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誰が救える  作者: 団扇籠
5/5

お勉強


「アッシー!」

元気いっぱい手を振りながら、大きな声で俺を呼ぶハナ。


 どうしてこうなった……。




 昨日、日が暮れても尚、ブランディとは雑談を交えながら色々と情報交換をした。

 面白かったのは、エルフの元の部族名はカーリィ、ドワーフはマーリィだったらしい。それが賢者様から「部族名はそれぞれエルフとドワーフにした方がいいかも。再び使徒が現れた際に、使徒からの接触が起こりやすいと思う」というアドバイスを頂き、それを踏まえ今後のことを考えて部族名を変えたとのこと。抵抗は無かったのかと聞くと「分類する際の呼称にすぎない」となんともまあアッサリした返答だった。

 お返しといっては変だが、俺の知ってる転移者に関する情報を全て教えておいた。神とおぼしき者は不親切だとか、表示されたスキル名なんかも出し惜しみせずに、特に使徒が複数人発生する可能性も含めて全部教えた。


 少し尿意を催してきたのでトイレに案内してもらう。まあ、なんとなくだがそんな気がしてたので吃驚しなかったが、当たり前のように綺麗な洋式水洗トイレだった。ただ用を足し水を流そうにもレバーが見つからない。これを放置するのはさすがに失礼すぎるので、素直にブランディに聞いてみた。

「これは水晶に手を置くと必要量の魔力を吸い取ってくれて、魔法で水を生み出してくれるんですよ。なかなかの逸品でしょ」

得意気に語るブランディ。どうやら賢者様との合作らしい。魔法のことは分からないが、紙の方は地球と比べても遜色ない中々の品質だったので素直に感心した。賢者様万歳である。


 応接室に戻ると、夕食を用意してくれる。

 パンとスープを食べながら明日からの予定を話す。

「森の中央に居る長へ使徒様顕現の報せを出し、返事が返ってくるまでにおそらく10日ほどかかると思われます。それから長に会いに中央へ向かうことになるでしょう。ですので、明日からそれまでの時間を魔法の勉強に当てましょう」

ということらしい。とりあえず当分の予定の目処が立ったところで話し合いは解散。夜も遅いので今日のところは、ということでブランディが寝床を用意してくれた。

 明日からは俺用の家をわざわざ用意してくれるらしいので、役立たずで放り出されないように頑張らねば。


 翌日、約束通りブランディが魔法を教えてくれるというので、案内された施設の一室で俺はちびっこ達の前に晒されていた。


「こちらは昨日村に来られた使徒様です。今日から数日の間ですが皆さんと一緒に勉強されることになりました。失礼のないようにしましょう」

「アッシー!」

元気いっぱい手を振りながら、大きな声で俺を呼ぶハナ。ブランディに注意を受けているが焼け石に水だ。

 ブランディに促され自己紹介をする。

「こんにちは、おじさんの名前はアシヤと言います。魔法を勉強したいので仲良くしてください。よろしくお願いします。あ、あと使徒様ではなく気軽にアシヤと呼んでくれると嬉しいです」

 確かに俺は魔法を教えてくれとは言ったが、まさかハナのような子供達に混じって勉強するとは思わなかったなぁと心の中で呟く。

 子供達がキラキラとした目で俺を見てくる。目の前に御伽噺に出てくる使徒様がいるのだからしょうがない。

 とりあえず子供達の一番後ろに座り授業を眺めるが、子供達は俺のせいで授業に集中出来ないようでチラ見してくる。肝心の授業内容はといえば、俺に合わせてくれての魔法の復習内容にしてくれた。

 ブランディ先生曰く魔法とは頭の中のイメージを、魔力を糧に言霊で発現させる技とのこと。魔力とは自身の体内にあり、意識に感応しやすい性質を持っていて、言霊とは魔力を放出しながらイメージを言葉で伝えれる動作。それを日々反復練習するらしい。使った魔力は、大気中の魔力の元となる魔素から補充されるとのこと。

 魔法初心者の俺には、まず魔力の流れを身体で感じてもらおうということで、生活用の魔道具を出してきてくれる。昨日応接室等でも使われていたランプの魔道具だ。台座の水晶部分に触れると規定量の魔力を吸って明るくなってくれる代物だ。

 少しどきどきしながら机の上に出されたランプに触れてみると悪寒が走る。触れた指先から急激に血を抜かれているような感覚だ。と思った次の瞬間、気がつくと俺は床で横になっていた。


「せんせー、アシーが目開けたよー」

ハナの声が聞こえる。

「だ、大丈夫ですか!? どこか痛いところはないですか!?」

どうやら俺は気を失ったらしい。ブランディに膝枕で介抱され……なんてことはなく、頭の下にはタオルが置かれている。

「うーん……えっと、すいません、なにがどうなって……」

身体を起こし状況を尋ねると「本当に申し訳ございません!」とブランディにもの凄い勢いで謝られる。

 説明されたところによると、俺はどうやら魔力が無いらしい。全く無いというわけではなく、極端に少ないらしい。ハナと比べても俺の方が少ないとのこと。そんな魔力で魔道具に触れたものだから、全部吸われてしまい失神してしまったらしい。

「グラっとして頭が机にバーン! ってなって後ろにバターン! ってなったんだよ! 凄かったー」

ハナが鼻息荒く身振り手振りで説明してくれた。

 頭には治癒魔法をかけてくれていたので痛みは無いが、気だるさが残る感じだ。失神してから時間はそれほど経っていないようで、まだ授業中のようだ。とりあえず意識も戻ったので邪魔にならないように隅っこで見学することにした。


 授業が一段落したところでブランディ先生に魔力について相談してみた。もし魔法適正無しとか言われたらどうしよう。そんな不安を抱くも子供達には関係なく、俺に群がり好き勝手に騒ぐ。

 ブランディ先生曰く、魔力を伸ばすには体力をつけるのと同じで、毎日魔力を使い続けることが効果的らしい。今のままだと小さな魔法1つ使うことも出来ないので、毎日暇さえあれば魔道具に触れ魔力を消費してくださいと宿題をもらった。ただし、これだけ歳を取って魔力量がこれだけしかない人は今まで見たことがなかったので、効果の方に過度な期待はしないでくださいと念を押される。

 

 再開された授業を横目に、俺は魔道具に触れては休憩を繰り返す。

 エルフの子供達は魔法を楽々こなしているが、獣人の子供達は皆苦手なようで悪戦苦闘しているようだ。ハナはといえば両手を宙に上げ、圧縮した空気球を作るといわんばかりに力を込めている。力技でどうにかなるものでもないと思うが、表情は真剣そのもので眉間によった皺がそれを物語っていた。


 そろそろお昼にしましょうか、とブランディが声をかけてくれる。

 魔力を吸われていただけなのにお腹がぺこぺこだ。正直助かったと思いながら道具を片付ける。

 子供達もお腹が空いたのか嬉しそうだ。獣人の子供達が俺に群がり戯れてくるが、何かデジャブを感じる。あぁ、そうか。昔、動物園で見たレッサーパンダによく似ているなぁと思い出す。飼育員さんに群がる姿が今の俺とよく似ていた。


 お昼は村の中央にある商店が運んで来てくれるらしい。

 子供達皆で品物を受け取りに行く姿に、小学生時代の給食係りを思い出す。

 玄関まで行くとちょうど運びこまれていたところで、甚平姿の人族の子供が小さな身体に目一杯の荷物を1人で運んできていた。子供達は皆元気いっぱいに「ありがとー」と受け取っていく。

 ブランディに「人族の子供は授業に出ないんですか?」とふと湧いた疑問をぶつけると、頭上にハテナマークが浮かび、きょとんとした顔が返ってきた。

「あ、もしかして彼のことですか? 彼は人族ではありませんよ、ドワーフなんです」

150cm無いぐらいの身長に筋肉質な体の子供にびっくり! これがドワーフ? 何に驚いたって、このショタ受けしそうな顔。ヒゲモジャはどこいった?

「あれ? 街中で見かけた人族の子供っぽいのは、もしかして全員ドワーフなんですか?」

「はい、そうですね。村には人族は居ませんので。よく見ると耳が少し私達みたいに尖ってるんですよ」

 賢者様はよく彼らをドワーフと名づけたなぁと思った。もしかして鍛冶が得意とかなんだろうか?


 昼食後は授業は無いので、ブランディの用事が片付くのを待って用意してくれた家へ案内してもらった。


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