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創世樹  作者: mk-2
プロローグ
165/223

第164話 挑戦を終えて

 ――――イロハは危険極まりないレースを見事勝ち抜き、勝者となった。エリーが抱きかかえ、仲間たちが駆け寄る。





「――全く、あたしらが言えたことじゃあないんだけど…………イロハも大概無茶するわよねー……いよいよ駄目かと思っちゃったわよ…………」



「――やったね、イロハ!!」



「――大したド根性だぜ。出来れば2度とやりたくねえけどな。」



「――お前のその勇気……鍛冶錬金術師や行商人にしておくのは惜しかったな。」



「――イロハ。健康状態の確認をします…………ふむ。心拍数180以上。多大な発汗。過呼吸寸前の荒い呼吸。瞳孔の収縮具合。充血した眼球……間違いなくライダーズハイの異状興奮状態ですね。目立った怪我はありませんが、当分休養が必要でしょう。」





 心身に掛かった負荷でまだふらつくが、エリーに身体を地に下ろされ、自分の足で歩く。





「――ハアッ……へへッ!! 正直、チビるかと思ったっスよーっ!! 命があって良かったああああアアアア!! ――――でも…………」





 ――イロハは振り返り、自分が走った後のトラックを見遣る。





「――――『黒風』。中破と大破の境目ってとこっスね……ハアッ……ハアッ…………原型を少しでも留めているのが……ハアッ……ハアッ……奇跡的っスね。やっぱ無茶苦茶な内圧に耐えられるボディにしといて良かったっス…………」





 ――イロハと共に、限界を超えて走り切った『黒風』。ブレーキも利かないほどの猛スピードで走り、当然安全に止めることなど出来なかった。そのまま円形闘技場の壁に激突し、壁にめり込んでいる。タイヤは焼き切れて溶けており、ボディもあちこちに亀裂が入っている。ボディ全体が高熱で少し溶け、カーブを描くように変形してしまっている。とてもバイクとして乗れる状態ではない。





「――また……ハアッ……ハアッ……冒険用に組み直す必要があるっスね…………望むとこッスよ!! ウチも腕を上げて、もっとスンバラシイ業物に仕上げてやるっス――――さて……」





 ――イロハは無茶なレースに用いた『黒風』を痛ましく思って眉根を顰めつつ、最後まで競り合ったライバル――――強化機械装甲パワードスーツのもとへふらふらと近付いた。





「――生きてるッスか…………? 良かった……生きてるみたいっスね…………レースに勝つ為とは言え、ウチもガラテア軍以外の……無実の人殺しの十字架を背負うかと思ったッス…………」





 ――強化機械装甲はぎこちない動きながら、何とか脇腹の辺りにある電源の強制シャットダウンボタンを押し、電気を落とした。脚部、腕部と順に装甲を外し、最後に頭部の装甲を外した――――





「――――ふうっ…………私も出来ればその十字架は背負いたくなかった……お互い、命があって良かったわね。犠牲になったのは、スタート直後の爆弾を喰らった人ぐらいか…………」





 ――強化機械装甲を装備していた人間は、ゴツゴツした装甲から男性的なイメージを想起させていたが、実は妙齢の女性だった。金髪にところどころ青のメッシュを入れたポニーテールの長髪が特徴的の精悍な顔つきをした美人だ。過酷なレースの直後。全身が汗ばんでおり、美しい髪も大きく乱れている。





「――おお~っ……何となく女の人かなって思ってたっスけど…………かなーりの美人さんじゃあないっスかあ。にっひっひっひっひい~……そんなゴツいスーツを脱いだら美人さんなんて、ギャップにときめくっス~……♡」





「……そりゃ、どうも。私は元冒険者で、この国の色んな大会の虜になったのよ……武闘大会、ダンス大会、クイズ大会…………色んな大会に出て優勝して来た。今回も勝ちたかったな~……でも、優勝おめでとう、イロハさん。貴女と貴女の仲間たちのチームワークの勝利よ。」





 ――強化機械装甲を装備していた美女は、少し寂しい顔をしながらも、笑顔でイロハたちを称えた。





「……仲間かあ…………素敵ね。私は今まで1人で挑戦して来たから…………今度からは仲間を求めてみようかしらね…………。」





 ――彼女は、表情を引き締め直して目標意識に燃える良い笑顔を向けて来た。





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 ――――その後、円形闘技場ではリタイアした挑戦者たちを救助し、犠牲者……最初の爆発で命を落とした者たちの亡骸を処理し、閉会の儀が執り行われた。





 勝者であるイロハの勇気と栄誉、挑戦を称え…………それ以上に多くの敗者の力闘を称えた。





「――よくぞ勝ち取った。大会の王者の座を。約束通り……あの戦艦は君たちに譲ろう。すぐにでも持っていけ――――と言いたいところだが、イロハくんをはじめ、全員疲れ切っていることだろう。まずはこの国でゆっくり休養し、万全の体調まで回復したらまた私の処に来い。君たちには戦艦を持つ資格がある――――」





 ――ゴッシュは相変わらず感情表現に乏しいものがあったが、優勝したイロハをはじめ、果敢に挑戦したエリーたち全員を賞賛した。






「――このおっさんもこう言ってんだ。あんなデカい戦艦が俺たちの目に触れずに逃げるかよ。遠慮なく休養を取ろうぜ。」





「そういうことだ。戦艦に比べればはした金だが、せっかく優勝したのだ。これも持っていけ。」





 ――そう言って、ゴッシュは用意していたアタッシュケースを渡してきた。






「――おお~っ!! テンション上がるっスねえ~っ!! 大枚入ってんじゃあないっすかあ!! こりゃあ……1億ジルドはあるっスねえ!! これでまたひと商売――――ふうっ……」





 戦艦に加え、莫大な報酬を見て目を輝かせたイロハだが、さすがに疲労困憊だ。立ち眩みを起こして、グロウに寄りかかる。





「――あはは。イロハ、今はもう休もうよ。みんなも頑張ったけど、やっぱり今回はイロハのおかげだよ。僕たちまた助けられたね。」





「――にっ……にいひひひひひぃ~……よ、よきに計らえッス~…………」





 ――――そうして一行は戦艦に加えさらなる大金も得て、一旦宿へと戻りささやかながら宴を催した。勝利の美酒と心地良い疲れに酔いしれ、その夜は満たされた思いで眠りに就いた――――

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