第12話 千客万来
大変お待たせしました。
久々のUPです。
1906年12月8日
■地中海リグリア海 戦艦ドナート・ディ・ニッコロ・ディ・ベット・バルディ
フェルディナンド・ウンベルト・フィリッポ・アーダルベルト・ディ・サヴォイア=ジェノヴァ
「superba vista、superba vista」(絶景かな絶景かな)
「なんだその言い回しは?」
「景色が綺麗だなって意味さ」
「まあ確かに綺麗だが、今は公試の最中で観光しているんじゃないだろうが」
「いやいや、我が海軍の連中はお祭り騒ぎだぜ」
禿に言うまでも無く、艦の彼方此方では『スゲースゲー速度だぜ』とか『これなら港まで直ぐ帰れるから今夜はアメリアとシッポリと』とか水兵だけじゃ無く下士官士官も浮かれ気味。
まあこれこそイタリア軍だよな。禿は呆れているが。
「所でさっきからブザーが何度も鳴っているがアレはなんだ?」
「ああ、あれか、あれは我がイタリア海軍が総力を挙げずに、装置は開発したが何処からも問い合わせが無くドイツで腐っていた研究者をスカウトして研究を続けさせて、目出度く出来たので取りつけてみた衝突警告装置だよ」
「何だよその言い回しは、面倒臭い言い様だな」
「イタリアの様式美だな」
「全く、で、衝突防止装置って、どんなものなんだ?」
禿め、気になるらしいな。衝突防止装置とは後のレーダーの原型なのだよ。なんと驚くべき事に1904年にドイツでクリスティアン・ヒュルスマイヤーなる者が電磁波の反射で船を検出して衝突を避ける装置を開発して実験済みだったんだ。
どの様な装置かと言えば、一般的な火花送信機とコヒーラー受信機、ダイポールアンテナを使って距離5kmの船舶を探知する事が出来る。ここは確りと有用性を教えてやるのが英国のためだ、1912年のタイタニック事故を起こさせないためにもな。
「俺が言うより、開発者に聞いた方が早いだろう。ヒュルスマイヤー博士、宜しいですか?」
「公、何かありましたか?」
艦橋脇の小部屋から声が聞こえて出てきたのが、ヒュルスマイヤー博士なんだが、いやはや容姿がサ○ーちゃんのパパの様なスゲー特徴的な髭をはやしているんだよ。あの髭は何時も笑いそうになるんだよな。
「博士、彼は英国のチャーチル卿で私の友人でもある」
「それはそれは、私はクリスティアン・ヒュルスマイヤーと申します」
禿と髭博士の軽い挨拶から、機械の原理を教えたんだが、新しもの好きで変な物好きの禿らしく早速興味を持ってきたな。
まあ、装置自体は未だ未だ未成熟だけどな。
何と言っても火花発信だから発振電波の帯域幅が広くて同時に複数台用いると混信する欠点があるから、早急に真空管式発信器に発展させる事だな。
真空管はフレミングの法則で有名な英国の発明家ジョン・フレミングが1904年に開発していて、その製造権を既にMTF社で購入しライセンス生産を開始している。更にはアメリカ出身で三極真空管を発明したリー・ド・フォレストがMTFに入社して、既に三極真空管を開発してる。史実ではマルコニーに雇ってくれと手紙を出して断られているが、この世界では二つ返事で採用したよ。史実だと三極真空管は1906年に開発されたので史実と同じスピードだな。
其れだけじゃ無くフォレストには、マグネトロンの原理を説明して研究して貰っているのでそう遠くない時期にマグネトロンも発明されるのでは無いかと期待している。
禿と髭博士は話を続けているな。
髭博士の凄いところは、レーダーだけじゃ無く、何と既に八木宇田式アンテナとほぼ同じものを研究済みだったんだよ。博士の設計図には確りと現在のTV受信用アンテナに酷似したものが書かれていたんだ。詰まりは1904年前後に八木宇田式アンテナの原型が存在したことに成り、日本人の発明という金字塔が崩れる可能性が出てきたわけだ。
まあ、この世界では既に世界各国にヒュルスマイヤー式アンテナとして特許と論文が発表されたので、ドイツかイタリアの発明という事になりそうだ。
レーダーに関しては既にブラウン管で有名なドイツのフェルディナント・ブラウン博士から製造特許をこれまた購入して研究中、本当はブラウン博士もスカウトしたかったんだが、彼はストラスブール大学の物理学教授で愛国者だから我が国への就職は断らてしまった、非常に残念だ。
代わりと言っては何だが、初期のテレビシステムを開発したボリス・ロージングをロシアから招致する事に成功した。彼は史実では1907年に受信側にブラウン管を使ったテレビシステムを着想していて現在MDF社で誠意開発中だ。史実の彼はスターリンに追放され失意の中で死去したから此方へ引き込んだからには天寿を全うして貰うつもりだ。
先ずは、オシロスコープ式レーダーを開発して、その後でPPIスコープ式レーダーに発展させなければだ。尤も俺が出来るのは原理とかのヒントだけだから、博士連中の努力に期待だがね。
おっ、そろそろ最高速度に達するか、禿も髭博士も話を止めて、海を見始めたな。
いやー心地よい風と、力強いパーソンズ式直結タービンの振動が響いているね、流石は重油専焼缶だ黒煙は殆ど無い状態だな。
1906年12月20日
■グレートブリテン・アイルランド連合王国首都ロンドン ウイストン・チャーチル
ロンドンに帰り国王陛下に視察の件を報告したが、国王陛下はアレクサンドラお嬢様がお元気で有る事を殊の外喜んでおられた。尤も経済政策や新式の兵器類に関しても興味をお持ちだ。
昨日はフィッシャー第一海軍卿とイタリアの新型戦艦に関する話をしたが、あの爺さんドレッドノートより優れていると聞いて悔しがっていたな。思わずほくそ笑んで爺さんが不機嫌になったが、中々見られない姿だった。
それにしても爺さん、あいつが紹介してくれたヒュルスマイヤーとの話と資料を見て唸っていたな。そりゃそうだよな、あの装置、Radio Direction Finder(電波方位探知機)略してRDFと言うそうだが未だ未だ未完成だが、あいつが言う通りに開発が進めば真っ暗闇でも霧の中でも相手の位置が判るんだからな。
北海の霧で隠れるキャベツ野郎の艦隊を歓待してやれるって事だからな。ここんとこ、カイザーがとち狂って我が国に海軍力で対抗しよって言うんだから、呆れてものが言えないけどな。
まあ、最近イタリアは色々進んできているから楽しみっちゃ楽しみだな。願わくば我が友と戦わずに済むような国際情勢になってもらいたいものだ。まあ、国王陛下も姫君を降嫁させる程、イタリアとの友好を強める気満々だからな。
今現在は嫡孫のエドワード王子(エドワード・アルバート・クリスチャン・ジョージ・アンドルー・パトリック・デイヴィッド)とヴィットーリオ・エマヌエーレ3世の長女イオランダ王女(イオランダ・マルゲリータ・ディ・サヴォイア)との婚約を画策し、俺のイタリア滞在もこの事も重要な案件だった。
まあ、目出度く婚約も内々に決定したので、あとは発表を待つばかりだ、今現在我が国はフランス、ロシアとの間で協商関係を結ぶべく外交交渉中でイタリアが参加する事に難色を示すフランスへのフォローが功を為してあと少しで調印だから、その後に発表だな。
これで、イタリアは正式に三国同盟から脱退し、英、仏、露、伊の4カ国協商が出来上がるわけだ。世界的な事件に携われた事は俺にとっても良い経験で有り、生涯自慢出来るだろう。
1907年5月1日
■イタリア王国ジェノヴァ
「殿下、この度移民してくる人材のリストでございます」
「ご苦労」
さて、さて、ここ数年ズッと進めていた『二十世紀のイタリアを発展させる為の政策』の為に各国から移民を求めて来ていたが、今回の連中はかなり期待出来るぞ。
ロシアからの人材が多いのはまあ、ここ数年ロシアでは黒百人組なる親帝政、反自由主義&他民族テロ組織が動いて、ポグロムと言うユダヤ人襲撃を激化させていた。しかも政府の支援を受けてのことだ、ある年など250万ルーブルの国庫補助金を得ているほどだ。こんな政情不安ではユダヤ人の迫害は増すばかり。
更には貴族にあらずば人に御非ず状態で、平民がどっかへ行こうと気にしないうえに、政治が腐っているから一寸した賄賂で移民がOKされるからな。
さてさて、気を取り直して、移民のエースを見てみようかな。
第1のコース~♪ 赤軍の機甲化を推進し赤いナポレオンと言われた1893年生まれで14才のミハイル・トゥハチェフスキー! 実家はロシア帝国の没落貴族で、経済的困窮のためモスクワ南東ペンザへ移住して絶賛貧困中だった。そこで両親は元より親族全てを移民としてスカウト、何と言っても貴族としての爵位と年金を餌にしたら両親は息子の将来を考えてアッサリ承諾、ミハエルも16才になったら軍人を目指していたので、イタリア陸軍士官学校への優先入学を保障して承諾。
まあどうせスターリンに粛正されるなら我が国でメッセと組ませようと考えたわけだ。
第2のコース~♪ ノモンハンの指揮官 独ソ戦の名指揮官1896年生まれで11才のゲオルギー・ジューコフ!
モスクワ近郊のカルーガ県の半農半商の家系に生まれる。実家は同じく極貧だが頭が良くて学校の成績も優秀だが、このまま行けば奉公に出るところを家族ごと移民に誘って村人ごと移民してきた。同じく16才になったらイタリア陸軍士官学校への優先入学を保障している。
第3のコース~♪ ポーランド系ロシア人で騎士出身で鉄道技師の父を持つ1896年生まれで11才のコンスタンチン・ロコソフスキー! 彼の家はワルシャワで鉄道技師をしていたのでイタリア国鉄の技師としてロシア時代の給料の10倍を出す事でスカウトし家族諸共ゲット。同じく16才になったらイタリア陸軍士官学校への優先入学を保障している。
第4のコース~♪ 鬼戦車T-34の開発者1898年生まれで9才のミハイル・コーシュキン! 彼は一昨年父親を亡くして母子家庭状態、母親が女手一人で3人の子を育てたという家。そこでエージェントが移民を薦めて訝しまれたが、同じ様な母子家庭の家族ごと移民をする事に、彼には英才教育で戦車開発を行わせる予定だ。
第5のコース~♪ ソ連戦車軍元帥にして戦車部隊の英雄1900年生まれで7才のミハイル・エフィーモヴィチ・カトゥコフ! 彼はモスクワ州の農民出身で移民として確保。皆と同じで16才になったらイタリア陸軍士官学校への優先入学を保障している。
その他、ロケット理論や、宇宙服や宇宙遊泳、人工衛星、多段式ロケット、軌道エレベータなどの考案で知られ、現代ロケット工学の基礎的理論を構築し「宇宙旅行の父」「宇宙開発の父」「ロケット工学の父」などと呼ばれる。コンスタンチン・エドゥアルドヴィチ・ツィオルコフスキー博士を新設したイタリア工科大学の学長として招致、このかたは有名なんだがロシアでは不遇だったので二つ返事で来てくれた。そして航空宇宙学の研究をして貰う予定だ。
イタリア工科大学設立に伴い各国から不遇な研究者が多数客員教授などとして参加する事に決まりました。
レーダーの産みの親クリスティアン・ヒュルスマイヤーも参加する事が決まっているし、テスラやマルコニーも無論参加している。
更には、あのジョン・モーゼス・ブローニングも銃器学の客員教授として参加してくれることに成った。
1907年5月15日
■イタリア王国ジェノヴァ
「殿下、ニューヨークからです、太平洋各地でグアノ(リン資源)採掘している会社株式の90%を複数の証券会社名義で購入終了致しました」
「御苦労様」
遂にやったか。
「しかし殿下、差し出がましいのですが、先頃ドイツよりハーバー・ボッシュ法による空中窒素固定方特許のライセンスを購入し、工場の建設も始まっている中で、今更ながら太平洋の島々からグアノを採掘するのは不経済ではないでしょうか?」
まあ、経済関係での俺を見ていれば変に思うよな。
「確かに、空気から幾らでも窒素原料が作れるようになるのに、ガアノ採掘は不経済だが、事はガアノじゃ無いのだよ」
「どう言う事でしょうか?」
「ハワイ諸島にあるレイサン島は自然豊かな島でもありハワイに5つだけ存在する天然の湖もある。そのうえ、レイサンクイナ、レイサンマガモ、レイサンハワイマシコなどの固有種の宝庫だ。だがガアノが豊富に埋蔵されている為に、乱開発が始まっている。このままでは無秩序な開発で自然が破壊され動植物が絶命しかねない」
「それは自然の摂理なのでは?」
判ってないな。
「いや、人間の傲慢さと強欲さで滅んだオオウミガラス、ドード鳥などの二の舞にはしたくないからな。私が出来ることならしておこうと思ってね」
「なるほど、野生動物と植生の保護の為に、乱開発をさせないようにコントロールする訳ですか」
「そう言う事だよ」
「ご無礼致しました」
「いや、かまわんさ、卿の疑問は非常に役に立つからな」
「ありがたき幸せでございます」
仕事が一段落したので、ティータイムしながら考えるが、俺の領地や会社に買わせた土地とかでは今大々的に野生動植物の保護政策をしているんだよな。調べてみて判ったんだが、この時代から急速に開発が進んで絶滅する動植物が増えているからなんだよ。
今は、ヴィクトリア女王から貰ったソロモン諸島シュワゼル島にはカンザシバトがいて、第二次大戦後に猫が島に移入されて絶滅してしまったが、現在でも数が少ないので保護して増やしている最中だし、ニュージーランド北島南部にいるホオダレムクドリは本来なら1907年に絶滅するはずが、俺が女王陛下に頼んで保護区を作った為に繁殖している。尤もファッション用に羽を取る事が多いので、密猟者の退治が大変なんだが、コンゴとかの密猟者対策と同じで悪速斬で処分しているからな。まあ実際には足撃って動けなくしてアフリカではライオンの檻に逆さ吊りで放置しておくとかしているから、死んではないんだけどね死んでは。
リョコウバトに関しては既に完全に危険な状態だったが、マフィアを使って営巣地と越冬地と生息域の森林を大規模に購入して私設保護区を設定し、移動の際には大規模な部隊を展開しては狩られないようにガードしまくって密猟者どもから守れるようにている。更に俺のネット知識から人工繁殖方を研究させた結果、取りあえずは絶滅から脱することが出来たんだが、密漁しようとするハンターどもの森林地帯への不法侵入が絶えないので、大統領と話して、費用はこっち持ちで国立の保護区として登録しようという計画だ。まあ、アメリカなので、私有地侵入速射殺だから大丈夫なんだが、警察との折衝が面倒臭いだけらしい。
まあ、このまま行けば、幾ばくかの絶滅種を後世に残すことが出来るだろうな、そうなると良いよな。
あっ、レイサンクイナだけじゃなく、ウェーククイナも保護しなきゃ駄目だわ、あそこは太平洋戦争で日本軍が占領して、食糧難から全てのウェーククイナを食い尽くして絶滅させたからな。
早急に、保護地を決めて移住させなきゃだな。そう言えばパルミラ環礁の個人的な持ち主ウィルキンソン家からヘンリー・E・クーパーに売却されるのが1911年だから、先に買い取っておくか。あそこなら移住先に使えそうだし。
ようし、これからも色々忙しいぞ。
イタリアを書いていたノーパソのHDD完全なる死亡により思い出しながら書き直しました。