04話 コボルトの動き
人狼。
現在確認されているコボルトの最終進化体。
コボルトが狡猾に、策を巡らせ、長い年月を生き、そして何より、才と運を兼ね備えた者のみが座すことの許された至高の座。
まさに全コボルト種の憧れの存在だ!
その危険度は堂々のB。
ベテランの冒険者が万全を期しても、不覚を取られかねない、それ程の強者。
だが、人狼の真の強みは、その強さではない。
指揮力。
《共有する瞳》という特殊技能により、あらゆるコボルト種と視界を共有することが出来るのだ。
その恩恵は測り切れない。時々刻々と変化する戦況にノーログで対応することが出来るのだから・・・
まさに、チート級の能力である。
とはいえ、もちろん、全てのコボルトと視界を共有などしたら、いかに指揮に特化した人狼と言えども頭が焼き焦げる。
それ故、中継指揮官を配して、その数体と視界を共有するのが人狼の戦い方だ。
何人の指揮官を配せるかは、その人狼の能力による。
まあ、大抵は3~5体だ。
酷亜の森東方には四つのダンジョンが存在する。
酷亜の森自体が広いため互いに不干渉を貫いてはいるが、決して友好的という訳では無い。
むしろ、自尊心の強い魔王同士、冷戦関係と言ってもいい。
その一つ、洞穴のようなダンジョン。
そこは地下二階構造になっており、いかにもダンジョンと言う内装だ。
その最奥に一人の男が座していた。
座しているとは言ったが、椅子に座っているという訳では無く、というか、家具らしいものは一つも見当たらない。
大広間の様な更地に、円を囲むように火が灯っている。
そんな場所。
「はっ!報告いたします!ここより南西20キロほどの地点にダンジョンが出現しました。」
いささかの緊張を含んだよく通る声。その流暢な言語からは確かな知性がうかがえる。
そんな声を発したのは、男の前で膝を着き、忠義の姿勢をとっているコボルトだ。
その体は、通常のコボルトではあり得ないほどの魔力を、息をするように流していた。
ハイ・・・いや、アーク級のコボルトであろう。
彼は自身の最も敬愛する男からの返事を待つ。
しばらくして・・・・
「・・・・報告ご苦労。」
ただ一言それだけだ。それだけ言うと男は手を上げ、退出を促す。
誰もいなくなった、大広間で、男は熟考を始めた。
つい数日前。あり得ないほど強大な魔力を感知した。
強大・・・・そんな言葉で表していいのか?
世界の道理を捻じ曲げるほどの魔力、あまりに大きすぎて、それがどこからの魔力かすら分からなかったほどだ。
そして、今回のダンジョン誕生。・・・つまり、ダンジョンマスターの出現。
偶然?・・・そうなのか?
やはり答えは出ない。
だが、どちらにしよ、捨て置くことは出来ないな。
多少離れているが、逆に言えば、その程度しか離れていないのだ。
そんな場所でのダンジョン誕生。
多かれ、少なかれ、影響はある。調べる必要があるな。
男はそう結論付け、三人の部下を呼ぶ。自身が最も信を置く8人のアークコボルトの3体だ。
男の呼びつけ出来た三人がそろうのを見届け、男は言葉を発した。
「新たに出現したダンジョンを調査せよ。」
「「「我らが王のお心のままに!」」」