11 便利な道具を持っていても使えないなら意味がない話
翌日清水に連れてこられたのは、通常授業を受ける教室ではなく、『固有異能対策室』というプレートの出された部屋だった。
固有異能対策室とは、多人数教室ではカバーしづらい、例外的な存在である固有異能者の為に作られたものだ。
学園の実習授業は、数の多い一般的な異能者に合わせて行われる。
身体強化系同士の組手だったり、火や水の属性異能を扱う異能者による異能の撃ち合いや、的当て等。
けれど、固有異能を持つ異能者が身体能力強化系異能の異能者や属性系異能の異能者と同じ制御訓練を受けても使用する異能自体が違う為意味がなく、また、前例のない異能だとどうしても固有異能の生徒に手がかかる。
端的に言うと、“相手のステータスを視る”異能の清水君と“火”の異能の生徒に同じ的撃ちの課題を出して異能の精度を上げようとしても、清水君にはできないし何の意味もないから個別カリキュラムを組むよ!という事だ。
他の異能者と混ぜても問題ないような固有異能であれば、普通に一緒に授業を受けている者もいる。
ある程度異能が制御できるようになれば、寮長が言っていたようにチーム戦で各々の長所を生かし欠点を補い合いという訓練も行われるようになるが、それまで固有異能者には異能を見定めた上でその異能を伸ばすのに適切だと思われる訓練があてられる事になっていた。
「固有異能の訓練はちょっと特殊なんだ。君が自分の異能をある程度制御できるようになるまで、異能実習系の授業の時間は此処で制御訓練を受けることになるよ。」
……という訳でしばらくは、教科書を読むような授業や、体術とか(もちろん希望者でもないかぎり強化組と組む事にはならない)の授業以外は此処。
固有異能者への対応に関して随分頼りなく聞こえるかも知れないが、学園でならば核シェルターばりの強固な外壁に囲われているし、万が一の為に“空間を分断する”固有異能者も常駐している。
最悪異能を暴発させることがあっても学園内にいれば最低限の被害で押さえることが出来るのだ。
それだけでも学園内で能力制御を学べる利点は大きい。
「君の場合はまずどういう異能か、からかな」
「どうやって調べるんですか?」
「現状、手当たり次第、って感じ?」
「なるほど、分かりやすくて助かります」
覗いた教室内には他に2人の子どもが待機していた。
その内の一人でもあるしほが、教室に入ってきた冴夜に気付いて嬉しそうに手を振る。
「君は松岡さんと同室なんだったね。もう一人は柏木慧君、“読心”の異能だよ」
「読心……」
思わず口に出すと、少年の肩が僅かに揺れた。
また知らない登場人物、しかも厄介な異能までついている。
――――”読心”か。まずいな
知らず、眉間に皺が寄る。
私にとって“読心”の異能は不快とか以前に脅威だ。
少年に自分の正体が知れては不味い。
私の異常な生い立ちも、この先の未来も全部ばれる事になってしまう。
この少人数体制では難しいかも知れないが、できる限りこの少年には近寄らないようにする方が得策だろう。
少年が能力を使いこなす前に自分の異能を扱えるようになり、できるだけ早くこの教室を出る必要があった。
□
「あの、これは」
席に着くと同時に、机の上に原稿用紙が置かれる。
予想はしつつも、原稿用紙とそれを持ってきた清水の顔を交互に窺う。
「ま“作家”というくらいだからね」
「そんな安直な……」
「安直も何も、普通はもっとそのまんまな名前が出るんだよ」
――確かに先生の“相手のステータスを視る”異能はそのまんまな名前だと思うけど
本当に手当たり次第というわけか。
ぺら、と枚数を数えると、15枚。
「足りなければ持ってくるけど、取り合えずそれの消費がノルマかな」
「十分です……何をかけばいいんですか?」
「そうだねぇ……色々試して欲しいんだけど、お話とか書いたことある?」
固有異能の性質は発現した人間の精神や習慣に依存するものが多い。
とくると、趣味など、私の何かしらの習慣に関連するものである可能性も探る必要があるようだ。
――千尋だった時は色々書いたけど
冴夜になってからはその類は一切書いていない。
見られると余計な疑いを掛けられかねない行動は自粛していたせいだ。
急に習ってもない漢字を使って、綺麗な字で小説を書くようになった小学一年生など私なら褒める前に気味悪がる。
あの両親なら天才だと大喜びして受け入れてくれそうな気もするが。
まともに書いたのはマル秘ノートくらいなものだったが、あれも結局破って捨ててしまったし。
「このままいくとポエムとか書かされそうですね」
「異能の正体が分かるまではあらゆる可能性を試す必要があるから、そうだね」
「うへぇ……」
これから小説書いたり詩を書いたり教科書模写させられたりとか三昧になるんだろう。
模写とかならまだいい。小説や詩をかいてひたすら提出?新手の精神的拷問か。
それでも5枚ほど頑張って埋めたところで、鉛筆を置く。
よく考えたら詩なんて千尋の時もこっぱずかしくて書いてなかったよ。
どうせなら全く違う世界にしてくれたら前の世界の物語とかひたすら書くのに。
「しほちゃんは今何やってるの?」
「あ、わたしはね、今日は次に引くカードの模様を当てるのとか、やってるよ」
しほは隣の席に移動してきてひたすらトランプを捲る作業を続けていた。
それは予知っていうより透視じゃないかと思ったが、透かして見るとかじゃなくて捲るカードを当てるんだから予知の練習ってことでいいんだろうか。
「さやちゃんは次、なんだと思う?」
「えっと……スペードのクイーン」
「じゃあ、わたし、ダイヤのエースで」
捲られたカードはハートの8 。
どっちも外れだ。
特に残念がる様子もなく次のカードを捲るしほ。完全に作業と化している。
「今のとこ的中率は?」
「うーん……さっきは23回目で当たったけど、その前は80回も連続で当たんなかった」
「それはまた、微妙な……」
「だよね……」
52枚のカードから適当に一枚引いて、その模様が何か当てる。
単純に考えれば52分の1の確率で当たる訳だ。
それがカードを23回引いて一回、80回引いて一回。普通にそのくらいの確率で当てても「すごい!超能力!?」と言われるようなレベルじゃない。
一般人でも普通に引いて適当に当てようとしてみればそうなるかなあぐらいの確率だ。
それこそ私がやっても似たような結果が出るだろう。
「予知したことはあるの?」
「うん。幼稚園の時、遠足のバスが事故にあうのをみたのが最初。前日まで凄く楽しみにしてたのに、当日になって急にバスが落っこちる―!って大騒ぎして幼稚園休んじゃって。そしたら、本当にバスが転落事故にあっちゃってね」
言い淀む事無く答えられて、此方の方が言葉に詰まる。
幼稚園の時ということは、今のしほにとってもそう過去の話ではないはず。
「なんか、嫌なこと聞いちゃってごめん」
「ううん、へいき。学園の人が来る前日にも、くるって知ってたよ。でもその二回だけで……いつも急だから感覚とかもよくわかんないし」
次々にトランプを引きながら、しほは傍らに置かれた用紙に×を書きこんでいた。
紙に書きながら正誤をカウントしているようだ。
×ばかりの紙に時折○が見られるが、やはり偶然程度の頻度でしかない。
「そもそも、タイミングを指定して使える異能じゃないってことはないのかな」
「どうだろうね。異能自体分かっていない事が多いし、そういう可能性も有り得るとしか言えないけど……そうでない可能性も存在している以上、学園では引き続き制御法を模索していく方針なんだ」
「清水先生」
「相沢さん。お喋りもいいけど、その作文用紙は明日提出でまた新しいのが来るからね」
そういえばまだ5枚しか埋めてないんだった。
いつの間にか近くにきていた清水に笑顔で窘められて、また作文用紙と向かい合う。
結局その作文用紙は宿題として持ち帰ることになるのだが。




