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第8話 一人の命

お待たせしました。

作業中に出来たのでUPします。


1906年9月25日~28日


■イギリス ロンドン


ロンドン中の新聞が『日本においてウディネ公夫妻銃撃される』の号外を出した事で、夕闇に包まれつつあるロンドンに激震が走った。


ウディネ公と言えば、ヴィクトリア女王の秘蔵っ子としての名前と共に、英国における食事の有り様を変えた功労者、英国の貧困層への仕事の斡旋、社会保障の強化への援助など市民一般の生活安定と向上に多大なる貢献をした事、更にはスモッグ被害の多かった石炭使用に関して乾留し硫黄分を飛ばしたコークスや加工品の練炭、豆炭などの供給でロンドンの大気汚染を軽減させ、最近ではリビア油田から安価に石油製品を供給し英国の燃料事情を好転させた功労者でもあった。


そのうえ、公の奥方はヴィクトリア女王の孫娘で子供の頃から活発で幾多の行事に率先して参加し、慈善事業などでも功績をあげ、多くの臣民に愛されてきたパトレシア王女で有った事も一層市民に対する公の人気をあげていたのである。


その公夫妻が、英国の同盟国たる日本の現役軍人によるテロに倒れたのである。その為、事件を知った群衆が次々に町へ繰り出し口々に日本非難を叫んだ。この事件によりイギリス世論は激高し、群衆はトラファルガー広場に集まったあと、1マイル(1.6km)先の日本大使館へ、犯人に対して断固たる措置を取るよう要求しデモを行った。


一方で日本大使館の駐英大使の小村寿太郎は「今回の事件は一個人が引き起こした事件で有り、その者がたまたま軍人で有っただけで有り、日本政府はまったく関与していない。号外の報道ではまるで日本政府が事件を指導した様に書かれているが事実無根で有り甚だ遺憾である」と公式に声明を出した。


しかも、小村は自ら現れるわけでも無く、補佐官に声明文を読ませただけで有った。この件においては、事件当日であった事で、日本政府から未だ詳細な事件の顛末が伝えられない中で小村が考えたのであるが、元々公を良く思っていない小村の『ざまー見ろ』の感情と、下層民は食うや食わずで政治などに関心を持つはずが無い、更にイタリア人がどうなろうと英国人は気にしないであろうと言う考えが現れたのである。


しかし、1906年に駐英大使に就任した小村は判っていなかったのである。ウディネ公夫妻がどれ程、英国社会に影響力を与えていたかを、その為、比較的大人しくデモをしていた民衆はこの発表を聞くと、その悲しみは怒りに向かい、日本大使館に投石を行う連中まで出る始末、遂には警察も押さえきれずに、ジョージ皇太子自らが宮殿より駆けつけ民衆を説得する事で事態を納めるはめになった。


翌日新聞は日本の行為をを「暴挙」「愚挙」「狂犬」と非難した。細評を知った多くの民衆は、ある者は教会で祈り、ある者はデモを行い、ある者は『日英同盟を即時破棄せよ』などの集会を開くなど、ロンドンは元より英国全体にその波は広がっていった。


新聞は、ロンドンタイムズが細評な報道を行う中、ダブロイド紙は連日に渡り報道合戦をおこない『所詮日本も野蛮人だ』『満朝の門戸開放宣言も嘘だった』『公が狙われたのも1億£を踏み倒すためだった』『日本人は嘘つきだ』などとかき立てるため。折角ドッガーバンク事件以来の日本贔屓の世論もすっかり冷めてしまった。


28日に公夫妻の無事が発表させると、英国全土で歓声が起こり、エドワード7世も宮殿のバルコニーから『公は無事である』という宣言を行い、臣民を安心させた。


後に、パトレシア王女が流産したという話が流れると、国民は再度日本に対する怒りを露わにしたので有る。日英同盟破棄の流れが加速した瞬間であった。




1906年9月25日~28日


■アメリカ合衆国ワシントンD・C


アメリカでもワシントンポスト、ニューヨークタイムズにより『日本においてウディネ公夫妻銃撃される』の報道が行われ、意識不明の重体の記事に先行き不安を感じた投資家たちによる株の売買が行われた結果、ニューヨーク証券取引所では株の下落が起こりはじめた。この下落は9月28日午前まで続き、4日間で15%も下がったため、アメリカ経済は恐慌一歩手前まで行ったので有るが、28日午後になり公が意識を取り戻したと報道された事で一気に上昇に転じた。


しかし、この事件ではアメリカの多くの銀行、証券会社、企業、個人などが資産の目減りを起こし、アメリカの対日批判が強固となる原因となった。更には1908年の土地法(排日土地法)、1923年の移民法(排日移民法)に繋がる事と成った。



1906年9月25日~28日


■イタリア王国ローマ


ローマは元よりイタリア全土でウディネ公夫妻が日本人により襲われるの号外が出たことで、騒然となったが、ヴィト・カッショ・フェロの緊急電により各地区のボスたちが軽挙妄動を押さえさせ、日本大使館、日本企業、日本人などへ暴動を起こさせぬように指導した結果、暴力的で無い非難集会以外は行われず。翌日から多くの民衆が思い思いに主に祈る姿が見受けられた。


28日午後に公が目を覚まし峠を越え無事が確認されると、人々は外へ繰り出しお祭り騒ぎとなり、教会では鐘が打ち鳴らされ、バチカンでも公の無事を喜ぶローマ教皇からの声明が発せられた。







■精神世界


俺の後にシアが撃たれた事は覚えていたが、意識を失ったあとで、気がついたのは知らない天井だった。

「知らない天井だな」

「お約束だね」

「はぁ?」


「俺だよ俺俺」

「俺俺詐欺かよ」

「死にかけたな」

「カエサルか久しぶりだな」


「まあな」

「まてよ、此処にカエサルがいると言う事はまた死んだのか?」

カエサルは指を左右に振って否定する?

「チッチッチ、違うんだな。今お前は昏睡状態に有る訳、そこで精神に語りかけている訳だ」


「なるほど……ってシアは?」

「嫁さんね」

「おい、シアはシアは、どうなったんだよ!」


「熱いね、俺のかみさん(ポンペイア)なんて、男子禁制の儀式の時に情夫に女装させて引っ張り込んだんだぜ。泣けてくるよな」

「あんたの、奥さんの話よりシアだって!」

「無事だよ」


「えっ」

「だから、お前さんの奥さんは無事だって言っているんだよ」

「本当に本当だろうな!」

「疑い深いな、本当だって髪は薄いが、神は嘘をつかないぞ」


「良かった、シアが無事で本当に良かった」

「良かったな。まあ肩を撃たれているから暫く安静にだけどな」

「肩だったのか、それで様態は?」


「聞いてないのかよ、意識はあるし肩の肩甲骨が砕けているから暫く安静にすることだってよ」

「そうか、良かった。けど俺に関わったばかりに怪我させちゃったんだよな」

「気にするなって、嫁さんは自らお前さんを守る為に戦ったんだぜ、俺のかみさんとえらい違いだ、いよっ色男!」


「照れるな」

「まあ、それは置いといて」

「置いとくのかよ」


「無事だから良いじゃん。直ぐに会えるから」

「まあ、それなら良いが、で用事があるのか?」

「無い!」


精神体でもずっこけるぞ。

「お約束だな」

「コントかよ!」


「まあ、俺からの忠告だ。元日本人だからだろうが、日本を破滅から救いたいと言うのは判るが、この時代の日本人は独善、我が儘、金満主義、テロをするのが壮士だとかと、馬鹿な考えが民衆に指示されているからな、安田善次郎なんかは、匿名で寄付を一杯していたので、端から見ればボロ儲けしていると言う事で事実関係も考えずに暗殺されたぐらいだぞ。しかも暗殺犯は英雄になったんだからな。今回の件も同じだな、お前さんを撃ったのは現役軍人だからな」


「現役かよ、五一五事件や二二六事件みたいだな」

「まあな、だから今後は更に気を付けることだな。何と言っても犯人は今や英雄扱いだぞ」


「そこまで嫌われたかね」

「ああ、一般民衆からは蛇蝎の如く嫌われているぞ。『同胞の血肉を啜る毛唐』ってな」

「何ともまあ」


「所詮連中は近視眼だからな、先のことを全く考えてい無いのさ」

「だろうな、俺も歴史を勉強してきたから知っていたが、まさかこれほど馬鹿だとは思わなかったよ」

「今の日本人は戦後の日本人じゃ無いって事を肝に銘じた方が良いぞ」


「ああ、ありがとうそうするよ」

「じゃあ、またな」

「ああまたな」



1906年9月28日


■大日本帝国神戸港 エトナ


カエサルとの話からどの位の時間が経ったのか、目を覚ますと、義親父殿が消沈な顔で俺を見ていた。

「義父上、シアはシアは」

そう言う俺に、義親父殿は哀れむように俺を見る。

まさかシアが、シアがカエサル嘘ついたか!

無限の時間が過ぎた気がするが、一瞬の事であったのだろう。徐に義親父殿が口を開いた。

「シアは、無事だ」

ああー、カエサル、ありがとうございます。悪口言って済みません。シアが無事ならば良いんだから。

俺が喜色に顔を染めるのに、義親父殿の顔色が優れない、何故、まさか意識不明とかか?

「義父上、まさかシアの意識が戻らないのですか?」

頸を振る義親父殿、いったい何がと思ったが、撃たれる前にシアノ言った言葉を思い出した。

『貴方、もしかしてなんだけど、未だお医者様にも見て貰っていないんだけど、実はね……』

あれはまさか……

俺の沈黙が判ったのか、義親父殿が話し始めてくれた。

「フェルデナント、聞いてくれ、シアは無事だし、意識も確りしているし、一時は泣き叫んでいたが、今は落ち着いて妻が見守っている」

「義母上には御迷惑をお掛けしております」

「いや、それは良いんだがな……」

義親父殿の歯切れが悪い上に、シアが取り乱すなんて事は、そうかやはりそうなのか。

「義父上、シアと私の子ですね」

俺の言葉に、義親父殿は目を見開き俺を悲しそうな顔で見つめる。

「判っていたか」

「ええ、シアがあの直前にそれらしきことを話しくれている最中でしたから」


俺の答えに義親父殿が事件のあらましを教えてくれた。

俺たちの人力車に投げ込まれたはダイナマイトだったらしいが、粗悪品でさほどの爆発も起こらずに民衆のパニックを発生させる程度の物だったそうだ、そしてそのパニックに乗じて暗殺に及んだらしい、暗殺者は義親父殿の護衛の連中がそれ以上の攻撃を防いだので俺もシアも助かったそうだ。


シアは撃たれたが、カエサルの言う通り右肩甲骨の粉砕骨折だけで命に別状は無かったのだが、妊娠四ヶ月の胎児はショックで流産したそうだ……


我が子が、我が子が、義親父殿が悲痛な顔なのと、シアが取り乱したのはそのせいで、初孫、初子が生まれる事無く天に旅立ったわけだからな、俺も言いようのない怒りが出てくるが、シアが無事だったことが不幸中の幸いだ。


憎っくき犯人は、警護を担当していた陸軍大尉河本大作だそうだが……

河本大作、河本大作ってあれか、満洲で張作霖爆殺事件を起こした河本大作か?


そうなると、この事件は陸軍の過激派の仕業らしいと言う事に、今現在、犯人の河本大作は姫路憲兵隊で取り調べを受けているそうだが、自分一人でやったことと共犯者のいることを否定しているそうだが、嘘だな奴は単なるヒットマンでしか無いはずだ。必ず黒幕はいるはずだが、いったい誰なのかが、思い当たる節が多すぎて特定できないぞ。まさか日本側の転生者の仕業とかじゃ無いだろうな、あり得ないとは言えないのだが、以前から調べていたのだが未だに影も形も無いのが不気味だが、負けるものか!シアのため、皆のため、そして死んだ我が子のためにも生き抜いてやる!


「俺の戦いはこれからだ!」

日本、やばやば状態になりつつあり。

リアルにあの時代はテロ賛歌世界でしたからね。

安田善次郎の話はこの後の事ですが、歴史の史実としての話として話しているのです。



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