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誰が救える  作者: 団扇籠
1/5

はじまり

処女作です。

異世界に行きたくて書き始めました。

よろしくお願いします。

 日本の夏は暑い。


 信号待ちをしているだけでワイシャツが肌にへばりついてくる、うだるような暑さだ。そういえば天気予報は今日も35℃を越える猛暑日だと言っていたと思い出す。さんさんと照らす太陽とアスファルトの照り返しにむせる排気ガス。周囲には同じように暑さに耐えながら信号が変わるのを待つ人達がいる。

 俺の横には日傘を差した女がいるが、日傘が目に刺さりそうで怖い。この混雑した街中で日傘を差すのが他人に迷惑だと思わないのか。自分さえよければそれでいいのか。歩きタバコと同じように非難されてもいいぐらい危ないのにとイライラが加速する。

 暑い。そう全てこの暑さが悪いのだ。なんで俺がクソ熱い大阪からわざわざクソ熱い東京へ出張せなアカンねん、と腐りながら鞄からハンカチを取り出し顔を拭う。眉を決壊し目頭へ滝のように流れ出す汗を拭い、眩暈がする太陽を拒むように目を閉じ空を仰ぎ顎を拭う。少しすっきりしたかなと思いながら目を開けて思考が停止した。


 そこは焼け野原だった。


 信じられないことに先ほどまであった喧騒な街並みが一切無くなっていた。横に居た日傘の女がいないどころか、照り返すアスファルトは一切無くなり土の地面がむき出しになっていた。空はどんよりと曇り、辺り一面は焼け焦げている。燻って煙を上げる物体が多々あり、それは草木だけではなく馬らしき大きさの赤黒い物まで様々だ。

 目を向けたくないがどうやら人も多々焼け焦げているようだ。インターネットでグロ画像には耐性がついたと思っていたが、実際目の当たりにすると違う。焼け焦げる臭いが意識を否が応にも現実に戻す。とたんに全身に緊張が走り硬直し、肺が萎縮し呼吸も荒くなる。

 目の前の光景を更に異質なものにしていたのが、立ち尽くした真っ黒な人影。あれは何だ? 遠近感が狂いそうになる光沢のない人影は、まるで成仏できない地縛霊のようにいくつも立っていた。怖い、怖すぎる。今すぐ逃げ出したい。この地獄から。死から。膝が笑う。

 

 突如目の前が光った。光ったのは一瞬だけで光もそれほど強くなく目が眩むことはなかったが、体が固まり唖然とする。俺の目の前にはウィンドウが浮かび上がっていた。そう、パソコンで映し出されるブラウザのウィンドウのことだ。

 ウィンドウはタブレットほどの大きさで横向きに表示されており、ウィンドウ上部にはデジタル表示で1000からカウントダウンがされている。ウィンドウには横に3列、縦に5列の15個のボタンが並んで文字が表示されていた。


筋力向上   体力向上   俊敏さ向上

視覚向上   聴覚向上   触覚向上

身体頑強   魔力増大   治癒力向上

苦痛耐性   毒耐性    精神耐性 

身体回復魔法 解毒魔法   精神回復魔法


 これは……? 状況についていけない。選べということなのだろうか? 並ぶ文字に目を走らせ、魔力や魔法という文字を見つけ俺は愕然とする。

 まさかこれは……異世界転移!?


 信号待ちから非現実的な焼け野原へと景色が変わった突然転移。このゲームでは味わえない現実感。そして選べと言わんばかりのウィンドウに表示されたスキル。これは絶対そうだ、幾度となく読んだラノベに出てくる異世界ものに違いないと現実逃避するように脳が答えを出す――ということは、あの人影達は幽霊じゃなく他の転移者? 仲間? いやデスゲームな展開になるなら敵か?

 異常な現実に処理し切れなくなった反動か、妙な高揚感が溢れだし恐怖は薄れ膝の震えは止まっていた。


 今後の展開を考えるとスキル選びは重要だ。だがスキルを見るにどうもひっかかる。スキルは『筋力向上』『体力向上』『俊敏さ向上』と運動機能の向上はあるのに器用さや賢さといったゲームなんかで使われるステータスが無い。他には『視覚向上』『聴覚向上』『触覚向上』と感覚機能の向上があるが、これが五感からだとすると嗅覚や味覚が無いのも気になる。ゲームと現実を混同するなと言われそうだがどうも釈然としない。

 魔法は『身体回復』『解毒』『精神回復』の3種類の魔法だけしか表記されていない。精神攻撃魔法なるものが無いのに精神回復魔法があるのも謎だ。用意してないだけと言われればそれで終わりだが。


 一通り見終わって、カウントダウンが残り800を切っているのが見える。


 ウィンドウにはスクロールバーが無ければページ切替ボタンも無い。そもそも選べるスキルの数が分かってないので、下手に触れてスキル選択済みになるようなことは避けたい。

 そういえば他の人達はどうしてるのだろうと顔を向けると、何も無い宙に向かって顔や手が泳いでいる。どうやらこのウィンドウ他人には見えないようだ。もしかすると各々見えてるスキルが違うのかもしれない。

 だとすると今後の展開がもしデスゲームだった場合を考え、相手のスキルを聞き出してから選択したほうがいいのか? と動揺しそうになるも、真っ黒で性別すら不明な人影に話しかける? この人数をこの残り時間で? 無理無理と頭を振り一蹴する。

 ただウィンドウに顔を戻すも先ほどの違和感が拭えない為、どうしても決めきれないまま時間だけが過ぎて焦りだす。


 視線を泳がしながら、スキルボタンに触れず1つ試せることをふと思いつく。それはパソコン感覚でウィンドウの枠(境界線)を拡大してみるというものだ。スキルボタンに触れないよう気をつけながら迷わず実行に移す。そして右下角を引っ張ってみると……。

「イエスッ!!!!」

 ウィンドウが広がり隠れていたスキルが現れた。

 やっぱりスキルが隠れていた! 違和感は間違ってなかった! と、他者より優位に立てたと思えたせいかテンションが高まり過ぎて変な喜び方をしてしまった。イエスって何や? ビンゴって叫ばなかっただけマシか? と心の中で自分にツッコみニヤけてしまう。


ウィンドウは最大まで拡大され、新たに追加されたものを合わせ全部で47個のスキルが表示されていた。


筋力向上   体力向上 俊敏さ向上  器用さ向上  魔力向上

視覚向上   聴覚向上 触覚向上   味覚向上   嗅覚向上

身体頑強   魔力増大 治癒力向上  疲労回復向上 魔力回復向上

苦痛耐性   麻痺耐性 毒耐性    精神耐性   呪い耐性

身体回復魔法 解毒魔法 精神回復魔法 解呪魔法   結界魔法

火魔法    水魔法  風魔法    土魔法

強化魔法   弱化魔法 精神魔法   呪術魔法

魔力制御   魔力操作 魔力付与   魔力無効

索敵     探知   危険感知   空間把握   道具箱

鑑定     分析   隠蔽     詐称     翻訳


 ざっと見たが『呪術魔法』呪術で魔法? 『魔力制御』『魔力操作』制御するから操作出来るんとちゃうんか? 等こんなどうでもいいツッコミを入れてる場合じゃないモノを見つける。『翻訳』これはマズイ。これがあるということは言語の違いがあるということだろう。ということは異世界語が使えなければ日常生活すらままならないということだ。日本語以外全く話せないのに、俺tueeeなんか夢見てる場合じゃない。たとえ子供に転生したからといって異世界語を一から覚えられる気がしない。

 大体こういう異世界ものだとサービスで自動翻訳されるものじゃないのか。それじゃあなにか? 『筋力向上』しても『身体頑強』がなければ己の力の強さに体が耐え切れず自滅するとかいうのか? スキルが隠されていた件や現状の詳細を教えてくれない不親切設定に頭を悩ませる。

  悩んだ結果、スキルを複数選べない可能性を考えて優先順位をつけていくことにした。選ぶ判断としては何かに殺されないことを大前提に選ぶ。

 1つ目は『翻訳』 現地の人間と意思疎通出来なければ詰むと考えた。言葉の通じない異邦人なんて殺されても文句も言えやしない。

 2つめは『索敵』 何が襲ってくるか分からないので、レーダーのように使えるものだったらいいのになと。盗賊やモンスターに襲われたら囲まれる前に逃げなければ死ぬ。出来れば襲われる前に察知したい。

 3つ目は『魔力操作』 魔法がある世界なら、魔力が操れば何も無いよりは覚えることも楽なはず。そして魔法が使えるようになればある程度のことは魔法でカバー出来るんじゃないかと思ったから。また魔法に何も対応出来なくて詰むのを避ける為だ。『魔力制御』にしなかった理由は単に言葉のイメージから難しそうと感じたから。

 4つ目は『身体頑強』 何事も体が資本。怪我一つで死亡もありえるし、現代でも風邪で死ぬことだってある。

 5つ目は『毒耐性』 現地の人間には大丈夫な食べ物でも俺には猛毒かもしれない。善意で施してくれた薬が体に合わず猛毒だったなんて笑えない。

 これ以上まだ取得出来るようなら、耐性と回復を取れるだけ取ろうと考えた。


 スキルにつけた優先順位に不安と興奮を覚え、自然とニヤける口元を手で覆う。ウィンドウに空いてる手を伸ばし、1つ目に選ぶと決めたスキルボタン『翻訳』に触れる。少し間を置いて緊張と共に周囲を、そして自信を確認するが何も起こらない。ボタンは色が変化しているので確かに押されたようだ。

 続けて2つ目の『索敵』に触れるが何も起こらない。これ以上悩む時間も無いので、優先順に続けて押していくことにする。

 3つ目の『魔力操作』を押した直後ウィンドウ画面が小さく……いや自分の周りの風景もまとめて、まるで奥に引っ張られように小さくなっていく。少し動揺したが、ふと思い出す。ああ、子供の頃は緊張すると周りのものが遠く小さくなっていくように見えたものだが、歳を重ねるごとに見えなくなっていったなあと。大人になってそれが不思議の国のアリス症候群というものらしいと知った。だからこれもそれだと思った。この歳になって久々に体験すると気持ち悪い視界だが、極度の緊張から再発してしまったのかと冷静に思っていた。

 しょうがない4つ目のスキルを間違えないように選ばないとな、と手を伸ばすがウィンドウに手が届くことはなく、加速して引っ張られ小さくなり続けた視界は「へええええっ!?」と叫んだ素っ頓狂な声と共にやがてホワイトアウトし音も臭いも無くなった。

 周囲を見渡しても地平線すら見えない遠近感の無い白一色の空間。慌てて周囲を確認するも空と地面の区別すらつかず、平衡感覚を無くし思わずその場にしゃがみこむ。次の瞬間眼前に小さな黒い点が見えた。


「どうか救ってください」


 頭の中に響くようにして聞こえた唐突な声に「えっ?」と反応する間もなかった。

 遥か彼方から津波が押し寄せるように、その小さな点は色となり音となり空と大地が溢れ景色がジェットコースターのごとく俺を飲み込んだ。俺は立ち上がることも出来ず、しゃがんだまま丸くなって呆然としていた。


 こうして俺は異世界に転移した。


 目に入って来た光景はさっきまでの焼け野原ではなく、見渡す限り壮大な草原だった。「おおぉ…」と感動の声をあげ、空を見上げると太陽は低く時間的にはまだ朝といった感じだ。後ろを振り返ると少し離れた所に森が見える。

 服装は装備らしい装備も無く、上下ゆとりのある七分丈な布のTシャツ・パンツに靴はブーツに変わっていた。

 我に返り、まずは安全を確保しなければと思い俺はそのままその場で体を伏せ『索敵』を発動させる。

「索敵発動」

……ん? 声にするが何も起こらない。

「索敵開始」

……そもそもどうすれば発動するんだ? 思いつく言葉を並べてみる。

「ステータス表示、ステータスオープン、メニュー表示、メニューオープン、スキル表示、スキルオープン、スキルメニュー、ヘルプ表示、ガイド表示、索敵スタート、スキル索敵始動、スキル索敵開始、スキル索敵スタート……」

 あれ? どういうことだ? いくら発声しようと発現しない。音声発動じゃない? いや、まさか取得されてない? スキルを選んだと思っていたが実は放棄していた? うんともすんとも言わないスキルに不安になる。

 他の転移者はどこだ? と見渡すも誰も居ない。俺が転移された時あと数分程度だが時間が残ってたはずだと思い出す。出現まで時差があるかもと思い、伏せたままスキル発動出来そうな言葉を思いつく限り口にしながら待つことにした。誰かそれっぽい人間を見つけられたら情報をもらう為にも積極的にこちらから声をかけようと決める。





 太陽は既に真上にまで昇っており真昼になっている。都会の夏に比べれば格段にマシなのだろうがそれでも暑い。じっとしてるだけでも汗が染み出す。

 雲以外動くものが確認出来ないので俺はその場をとぼとぼと歩き離れ、森の入り口の木陰で一人座りこんでいた。

 スキルはどういった理由か一切発動しない。情報を手に入れようにも他の転移者は全く現れない。水を飲もうにも転移の際に入れてあった鞄は無い。水だけじゃなく携帯型のゼリー飲料や塩アメも入れてあったのにそれも無い。誰かに助けを求めようにも人っ子一人見えやしない。無い無い尽くしの現状に目下テンションだだ下がりである。


 思わずこぼれた言葉だった。


「これ、アカンやつや……」



ご意見、ご感想、ご指摘、何でも構いませんお待ちしております。いただいたご意見、ご感想等は今後の作品に活用させていただきます。

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