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Psychic×strangers   作者: さがっさ
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第一話 始まりの異邦人 / クライマックスフェイズ 1:一行は死霊術士の住処を進む

なんとか今週も更新できました

長いですが、熱い展開になっていますのでよろしくお願いします


 山をくりぬいて作られた廃坑道である洞窟は薄暗く、備え付けられてあったと思われる燭台なども欠けていたり、粉々に砕け他に壁に掛けられている物がなければその形が判別できぬものが多かった。よって、明かりとなるものは、先頭である佐助が懐からどこからともなく取り出した松明の明かりのみであった。


 廃坑道の洞窟内はゾンビなどから漂ってきていた腐臭を感じとることができ、死霊術士により作られたゾンビがここを通ったのだろうという事が分かる。

 廃坑道は横道のほぼ全てが瓦礫に埋もれその道は閉ざされており、実質一本道となっていた。

 洞窟に入る前に想像していたような張り巡らされた道に迷うというようなことは無かったが、先へと進む毎に死霊術士に誘い込まれていると考えてしまうことは無理なかった。



「何か見えるか?」

「いや、特には見えないっすね。こうして探り探り死霊術士のホームを進んでますけど、ここら辺をゾンビが通った跡はあれど周囲にその影は無し、と」


 

 一行が突入しておよそ、三十分が経過した。佐助の《接触感応》により道に迷うことも立ち止まることも無く進み続けているが、一向に死霊術士が待ち構えているとは思えない程、何も起きないでいた。

 罠やそれに類する魔法などもここまでの道中で全く存在せず、手下のアンデッドなどに出くわすどころか、佐助の索敵にもまるで引っ掛からずにいた。完全に素通りしている状況である。



「もう少しで、私が洞窟内で意識を取り戻した地点だと思われるのですが……やはり、昨日と同じく罠や追手の類は見受けられませんね」

「……もう、結界を突破して町に向かったとか?」

「だとしても、追手となる私達に対する足止めがほとんどと言っていいほど無いというのはおかしいです。最悪、マージナルを守る兵士と私達とで挟み撃ちになることをあのリッチが良そうできないというのは考えにくいですね」



 エニステラが恭兵の懸念を否定するが、一層のこと敵の不気味さが際立ってきていた。追手も無く、罠も無い。 元が人間である死霊術士がその末にアンデッドとなるリッチ、人の姿を捨てる程の狂気に満ちているということになるが、その知性を完全に捨てている訳では無い。むしろ、長年生き抜く中でその知識を深めることでより狡猾になるとされている。

 死霊術士の業を持って作成される強力なアンデッドの大群、そして殺戮を繰り返す度にその死霊魔法によりさらに配下となるアンデッドを増やす。当の本人は凶悪な死霊魔法を操り、並大抵な戦力では太刀打ちできずに全滅は必死であり、加えて不死身となった肉体を滅ぼすことは困難を極める。

 やがて、通常の人間を超える知性を宿したリッチは小さな国家では手に負えるものでは無くなるという。

 


(改めて、今までで一番ヤバイ奴なのは分かる。あのゾンビ共が軒並み一般兵みたいなものだっていうなら、ここで待ち構えてるのには相応に強い奴がいるはずだし、それ以上に強いリッチ相手に簡単に勝てるとは思えない)


 

 しかし、恭兵達三人は直接矢面に立つ訳では無い。自分の仕事はきっちり果たし、それ以外のことは引き受けた者に任せておく他無い。一先ずはエニステラをリッチの元まで無駄な消耗をさせずに送り届ける事である。

 後ろめたい気持ちはあるものの、足手まといとなる訳にはいかないだろう。

 しかし、何事にも予想外の状況は付き物である。万が一にも自分達とリッチが遭遇し戦わざるを得ないという状況も起こりうる。



(師匠は……こんな時なんて言うか。どんな奴にも弱点がある恐れずに殺せ、かそれともケツまくって逃げろとか……多分、死ぬ前に殺せだな)



 自身を鍛え上げた師匠を思い出す恭兵、思えば最初に会ってから苦境と言う苦境に陥ることは無かった師匠が危機に瀕する場面など到底想像出来なかった。恭兵が迷い出た樹海はどう考えても凄腕の冒険者が徒党を組んで挑むものだったと今にして思うのだが、あの人はほぼお荷物だった恭兵を連れた二人で二年程、修行をつけつつ探索していたというどう考えてもおかしい人物であった。

 師匠に出会わなければ飢え死にか、それともモンスターに殺され食事となっていたかの二択であったので多大なる恩を感じてはいるのだが、一体、どれほど強いのかということに関しては最後まで分からずじまいであった。

 恐らく、対魔十六武騎のエニステラに後れをとるとは思えないというのは身内贔屓なのだろうか。少なくともハングリーベアのどてっぱらを大剣でぶち抜く程度は軽くやるだろうと恭兵は思った。


 頭の片隅でそんなことを考えながら、さらに洞窟の中を進んでいくが、やはり一向に変化なし。本当にここを死霊術士が根城としているのかすら、怪しくなってきたが、ゾンビからする特有の腐臭は未だにしているため、アンデッドがいることは間違いないと一行は感じた。

 佐助が言った通り、既にリッチが町へと侵攻を開始したという線が濃厚になりつつあるが、それでも自分達がさきに進まなければならないことに変わりは無い。ここは一行が出発したパオブゥー村と町、マージナルを結ぶ最短距離となる道である。先を急ぐにもこの洞窟を突破しなければならない現実は変わらない。



「……ここ、ここです。恐らくここが私が気が付いた場所です」



 洞窟に突入して一時間半、エニステラが時折考え込むように松明の乏しい明かりを手掛かりに周囲の坑道の荒廃具合を観察しながら進んでいた時、確信を持ってそう告げた。



「ここ、か。とは言っても」

「何と言うか、中途半端な場所よね。まだ、先はあるわよ?」

「確かにここの筈なのですが……我がことながらやはり、状況からして奇妙に思えますね」



 まさに道半ばといった所である。周囲には特に変わったところは余り見受けられず、エニステラがなぜこの場所だと判断できたのか分からないほど、その場所には特徴てきなものは見られない。

 恭兵と都子は周囲を注意深く観察するが、今まで通ってきた道と異なるようには思えない。

 そんな二人をよそにエニステラはその場に膝を付いて屈み、地面に自らの手のひらを押し付けていた。そして何かを呟き、手のひらを地面から持ち上げるとそれに応じるように、金色の光が地面から浮かび上がった。

 エニステラの手のひらに追従するようにして空中に浮かび上がった金色の光は次第にその形を変化させることでなにか幾何学的な文様となった。どうやら、何かしらの文字であるようなのだが、恭兵と都子にはその文字が何なのか分からなかった。

 


「これは、私がここを離れる前に残しておいた印です。迷宮などで迷わないようにするためのものでして、これは聖騎士が主に用いるものなのですが、これを記した本人にしか分からないようになっているのです」

「なるほど、それでここがどこだか分かったと。でもこんな中途半端な場所だったのか? 道が崩れて仕方なく村の方の道にでたとか言って無かったか?」

「あの時は意識は確かではありませんでしたし、明かりとなる松明さえもありませんでしたから確かなことはいえないのですが……ええ、それでもこのような道に気がつかなかったとは思えず……」

「うーん、とりあえず先に進んだ方がよさそうじゃないかしら。って、佐助。何よ、さっきから黙ったまんまで。何かあったの?」



 三人がこの場所の違和感について話あっている中、佐助は一人口を噤んだまま、探るように地面に手を当てて動かずにいた。

 身に着けているゴーグルと黒いスカーフからその表情はよく見えないが、その雰囲気から集中して《接触感応》を行っていることがわかる。

 現に、都子の声に返事もくれず、ただその視線を地面へと向けたまま、動かずにいた。



「……完全に集中してんな。全然反応しないし、というか今までで一番黙ってるし」

「というか、今までが喋りすぎてる所はあると思うけどね」

「しかし、これほど集中されてるということは、何かしらの違和感を得たということなのではないでしょうか。ここはもうしばらく様子を見るべきなのでは……?」



 エニステラがそう言った時だった。

 佐助は不意に地面に向けていた顔を上げ、そのまま後ろ、一行が来た方向へと構え、叫ぶ

 


「後方注意! 敵がくるっす!」

「は? 敵って。今まで道が一本だけで横道も無かっただろ!? どこに敵がいたんだよ!」

「もしかして、横道が隠れてたとか? 魔法で隠されてたとか!」

「話は後です! まずは構えて、戦闘準備を!」


 

 疑問を発する、恭兵と都子を置いて、エニステラはハルバードを構え警戒を再度促す。

 恭兵と都子も応じるようにして、それぞれ武器を構えるが、



(これは……狭いな。横幅は引っかかりかねない。縦も……そこまで器用に出来るかはあやしいか……!)



 恭兵は背中の赤い大剣を抜く前にそのことに思い当たった。つまり、洞窟の狭さである。

 元々、身長が低めであるドワーフが作ったにしては大きく作られた坑道は、大剣を背負って十分に歩き回れたが、戦闘を十分に行えるかといえばそれは違った。

 引く抜く分には問題は無いだろうが、振り回すとなればそこかしらの壁や天井に引っかかってしまう。そして注意して振りぬいたにしても、仲間が周囲にいる状況でそこまで器用に戦闘中に振るう技量は恭兵は持ち合わせていない。

 エニステラの方は、ハルバードを両手の間隔を空けるように持ち、左手を沿え、右手に力を加え切っ先となる槍の部分を膝下に構えている。

 槍術のようにハルバードを振るうことで、長柄のものであっても閉所でも対応できる。彼女の技量であれば、脳で考えずとも、自然にその体勢を撮ることが身体に染み付いていた。


 では、恭兵はどうするのか?


 まず大剣を抜かず、両手を空ける。そして、腰の丁度右腰の後ろに提げた小袋から手のひらに収まるそれを取り出した。


 ――人類原初の武器、石である。 

 

 この場合、恭兵は完全な前衛を務めるには少々心もとない。ここは、敵を視認しだい、遠距離から念動力を籠めた石の投擲でもって相手を削り、それでも近づいてきた相手を念動力によって押さえる。よって中衛的なポジショニングとなる。

 エニステラの消耗を限界まで抑えたいところではあったが、他に前衛を務められる者がいる訳でなし、仕方ない。



「来るっすよ。正面」

「……なにもいないじゃない」

「いえ、成るほど迂闊でしたね。私も失念していました」


 

 都子の疑問の答えは直ぐに明らかとなった。自分達が通ってきた道、その真ん中が不自然に盛り上がった。


 もぞもぞ、とその硬い土や岩を除ける音がし、ピタリと止まる。そしてその盛り上がりの頂点から、白い白骨化した腕が飛び出した。

 僅かに声を漏らした都子を置いて、その骨の腕は地面を掴むと、力を加えてその腕につながる本体を引きずり出した。まずは頭、泥がついた鉄の兜を被っていた。そして胴体、太い骨組みからなる肋骨と大型の肉食獣を思わせる頑丈な背骨、そして比較的短く、その代わりに生前その全体重を支えていたにふさわしい太さを蓄えていた。


 最後に、地面から自らの武器を取り出そうとしていた所で、先ず動いたのは恭兵だった。

 相手が飛び出してくるのを黙って見ている道理は無い。


 地面から這い出る動く白骨、しかしそれに圧される事無く、地面から出てくる隙に先制攻撃として、手に持つ石を蠢く白骨へと投げる。

 腰を回転させ、強く左足を踏み込むと同時に肘を中心に前腕を鞭のようにしならせ、右側頭部を過ぎて石から手を放す。

 野球における投球を用いて投げられた石は、放った恭兵の右手から放たれた念動力により制御下に置かれ、狙いを違うことは無い。そして、彼我の距離凡そ、五メートルを直線で減速することなく射抜く。

 そして、狙うは動く白骨が被る兜、硬く守られているが、他の場所を狙ったとしても効果があるかは定かでは無い、屈んだ態勢で狙いやすい頭部にまずは攻撃を当てる。上手く行けばその兜を弾き飛ばすことも不可能では無い。


 狙いすまされた一撃が、鉄で作られた兜に当たり甲高い音を立てる。直撃した石は、白骨のアンデッドの頭部を仰け反らせ、見事兜を弾き飛ばした。



「ストライク」



 とは言え、それでアンデッドが倒される訳もなく。何事も無かったかのように激突した石の衝撃で仰け反った上体を起こして、こちらへ視線を向けた。

 案の定、頭部は完全に頭蓋骨であったがその本来なにも無いはずの眼窩には暗がりに引摺り込むようなひたすら暗く青白い光が眼球の代わりに存在して、こちらへとその視線を差し向けていた。



 が、その青白い光も瞬く間に消えた。



 白金の閃光が、白骨のアンデッドの頭蓋に突き刺さり、そのまま頭部を割断した。

 暗がりを照らすように光る閃光は、そこで止まらずに引き戻され、再び放たれる。

 今度は、腰の部分、身体を支える要となる骨盤を破壊して、白骨のアンデッドはその動きを止め、それぞれの骨を繋いでいた糸が切れたように崩れ落ちた。


 しかし、閃光の攻撃もそこまでである。

 白骨のアンデッドが出現したように地面がもりあがり、そこから白骨の腕が突き出た。それが六つ。



 閃光は翻り、五メートルの距離を重さを感じさせず、瞬時に後退し恭兵たちの前に再び陣取った。




「スケルトン、それもドワーフのモノを用いて作られたドワーフスケルトンですか」



 恭兵の初撃に会わせるように踏み込み、まず一体のスケルトンを仕留めたエニステラが言う。

 スケルトン、死者の骨を元に作られるアンデッドであり、肉体を持たずに独りでに動く骸骨である。

 現れたスケルトンは軒並みドワーフの骨で作られたドワーフスケルトン、恐らくここで死んだドワーフの戦士達を元に作られたのだろう。手には生前も使用していたとされる柄が短い両刃の戦斧をドワーフ由来の怪力をスケルトンとなった今でも発揮するように片手で持っている。



「いやあ、最初は唯の死体だと思ってたんすけど、地面を掘って追いかけてくる死体なんて居ませんしね」


 

 佐助の発言から、彼の索敵を地面に埋もれた死体に偽装してやり過ごしたのだろう。実際、ドワーフの死体であることに違いは無い。いかに佐助の能力であろうとも、幾つものドワーフの死体が埋もれている中、スケルトンのみを判別することは至難の業であろう、不意打ちを避けただけでも佐助の感知能力は優れていた。



「六体か……一斉に襲い掛かられるとなると不利か……?」

「何とか私が抑えられると思いますが……やはり魔法なしというのも厄介ですね」

「正直、味方に当たらないように魔法撃つにはちょっと時間がいるわね」

「俺はまあ、何とかなるとして、都子まで通す訳にはいかないか。となると、前に出て壁になる奴がいる……そこで前に出ないでほしいんだけど」

「壁となる程度なら問題ありません。少々狭いですが、六体程度、乗り切って見せましょう」



 すかさず、歩を進めるエニステラに静止を呼びかける恭兵。依頼として護衛を請け負っているのに当の本人は率先して前衛の壁役を務めようとするので全く油断できなかった。先ほども初手で突撃を敢行していて、恭兵は内心ヒヤヒヤさせていた。

 それでも傷一つ付かず、増援がくればこちらに引く程度には気を使ってもらっているのだが、対魔十六武騎とはここまで無茶をする人物ばかりなのだろうかと、彼が思ってしまうのも無理は無かった。

 そうこうしている内にじりじりとにじり寄ってくるドワーフスケルトン、話し合ってる時間は残り少ないだろう。



(しょうがないか、いざとなれば背中を盾にして何とかする……!)



 恭兵が覚悟を決め、腰の袋から石を補充しつつ前に出ようとすると、するりと恭兵の脇を抜けさらにエニステラの前に躍り出る影があった。黒いスカーフにゴーグル、手には松明と全身に隠した武器を持った黒い影、



「それじゃあ、俺が前線やるんで、抜けた奴お願いするっす。ああ、後これ、松明なんで持ってて下さい」

「え、あ、はい……ってええ!!」



 思わず松明を受け取ってしまったエニステラに耳元で何かを呟き、仮称、加藤佐助はドワーフスケルトンの前にでた。

 

 ドワーフスケルトンは横並びに二体ずつ、三列で向かってきている。 

 知性はほとんど無く、作成した死霊術士の命令を遂行するのみであるスケルトンであるが、がしゃがしゃと音を立てながら、整列している。死霊術士の力量はやはり確かなものなのだろう、その前進に乱れは無い。



「サスケッ! 気を付けて下さい、スケルトンはただ攻撃を加えただけでは倒すことは出来ません。よしんば、骨同士が外れて崩れても、骨同士の魔力のつながりで直ぐに元通りに立ち上がります!」



 松明を手に取ってしまった、エニステラは仕方なく恭兵と並び中衛へと回ると佐助へと助言を飛ばす。

 それを聞いたのかしないうちに、佐助は倒れ込むかのように上体を低くし、突進する。


 佐助の接近に応じるように、前列のスケルトンは手に持った戦斧を構え、振り下ろす。


 そこに既に佐助は居ない。


 中央の列のスケルトンも佐助を見失い、目玉代わりの青白い光を左右に振り、突っ込んでき影を探すがどこにもいない。

 気づいたのは最後列のスケルトンのみだった。

 突如として、中央の列のスケルトンの片割れの頭部が彼らの視界から消えた。

 

 片方のスケルトンは前方を見て、もう一方はその視線を上げると、黒い影のようなモノが天井を駆けながら手に白く丸いものを持っているように見えた。身構えて対処しようとした時には、見上げた方のスケルトンの視界はそこから落とされた何かに潰された。

 

 相方への攻撃に気づいたスケルトンは自らに刻まれた死霊魔法による命令に従い、背後へと視線を向ける。

 そこで、兜が外されたドワーフの頭蓋骨が天井を駆けた黒い影が持つ短剣の柄で地面に叩きつけるようにして割られたのを目視した。既にスケルトンの目となる眼窩に宿る青白い炎のような光は消え去り、バラバラに散った骨片と、陥没した頭蓋骨のみが残されていた。

 それを見たとしても、ドワーフスケルトンの行動は変わらない、例えその割られた頭蓋が生前の友であったとしても、それを感じることが出来るものは彼らの心髄ごと残っておらず、骨身すら死霊術士のものであるからだった。



(入念に命令がされている……大抵の使い魔だったら、もう中央の頭無しが斧を振り回して周りを巻き込み始めてる所を、余計に動かず後ろを向くか。リッチともなる死霊術士は異なるという訳か)



 佐助はドワーフスケルトンの危険度を上げる。

 頭を失ったスケルトンが攻撃を受けたと判断し、一先ず自らの周囲に攻撃を仕掛けることで中央の列から隊列を乱そうとしたのだが、案外賢かった。人間の集団でもこうはいかないだろう。

 この様な魔法で作られた、もしくは操られたモンスターはその魔法をかけた者の命令に従う。


 とは言え、ゴブリン等の知性のある(品性は欠片も無いが)モンスターなどには簡単な命令を下すだけで、それに沿った判断を考えて実行に移すのだが、ゴーレムや目の前のスケルトン等の知性を持たない、自らの考えを持たないものに対する命令は少々厄介なものとなる。

 唯でさえ、歩行させることが難しいとされるのに、細かい判断能力を兼ね備えさせるのは至難の業である。

 それを、スケルトンを一度に七体程、同時に動かし、さらに勝手な判断を下さないと言った高度な判断能力あまで兼ね備えているとなると、自然と強力なものとなる。



(とは言え、問題にはならない、か)



 佐助は右手に持つ短剣を軽く握り直しながら、思考すると、一呼吸して突撃する。

 先ほどと同じく上体を倒れ込ませるようにして、突進を仕掛ける。

 スケルトンはそれを見て、すぐさま攻撃を仕掛けるのでは無く、佐助の動きを見ることに徹したように斧を攻撃に備えて盾のように構える。

 佐助は自身の狙い通りにいった事にスカーフの中でほくそ笑むと、短剣を自分からみて右のスケルトンへと投擲する。

 空気を裂くような鋭い切っ先がスケルトンへと飛来したが、危うげなくこれを事前に構えていた斧で叩き落とすが、既に佐助は先ほどまで居た場所にいない、慌てて頭上を見上げるところで、ドワーフスケルトンは左から衝撃を受けた。



(サバーシヤ流見透(けんとう)術――打診(だしん)



 佐助は、ドワーフスケルトンをもう片方のスケルトンからの攻撃の盾にするように回り込んだ。そして流れるように出来た隙を突くべく唯でさえ低い身長のドワーフスケルトンの脇に潜りこみ、右手の掌底で肋骨を叩く。



(《接触感応》)



 掌底でスケルトンがよろけた一瞬で、スケルトンの構造と刻まれた死霊魔法の刻印などを感知。エニステラが頭部と骨盤を破壊したのはそれぞれが上半身と下半身の要となっているからであった、佐助の想定通りである。

 そして、それらを繋ぎ、高度な動きをさせているのは背骨の内、ドワーフの脊椎に当たるものの上から八つ目へと狙いを定める。



(風魔流骨法術――点崩(てんほう)、合わせて混合技、崩一(ほういつ)



 狙いを定めた後、瞬時に放たれた左手の突きは、見事ドワーフスケルトンの上半身と下半身を繋ぐ背骨を貫き破壊した。

 瞬く間に上半身と下半身の接続が物理的にも魔法的にも断たれたドワーフスケルトンは、均衡を保つことなく、上半身と下半身とに分かれた。


 そして、宙に浮かんだ上半身を抱え、骨のみとは言え、ドワーフのそれは中々の重量であったが、佐助はそのまま、崩したスケルトンを挟んで向こう側のドワーフスケルトンへと突っ込んだ。

 それを受けた後列のドワーフスケルトンは、斧を振り下ろしたが、盾となったスケルトンの上半身に弾かれ、


 重量と速度を生かした砲弾を受け、判断が遅れたドワーフスケルトンはそのまま、壁面に激突した。


 佐助は踵で地面を蹴ると、彼の履いていた黒い靴の踵から仕込んでいた刃が飛び出した。

 そのまま、崩れ落ちたスケルトンの下半身、その骨盤を見もせずに踵で地面に激突させるように蹴り砕く。



 「二、そして三」



 右手で短剣を抜き、上半身の頸椎をてこの原理で外すように落とし、これでドワーフスケルトン合計二体沈黙した。

 壁に押し付けたスケルトンが斧を振り下ろしたが、既に遅かった。

 左足を軸に右足を前蹴りの要領で突き出し、骨盤を破壊、同時に右手は頸椎を同じくてこの原理で外して落とした。


 瞬く間に二体を倒し、一体の頭部を破壊した佐助に、しかし無事だった中央列のドワーフスケルトンがその斧を下すが、佐助は動かない。当たれば確実にその頭蓋を自らがスケルトンに行ったように砕けるにも関わらず、見向きもせず恐れることすら無かった。



「《拘束(バインド)》」



 背後から黒い鎖が飛び、下されるはずだった斧を絡めとると、佐助に触れる眼前で静止した。

 佐助がチラリとそちらへと視線を向けると、前列にいたスケルトンは両側の壁面を崩すように埋め込まれており、全身の骨がバラバラになっていた。

 その空いた空間を縫うように都子が拘束の魔法を放ち、佐助へと振り下ろされる斧を食い止めていた。

 そして、その黒い鎖を握り、引きながらこちらへと一直線に向かってくる影が一つ。



「おらよッ!」



 飛び込んできていた恭兵がドワーフスケルトンの怪力と高い骨密度からなる重量、頭部に身に着けた兜と手に持った戦斧、それらを纏めて黒い鎖を怪力で引っ張り、地面に引きずり倒した。


 鎖を手元に引き、戦斧を白骨の腕を引きちぎるようにしてもぎ取り、そのまま仰向けに倒れたドワーフスケルトンの頭部へと叩きつけて破壊した。



「それ、腰の骨盤砕かなきゃ駄目っすよ。下半身だけ動き出すんで」

「ああ、それでエニステラとか周到にやってたのかってお前、後ろ後ろ」



 佐助は軽く忠告を挟みながら屈む。 

 次の瞬間には今まで佐助の頭があった場所を頭部を失ったスケルトンが放った戦斧のスイングが空を切る。

 

 佐助はそれに動じる事無く。腰を中心に身体を背後へと回転させてしながら、投擲した短剣を回収しそのまま骨盤に叩き込んで破壊した。

 

 

「これで、四」

「で、五か」



 恭兵が引きずり倒したスケルトンの骨盤を破壊、残りは壁に叩きつけられたスケルトンだが、



「六、ですね」

「いや、あんたら簡単に骨砕いてるけど、無理だからね?」


 

 エニステラがバラバラになった内の片方の頭部と骨盤を丁寧に割り、都子が壁面への衝突によって、落ちた白骨の腕付きの戦斧を危なっかしく振り上げては頭部を叩きつけて、を繰り返し、破壊していた。



「後ろで警戒してりゃよかったのに」

「私一人で残されてもしょうがないでしょ。後衛一人にさせるとかどうなってんのよ」

「う、申し訳ありません。どうにも気がはやってしまい……」

「まあまあ、とりあえずこれで七つ、と全部倒したっすから、問題ないっすよ」



 踵の仕込み刃で都子が頭部を破壊したスケルトンに止めを指して、スケルトンとの戦闘は終了した。

 恭兵が見たところ、全員に怪我は無く。突っ込んだ佐助もかすり傷を負った様子も無い。



「しかし、案外苦戦しなかったな……もう少しやばいと思ったんだが」

「スケルトンというのは死者の怨念も利用して動くものもありますので一概に油断できる相手ではないのですが……やはり年月がたち、残された思念も風化されたのでしょう。ほとんど魔法により動かされた人形でした」

「まあ、一度場を乱せばこんなもんっすよ。それにしても」








「最初から俺にはばれてるっすよ」



 佐助は袖から取り出した手裏剣を前方、一行の進行方向のへと投げつけた。

 手裏剣が向かう先には敵どころか何もなく、ただこれまでと同じように廃坑道の暗がりが続いている何もない道半ばの空間。

 当然、手裏剣は何かと衝突するはずも無く、そのまま慣性に従い、地面へと突き刺さる。

 通常は、


 

 手裏剣が先ほど、エニステラの残した印から凡そ五メートル離れた所で、その空間が歪み、何かに突き刺さった。

 歪みと同時に空間には亀裂が走り、松明の光を反射するように色とりどりの光が走る。次の瞬間には鏡に刃物を突き立てたようにひび割れ、ガラスが割れるような音とともに砕け散った。


 砕け散った空間の先を見ると、そこは今まで通りの道が続いている訳では無く。幾つかの坑道が集合している広い空間となっていた。天井もそれまでの坑道より高く、広さは凡そ半径二十メートルはあるだろうかと言ったところである。

 恐らく何らかの魔法により、隠蔽されていたのだろう。


 手裏剣が突き刺したのは、人間の腰の高さまである台座の上に置かれた四角い箱のようなものだった。

 恐らく、四角い箱のようなものは一種の《アーティファクト》のようなものであり、これで幻影を作りただの道のように見せていたのだろう。

 箱はすでにその機能を失ったのか神秘を感じ取ることはできず、壊れたオブジェのように台座に鎮座している。



 問題は、暴かれた空間で先へと進める道は二つあるという事、一つは正面、そしてもう一つは進行方向から言って左手にある道である。


 そして、正面の道には、何者かが立ち塞がっていた。

 隠者が纏うようなに擦り切れたローブに身を包み、露わになっている顔は、骨と皮ばかりにやせほそり、しなびた肉は骨にぴったりと寄り添っていた。眼球は腐り墜ち、虚ろな眼窩にスケルトンと同じように青白い燃えるような光を宿し、それがこちらを射抜いていた。まさに動く死骸といったいでたちである。


 それが、凶悪な死霊術士にして、その果てに自らもアンデッドとなり永遠ともいえる不死を手に入れた魔法使い、リッチであることはその場の誰でも理解することができた。


 ただ視線を向けられただけで、恭兵はすくんだ。


 存在しているだけでそれは恐怖と呼ばれる感情を引き起こす何かを垂れ流している。何か致命的に生命として外れた存在であることは確かだった。


 死ぬ。


 恐怖に負け、無謀に挑めば殺されると恭兵の本能はけたたましく叫び続けている。


 都子もその場を動くことはできず、思わず後ずさってしまう。

 佐助もその存在を予め看破していたにも関わらず、それでも動きが止まり、その舌の根は水分を欲し始める。



 そんな中、一人松明を都子へと差し出す手があった。



「大丈夫です。私がいます」

「え、あ、う、うん」

「ミヤコ、これを私にはもう必要ありませんから」



 都子はエニステラから、松明を受け取ると、その動く死骸のような影の前にでた。



「段々、思い出して来ました。私が来たのはリッチの後ろの道です。援護するので、駆け抜けてください」

「で、でも! 一人でやる気!?」

「無茶っすよ! 全員でやらないと、あぶねーっす!」


 都子と佐助が口々に言うが、エニステラは首を横に振り、視線をリッチへと向けたまま、言う。



「十分です。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。私も自分の役目を果たします」

「……分かった。でも足手まといにはなんねーよ。隙は作る」

「ありがとうございます。ご無事を祈っております」

「そっちもな、勝手に死ぬなよ?」

「ちょっと、恭兵! 本気で言ってんの!?」

「しょうがないだろ。ここはエニステラに任せる」


 都子は最後まで悩んでいたようだったが、決心したのか手に持った松明を握りしめ恭兵の後へと続く。

 ようやくして恭兵達三人はこの場を脱すべく、壁沿いに集まり、じりじりとリッチとの距離を詰めていく。

  


 リッチは恭兵達に見向きもせず、黙したままエニステラへと向ける視線を外さない。

 どちらも先に動いた方がやられると知っているからである。

 リッチと三人の距離が十メートルを切ったところで、エニステラの口から聖なる調べがこの空間に響いた。



「《ああ、いと高きに居られる至高の神々の一柱(ひとはしら)、雷と力、秩序と法、正義と調停を司る神、ウォフ・マナフよ。我が血に宿りし一族と我が交わした契約に従い、御身(おんみ)の力をいま一度、我が身にお貸し下さい》」



 エニステラは手に持つハルバードを地面へと突き立て、膝を着きながら、神へと詠唱を重ねる。神聖魔法における神への嘆願の祈りであり、これを交わすことで神の助力を得ることが出来る。神への信仰と祈りを力に変えて魔を払う、これこそが聖騎士である。


 リッチは当然、エニステラの詠唱をただ見ているわけでは無い。隙を突くべく、左の掌に禍々しい魔力を集め、呪文を持って魔法とし、祈りを捧げる聖騎士へと放つ、が。



「《念動火球》」

「《念動投擲》」

「隙あり」



 側面から、都子の手の平大の火の玉が飛び、恭兵はドワーフスケルトンから奪い取った戦斧を投擲、佐助は再び手裏剣を投げる。


 リッチは慌てる事無く、魔法をエニステラから三人の方へと払うように向け、撃つ。


 放たれた呪詛を伴う魔力の塊は、火の玉を呑み込み、戦斧を砕き、手裏剣を消し飛ばすと、三人へと向かう。

 呪詛の塊は既にその場から走っていた三人には当たらず、廃坑道の壁を破壊し、揺れを起こす。 


 リッチはそれで終わらず、三人を排除すべく右の掌に再び魔力を集め、呪文を手繰り放つ、

 その時、



「《我が振るいしは、魔を砕く雷の力。我が意は折れず、挫かれぬ鋼の意。この意は何人(なんびと)たりとも譲りはしない》」



 ――その雷は、たとえどこにいたとしても信じ、捧げるものがいれば必ず届く。 


 

「《――同調(シンクロ)・銘開放――》



 エニステラの頭上の空間に穴が空き、そこから



「《戦乙女の聖雷斧槍ヴァルキュリーズ・レイジハルバード》ォォォォオ!」


   

 雷が彼女に落ちた。



 

 リッチが放つ魔力は宙を走る雷光により消し飛ばされた。

 何が起きたかを全て知ったリッチは迎撃のために腕を振るう、地面から突き出た骨の集合体が盾のようにリッチの前面へとせり上がり、


 雷鳴の一撃のもとに断たれた。



「今です。行って!」


 

 三人は一息に十メートルを詰め、リッチの背後をすり抜けていく。背後を振り返ることは死に繋がるという本能に従い、全速力で駆け抜ける。



 リッチはわずかに視線を向けようとするが、今一度目の前の最も危険な存在を捨て置くことはできずに正面を向く。



 雷を身に纏ったエニステラは高らかに名乗りを上げた。



「対魔十六武騎、第三席《聖騎士(せいきし)》を預かります、エニステラ=ヴェス=アークウェリア、《聖雷戦姫(スルーズ・レイジ)》。推してまいります!」



「……死霊術士、マグファイガー・ヴァーマイト」



 応じるようにこれまで呪文を唱える以外に口をつぐんでいたリッチが答えた。



 緊張に包まれた空気の中、先ほどリッチの攻撃により崩れた壁面の瓦礫が地面に落ち、音を立て。



 ――――聖騎士の逆襲(リベンジ)が始まった。


続きは一週間以内に投稿したいと思います

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