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10話 決戦1

 深夜。

 ザスターは目を開く。

 見据えるのは、新しくできたダンジョン。

 臣下たちは自分の言葉を待つように静かにこちらを見つめている。

 士気は悪くない。 準備も万全だ。

 ザスターはむくりと起き上がった。


 「満月か。」


 狩りにはうってつけだな。

 どうやら天も私に味方しているようだ。


 人狼は満月に近いほどその真価を発揮する魔物なのである。


 彼は獣形態へと変わり、遠吠えを響かせた。

 さあ、狩野時間だ。





 さて、士気を上げたのは良いが、どうしたものか・・・

 今だけを考えれば逃げるのが最も賢い手なのだが、逃げたという事実は後々響いてくる。

 一度芽生えた不信を消すのは一から信頼を勝ち得るより大変だからな。

 それに、逃げたところで平穏が手に入るという保証はどこにもない。

 故に逃げるという選択は取れない。

 では、どうする。

 ありきたりではあるが、相手の長所を潰す。それが一番効果的だな。


 「コ、コボルトが現れました!」


 はあー

 ゆっくり考えている余裕もないか。


 

 質では決して負けてない、ならば、相手の量と言う武器を潰す。

 どうにか一対一の状況に持ち込めれば、勝ち目はある・・・はずだ。


 俺はゆっくりと立ち上がった。




 着いたか。

 ザスターは足を止め、洞穴ダンジョンを睥睨した。

 洞穴を守るように9体の敵、ホブが7、アークが1、そして件の存在が1人。

 伏兵の気配はない。

 質は大したものだ、だが、所詮は9体--------

 容易い。

 ザスターは勝利を確信し、咆哮を上げようとした。

 その時だ―――――

 二人の人影を彼は捕らえる。

 アークが一体に・・・人間だと?

 いや、問題はそこでは無い。

 あのアークのメスが主に接するかのように振舞っていることだ。

 なぜだ?

 ザスターは脳裏に浮かんだ懸念を振り払うように自問する。

 しかし、さらに異変は続く。

 あの人間を見た瞬間、他のゴブリン・・・あの存在までもが闘気を上げたのだ。

 この瞬間、ザスターの懸念は確信に変わった、変えざる得なかった。

 あの存在はダンジョンマスターなどではない。その可能性に彼はようやくたどり着いたのである。



 瞬間ザスターを支配したのは焦りだ。

 自分と同等のものを支配する存在、それはつまり、あの人間がAランク以上の化物だと言うことだ。


 Aランク・・・・その強大さをザスターは経験で理解していた。

 彼の根城、ダンジョンの北一帯を支配している怪物、その存在を知っていたからだ。

 故に、彼は決して自身のテリトリーを広げようとしなかった。

 目立たず、影に徹してきた。

 かつて先達が犯した過ちを犯さないために―――――――――――――

 しかし自身は知らず知らずのうちに、その愚を犯していたのではないか?

 その焦りがザスターの冷静を奪っていく。


 どうする?

 戦うか?


 Aランクが一人でもいればCやD程度の雑魚が1000人いたところで傷一つつけることは出来ない。

 それ程の化物。



 勝ち目はない―――――――――

 


 逃げるか?


 今さら逃がしてくれるか・・・、それは少し甘すぎるだろう。



 では、下るか?


 弓を引いてしまった・・・



 その事実が重い―――――――――


 自分一人で逃げる・・・・

 その手もあるだろう。

 それに、ダンジョンには非戦闘員の女子供を残してある。


 ここで自分が死ぬわけにはいかない―――――――――



 本当か?本当にそうなのか?と、私は自問する。


 他に手があるのではないか?


 ――――――――そうかもな。


 だが、それは手と言うには、あまりにもあやふやなものだ。

 その上、それを選べば間違いなく私は死ぬ。

 だから、知らねばならない。臣下の、私自身の気持ちを・・・・


 「お前たちに問う。お前たちにとって私とは何だ?」


 その言葉にコボルトは臣下の礼で答える。

 そして、代弁をするかのように一人のコボルトが前に進み出た。


 「我らが絶対なる君主にして、この命を捧げるにふさわしい御方にございます。」


 「そうか。」


 断定を持った、力強い声。それにザスターが穏やかな声で答えたのだ。

 それは我が子を慈しむような、そんな声。


 命を捧げる、か・・・・

 ならば私も命を持って答えよう。

 どうやら私は自分の命より大切なものが出来ていたみたいだからな。


 そう笑みをこぼし、目を閉じ、考えをまとめる。


 今必要なのは、相手に勝利したという事実を与えること。そして同時にコボルトが生かす価値があると、庇護を与えるに値すると思わせること。


 そのためには・・・・・

 

 ザスターはゆっくりと目を開ける。

 それは長としての・・・王としての決断だ。

 決意と覚悟をともした瞳が月光を映した。


 (聞けえ!私の同朋よ!私はあの者と一騎打ちをする!――――――――雌雄を決める戦いだ!手出しは許さぬ!

私を信じるか?!)


 ウオォ―――――――――――!


 決戦の火ぶたは切って落とされた。


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