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Psychic×strangers   作者: さがっさ
12/71

第一話 始まりの異邦人 / クライマックスフェイズ 2:女騎士は死霊術士と戦い、三人は役目を果たすべく前へと進む

遅くなってすいません

何とか更新しました

 

最初の一撃はエニステラが放った。



「《大いなる神の一柱、ウォフ・マナフよ。我が矛先に汝の権能を授け、魔を打ち抜きたまえ》! 《神雷の槍(レイジ・ランス)》ッ!」

 

 

 彼女の手にするハルバード、《戦乙女の聖雷斧槍ヴァルキュリーズ・レイジハルバード》のその穂先に纏わらせた雷を集中させ、放つ。その一撃はまさに雷による刺突であり、通常生物の反射神経であるならばそれを見てから回避することは不可能に近い。 

 だが、それに対する凶悪な死霊術士の成り果てのリッチ、マグファイガー・ヴァーマイトはそれに対して特に反応する事無く、その場に立ち尽くす。


 放たれた雷の槍が死霊術士を貫くかと思われたその瞬間、手前二メートルの場所で突如として、雷がまるで何かに吸い込まれるように立ち消えた。

 死霊術士が纏うローブすら焦げ跡一つとして無く、完全に無傷であった。



(やはりありましたか、神聖魔法の無効化が)



 エニステラは雷が掻き消えるのを予め想定していたかの如く、動揺を起こす事無く次の攻撃へと移っていた。

 

 以前戦闘を行った際にエニステラが敗北した原因の一つ、全方位において何らかの方法で神聖魔法を無効化される。それは死霊術士の意識、無意識を問わず、彼の周囲二メートルの範囲に入った神聖魔法を問答無用でそこかへと吸い込まれるようにかき消されるのである。前回はその為に距離を空けた攻撃は意味をなさず、接近を一方的に阻まれた結果、一度も死霊術士をその場から動かす事が出来なかった。

 


(一見無敵、ともすれば私との相性は最悪。だとしても何か突破口はあるはず、そこを突く!)



 雷をその鎧とハルバードに纏わせたエニステラの全身は輝き、廃坑道の暗闇を照らす。故にその位置は死霊術士の知れるところとなるのは当然であり、その虚を突くため、自らの攻撃を織り交ぜることで光源を見誤らせた。


 身を屈め、廃坑道の全面を光で照らす閃光となった雷の槍を目くらましとして扱い一瞬だけでも死霊術士の視界から外れると同時に、低い姿勢のまま突撃する。


 踏み固められた土と石の区別が付かなくなっている地面を踏み砕きながら、死霊術士の懐へと閃光のように飛んでいく。 

 低く、低く、雷の槍を潜るようにして地面すれすれを飛ぶようにして向かう。

 その狙いは死霊術士の膝、足元を根こそぎ払うために、身をねじりハルバードを自らの背中まで回して、振りかぶる。

 狙い済ました一撃を加えようとした時、エニステラはこれまでの戦闘経験からなる直感が動き、迷う事無くそれに従い、無理やり自らの前面の地面を蹴り、後方へと飛ぶ。


 雷の槍が掻き消えて、一拍置いて、白骨の腕の群れが死霊術士の足元の地面から土と岩の瓦礫を撒き散らしながら飛び出した。


 背中まで回したハルバードを手で返し、斧の部分から鉄槌を表にし、一閃。

 飛来する瓦礫を打ち払い、返しながら空中で体勢を整え、自らを貫こうと、通常ありえない十や二十できかない間接でつながれた、白骨の腕の群れを、頭上へと持ち上げたハルバードを振る下ろし。一瞬で狙い済ました鉄槌の一撃で纏めて叩きつぶす。


 地面に叩きつけられた、白骨の腕は砕かれながらもまだ止まらず、動きを封じようとハルバードに巻きつく。


「《我が手に魂を欲す時、もう片方の手に死を持つべし》、《魂掴み(ドレイン・キャッチ)》」

 

 マグファイガーの口から恐るべき呪詛が吐き出され、その骨と皮の間にしがみつく肉で出来た右手からエニステラの放つ輝きを塗りつぶす邪悪な光を渦巻かせる。

 《精神掴み》、死霊魔法の一つであり、それを受けた生物はその身体に宿す、生命力と精神力が混ぜられた魔力を掴み取られ奪われる。

 生命力と精神力を奪われた生物は、死なないまでも立ち上がることさえ困難となる。


 マグファイガーはエニステラの動きを封じるために動いている。

 狙いは過たず定まり、距離は五メートルと離れることは無く、外れることはまず、ない。


 そんな中でも、エニステラは慌てることは無く、新たな言葉を紡ぎ始める。


「《大いなる神の一柱、ウォフ・マナフよ。我が鉄槌に汝の権能を授け、魔を払う領域を与えたまえ》、《神雷の鉄槌・球レイジ・ハンマー・オブ・スフィア》!」



 鉄槌にハルバードに纏う雷を集中し、一気に放電させ幾重にも巻きついた白骨の腕の群れを破砕し残骸を撒き散らす。

 撒き散らされた雷電は、鉄槌を中心に球を形成、穂先に聖なる球状の電磁障壁を作り上げる。

 そのまま、右腕を上げるようにして片手でハルバードを引き、自らの胸元へと直撃する邪悪な魔力を打ち、これを払う。

 エニステラはそのまま前進、骨片を踏み砕きながら、足を前へと動かす。



「《我が手が生み出すは魂とそれが響かせる嘆き》、《嘆きの矢(レース・サジット)》」



 両手を向かってくる女騎士へとマグファイガーは両手を向ける。紡がれる呪詛は生物から引き抜いた魂、それを体内に溜め込むことで矢へと変換し、それを放つ。

 瞬く間など無く放たれる矢は、恭兵たちの世界で言う、機関銃の如き猛威を振るう。


 エニステラは、ハルバードの柄を右の脇で閉め固定し穂先を向けて鉄槌から放つ聖電磁障壁を盾にして、嘆きの矢の群れを弾きながら前進する。

 聖電磁障壁によって逸らされた矢の先は、エニステラの膝を掠る。

 瞬間的に、脳内に響く死霊魔法により抜き取られた、引きちぎられた魂の怨念が放つ絶叫を耐え、ひるむ事無く前進する。


 神聖魔法の加護が施された鎧越しであっても響くこの声はいつまでたっても慣れることは無い。無いが、それでも立ち止まれば、この嘆きをさらに増やすことになる。それを許すわけにはいかないと、痛みを前にしても進み続ける。


 そうして、生まれた一瞬の隙、ひたすら乱射される矢の群れの勢いが僅かに途切れた瞬間、待っていた好機にその左手を振るう。

 握られていたのは、小さな礫、白骨の腕の群れが撒き散らした瓦礫に一部、



「《大いなる神の一柱、ウォフ・マナフよ。この手に汝の裁きを与えたまえ》、《聖雷の投擲(レイジ・スリング)》ッ!」



 左腕を黄色い雷で包み、左横投げ(サイドスロー)から放たれた礫は雷で覆われ、速度を増しながら、魂の矢の弾幕の薄い部分を抜き、死霊術士へと迫る。

 マグファイガーはこれを避ける事無く、ただただひたすらに機械的に、嘆きの矢を放ち続ける。

 放たれた聖雷に包まれた礫は、死霊術士まで二メートルまで差し掛かり、雷は何事も無かったかのようにどこかへと吸い込まれるように消えた。


 ――速度を落とす事無く、空気を裂き直進する礫を残して。


 

 直撃。肉が破れる音が聖電磁障壁により逸らされた矢が地面を、壁を打ち抜く音にまぎれて響く。

 命中したのはその肩、腐った肉を丸ごと弾き飛ばし、礫は死霊術士の後方の壁に撃音を鳴らしながら当たり、砕け散る。



「まず一撃、ようやく一撃ですか。どうやら、あなたは神聖魔法を何らかの方法で弾くことが出来るようですが、聖雷を物体に纏わせたものは、聖雷のみを打ち消し、物体はそのまま通すようですね」



 思えば、エニステラ相手に距離を保ちながら戦闘を行うことがおかしかった。

 ハルバードの一撃をも無効化できるのであれば距離をより詰めながら、魔法を放ち続ければいかにエニステラと言えど、全てを防ぐことはできずに打ち負かされ、全身がボロ雑巾のようになっていただろう。エニステラのハルバードを警戒しているために接敵を拒んでいたのである。


「……それが……どうした」

「こういうことです」


 低く唸るように呟いたマグファイガーへのエニステラの返答は、ハルバードの矛先を地面へと突き刺した後に放たれた。



「《大いなる神の一柱、ウォフ・マナフよ。この手に汝の裁きを与えたまえ》、《聖雷の投擲(レイジ・スリング)》」



 《聖雷の投擲》は、自らが宿す聖雷を投擲物へと付与し、速度と貫通力を上げ、聖雷の特性を兼ね備えさせる魔法である。

 これを、地面に突き刺したハルバードで地面をえぐることで巻き上げた土砂に付与した。


 無数の飛礫を前にマグファイガーは腕を振るう、突如として地面から突き出た白骨の腕が、死霊術士の胴体に巻き付くと、その身を後方へと放り投げる。

 聖雷に包まれた土砂は、突き出た白骨の腕を呑み込み、これを粉砕する。



「これで、一歩、動かしました」

「調子に乗るなよ……」


 

 マグファイガーは低い唸り声と共に右手を掲げる。


 地面から、数十を超える幾つもの白骨の腕が飛び出し、ドワーフスケルトンが這い出てくる。

 壁面からは無数の白骨の腕が壁を砕きながら突き出し、今にもその手はエニステラを握りつぶそうとしていた。

 完全にエニステラの周囲を囲み、隙があれば今にも襲いかかってくるだろう。


 そんな状況であっても、焦りを顔に出す事は無く、エニステラは仲間を信じる。



(こちらは何とかなりそうです。ですから、皆さんよろしくお願いします)



 次の瞬間、自らへと殺到する白骨の殺意を前に自身に纏った雷光を輝かせ、エニステラはハルバードを振るった。



   ◆





「で、どうだと思う?」

「何がっすか?」

「演技」



 廃坑道を止まらずに走り抜け、所々存在する曲がり角を幾つか曲がりながら、恭兵と佐助は話す。

 後ろのおぞましい気配はここからでも感じる。しかしそれでも遠ざかっていることは確かなのでエニステラはリッチと戦闘中なのだろう。現にわずかだが、廃坑道を揺らす振動がここまで伝わってきている。


 

「演技は……七十点ってとこっすかね。普通なら騙せると思うっす」

「普通なら……か」

「まあ、そもそも、向かってる場所が場所っすからね。追手はいると思いますよ」

「ぜ、ハア、ハア、じゃ、じゃあ、早く行かなきゃ……!」

「……ちょっと、止まりますか。都子さん限界っぽいんで、後道も調べておきたいですし」



 息を切らしながら何とか二人についてくる都子を見て佐助がそう判断し、三人はその栄え停止した。

 膝に手を付き、呼吸を整える都子に恭兵は水袋を渡しながら、代わりに松明を受け取りつつ周囲を警戒する。

 佐助は地面に手を当て、《接触感応(サイコメトリー)》による地形把握と索敵を行っている。



「も、もう、これだけ離れれば、大丈夫、かしら……?」

「あのリッチに関してはな、それでもアイツ以外の敵はいんだろ」

「そうっすね……ここからは、大分迷宮じみてて、そこら中にアンデッドがいるっす。生憎、何かの魔法を使っているらしくて、詳しい位置は分かんないっすけど」



 息を整えた都子は、しきりに後ろを確認するが、追手の影は見えない。

 とは言え、この場所に長居することは出来ないので、すぐさま移動を開始する。



「兎も角、この一本道を早く抜けないと、リッチが呼びだしたら鉢合わせちまうし」

「倒せばエニステラの援護になるから私としてはどっちでもいいんだけど」

「いやいや、俺達の目的忘れたんすか? こういうのは隠れて行動しないと。見つかるにしても距離を稼がないことには意味ないですって」

「それに最大の援護は何か位はお前も分かってるだろ?」


 恭兵の言葉に、言葉を詰まらせる都子。予めの打ちあわせ通り、エニステラがリッチの相手をし、自分達はその場を脱する。本当に置き去りにしなければならないとなってしまった時に、都子の胸中は後ろめたさが、時がたつ度に、その距離が離れるほどに増していく。

 これまで、誰かを囮にしなければならない状況など無いに等しかった。

 追われている都子と共に行動する人物などいなかったし、そもそも都子には異世界の見ず知らずの人物を信用できる訳も無かった。

 恭兵が居なければ、本当に一人で行動し続け捕まっていただろう。その自覚は都子にはあった。


 そんな中で初めて、異世界における仲間とも呼べる人物がエニステラであった。

  

 彼女の聖騎士という立場から、自らの正体を明かす事など出来なかったが、それがなければ顔を隠すことなく話す事が出来るのにと、ふと思ってしまう程であった。

 誰かを守るために戦う女騎士、そんなおとぎ話みたいなことを本気でやっていて、それに一生懸命で自分のこと等顧みない所があった。

 礼儀正しくて、どこか気品を窺わせる。それで嫌味は無く、なにより誠実であろうとしている。元の世界であっても、居ない程の好人物であった。

 彼女を目の前では、自分が顔を隠して逃げ回っていることが後ろ暗く感じてしまう程であった。


 そんな彼女が、自分なんかのためになどとらしくないことを考えてしまうほどには、明石都子はエニステラ=ヴェス=アークウェリアのことが気に入っていたのだ。


 きっと、彼女が囮になっている間に死んでしまったとなれば自分はひどく後悔するだろう。もしかしたら、元の世界に帰るのすら罪悪感を抱いてしまうかもしてないと、都子の脳裏にそんな考えが浮かんでしまう。


 自分は必ず元の世界に帰りたいのだ。

 

 だから、こんな所で心残りを残す訳には行かない。

  

 ――この世界に残りたくなるような未練は欲しくない。



「……さっさと、私達の仕事をするしかないか」

「とは言え、見つかるのか? アイツがどこに隠したかなんて、よく良く分からないだろ」

「この坑道も瓦礫と荒廃でつぶれてそこまで広いわけでは無いっすから、俺の《接触感応》なら何とか探し当てれますよ!」

「手のひら程度で懐にも隠せるような、入れ物って話だろ? 例の魂封箱は」





   ◆




「改めて、依頼したいことがあります」



 時間は、廃坑道の洞窟の突入直前にまで遡る。

 《索敵者》による洞窟内の索敵を行っていた都子の息を整えさせ、出発となった所で、考え込むようにしていたエニステラが意を決して、三人に持ちかけた。



「依頼? つまり護衛以外に頼みたいことがあると」

「もしかして一緒に戦って欲しいとかそういう奴?」



 恭兵と都子は、元より足手まといにならない範囲で、エニステラを援護する予定ではあった。それに付いては佐助も同意しており、洞窟を抜けマージナルへと向かう振りをしてリッチに不意打ち行うつもりではあった。

 しかし、エニステラの依頼は共闘とは少々違うものであった。



「共に戦う、そのような意味であればそうとも言えるものなのですが、幾つかの理由によりそれは良い手であるとは思えません」

「ふむ、それはどんな?」

「まず、相手は死霊術士であり、その中でも極めて強力な魔法や知識を備えているリッチです。持ち合わせた死霊魔法による兵、アンデッドを絶えず繰り出してくるのは当然として、それが当たってしまえば瞬く間にその命を落とす、という魔法をも兼ね備えているでしょう。対策もないまま共に戦うのは極めて危険です」



 エニステラが自らの鎧を指していった。彼女の持つハルバード同様に刻まれた呪文のような文様が先に言った、死を招く強力な魔法を弾く、ないしは抵抗する効力があるのだろう。

 翻って、こちらの防御面でいえば、物理的な防御に関しては恭兵の《念動力》で十分に全体をカバーすることができる。

 しかし、魔法に対する防御手段を三人は特に持ち合わせていなかった。

 都子は魔法に関しては呪いの魔道書頼りであり、未だその中の魔法を全て扱える訳でも無いため、相手の魔法に対抗するものは無いに等しい。

 恭兵や佐助に至っては、魔法を発動させる前に倒す、あるいは魔法を唱えさせないといった戦闘方針であるので、格上のリッチにそれが通じるかは怪しいものであった。



「……成るほど、でも周りにでてくるアンデッドの排除くらいは要るだろう?」

「その程度であるのならば、私が諸共に魔法で焼き払うことが出来ます。本来は前衛と共に行うことが最上ではあるのですが、私とあなた方ではまだ戦いに際しての連携が甘いといわざるを得ません」

「リッチ相手に生半な連携をしてる場合じゃない、と」



 リッチが繰り出してくるアンデッドを対処している時、背後から飛んでくるエニステラの魔法、といった状況を思い浮かべた恭兵は、う、と言葉を詰まらせた。

 彼女の魔法を直接見た訳ではないが、それでも遠目から見えたあの雷を十メートルも無い距離で察知し避けられるかどうかは定かではなかった。

 森での戦いで、ある程度は息を合わせることが出来るようになってきていたが、リッチに対してそれが出来ると言うには心もとなく、まして魔法を扱うエニステラに対して連携を維持できるかは自身が無かった。



「そして根本的な問題として、私もあのリッチに一度撤退を余儀なくされています。だからこそとでも言いますか、矛盾するようですが人数が増えたからと言って倒せるかどうか、というのは別の話です」

「そういえば、になるけど、どうしてアンタが負けたのか詳しくは聞いて無かったわね」

「その点に関しては……正直に申し上げますと、私もよく分からないのです」

「よく分からない? 何をされたのかもか?」



 思わず、自分の耳がおかしくなったのではないかと思った恭兵だったが、申し訳なさそうに当時のことを必死に思い出そうとしているエニステラの様子から、それが場違いな冗談でも無かったことを知った。



「戦闘を行った事は覚えています……出会い頭に放った魔法がリッチへと届く前に空気へと消えてしまい。そこから幾度となく攻撃を行い全て同じようにかき消されてしまい……防戦一方となっていた所で、そこからの記憶が曖昧で……恐らく何らかの攻撃を行ったと思ったら倒れていたというのが正直な所です」

「とりあえず、持っている情報としては何らかの方法で神聖魔法? を無効化しているってことと、謎の攻撃手段があるっていうことか?」

「でも、それならなんで止めを刺されなかったのかしら? そこまで追い込んでいたらどうにかできたと思うんだけど」

「そうっすね、個人的には無意識に放った魔法が当たって、止めを刺す所じゃなかったっていうのが思いつくっすけど。それも、なんで無効化出来なかったのかという疑問が出てくるっす」

「私にもどのように無効化しているのか分かりません、今まで神聖魔法を無効化できるリッチなど聞いたことがありませんから」

「やっぱり、一度出直した方がいいんじゃない? 何とか倒す方法があればって言ってたけどどうするのよ

「ええ、そこで先ほどの依頼の話となるのです」

「つまり、倒す方法があるのね?」



 都子の疑問に対してエニステラは確信を持って頷き、話を続けた。



「リッチは自らの身体をアンデッドに変え、不死の肉体となるのです。この時、自らが持つ魂はアンデッドと化した肉体に汚染されてしまい、一年と持たずに自我は崩壊して通常のアンデッド同じく生ける屍と化してしまうのです。これを防ぐためにリッチとなる死霊術士は不死の肉体を得ると同時にその魂を別の容れ物に移し替えるのです」

「容れ物……もしかしてそれを壊せば……」

「はい、リッチの不死の肉体はその容れ物、魂封箱と呼ばれるものに封じてある魂と繋がっています、そして魂封箱が破壊されれば自然とその中に納められている魂も破壊されます。むしろ、そうしなければリッチは遠くない内にその肉体を破壊することになるでしょう」

「つまり、リッチの弱点で、それさえ破壊できれば何とかなるのね?」

「はい、あなた達にはその捜索をお願いしたいのです。リッチと魂封箱はその関係上離れることはできません、精鋭が廃坑道内のどこかへ隠して置く程度でしょう」



 リッチの魂を納めている魂封箱を破壊する、エニステラがリッチを倒す勝算とはそれであったのだ。

 とは言え、リッチとて自らの弱点をただ廃坑道に野ざらしにしている訳も無く。それが狙われることも重々承知であろう。それでも、リッチ自体の肉体を破壊する手段を持たない以上、そこを狙うしかなかった。



「それをあたし達がやるってことね……大体の場所は分かってるの?」

「リッチと遭遇する前に探索をある程度行いましたが、そこにはありませんでした。残りは死霊術士が普段居ついている部屋……あるいは、奴が溜め込んだ財宝などを隠した倉庫などでしょうか。恐らく一区画内にあると思います」

「そっからは、俺達で探す、と。こうなったら佐助の超能力が頼りか」

「了解っす。それで、見つけたら即座に破壊っすかね」

「できれば、お願いします。とは言え、経箱はそれ自体が呪いを帯びた《アーティファクト》となっています。そう簡単に破壊できないと思うので、あなた方で破壊できなければ私の所まで持ってきて下さい。全霊をもって破壊します」



 リッチの目をかいくぐり、数多の罠を突破した上でリッチの魂を宿す経箱を確保したのちに破壊、困難が待ち構えていると思うが、当初はエニステラが自力で全てをこなした上でリッチまで倒そうとしていたことを考えると恭兵は楽に感じてしまった。

 そして、その上で彼女の役割を考えると必然、



「じゃあ、リッチはお前が足止めするっていうことでいいんだな?」

「はい、今の私でもその程度は可能です。神聖魔法を打ち消されるということに対しても……対策は考えています」

「任せて、大丈夫なんだよな」

「大丈夫です、自暴自棄を起こすわけには行きませんから。それで、この依頼を受けてもらえるでしょうか?」


 

 エニステラの目には既に自分を無為に犠牲にするような意志は無く、ただ最善を尽くす為の覚悟が宿っていたと、恭兵には感じ取れた。自分が信じられると思った、だからそれを信じることにした。

 


「いいっすけど。なんで、依頼なんて言ったんすか? 流石にこれは頼まれたら引き受けるっすけど」

「最初は本当に護衛だけ依頼でしたから、これはしっかりと依頼という形で頼まなければいけませんからね。それで報酬ですが……」

「俺達もやんなきゃいけないことだからな。適当でいいって」

「では、――私が可能な範囲であなた方に協力する、というのはいかがでしょうか」


 

 三人して耳を疑ったが、エニステラの誠実性が滲みでる笑みから、これは言い出したら聞かないな、という判断に至り。無言のアイコンタクトを交わして、一先ず了承することにし洞窟へと侵入したのだった。


 魂封箱を探し出し、破壊することが三人の廃坑道内で為すべきことであった。


  ◆

 



 佐助を先頭に進み続ける三人、ややあって、漸く分かれ道へと差し掛かった。

 そこからは、入り組んだ構造になっているようで、十字路とT字路に出くわすようになった。分かれ道に差し掛かる度に佐助の索敵を待ち、なるべく敵との遭遇を避けるように移動する。

 しかし、先へと進む度に佐助の反応が悪くなっている。

 道をいったり、来たりを繰り返し、集中して《接触感応》による探索を行うも、それも芳しくは無く。少し進んでは調べ直すといったことを繰り返していた。

 痺れを切らした恭兵が佐助に話を切り出した。



「……大丈夫か?」

「ヤバいっす。そろそろ完全に包囲されるっす」

「アンタがこれだけ索敵してるのに? どうゆうことよ」

「多分、こっちの位置がばれてるっす。今の所魔法を使われているのか、それとも別の何かなのか分からないのが一番の問題っす」

「もしかして、何かの発信機の魔法とかそういう? どこら辺にあるの!?」

「それ位だったらまだ取り外すなりして利用できるんすけど。それらしいものが引っ掛からなくて、魔法だったらもう少し痕跡みたいなものが残るはずっす」

「こっちを直接見てる……とかか? ほら、俺達の超能力じゃないけど透視能力みたいな」

「それなら……俺の探索にも引っ掛からないっすね。この中だと俺の《接触感応》も効きが悪くて範囲が狭い」



 壁をすり抜けてみることが出来る魔法か、もしくは《アーティファクト》の類であると推測する三人、それなら遠くからこちらに干渉することなく監視することが出来る。

 では、この状況をどうするのか、恐らく生半可なことでは突破することはできないだろう。

 戦闘を避けることは恐らくできず、そうしている内に囲まれるだろう。このままでは全滅するかもしれないと、恭兵の脳内をよぎった。


 

「どうするの? このままじゃ、魂封箱を探す所じゃないわよ」

「兎に角、一番敵が集まっていない所を突破するのが次善っすかね。この包囲網を突破しない内にはどうにもなんないと思うっす」



 恭兵には分かっている、多分佐助も分かっているだろう。何が最善なのか程度は、考えれば分かる。

 恭兵の内の本能は合理的な考えを叫び続ける。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 だから、本能を押しのけて決断する。



「佐助、どこら辺に魂封箱があるか分かるか?」

「……大体の方向は、でもいいんすか? 俺の方が生存率が高いと思うっすけど」

「それは、この場に限ってだろ。エニステラが抜かれたらお終いだ。リッチ相手に逃げ切れるとは思えない」

「アンタ達……何言ってんのよ。止めなさいよ」



 都子がこちらの考えていることに勘付いたらしい、彼女も馬鹿では無い、無いが、自分の目的を最優先と言いっている割には寄り道が多い程度にはお人好しだ。



「俺が囮になる。その隙を縫って、先に確保して破壊しろ。そしたらアイツ等も少しは大人しくなるだろ」

「アンタ馬鹿じゃないの!? 馬鹿よね? 絶対馬鹿! どう考えても死ぬでしょ! アンタ死にたくないんじゃ無かったの!?」

「このままだったら死ぬから言ってんだよ。ここから生きて確実に抜け出すにはリッチを倒すしかない、そうだろ」

「ッッ! そうだけど! 限度ってもんがあんでしょうが! さんざん人の事言っておいて、アンタも自棄になってんじゃないの!?」

「別に俺は死にに行くわけじゃねーよ。まともに戦わないでさっさと逃げ回って引きつける。道案内は佐助がするしか無い。お前は追いつかれるかも知れないし、一人で魔法使いを戦わせる訳にはいかねんえだろ。俺が行くしかねえよ」

「…………」


 

 都子は唇を噛んだまま、何も言えずにいた。

 彼女とて、何が最善なのかは分かる。ただ考えないようにしていただけだった。ただ意味も無く、そんな提案をするような奴では無いと、都子は考えていた。


 決断はすぐそこだった。



「取り敢えず、集合はここ。兎に角、箱の破壊を最優先、俺が合流してなくても、エニステラの方に向かう。それでいいな?」

「そっちも、もしこっちが失敗したら、探すのは頼んだっすよ」

「よし、行ってくる」

「生きて帰って来なさいよ。私はアンタが死んで胸糞悪く帰るのは御免だから」

「分かった。何とかしてくる」



 結局、囮は恭兵が務めることになった。


 その場に留まった二人を置いて、物陰から飛び出す。

 佐助が持ち合わせていたスペアの松明を手に、先を照らしながら先を行く。 

 佐助の索敵の結果から導きだされた、最も相手を混乱させて効果が出る箇所へと急いで向かう。


 最初は右、次に左、全身の神経を集中させ、敵を先に見つけることに専念する。

 初撃で倒し続ければ、囲まれようとも最小限の力で突破し、余裕を持てる。このような場では、余裕を持っ太祖するのが肝要だと言っていた師匠の言葉は今も挙兵を生存の道へと案内していた。



 少し、歩くと音がする。そばを何かが歩いている音だ。佐助の指示と違うことなく、目標としているアンデッドはその場にいた。

 左の曲がり角で待ち伏せするべく、気配を消して時を待つ。松明の明かりで気付かれないように、曲がり角の向こう側から見えない位置に松明を超能力で浮かべる。鼓動が一人でに響き、うるさい。

 気づかれないように息を潜ませ、待つ、待つ、待つ。

 足音は止まらず、こちらに気づいた様子は無い。コツ、コツ、コツと、骨の足が地面を踏む音と認識できる距離まで近づいた。


 右手を握り、拳を作る。小指から折り畳み、何かを捕まえこぼさないように親指で閉じる――師匠の教えだった。


 骨の音は曲がり角に差し掛かる、彼我の距離およそ一メートル。白骨が曲がり角に潜む恭兵の視界に飛び込み。



「《念動超拳骨》」



 何か反応が起きる前に右の拳を全力で叩き込んだ。

 ドワーフスケルトンは壁にめり込み、派手に音を立てながら全身が砕けた。

 止めを刺している時間は無い。素早くその白骨の手が持つ戦斧を奪い取り、顔面を蹴りぬいて破壊、そのままドワーフスケルトンが向かってきた方向へと走る。


 走る。ひたすら、走る。

 後方から、腐臭が漂い、べちゃりべちゃりと何かが這いずりながら歩むという矛盾するような足音が聞こえる。全身をガシャガシャと鳴らせながら、左右から近づいている気配すらはっきりとしていた。


 囲まれる訳には行かない、囲まれれば死ぬ。完全に捲いてはいけない、囮の役割を果たさなければならない。

 生存本能と意志がせめぎ合いながら、その足を進める。

 近づいてくる音を避けながら、曲がり、進んでいく。本能はこう自らへと叫ぶ、


 ――誘われている。


 道は塞がれている。退路は自らの意志で選んで断った。生き残るには突破するしかない。



 そうして、数分程走った所で、開けた場所にでた。

 リッチと遭遇したような幾つかの坑道が繋がる開けた場所だ。例にもれず、その道はほとんど潰され、行き来できるのは恭兵が来た後ろの道、それにちょうど左にある道だった。

 立ち止まる訳には行かず、左の道へと足を向けた時、


 悪寒が背筋をなぞった。

 何か、何か見てはいけないものがそこに居ると、恭兵の全てが認識していた。

 敵が来ると、直感的に感じ取った。経験はその敵はリッチに劣らず、凶悪だと叫ぶ。生存本能は死神が来たと呟く。そして、恭兵の意志は、それと戦うことは避けられないと決めた。



 暗闇からのっそりと、それは現れた。


 全身をローブに包んだその姿は人型のモノであったが、その顔面は人間とかけ離れていた。

 青白い禿頭でその顔面ヤツメウナギの口とタコのような軟体動物の触手の髭、目は爬虫類のように縦長の青白くひかる瞳と、額に開かれた橙色の第三の目を有していた。



 その時、現れたソレを目にして恭兵は初めて、この世界に来たことを後悔した。


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