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第14話 併合阻止

今回は朝鮮問題ですので、あくまでもフィクションでありパラレルワールドであると大らかな心で読んで頂けたら幸いです。


1907年6月28日


■ネーデルランド王国ハーグ イタリア大使館 フェルディナンド・サヴォイア=ジェノヴァ


ハーグ密使事件の当事者三人の話を応接室で聞き始めたが、ハッキリ言って相手にしなきゃ良かったと思い始めている。隣りのラウッツィーニ駐オランダ大使も頻りに腕時計を気にしている。

先ず問題は、三人は大韓帝国皇帝高宗の指令を受けていると言うが、それを示す公文書を持っていない。


あっそうか、高宗は有名な部下を切り捨てるタイプだ。何だかんだ思いつきで命令出して、失敗すると部下が勝手にやったこととほおかむりする何処ぞの帝国貴族の様な性格しているんだわ。


んー。散々言いたいことだけ言って助けてくれだの日本の暴挙がどうだの臣民は日本により収奪され乞食のような生活をしているとか・・・・・・


白鬚三千丈の中国じゃ無いが、韓国も大分盛っているからな。俺が朝鮮半島の歴史、風俗そして現状を知らないと思って言いたい放題だな。何と言うか、現状がどうしようも無いのは確かだが、それは李氏朝鮮政府の失策であって、今のところ日本の仕業じゃ無いし。


うむー、両班なんぞはまさに某スペースオペラのたちの悪い門閥貴族だからな英国の女性旅行家イザベラ・バード氏やマリ・ニコル・アントン・ダブリュイ主教が朝鮮の紀行文などを残しているが、傲慢で強欲で金を払わずに物を奪うとか、金が無くなると誰から構わず捕まえて金を払わせるまで鞭打つとか、完全に何処ぞの世紀末覇王伝説の世界のような有様だ。


それに、朝鮮半島は緑が少なく、土地は痩せ、道路は舗装されておらず、下水道も無く、ソウルでも汚物は道に撒かれるままと言う、一八世紀までののパリの様な有様。1894年にソウルへ行ったイザベラ・バード氏曰く「路地には悪臭が漂い、冬にはあらゆる汚物が堆積し、くるぶしまで汚泥に埋まるほど道のぬかるんでいた不潔きまわりない」と紀行文に書いているからな。


まあそれでも、アメリカ帰りのソウル市長李采淵が、1897年からお雇い税関長マクレヴィ・ブラウン氏の提案で市内環境改善った結果、再度訪朝したイザベラ・バード氏曰く「不潔さでならぶもののなかったソウルは、いまや極東で一番清潔な都市に変わろうとしている!」と書いている。


まあ、立派な教育を受けた人材がアドバイスを受け入れれば近代化も可能なんだろうが、問題は、まともな学校も無く、学業と言えば科挙試験のためな状態で、完全な詰め込み教育。まあこの伝統が大韓民国の受験世界になっているのだろう。



これ以上愚痴と自己弁護を聞いても埒があかないな。ここで聞くか判らないが論理的に問題点などを指摘していくしかないか。

「卿らの言いたいことは判った」

「おお、では、支援して頂けるですね」

俺の言葉に三人が三人とも喜色を浮かべる。


「そうでは無い、卿らの話を聞いて我々が把握している話と摺り合わせをした」

「話とは、日帝のプロパガンダですか!」

うむーもうこの頃から侮蔑していたのか。


「そうでは無い、卿らの言う日本が大韓帝国を支配しつつあると言う事は私も知っている」

「ならば、帝国の為に何とぞ助力をお願い致したい」

「卿らの、言う助力とは如何なる事か?」


本音を聞かねばどうにもならないからな。まあ碌でもない事だろうが。

「ならば、帝国は日帝により屈辱の乙巳條約を無理矢理結ばされております。是は条約とは名ばかりで伊藤博文と駐韓大使林権助が共謀し武力を持って皇帝陛下と大臣たちを威嚇したもので、一方的な押し付けなのです」

「そうです。当日は日帝の軍が王宮内を制圧し武力により伊藤により『あまり駄々を捏ねるなら殺してしまえ』との脅迫まで行われたのです」

「そのうえソウル市内や王城前では日帝の軍が演習を行い威圧までしていました」


まあ、言いたいことは判るが、この時代未だ未だ弱肉強食で、弱い国は泣くしかなかったのが実情なんだがね、それに昔も今も誇大妄想が大きすぎるのも問題で、言われた事の半分以下に考えれば良いんだろうけど、この当時に日本では有り得るからな。


閔妃謀殺事件とか起こしているし、それでいて、犯人とされる朝鮮国特命全権公使三浦梧楼以下全ての日本人が証拠不十分で無罪になっている程だから五十歩百歩だよな。


「その点に関しては、既に国際的に条約文が認められている以上はどうにもならぬぞ」

「その様な事が許されるわけが有りません!」

「そうです。屈辱を耐えろと言われるか!」


叫ぶな、唾を飛ばすな。もう少し冷静になれ。

「卿らの言うように、条約を破棄させるとしたら、欧米各国の了承と支持を得ねばならぬが、卿らにそれが出来るのか?」

「我らに正義が有る限りは出来ます」


嘘だな、俺は史実を知っているから言えるが、この密使は何処の代表も相手にしなかった。

何故なら、第二次日韓条約(乙巳條約)は国際的に認められており、この当時の大韓帝国は外交権を持っていなかったからだ。


「卿らの意気込みは判るが、国際的に認められている以上、大韓帝国に外交権が無い事は動かしがたい事実だ。それに、例え卿らの訴えが聞かれた場合でも、支援をする場合、必ず見返りを求められるであろうが、大韓帝国にそれを行う事ができるのか?」


「そ、それは・・・・・・」

黙り込んだか、彼らとて、政府中枢や外交官として諸国の実情を知っているはずだからな、海千山千の諸外国が無償で支援などしてくれるわけが無い。


「で、あろう、既に日本からの借款により貴国の関税権は奪われている状態。そのうえ、主立った工業なども無く、インフラなどの整備も進んでいない。寧ろ日本が指導して以来、インフラ整備が進んでいる状態では無いか、確かに、日本は貴国を高圧的に統治しようとしてはいるが、貴国の政府が無為無策であったのが第一に問題で有ろう」


「そ、それは、あまりの言い様ですぞ」

「そうです、公爵殿下でも言って良い事とと悪い事がございますぞ」

「ぶっ無礼な言い様、謝罪を要求します」


ほら始まった、ここで激高するようじゃたかが知れているんだがね。

所でラウッツィーニ氏は既に飽きたらしく再度時計を気にしている。


「無礼も何も、事実で有ろうが、貴国の両班が何をしてきたから知らぬと思ったか」

「・・・・・・」

そこで黙るから、肯定になるんだよ。


「全く働かず、民百姓から搾り取ることしか考えておらぬ、その様な連中が蔓延る様では到底近代化など難しい。その為にはある程度の大鉈を振るわねばなるまい、所が貴国は蝙蝠のように明、清、日本、ロシアとフラフラとしているばかり、更には政府間の約束事も朝令暮改し守る気も無い。是でどうして信用を得ようとする気か?」


「こ、皇帝陛下の名誉にかけて」

「聞くが皇帝が朝令暮改の具現者ではないか。例え我らが金を貸したとしても果たしてそれが国土繁栄に使われるか甚だ疑問にしか思えない。かの清国では西太后が軍事費を横領して遊興費にしたが為に、清国北洋艦隊は近代化に遅れ日清戦争で敗北する羽目になり、その結果、現在の半植民地への道を辿ることとなった。しかるに、貴国は我ら欧州人を『禽獣』と呼び人間として扱おうとしない。その禽獣との約定など破棄する気であれば簡単に破棄するであろう。支那には『夷を持って夷を制する』という言葉があるが、貴国も日本という夷を倒すために欧米という夷を使うと言う事で有ろう」


「・・・・・・」

図星か。

「まあ、よい。で、例えば、今直ぐ私は貴国に1000万ポンド(1億円)の借款を行う事が出来るが、我らが貴国を支援するとして、何を以て我らに益をもたらすか?」

「日本より取り返しす関税権を以ておこないます」


「ナンセンスだ。貴国には目に見えて利益となるべき輸出品は皆無で有り、輸入ばかりが多く成ることに成る。しかもその市場は民衆の経済力が驚くべき事に貧弱なために、一部特権階級のみが海外の品を買う事が出来る始末だ。結果的に見て多くの民衆は青空市での買い物が精一杯だ。それに貨幣経済が全くと言って良いほど整理されておらず中央銀行が無い、先頃には1£が16000銭という交換率で、既にまともな貨幣とは言えない。また殆どの白銅貨が流通不能になり結局日本の第一銀行に牛耳られる結果になっている」


「それは日帝が無理矢理押し付けてきたことです」

「そうは言っても、貴国が資金を必要とする際に、どう繕っても各国は無償で金を貸すことなど無い事は明白で必ず担保を求めてくる。それは関税が無理であるから、鉱山や鉄道の敷設権などだろう」


「鉱山と鉄道ですか」

「左様、しかし、鉄道は韓国統監府鉄道管理局が権利を有している以上は魅力的な投資先にはならない。さすれば、鉱山だけであろうが韓国統監府が発布した朝鮮鉱業法で皇室直営の鉱山は総督府の管理下におかれてしまい、是も担保にはならない。従って貴国に金を貸すのはよほどのギャンブラーしかいないであろう」


「それは・・・・・・」

ハッキリ言ってインフラその他を考えれば大韓帝国へ金を貸しインフラ整備するのは金をどぶに捨てるようなもので、まさにジャンク債だからな。その様な場所に投資する日本こそ良い面の皮だよな。それにもし金を俺が貸したとしても、絶対に上層部がピンハネしてまともに使われないのが関の山、仮に使い途を監督しようにも日本の妨害が凄まじく、監督する人材が殺されかねん、この当時のアジア圏は常にテロに気を付けねばならないのだから。


それにしても最初の頃の勢いもすっかり無くなり、青菜に塩状態だな。

さて、そろそろ最後にするかな。ここで密かな話をすれば、彼らは平気でリークするであろうから、各国の動向を見極めるためには良いな。


「卿らの懸念である、大韓帝国が日本の支配下になると言う事だが、その懸念は正しいと言えよう」

「公は何か情報をお持ちなのですか?」

食いついたか。


「これは、秘密にして貰いたい。さる人物から聞いた話だが、日本は亡き児玉源太郎大将が構想し後藤新平が書き上げた南満洲の鉄道経営に関して非公開の設立命令書があるのだが、それには、日本政府による南満州鉄道に対しての命令権などが明記され、鉄道付属地の規定の下に清国政府の行政権を締め出し、守備隊と称する軍を常駐させる。更に付属地とを拡大解釈し付近の都市を日本の行政下に置くことなどが書かれているのだよ」


「満洲ですか?」

「左様だ、満洲に繋がる大韓帝国も何れは日本が併合するであろうと思われるのだがね」

「それは、確かに・・・・・・」


「更にロシアと日本との間には今現在露日協約が成立しつつあるが、表向きには両国が清国から得た権益を相互に尊重することを定める事が示されているが、秘密条項でハルビンと長春の中間点を境界として北満州をロシアの、南満州を日本の勢力圏とし、外蒙古のロシアの特殊権益を日本が認め、日本と韓国との共通利害関係にあることをロシアが認める事を決めるそうだ。これは満洲への米英伊の経済進出を阻むためのものだね」


「公は、何処でそれを?」

「ソースは聞かないのがルールだよ」

「まあ卿らがこの情報を使って各国に揺さぶりをかけるのも良いかも知れぬよ」


彼らには直接支援は出来ないが間接的な支援を行ったことになったな。

彼らが帰った後、大使が驚いて話を聞きたがったが秘密だと言っただけで煙に巻いた。


しかし俺の話を聞いた三人は最初は不満そうな顔だったのが最後は希望に満ちた顔になったな。

まあ問題はイタリアから漏れたと知られた場合だが、その時はほっかむりしていくだけだ、イタリアがバラしたという物的な証拠など何処にも無いのだから。



1907年7月30日


■ネーデルランド王国ハーグ イタリア大使館 フェルディナンド・サヴォイア=ジェノヴァ


今、ハーグでは、いや世界中で大韓帝国密使事件の話で大賑わいだ。

事の発端は、俺から聞いた南満州鉄道と露日秘密協定を彼らが先ずはアメリカへ、その後イギリスへ伝えたことから始まった。両国とも最初は信用しなかったが、日本の行っている実情と照らし合わせ、事実を知り、猛烈な抗議が始まった。特にユダヤ人社会の反感は大きく、それに引きずられる形でアメリカ、イギリスの世論がヒートアップ、日本、ロシアは条約は捏造だと否定したが、南満州鉄道設立時に清露共同財産であった施設を日本が勝手に独占したことについての、清の抗議を相手にせずにほおかむりした事が清より暴露されてから、一気に世界の世論新聞論調は日本叩きにまわったからな。


これで風向きが完全に変わり、国際的な条約である第一次第二次日韓条約は有効とされたが、伊藤博文が締結を求めていた第三次日韓条約は結べずに終わり、大韓帝国は頸の皮一枚で生き残ったが、近代化は確実に進まないので、どっちが良かったかは判らない状態だ。


これで日韓併合は遠のき日本がお荷物を持たずにすんだわけだが、未だ未だ油断は禁物だな。


更に、この事件の前から少しずつ、日本公債を欲しがっていたロスチャイルド家などに額面の85%ほどで殆どの公債を売っぱらったが、初期の配当は受け取っていたので損も無く逆に1000万£程の利益を得ることが出来た。


まあ、事件後、日本公債は欧米の投資家が投げ売りした結果、大暴落して大騒ぎになったが、自業自得と言う事で仕方が無いわけだ。元々1907年の日本の対外公債残高は12億6000万円、内国債は10億1000万円の合計22億7000万円で国家予算6億200万円の377%と言う完全な赤字財政だったのが更に酷くなった。


結果的に、前回の俺らの襲撃事件も影響して、日本は苦労して進めていた幕末に結ばれた不平等条約の是正も延期されて、予算不足に陥り、公債を得ようにも欧米は南満州鉄道と内国の鉄道権益を求める結果になりつつある。

これで、陸海軍は予算を裂く事が出来なく成り、日本も大人しくなると良いなと思う次第だ。

日本、金ねー! 

欧米 金貸さねー!

韓国 取りあえずは併合阻止!

そんな感じ。

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