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07 (文字通り)身の丈に合わない努力の話





「図書館ねぇ……」


 理解できない、という顔で村井先輩は呟いた。

 どうやら村井先輩は読書があまりお好きではないらしい。


 図書委員なのにと思うが、多分お兄ちゃんの為なんだろう。

 いいお友達だ。



 先輩は返却されてくる本のバーコードを手際よく読み取りながら「学校終わっても図書館行きたいとか流石貴仁の妹だよなあ」と続けた。

 先輩がバーコードを読み取っては横に積んでいく本を、タイミングを見計らって奥に運ぶ。


 何故私がこんなことをしているかというと、実は私も一年の図書委員だからなのである。

 委員会決めの際に誰よりも早く立候補させて頂きました。

 半ばフライング気味にピシッと挙手をした私に異議を唱える者はおらず、スムーズに着任。

 いやぁ、生徒の自主性を尊重していく教育方針ってスバラシイね!



 委員会に挨拶に行ったら件の村井先輩が大歓迎してくれたんだけど、私にとってはその時が初対面だったものでやたら元気よく歓迎してくれた上級生にドン引きしたのを覚えている。

 周りの人が呼ぶ名前を注意深く聞いて「村井先輩」と呼んだら、滅茶苦茶照れた挙句に「いつも通りりょーにいでいい」というので、私が今まで呼んでいたらしい呼称の情報をスムーズにゲットできた。


 でも村井先輩よりりょーにいの方が恥ずかしい気がしたので「小学生になったのできちんとするんです」とおしゃまな小学生ぶってお断りして今に至る。



 裏に回ると積んだ本が大分溜まっていた。

 そろそろ本棚に本を戻していかないと置き場所がなくなってしまいそうだ。

 村井先輩のやってる返却作業も今はそんなに忙しくなさそうだし、私は本を棚に戻す作業をやっていた方がいいだろう。

 図書室用のカートに本を詰めて、カウンターの横を通る。



「先輩、私本を棚に直してきますね」

「お?……おー、なんか冴夜ちゃん俺より図書委員してるな」


 もちろんですとも。

 なんてったって前世でも万年図書委員でしたからとは言えない。


 棚に貼られた見出しと本の分類番号を確認しながら本を棚に戻していく。

 棚の場所が頭に入っていないからまだ効率が悪いけど、これなら直ぐに覚えられそうだ。

 






「……あ」


 一冊の本を手に取ったところでテキパキと動かしていた手が止まった。


 普通小学校の本棚は、小学生でも無理なくとれるようにとその身長を考えて低めに設置されている。

 この学校でも普通の本棚はそうなのだが、壁面を本棚にした部分は、割と高い位置まで本が詰まっているのだ。




 そして私が今手にしている本はその壁の本棚に片付けるべき本なのである。


 ――誰だよ、あんなとこの本とったの……


 恨みがましく本棚を睨み付ける。

 ああいうところに入ってる本は、大体生徒があまり触らない分厚い本であることが多い。

 滅多に出さないから高い所にしまっててもいいよね、という事なのかもしれないが、いざ出してみると分厚い本を高い所に戻すというのは非常に面倒な作業である。


 ちらりとカウンターを見ると、カウンターには絶えず数人が列を作っていた。村井先輩は忙しそう、ということは……。


 取り合えず高い所へ戻さなければならない本は後回しにして、他の本から所定の場所に収める。








 ――……さてと


 あらかた本を戻し終わって、残るはあの高い所に戻さねばならぬ本だけである。

 手についた埃を払いながら辺りをぐるりと見回すと、図書室の隅に置いてある脚立を発見した。目的の本棚の前まで引きずってきて、本を持ったまま脚立にのぼる。




 そしてのぼりきった時、重大な事実に気づいてしまった。



 この脚立の高さと私の身長の高さでは、本を戻すのにはやや高さが足りないのだ。

 ――本当に誰だよ!!あんな面倒臭い所から本とった奴……!!


 高い所の本を取った人間を理不尽に呪いながら、呪っても本棚は低くならないのでもう一度本棚を見上げる。



 ――……ふむ、このくらいの高さなら、背伸びをしたら私でもギリギリ届かないでもないかもしれない。



 本棚に左手をかけて爪先立ちになる。

 右足を浮かせて角度をつけ、体を目一杯伸ばしたまま、右手の指先で本の背表紙の下の方をギリギリまで持ち上げる。





 ――お――届いた!





 爪先がプルプルするものの、あとはこのまま押し込めば――












「冴夜!!!」

「ひぃっ!?」


 突然大声で呼ばれてバランスを崩しそうになり、慌てて本棚にへばりつく。

 思わず取り落した分厚い本は、私に直撃することなくカートの中に落ちた。


 今私の前面は壁一面の本なのだ。後ろから急に声をかけるとか本当にやめてほしい。

 心臓をバクバクいわせながら踵を脚立におろすと、駆け寄ってきたお兄ちゃんの手によって脚立からひょいとおろされてしまった。



「なにしてるんだよ」

「なにって、本を……」

「それは、見ればわかったけど……」


 抱えられたままお兄ちゃんを見上げると、お兄ちゃんは肺活量に挑むような重たい溜息をついた。


 


「……えっと」 


 脚立と本棚と、溜息をついたお兄ちゃんを交互にみる。

 ……そりゃそうだよね!脚立の上で爪先立ちとか危ないよね!と思っても今さらだ。

 

 心配をかけてしまった。

 自分的にはいけると思ったんだけど、確かに私がお兄ちゃんの立場ならひやひやしたろう。


 小1女児が脚立の上で爪先立ちしながら本を直そうとしている図。

 ……うん、字面的にも十分駄目だ。


 人がやってるの見ると危ないなって思うけど、自分がやるとなると気をつければ大丈夫かなって思う時、あるよね。



「ごめんなさい。あとちょっと足りないだけだったから行けるかなって思ったの」



 全面的に私が悪かったのは明白なので素直に謝罪する。

 その時、ぱたぱたと近寄ってくる足音が聞えた。



「貴仁?なにか――あ、」

「あ、村井先輩」



 カートと棚と抱えられた私をみて瞬時に状況を悟ったらしい。現れた村井先輩は言葉を途中で切って、天井を仰いだ。






「丁度良かったです!私じゃ届かないので最後の本戻してくれませんか?」




「それもっと早く言おうな冴夜ちゃん……」






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