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誰が救える  作者: 団扇籠
4/5

勇者様と賢者様と俺


 昔々、世界は地獄だった。

 ドラゴンが空を駆け、暴風が大地を薙ぎ払い、全てを焼き尽くす中、我々小さき者達はただただ怯え暮らす。そんな世界でした。


 ある時、とある村に余所者が流れ着きます。

 ですが余所者は良く分からないことを言うばかりで、村の者は気味悪がり誰も相手にしませんでした。

 村に受け入れてもらえなかった余所者は、村の外れで1人身を隠すようにひっそりと暮らすことにしました。

 村人は気づいていましたが、いずれ何処かへ行くか野垂れ死ぬだろうと見て見ぬふりをします。


 とある村に少女がいました。

 少女の暮らす村はとても貧しく、余所者を受け入れることが出来ませんでした。

 大人達は口々に言います。

「余所者と口を利いちゃいけないよ」

 何故? と理由を聞いても答えは返ってきませんでした。


 村の外れに時折顔を見せる1人の少女と、それを優しく迎える余所者の姿がありました。

 2人は色んな話をしました。自分のこと、村のこと、魔法のこと、そして世界のことを。

 余所者は少女に言いました。

「怯えて暮らし死ぬのを待つぐらいなら、皆で立ち上がりドラゴンと戦おう」

 少女はなんて無謀で滑稽なことを言うのだと思いました。そんなことが出来るなら今頃誰かがやっていると。

 余所者は少女に言いました。

「なら自分がやってやる。ドラゴンを倒してみせる」


 ある日、空の彼方から大小さまざまなドラゴンが何体も襲いかかってきました。

 皆散り散りに逃げ出します。家の中に逃げた者は地下へ、森に逃げた者は木の洞、地の洞へと。

 そんな中、余所者は村の外れで独り手を空にかざし、天まで届きそうな大きな声で叫びました。

「世界を、救う力を!」

 空にかざした手には何処から現れたのか、一振りの剣が握られていました。

 ドラゴンが余所者に引き寄せられるように一斉に襲い掛かります。

 しかし余所者が手をかざすと、ドラゴンは羽を切り裂かれ地に落ち、剣を一振りすると首を落とされました。

 炎を吐こうとしたドラゴンは火球ごと氷漬けにされ、魔法を使おうとしたドラゴンは串刺しにされました。

 空高く逃げようとしたドラゴンは雷に撃たれ消し炭となりました。

 こうして襲ってきたドラゴンは全て余所者1人の手によって倒されました。


 村は歓喜に包まれました。

 これで余所者は受け入れられるだろうと少女は喜びましたが、余所者は何も言わず村を出ていきました。

 少女も何も言わず余所者を追いかけ村を出ました。

 それから色々な種族の村を回り数多くのドラゴンをやっつけました。


 何時しか余所者は余所者とは呼ばれず、皆から勇者と呼ばれるようになっていました。

 また色々な種族、色んな村から勇者と共に戦うという者も出始めました。彼らもまた勇者と呼ばれました。

 仲間も多く集まり、少女は嬉しくもあり、少し寂しくもありました。

 そして力を合わせ全てのドラゴンを倒した勇者は仲間達と共に王国を造ります。

 何かに怯えて暮らさないでいいように、安心して暮らせる大きな国で皆で仲良く暮らしました。



「これが子供たちに聞かせている勇者様の御伽噺です。だいたい900年前のことになります」

そう言ってブランディは一息つけた。

「『御伽噺』ということは本当は違うのですか?」

「はい。勇者様とドラゴンの戦いは死闘でしたし、勝利しても村人は喜ばなかったそうです。」

何となく想像はつく。今までやり過ごして生き延びてきたのに、これでドラゴンの怒りを買ってしまったと思ったのだろう。

「また勇者と言われた者達も、各村々が『自分の村の戦士こそ、自分達の種族こそ勇者だ!』と口々に言ったそうです。あと、このお話には続きがあって、勇者様と少女は国の基礎を作った後に王国を捨て2人だけで世界を回ります。そして辺境の地に生きる人々の為に戦ったそうです。あ、ちなみに話に出てくる少女というのは我らがエルフ族の長のことです」

さらっと最後付け足されたけど、長ってことはご存命なんだろうな。エルフってやっぱり長命なのか……1000年近く生きるとは、凄いな。

「次にこれから話す賢者様の話は子供たちには話さないでいただけますか。成人の心構えとして、大人になってから話される内容ですので」

黙って聞いていた俺に、念を押すようにブランディは話を続ける。


 今からおよそ400年ほど前、王国に賢者様が現れます。

 賢者様は最初は名も無き王国民として民に混じり、目立たない生活を始めます。しかしやがて貧民を中心に国民の生活がガラリと変わっていきます。そこから貴族、王家と波及し、農業から魔法技術までありとあらゆるものを革新していきました。この頃から賢者様と呼ばれ始めます。

 賢者様は王国だけに留まらず、不毛と言われる厳しい北の大地へと赴き、更に技術を広め民の生活を改善していきました。

 しかし賢者様によって北の国が栄えてきたある日、北の大地奥深くから魔王が現れます。築き上げた生活が壊されるかという危機に、即座に賢者様は友軍を振り切って単身乗り込みます。そしてその身を犠牲に大魔法をもって魔王を封印されました。そうして出来たのが『北の果て』と呼ばれる巨大な壁です。

 それから程無くして、王国内にザベル教なる者達が現れます。彼らは「勇者様と賢者様、お2人と同じ種族の我らこそ神に認められた種族なり」と唱え、それに同調した貴族達によって異種族は弾圧され始めます。理由も無く奴隷に落とされる者まで出始めました。

 当時我らの長は、解放の為戦おうとなされましたが、賢者様の知識によって力を得た王国はあまりにも強大で歯が立ちませんでした。なので被害が拡大する前にと、逃げ延びた同士を集め海を渡り、ここ新大陸、森の大地へと移り住んだのです。


 そして我々は死んだと思われた賢者様と出会います。

 魔王との壮絶な戦いの後移り住まわれたのか聞くと、魔王なんて知らない、と仰られました。

 どういったことかお聞きすると、北の国は賢者様から授かった英知を軍備に注いでいたようです。やがてその力が生存の為ではなく、侵略の為に使われる日が来ると察した賢者様は、そうさせないために国の体制を変えようと動いていた際に背中を刺されたそうです。

 賢者様を亡き者にしようとした北の国相手であっても、賢者様は人を殺すことにどうしても忌避感を抱いてしまい、ただひたすら逃げてしまったことを酷く悔いておられました。あの時の戦いで全てを根絶するべきだった……と後に語っておられます。

 命からがら北の大地からこの大陸に移られた賢者様は、その後我々に、ここに『誰にも犯されない安住の地』を造るための知識と技術を与えてくださります。そして我らの生活が落ち着くと、旧大陸で虐げられる同士の救済に取り組んでくださいました。


「これが我々が使徒様と呼ぶ、勇者様と賢者様についてです」

そう言って話を締めるブランディ。

 うーん、要約すると、勇者が生存圏の確保、賢者が文明の革新を成した、といったところか? それにしても異世界でも人の業は深いのか……嫌になるな。


 気を取り直し、質問をしていいかとの問いに「はい、どうぞ」と快い返事が返ってくる。

「勇者様と賢者様のお2人はこの世界で生涯を閉じられたのですか? それとも元の世界へ還られたのですか?」

「勇者様は長に看取られながら生涯を閉じられました。賢者様はこちらと旧大陸を何度か往復されていましたが、最後に向こうへ行ったきり帰ってこられませんでした」

少し悲しそうな顔をするブランディ。あれ? 地雷踏んだ? 怯みそうになるも質問を続ける。

「私にはお2人のような能力や知識は何も無いのですが、それでも私を使徒と呼びますか?」

「はい、貴方様は使徒様であられます。なぜなら私には『モノを見る力』という世界の記憶を見る力がございまして、それが貴方様を使徒と示しております」

なにそのアカシックレコード。まさか全知?

「じゃあ私の能力なんかも分かったりしますか?」

「はい、『翻訳』『索敵』『魔力操作』の3つですね。他にも何かあれば拝見いたしますが」

少し食いつき気味に質問してしまったが、答えからどうやら本物のようだ。ならば見てもらうのはこれしかないだろう。


「是非とも能力の詳細と使い方を教えてください! お願いします!」


先輩使徒2人に対し何て頼りない使徒なんだろう、と頭を下げながら我ながら思った。

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