、ということとどう違うんだよ」
「つまり、確実に帰る方法がある、というのでは無く。恐らくこの方法であれば、この世界から帰ることができるのでは無いか、ということですね」
いけしゃあしゃあと、言い切るゲネレイズの目には、都子の姿が映ってないらしい。
もしも、映っていたのなら、ここまで無神経に人はなれるという手本に違い無かった。
先ほどからのやり取りから考えても、この予言者擬きは正確に言葉を伝えようとする余り人に対する配慮が足りていないように思える。
誤解の無いように伝えることに努めてはいるものの、それができるのであれば伝えられた人の感情などそこまで気にしていないのだろう。そうでなければここまで無駄に神経を逆なでするように伝える必要も無く、もしくは一喜一憂する様子を楽しんでいるということでも考えられるが、そこまで断定するには早いだろうと、恭兵は一瞬で考えた上で、一先ずゲネレイズの言葉を最後まで聞くしかないと結論づける。
その上で、どうしても聞かなければならない事を聞いた。
「とりあえず、色々と事情がありそうなのは分かった。だから、先ず前提として、だ。確実じゃなくてもいいからこの世界から帰る方法はある。これはいいか?」
「はい。あります」
「具体的な方法は?」
「そうですね。可能性で言うのであれば幾つかあるのですが……」
「とりあえず、言えるのでいい」
「では、二つ程。まず一つ目は、あなた方"迷人"の多くが目覚めている《超能力》により帰還する方法です。該当する能力は……そうですね、《瞬間移動》と言うべきものになりますか」
ゲネレイズが当然のように《超能力》について知っているかのように話しているが、ここで話を挟むとややこしいことになるのは見えているので、我慢しつつ話を先に促す所で、都子が反応した。
「《瞬間移動》……それなら帰れるかもしれない!」
「いや、でもこの世界から元の世界までどんだけ離れてるんだよ。それこそ、この世界のどこにでも行ける位の力をもってても足りるとはあまり思えねえよ。能力の規模が違いすぎないか?」
「ええ、おっしゃる通りです。可能性として、空間を跳躍する力という特殊性でかつ、貴方がたでも取れる手段でもありますが、高塔恭兵さんのおっしゃったように現在、その規模で《瞬間移動》を扱うことができる人物はこの世界にはおりません。そして、もう一つの問題としてあるのが……座標の問題なのです」
「座標って? どういうこと?」
「この世界がどこにあるのか、元の世界がこの世界から見てどこにあるのか、元の世界とどの程度離れているのか、等々を把握しなければ移動することができないでしょうね」
「少なくとも、お前が把握している《瞬間移動》が使えるやつはそうだっていうのか」
「はい、そして、これはこの世界における魔法による転移魔法での瞬間移動にも言うことができます。お三方は承知していると存じていますが、この世界にも古の時代から"迷人"が来訪していました。その関係で、異世界へと渡る方法というのはかつてより研究されているのですが……」
「成功した奴はいない、と」
「いえ、成功例は確認されております。しかし、これはとある理由により現在封印されているのです」
「はあ?」
恭兵は思わず疑問の声を上げてしまったのだが、それに対してレネゲイズは歯切れ悪そうにして言葉を濁そうとしていた。
相変わらずその輪郭は瞬きを続けなければぼやき続けているままであるのだが、それでも目の前の人影から始めて人間味のような物を感じることができた。
「はい、とある理由によってです。そして、これは現在詳しいことを言うことができず……言えることはこの世界から外の世界へと渡る魔法の類は全て失われてしまいました。これらも可能性の一つではあるのですが……今は省きましょう」
「言えないっていうことは、何か理由でもあるの?」
「はい、とても重大なものですが……これは後々、ということで、今回の本題からは多少外れてしまうことになりますし」
「分かった……それで、残りの一つはなんなの?」
最初に挙げた一つは可能性としてあるものであり、恐らくは次が本命であることであろう事はこの場の三人が理解していた。
恭兵は都子の方を見る。彼女は先ほどまで落ち着きが無かったのが嘘のように冷静になっていた。これからゲネレイズの言葉を一つも聞き漏らすまいと、じっと予言者擬きを見つめていた。
そして、満を持してゲネレイズがその答えをだした。
「はい、それはこの神聖大陸を司る白き光の神、アーフラ・レアの御許まで辿り着き、彼の神の力で帰還を果たすことです」
何やら、話が大きくなっていた。恭兵がまず抱いた感想は、それだった。
都子も呆気に取られており、自分が今聞いた言葉が果たして聞き間違いだったのではないかと耳を疑っている。
これまで、極力会話に参加せずに聞き役に徹していた佐助でさえ、意外だったのか思わず身を僅かに乗り出してしまっていた。
そんな三人の様子を気にすることは無く、ゲネレイズは話を続ける。
「これには、幾つか困難がありますが、現状では最も確実な方法です。これら以外は余りにも可能性に賭けるしかない方法や、失われた技術などがあります。勿論これらを狙うということも不可能ではありませんが、様々な方法を考慮しつつも、最終的な目標として……」
「ま、待って。か、神様? この世界の神様に会って頼むの?」
「はい、そうですね」
「そうですねって……」
少なくとも、軽く済ませることができることでは無かった。
「いや、待て、それ以前に神様に会いに行くとかできるのかよ」
「はい、前例があります。幾度か勇者が謁見しましたし、冒険者の徒党が神の元まで辿り着いたこともあります。不可能ではありません」
「いや、その冒険者達だって、とんでもない凄腕揃いで、果てには勇者だとかだろ? 俺達がいけるとはとても思えないんだけど!」
「ですが、他はほとんど天運に任せることになります。あなた方の努力で、というには些か助言としては問題があります」
「……分かった。やってやるわよ」
「都子?」
恭兵は隣を見る。
そこには決意で固まった少女がいた。
絶対に元の世界に帰ると、常に言い続けている少女は、例えその目標が困難だとしても諦めることは無かった。
「今まで、私はどうすればいいかなんてまるで分からなくて、それでも帰りたいってだけでここまで来たの。それに比べたら、なんてことは無いわよ。やるしかないなら、やってやるわよ」
「……まあ、お前はそうかもな」
これが、彼女の道、彼女の普通に反するものであったなら、彼女は悩み続け、少なくともこの場では決断することはできなかっただろう。
そして、彼女がやると決めたのなら、文句があってもついて行くと決めている。
「……しょうがねえか、仕方ない、分かったよ。何とか、やってやる」
「恭兵、アンタは……」
「お前がさっき言っただろうが、仲間なんだから。気にすんな」
「そうだけど……」
「で? 助言って言う位なんだから、これからどう行動すればいいのか位は教えてくれるんだろう?」
都子の言葉を遮るように恭兵は、ゲネレイズに問いかける。ここにきてずっと彼女に遮られてばかりだったのをやり返したのだが、意外と気分が良かった。
こうなれば一蓮托生である。
やけくそ気味であることは否定しないが、個人的な誓いを果たすためにも挑むしかないだろう。
そんな様子も知ってか知らずか、ゲネレイズは疑問に答える。
「では、手始めに、あなた方がここに来るまでに同行していた《対魔十六武騎》の一席、《聖騎士》を預かるエニステラ=ヴェス=アークウェリア殿がいますね?」
「ああ、エニステラに協力を頼むのか、それは結構難易度が高そうだな」
とは言え、よっぽどのことで無ければ彼女の性格からしては断りはしないだろう。とは言え、彼女の立ち位置もあるのでどうにも不安が絶えないがそれでも越えなければならない困難の一つ目としては、まだ何とかなるだろうと恭兵は思った。
「はい、彼女に投降して下さい」
「……はい?」
恭兵は二秒でそう考えたことを後悔した。
また、二週間以内の投稿となります……




