二話 冒険者ギルドに登録しよう【2】
ジャックちゃん視点だょ
ギルドの説明が終わり、俺は一息吐く。
どうもこの巨体と顔で怖がらせてしまうらしい、極めて紳士的に振舞っているのだが。
さて、やはりと言うか、既に俺はこの世界に産まれ直して何年も過ごしている為、違和感が殆ど消えたのだが、この世界では言葉を無理やり理解できる単語へと翻訳されており、所々おかしくなってしまう。
先ほどのA級もそうだ、何故アルファベットと日本語を混ぜるのだろう。
日本語の様に理解されるのだが、口の動きは全く違うのだ。
また、魔術の詠唱等も知っている意味のある単語に理解される。
俺たち技術提供者と言う名の、転移者や転生者を渡来人とはどう言う事かと知った当時は笑ったが、後日これは翻訳のせいでは無く、言葉を考えたのが日本からの転生者らしい知った。
長寿の彼は、今も元気にエルフの里で暮らしている。
日本以外の転移者や転生者もおり、翻訳効果のお陰で彼等とも交流するできる。
技術開発に携わった渡来人の技術者達は、世界も国境も越えて語り合える点では最高であると漏らしていたのだが。
さて、受付嬢に案内されて着いたのは地下の訓練場であった。
壮年の男が1人立ち、俺達に目を向ける。
歴戦の戦士としての覇気があり、恐らく上級の冒険者であるのだろうか?
その薬指には指輪が嵌められており、彼が既婚者である事が窺える。
こう言った文化も渡来人達がもたらしたので、経済的にも多くの影響を与えたのであろう。
「ほう、魔族・・・か?」
近くに連れ、俺の大きさが予想より大きかったのか、見下ろすその顔は呆けたものであった。
それでも上級の冒険者らしく直ぐに真面目な表情になったのだが、エレナやサソリを見るたびに表情が変わるのは大丈夫なのだろうか。
「ふむ、見た目で実力は分からねぇとは魔族って奴は難儀だ」
「だろうな、こう見えても俺はそれ程強くも無いし、温厚な性格だからな」
場を和ます様に肩をすくめて俺は言うが、男の顔は引き攣るだけであった。
本日だけでどれ程の人間の顔を引き攣せるのか、俺は自分の強面に憂鬱になる。
ちなみ強さも性格も事実であり、俺は自分を一方的に痛めつけた魔族と人間を何人も知っている。
「さて、教官殿。今日は宜しくお願いする」
「教官なんてガラじゃ無い。俺はペッシだ」
「ふむ、ペッシ殿は因みにどれ程の冒険者なのだ?」
「殿って柄でも無い、ただのペッシで良い。俺は元傭兵だが五年前の戦争で怪我して引退した、今はしがないギルドの職員さ」
エレナが俺だけに聞こえる様にボソリと、『膝に矢を受けてしまってな』等と言っていたが無視した。
「承知した、俺はジャック。世界より与えられた職業は訳ありで明かせないが、一応前衛とだけ言っておこう」
「だろうな、その筋肉で後衛等言われたら、俺の自信が崩壊する」
ペッシも挨拶により緊張感が解れてきたのか軽口を叩く。
黙っておくが、俺以上に筋肉を付けた後衛の魔族を俺は知っている。
職業とは産まれながらに世界より授かる天命と言われている程の才能であり、職業により得られる魔法や武術の練度が異なる。
例えば、魔法使いが60年の歳月で手に入れた武術は、武闘家が数年で身につける事が可能だ。
後天的に職業を手に入れたり変更する事は希少であり、万人は生まれ持った才能を伸ばす事しかできない。
途方も無い歳月をかけない限りは、最強の魔法と武術を扱うといった、異なる職業を極めるのは非常に難しい(魔剣士等特殊な職業も存在するが)。
この才能は人間にも、魔族にも、魔物にも存在する。
また、職業には一般的な剣士等の職業の他にも、珍しい職業も存在する。
各職業が所有する業は一般的に攻撃や防御、補助や回復を可能にするが、練習さえすれば効果は別としてどの職業の業も覚える事が可能である。
ただし、前述した珍しい職業にはオリジン業(翻訳は相変わらずである)が存在し、その職業のみしか使えない。
その為、自らの職業を明かすのは自然と手の内を晒す事になり、対策や寝首をかかれかねないのだ。
冒険者ギルドでは、パーティを組む為には職業を明確にした方が組みやすくはある。
だが、希少な職業や他人を信用しない者は、あえて弱点を晒す様な必要は無い。
「オレ様はエレナ、職業はオレ様も訳あり。良くわかんないけど、今は後衛だぜェ」
「ボクはサソリ、斥候もするけど前衛」
続いて自己紹介した2人の答えを聞いた後、ペッシは実力テストについて説明を始める。
冒険者達とは異なり、魔物の脅威はE〜S級で評価され、更にE〜Aは+-により3段階に分けられ、全16種類の脅威度とされる。
純粋な単体の脅威度から、群ることによる脅威度等を判別し受注条件が決定される。
因みに、天才と言われる人間の冒険者達は魔物の強さで言えば最大C+の実力であり、一般的なベテランはD級の壁を越えることが出来ないのが現状である。
受付嬢から聞いた説明では、今回の戦闘訓練は単体脅威度D-のホブゴブリンだ。
ゴブリン単体の脅威度はEなのに対し、脅威的な存在といえよう。
ある程度の知能を持つホブゴブリンが、リーダーとなったゴブリンの集落の脅威度はD+にすらなるのだ。
このリーダーを持つ集落は、複数の冒険者チームが一丸となってようやく討伐可能となる脅威度だ。
倒せない事を前提として実力を判定するにしても随分と性格が悪い。
因みに人間達はゴブリン種が女を攫い苗床にする魔物と考えているのだが、彼らは妖精の一種でありかつ人間の女相手に生殖行動はしない。
元々ゴブリンに雌はいるからだ(多種族に生殖を強要するのは人族くらいであろう)。
彼らがその様な勘違いをされる原因となったのは、女子供の肉は柔らかく力も弱いので捕食を目的として優先的に襲っていた為だ。
「ペッシよ、ホブゴブリンは殺してしまっても問題無いか?」
俺の問いにペッシは呆けたような顔をしたが、冗談だと理解したのか笑った。
「ああ、問題無い。まぁ、俺は長くこの仕事をしているからな、お前みたいに自信を持って大怪我をする奴も多く見てきた。気をつけろよ」
「ふむ、ホブゴブリンは何処に?」
ニヤリと笑ったペッシは、訓練場の中心へと歩を進め召喚魔法を起動する、おそらく使役しているホブゴブリンが浮かんだ魔法陣から出現する。
役2メートルの大柄な成人男性の様な身体に、醜悪な顔を持ち、その他には丸太を数った棍棒が握られている。棍棒はエレナの腰回りより太い。
ホブゴブリンを使役するとは、ギルドの協力があるとは言えペッシはかなり有望な傭兵であったのだろう。
「1人ずつ力を見せてくれ」
俺は誰から行くのか決めようと2人を見ると、サソリが片手を上げる。
「ボクから行こう」
ゆっくりとホブゴブリンに歩いて行く、素人が見ればただ歩いているだけに見えるが、解る人間には様々な歩行法を混ぜた高等技術らしい。
俺にはさっぱりわからない。
無警戒に近づいてきたサソリ目掛けて、ホブゴブリンは持っていた棍棒を振り下ろした。
何の抵抗も無く地面に激突した棍棒は土埃を立てる。ペッシは一瞬慌てたが、棍棒が当たると同時に位置がズレたサソリに気がつき今度は驚愕している。
今日は彼の表情筋が忙しくなりそうだ。
消えたサソリは棍棒の軌道から一歩下がった位置にいる、知らない人間には高速で動いた様に見えるが、サソリは最初からそこで立ち止まりホブゴブリンとペッシには幻影を見せていたのだ。
彼女の得意な魔法の1つである。
無防備に棍棒を振り下ろした体制のゴブリンに、左手で銃を作り向ける。
「ばん」
気の抜けた棒読みと共にゴブリンは倒れ絶命した、突如として眉間に空いた穴は脳髄にまで達しているのだろう。
相変わらずペッシの表情筋は廻まじく動いている。
「さて、オレ様が出よう」
戻ってきたサソリと交代で優雅にお辞儀をしたエレナが前に出る、ペッシは慌てて新たなホブゴブリンを召喚する。
ホブゴブリンの捕獲はかなり大変なので、ペッシには同情する。
また貴重なホブゴブリンが白い暴君に蹂躙されるのでは無いかと思ったが、エレナは意外と冒険者ギルドの経済に優しかった。
「ちゃーむ☆」
ピースの隙間から左眼を覗かせると宝石の様な紫の魔眼が発光し、魅了効果をばら撒いた。
ちなみにポーズや掛け声の必要性は全く無いとは本人から聞いている。
魅了されたホブゴブリンは目をハートにしてエレナの指示を待っている、魔法耐性を上げないで彼女の魅了に掛かれば死ぬまで戦う兵士となるであろう。
「オイおっさん、これで充分だろォ?」
正直に言えば魔眼という強力な手札を見せる事に頭が痛くなるのだが、魔眼持ちというだけでC級の冒険者と言われる為、実力の証明には充分なのだ。先程からペッシの反応が無い。
「ペッシ?」
目を向けて見ればホブゴブリン同様に魅力された既婚者のおっさんがいた。
ペッシは割と厳つい顔ですが、ジャックちゃんは顔だけなら魔王レベルなので目立ちません。
傭兵引退後に、幼馴染の女の子に介護されてその子と結婚し娘と暮らしているリア充で、奥さんは美人で近所からは美女と野獣と笑われています。