第13話 第2回万国平和会議
今回は早く出来ました。
風邪気味でして、三田の方が未だ構想中です。今暫くお待ち下さい。
1907年6月15日
■ネーデルランド王国ハーグ市国際平和会議会場 フェルディナンド・サヴォイア=ジェノヴァ
この度、第二回国際平和会議のイタリア側代表に従兄弟殿から指名されてネーデルランドまで来た。まあ、元日本人の俺としてみれば、ネーデルランドよりオランダが聞き慣れた名前なんだが、あれはネーデルランドのホラント州の名前から来ているので正しくないんだよな。
まあ、そんな事はさておき、昨日は驚いたの何って、1週間前のハーグへ到着後から各国間でパーティーと言う腹の探り合いが行われて、各国ともそれぞれ招待されつさられつついた。
そんななか、ロシア大使館のパーティー終了後に帰ろうとしたら、会議議長を務めるロシア帝国主席代表ネリドフ伯に『内密な話が有るので少し良いですかな』と言われたので4国協商の事と欧亜鉄道の話かと思い部屋へ行ったらロシア皇帝ニコライ2世が待っていたんだからな。
先ほどのパーティーでは軽い挨拶で話しもしなかったが、部屋では厳の取れた顔で『ウディネ公、良く来てくれた』と笑顔で挨拶してくるんだから、何だと思ったが、話を聞くと納得出来た。
皇帝曰く、1904年に生まれた待望の皇太子アレクセイが奇病になっていて、どうにもならず、途方に暮れていた。
これは俺も知っている。皇太子アレクセイはヴィクトリア女王由来の血友病患者だった。しかもこの当時は血友病は原因不明の不治の病で治療法も判らない状態だった。そこで藁にも縋る思いで、怪僧ラスプーチンの祈祷をしたところ症状が安定したので、その後ラスプーチンを重用しそれによりラスプーチンが政治軍事にまで口を挟んでロシア崩壊の切っ掛けの一つになった。
どうやらラスプーチンはアスピリン投与により症状を緩和をしたらしいんだが、歴史の闇に隠れてハッキリしないんだよな。何と言っても皇帝を含めてニコライ2世の家族は全てボリシェヴィキに惨殺されてしまったのだから。
まあ、史実はそうだが、ここの所俺が大分ソ連赤軍の原動力になる人物や革命に多数が参加したユダヤ人なども引き抜いているから、ロシア革命がどうなるのかは不明だけどな。それでも危険人物はいるわけで、何とかしようかと思っても、今現在ロシア本国では日露戦争時の明石大佐の革命工作から秘密警察の監視が厳しいので革命家の排除をする事が出来ないんだ。でも他国にいる連中に関しては監視や暗殺計画を立てている。特にレーニンやトロッキーなどは要監視人物として隙あらばなんだが、連中結構用心深くて嫌になっちゃうよ。
で、アレクセイだが、俺がイタリア総合医学大学とジェノヴァ・イタリア製薬会社に研究させていた血液製剤による血友病の総体的な治療により出血しなくなり、健全者と同じ様に生活出来るようになったと、本来であればこれは機密だが、そりゃそうだ、皇太子が血友病じゃ『別の人物を皇太子に』と言う連中が沸いて出てくるから。
だが、俺が研究させた事で、アレクセイの血友病が良くなった。無論一生血液製剤の投与は必要だが、それでも怯えなくてすむのは嬉しいそうだ。
皇太子の瑕疵になる事を俺に言うかと言えば、皇帝は『我が妻はアレクセイの事でズッと悩んでいた。一刻は噂の祈禱師に祈祷させようかと思ったほどであったが、エドワード7世から公が血友病の研究をしていると聞き投与し、今では公の治療法により元気に跳ね回っておる。予も妻も公には感謝しきれぬほどだ。その為に敢えて伝え、礼を言いたかったのだ』
なるほど、皇太子の事で相当悩んでいたんだな。しかし、祈禱師ってラスプーチンだよな間違い無く。
その辺を聞いてみたらビンゴだったけど、呼び寄せる前に血液製剤治療で容態が良くなったので、未だ会ってもいないし、今後も会う予定は無いそうだ。
これってラスプーチンフラグが消えた? いやいや神出鬼没な彼のことだ何処かで出てくるかも知れないな。ここは駐露大使館に調査を行わせないと駄目だ。
しかし、血液製剤は非加熱製剤だから、病気のリスクがあるんだよな。それだから、血液製剤に関しては薬害エイズとかC型肝炎とかにかからないように確りとした検査した血を原料にしている。今は加熱製剤を研究中で、研究が終われば全て加熱製剤に変える事になっている。
これは、元々、ビクトリア女王陛下が子供や孫たちの血友病に悩んでいたから研究させたのが元だから、さほど賞められた事じゃ無いんだが、これのお蔭で幾人も病人が生きながらえているから良かったんだよな。それにシアやトリア姉さんとの間に子供が出来て万が一血友病だったら大変だからと更に研究を進めていたんだよな。
その後、皇帝からは我が子を失ったお悔やみの言葉と『予と公はお互いに日本人に襲われたのだから、露日戦争での嫌がらせをした事は水に流し、これからは良い関係でいたい』と言われ握手することになった。
気になった満洲問題で、何故英米伊の企業の進出を阻むのかについては『日本という狂犬をあやすが為に敢えて旨い肉を食わせている。これ以上明石にかき回されては困る』と言われた。
まあそれだけじゃ無く、恐らくは英米伊で日本支持をされた場合クリミア戦争や日露戦争の様な事が起こりかねない、それならば日本と英米伊の間をかき回してやれと言う事だろうな。
深慮遠謀か皇帝はラスプーチンにかき回されなければ意外に出来るのかもしれないな。
この後、欧亜縦断鉄道について快諾を頂き、後はハリマンに任せるだけになった。
今日から会議でハーグ陸戦協定の改訂、中立法規、戦時禁輸品なんかの話し合いが始まるんだが、俺は王族としての格付けで事務はスタッフが行うから暇だよな。
1907年6月28日
■ネーデルランド王国ハーグ イタリア大使館 フェルディナンド・サヴォイア=ジェノヴァ
「殿下、お久しぶりです」
「ハリマン殿、お元気そうで何よりです」
いま目の前には鉄道王ハリマンがにこやかに挨拶してくれている。
「殿下、此方がジェイコブ・ヘンリー・シフ殿です」
「ジェイコブ・ヘンリー・シフと申します。このたびの会談ありがとうございます」
「シフ殿、此方こそ宜しくお願いしたい」
友好的な表情でシフとガッチリと握手する。
それを記者が写真を撮っている。実はこの会談にはプレスを入れているからな。
「殿下のおかげをもちまして、多くの同胞を救うことが出来ました」
シフはアメリカのユダヤ人銀行家で高橋是清の友人でもあり、日露戦争前後では日本の国債の買い支えを行うなどして日本を支援していた。なぜかと言えばロシアはユダヤ人が多いのだが非常に酷く迫害されているので、ロシアの敵たる日本を応援したわけだ。
「いえいえ、私はたいしたことはしていません。全て皆の協力があったからこそです」
プレス前だからどっかのスペースオペラの扇動政治家T氏並の笑顔で話しかけておく。
「流石殿下です。金を借りるときは甘言を吐きながらいざ勝つと前言を翻すどこぞの国と大違いです」
ハリマン、完全に日本のことを言ってるよね、憤慨気味の顔が確り語っているぞ。
「真に、私は同胞のため、友人のために、資金援助などで散々汗をかいたのですがね」
シフも困り顔をしながら日本への嫌みと高橋是清への失望感をだしているな。
「まあ、かの国は勝利に酔ってしまったのでしょう」
こう言うしかないな。
「真に、鉄道に関しても、我が国との条約を破棄した原因を鉄道が清国領土内にあるので二国間の問題でかの国と清国との条約で決まっていると逃げました」
確かに、日本政府はハリマンとの覚え書きを反故にする為にロシアの知恵付けでハリマンが言うように日清条約を結んで鉄道権利は日本と清国のしか持てないと決めたからな。まあそれもロシアの深慮遠謀の結果だが、外交音痴の日本じゃ壮大な罠に気がつかないよな。
まさか、協商を結ぶ相手が自国に対する牙を鈍らすために元々の友好国との間を引き裂こうとしているんだから。しかもそれが見事に図に乗っているから、このシナリオを組んだ人間は笑っているだろう。
まあ、俺としては日本が破滅に向かわないようにコントロールしたいが、この前のように殺されかねないからな・・・・・・俺だけならいざ知らずシアまで手に懸けたのは怒髪天だ!
「その様な、逃げ口上ですが、かの国の言い分にも理があるので、我々としてもあきらめざるを得なかったのですが」
おっといかん、顔に出したら不味いからな。
「かの国は株式を自国だけで独占し清国にすら持たせなかったのですから」
「正に独善的と言えますな」
俺と違いハリマンもシフも怒っているのがまる判りだ。
日本のやり方は利口とは言えないからな、南満州鉄道を日清共同経営と歌っておきながら結局は全て日本人が株式を独占して清国には一株も渡さなかった。無論会社の役員も全て日本人でしめてしまい、完全に阿呆としか言えない仕方だ。これが英国なら最低でも清国の人間を取締役に任命し、かの人物に株を持たせて批判を分散するものを。
「まあ国が開かれて僅か40年ほどです。他国との付き合いなどになれていないのでしょうね」
俺の言葉にシフもハリマンも頷いた。
「ですな。しかし、東清鉄道の南満州支線だけでは無く、鉄道国有法など愚の骨頂と言えましょう」
「確かにそうですが、鉄道は仕方がないとしても、資本の投資まで規制するとは気が違っているとしか思えませんな」
まあ、確かに、これから資本投資がどうやっても必要なのに米英伊の資本投資を拒否して公債だけ買って金を貸せって感じだし、鉄道に関しても多くの大手私鉄を国有化するわけだから、まあ外国資本に鉄道の情報が流れるのが嫌なんだろうが、何でも機密機密と騒ぐのが日本の特徴だからな、最早どうしようもないと言えるんだな。
「経済だけならいざ知らず、かの国は事もあろうに戦後すぐにロシアと協商を結んでしまいました」
「です、これほど頭にくることはありませんでしたぞ」
「左様、かの国は我が同胞を裏切ってロシアと手を組むことを選んだのです」
日本政府の背信行為は英国だけじゃなく、イタリア、アメリカもお冠だからな、それに最大の問題は国際金融を牛耳るユダヤ人に不信感を与えたことだ。是もロシアの掌で踊っている訳だから、日本が哀れに思えてくる。
史実だと、すこし後で高橋是清が資金調達のためにアメリカへ向かい友人のシフに公債引き受けを頼んだが、けんもほろろに断られている。これは日露協商で完全にユダヤ人の失望感を買ったわけだ。そりゃそうだ、ユダヤ人迫害をするロシアをたたくから金を貸したのに、戦争が終わったとたんにそのロシアと協商して仲間になるんだから、完全にユダヤ人をバカにしている。
とは言っても、イタリアも英国経由でロシアと協商を結んだんだ、それをどう思っているのか?
「申し訳なく思うが、我が国もロシアとの協商を結びましたし」
俺の言葉に、シフもハリマンもにこやかに返してくれた。
「いえ、イタリアの場合、ロシアより多くの同胞を迎え入れてくれています」
「そうです、ロシアより同胞を受け入れるためにはロシアとの関係回復は必須ですから、我らはイタリアと殿下に関して何ら含むとことはありませんし、我が同胞も感謝こそすれど恨みに思うことなど有りません」
「シフ殿、ハリマン殿、かたじけない」
知っていながら二枚舌を使っている身とすれば、これは凄くうれしい。
「いえいえ、我らにすれば、殿下のなさり様は海よりも深く山よりも高いほど感謝しているのです」
「そうです。我らが軽蔑するのは我らを利用するだけ利用して捨て去った連中です」
俺としても打算の結果なんだが心苦しいな。
「かたじけない」
それしか言葉が出ないよ。
「まあ、かの国がどうなるか、お手並み拝見と行きますか」
「ですな」
「まあ、過ぎた不快なことは忘れて新たな話をしますか」
「殿下のおかげをもちまして、清朝、ロシア政府との間で鉄道敷設権を得ることが出来ました」
「それはそれは、おめでとう」
「ありがとうございます」
俺は、暗殺未遂の後で速攻で駐中公使館に清朝政府、ぶっちゃけ西太后と袁世凱にコンタクトを取らせ、西太后には賄賂を袁世凱には借款などの条件で鉄道建設を提案した。
西太后は二つ返事でOKして、袁世凱も日本との条約云々がとか勿体ぶったが、結局は許可してきた。
流石に中国人は強かだ。向こうとしては中国伝統の”夷を持って夷を制する“と言う考えで此方に協力をしたらしい。
二枚舌三枚舌外交の英国と同じ様に中国との付き合い方は気を付けないとな。
全く以て油断ならない、日本とは満州善後条約で南満州鉄道に併行する鉄道建設の禁止を決めておきながら、此方の案が、イタリアとアメリカが共同しイギリスが秘密裏に黙認する形だと判ると、直ぐに許可が下りたからな。
許可が出た以上は、今後南満洲鉄道の価値が下がりまくる様に此方としては、中国大陸で最大規模の租界上海の港の整備を大々的に行い、大連を通らずにシベリア鉄道へ直通出来るように上海から京杭大運河東岸を北上して北京へ向かい張家口、内蒙古、外蒙古の庫倫(ウランバートル)を超えロシアのウランウデへ続く2900kmの上海~シベリア鉄道直通線を60kg重軌道で建設する事にした。
ロシア側とは既にこの前の皇帝との会談で許可が下りていたから簡単だった。
あとは何年で建設するかだけだが、まあ、実務はハリマンに任せておけば安心だから。
「これで、溜飲が下がりますね」
「はい、溜飲もですが、これで世界一周路線に一歩近づきました」
「資金源に関しては、我らが支援しますが、殿下もよろしくお願い致します」
「無論です」
これで日本も少しは大人しくなって貰いたいが、無理だろうな。
1907年6月28日
■ネーデルランド王国ハーグ イタリア大使館 フェルディナンド・サヴォイア=ジェノヴァ
ハリマン達との話し合いが終わり一緒に来たシアやトリア姉さん達と優雅にアフタヌーンの御茶をしている最中、部屋の扉がノックされた。執事のラファネッリが応対に出ると大使館の一等書記官が立っていた。
「御茶でも飲むか」聞いたら、『お忙しい所申し訳ありませんが、大韓帝国皇帝の使者を名乗る者たちが公との面談を求めていますが如何為さいますか?』と来た。
チョイ待て、是ってハーグ密使事件じゃないのか?
確か密使は”抗告詞“と言う各国首席代表に宛てた主張文を送って来たが、面談を求めたのは露、英、米、仏、独、蘭だけだったはずだが、それも密使が「抗告詞」と付属文書を日本を除く会議参加各国委員におくった後に面談を求めてけんもほろろに断られたはずだが、それも無いうちに何故にイタリアへ来たんだ?
んー、やはり最近のイタリアは俺のせいで列強でもピカイチの経済力になっているからかも知れないが、さて如何するか、使者に会うか会わないか、大韓帝国は外交権を日本に取られているからな。日本との関係を考えると、会わない方が・・・・・・
んー、このまま行けば日韓併合へまっしぐらか、ハッキリ言って日韓併合で日本はとんでもないお荷物を抱え込む羽目になり、金ばかり掛かって東北地方などのインフラ整備が出来ずに農村疲弊から2.26事件とかに進むからな。ここは会って見てから考えるか。
書記官に「会うので応接室へお通ししなさい」と命じて一緒に御茶をしていて、『会わない方が良いのでは』と正論を言う駐蘭大使と共に応接室へ向かう事にした。
さあ、鬼が出るか蛇が出るか、はたまた・・・・・・
ハーグ密使事件が起こりました。
非常にデリケートな事件です。
是はフィクション&パラレルワールドです。