四話 冒険者ギルドに登録しよう【4】
またちょっと短いよ
登録までは今回で終わりです
駆けてくるホブゴブリンを見ながらジャックはため息を吐く。
試験に不満が有るのでは無い、そもそもホブゴブリンは実力を計るのに丁度良い強さであり、ゴブリン退治に慣れだした多くの冒険の死因でもある。
自分の強さを見余らないようにする冒険者ギルドの配慮といえよう。
ジャックのため息をの原因は、試験において力を見せるべき相手に、何が起こったのかも理解出来ない内に終わらせている2人のせいである。
体力測定を見えない速度で起こっても意味は無いのだ。
この試験は、ただホブゴブリンを殺せば良いという訳では無く、その過程を見せる事が目的である。
眼前に迫り棍棒を振り上げたホブゴブリンをジャックは涼しげな顔で見ており、未だ動く気配は無い。
ホブゴブリンの頭を超えた棍棒は、落下と同時に加速を始める。
ある程度加速した棍棒を見て、ようやくジャックは動き始めるが、その動きは怠慢でありとても避けれる様では無い。
先程の事もあり大丈夫だろうとはペッシも思っていたが、心配なものは心配なのだ。
僅かに身体を傾けた程度でどうにも避けきれない様に、冷や汗をかいてしまう。
どの様な魔法を使ったのだろうか、棍棒の軌道は紙一重でジャックに当たらない。
必中を確信していたホブゴブリンは、苛立たしげに地面に衝突した棍棒の反発を利用し、斜めに振り上げる。
これも僅かに後ろに身体を傾けたジャックには当たらない。
その後の蓮撃もギリギリで躱すジャックに、焦れたホブゴブリンは、身体全体を使って大振りを仕掛けてきた。
確かにこの動作ならば、今までの様な動きでは避けるのに間に合わないだろう。
ホブゴブリンの知能に少し感動したジャックであるが、実力の差が明確に開いてる状態で、隙の大きい大振りを見せればばどうなるかは一瞬であった。
ホブゴブリンは自分の顎に伸びる腕の先、中指を溜めたジャックの指先を見た。
鋭い指先から顎に放たれたデコピンは、ホブゴブリンの脳へと衝撃を伝え、意識を彼方へと吹き飛ばす。
飛び退いたジャックが先程までいた場所に、勢いのままにホブゴブリンが倒れ込んだ。
「どうだペッシ、観ていただけたか?」
「あ、ああ!素晴らしい動きだ」
ペッシは感動してた、自分が過去何見たどのC級冒険者でも届かない、もしや彼ならばB級にも届くかもしれないと。
「試験は合格と考えてもよろしいかな?」
「勿論だ、全員ホブゴブリンを単独撃破したからな。D級の資格は十分にある、此方としては直ぐにでもC級を与えたいが、残念ながら規則でな、与えられる最高がD級なんだ。すまない」
「謝る必要などあるまい、俺はペッシの敬意に応えれる冒険者を目指すのみだ」
ジャックが伸ばした腕をペッシが握る、思い出すのは、重症を負ったペッシの手を敵でありながら握り励ましてくれた彼の記憶。
「なに、敬意も何もそれだけの実力があるというだけだ」
「そうか、この後は受付に戻れば良いのか?」
「その通りだ」
バツが悪そうに鼻の頭を掻くペッシに、ジャックは小首を傾げたが、話を促すように頷いた。
背後では何処からか取り出したオセロをサソリとエレナがやっているが、盤上はサソリの黒一色だ。
「俺は昔魔族に命を救われてな、だから魔族には恩を返したい。困った事が有ったら出来る限り力になる」
「そうか、俺の顔で受付嬢が萎縮して困っている」
眉を寄せ、ジャックは困った様に言ったのだが、他人から見てそれは、不機嫌な余り近付くだけで噛み殺されそうなドラゴンそのままであった。
周囲に恐怖をばら撒く大魔王