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第10話 トリア姉さん襲来

お待たせしました。


第10話です。イタリアへ帰ってきました。

西園寺公と原内務大臣、松田司法大臣の男らしさは堪りません。

1906年11月29日


■イタリア王国ローマ クイリナーレ宮殿


日本での襲撃を受けた俺とシアは上海における養生とエトナでの入院を終えて、イタリアへ帰国した。この二ヶ月間はズーとシアと同じ病室で色々話ながら過ごした。我が子のことは重ね重ね残念だったが『死んだ子の年齢を数えても仕方が無い』と断腸の思いでシアが心の病を発症させないように頑張った。


母上や父上のお陰もあってシアも帰る頃には時折笑顔を見せるようになって来ていたが、時折泣き始めるなど情緒不安定の兆候が見える。


俺も死にかけたが、それよりもシアと子のことは腹立たしかったが、それで切れて戦争だなんだとなったとしたら、個人的な癇癪で多くの臣民に俺と同じ様な悲しみを与える事などは、王族として許されざる我が侭なんだよ。


俺とシアが一般人でテロの巻き添えになったとしたら、叫び恨み戦争を求めるだろうが、俺もシアも王族として臣民を護る義務がある。シアもそれを判っているからこそ、なるべく内に籠もって感情の爆発を押さえ込んでいるんだ。だからこそ俺と2人きりの時には落ち着いているんだ。


イタリアへ帰ると、埠頭には多くの臣民が詰めかけていて、『日本に対する報復』を叫び、クイリナーレ宮殿への移動時もまるで凱旋将軍のように沿道には市民がくりだし、此処でも『日本に対する報復』を叫んでいたが、宮殿前で、従兄殿こくおうと電文で相談した様に『皆さんのお気持ちは嬉しいが、我らの為に、皆さんの家族が不幸になるのは耐えがたいのです』と発表して涙を呼んだんだ。


宮殿では、従兄殿をはじめとする王族の面々、各国大使たち、親戚一同などが迎えてくれた。無論あの禿チャーチルもいたが、最高に驚いたのは、トリア姉が来ていた事だった。シアはトリア姉をみてやっと落ち着いたようで、気丈にも皆に挨拶してから王宮で用意された部屋で寛ぐ事が出来た。


そこへ、従兄殿こくおう夫妻と両親が見舞いに来て、久しぶりに和気藹々とした。でもシアは申し訳なさそうに両親に謝罪したけど、母上が、確りとシアを抱きしめてくれたので、落ち着いたようだった。暫くすると、禿の野郎がトリア姉の手を恭しく引いて入室してきたので、思わずデコピンしてやろうかと思ったが、余りに確りとした対応なので我慢してやった。


トリア姉がシアの隣に座って、暫く話していたら、シアの顔がパーッと明るくなってみんなが安堵し始めた。そして徐に禿が従兄殿にエドワード7世からの書簡を手渡しやがった。

従兄殿は書簡を読みながら、何故か俺とトリア姉を見ていたんだが、読み終わると、あの気むずかしい顔が悪戯小僧のようなニヤリ顔で、俺を手招きした。


何かと思って側に行くと、エドワード7世からの書簡を読めと渡してくれたんだが、読んでみて驚いた。

それには、トリア姉がシアの事を心配しているので、暫くトリア姉がイタリアで生活するので、爵位としてインヴァネス女公爵を叙爵するとあった。


失礼とは思うがトリア姉に事の次第を聞いたら、にこやかに言ってきた。

「だってシアが可哀想だから、暫くは一緒にいてあげないと駄目だからなのよ」

「ヴィクトリア王女殿下」

「駄目よ、トリアでしょう」


ウインクしながらトリア姉はそう言ってきたので、仕方なしにトリア姉と言う羽目に。

「トリア姉さん、王妃殿下の許可はお受けになったのですか?」

そう、トリア姉さんの母上である王妃殿下は一時もトリア姉をねこっ可愛がりして手放さなかったんだから、その王妃が遠いイタリアで過ごすことを許すことがないじゃないか。


「ああ、その事なら、お父様とお母様が話し合って、シアとフェル君がいるなら安心だから行ってこいって言われたのよ」

「トリアお姉さん。嬉しいですわ」

「それでなんだけど、新婚で悪いんだけど、二人のスイートホームでお世話になるから宜しくね」

いたずらっ子のような笑顔でニコリとするトリア姉と一緒に過ごせると安堵しているシアを見たら、断る事も出来なく成ったよ。


「判りました。トリア姉さんを歓迎します」

「トリアお姉さん、一緒で嬉しいです」

「お邪魔かも知れないけど宜しくね」


三人の話が終わるとジッと聴いていた従兄夫婦や両親らが話に入ってきた。

「ヴィクトリア殿、国王陛下の御配慮忝く存じます」

「我が家と思ってお過ごし下さいね」


両親がそう言うと今度は従兄殿が言いやがった。

「ヴィクトリア殿がイタリアに在するならば、サヴォイア家としても爵位を送るとしますかな」

「良いことですわね。貴方」


「嘗て我がサヴォイア家から、プロヴァンス伯に嫁いだベアトリス王女の娘エリナー王女がヘンリー三世に嫁いで、我が家とイングランド王家は薄いながらも血縁ですからな。フェルデナンドとパトリシア殿との婚姻で強くなった軛を益々強くするには、ビクトリア殿にはトスカーナ侯爵に叙しましょう」


えっ、御客人に侯爵位を出すのかい、まあイタリアとイギリスとの関係強化なら万々歳だろうし、今後嫁ぐことのないトリア姉さんなら一代貴族で終わるから何ら不都合はない訳か。

「国王陛下の御配慮、謹んでお受け致します」

流石はトリア姉さん、一々優雅な姿だよな、完全に猫被っているけどね。


1906年11月29日


■イタリア王国ローマ ジェノバ公爵ローマ邸


従兄殿や関係者からの歓迎から解放されてから、一息つくために親父殿のローマ邸で寛いでいる。シアとトリア姉さんは、義父殿夫妻も一緒に気分を晴らすようにとめども無い話をしているようだが、俺は禿を目の前にして難しい顔をしてる最中だ。


「おい、うすら禿、どう言う事だ?」

俺の皮肉も何のそので禿は葉巻を吸い始めやがった。

「何と言っても、国王陛下(エドワード7世)の思し召しだからな」


「あのな、国王陛下なら判るが、あの王妃殿下がトリア姉を手放すわけがないだろうが」

「そこはそれで、お体に問題が有るかも知れない王女殿下も最近お前さんの作らせた薬で頗る体調が良くなったから、そのお膝元のジェノヴァで過ごすなら安心だと言う事でな」


「それか」

「そうそれだよ、お前さんのお蔭で乳幼児の死亡が激減したし、結核の治療に性病治療と色々あるからな」

「なるほど、判ったよ」


王妃殿下はトリア姉の体を心配して嫁がせなかったが、こっちなら、シアが元気になるまでの滞在だし、病気になってもジェノヴァの方が医療体制は充実しているから、静養を兼ねてな訳だ。納得納得。

王妃殿下のトリア姉さんを心配する心意気に関心した俺だが、この時、薄ら笑いする禿を見ていなかった事で一生の不覚を取るとは思ってもみなかった。


「そう言えば、フィッシャーの爺さんはどうしている?」

トリア姉の話は終わりにして、我がライバル英国海軍が生んだスピード狂、フィッシャー第一海軍卿の話を聞いておかなきゃと思った訳だ。何と言ってもド級戦艦を競争して建造しているんだからな。あの爺さんなら前倒ししてでも、ドレッドノートの竣工を早めそうだし、以前の協定でドナテッロと同日に竣工させるって約束したが、あの爺さん、茶目っ気があるから一日ぐらい早く発表しそうだからな。


「ああ、心配無用だ。お前さんの心配するようなことは起こさないさ、何たって協定の直ぐ後に造船所に発破かけて、一ヶ月も前倒ししろって無茶言って、ポーツマス海軍工廠長がキレたからな。そのうえ、国王陛下からも『同日竣工を絶対に守れ』と釘を刺されたんだからな」


「なんだよ、あの爺さん、やっぱり抜け駆けしようとしたのか」

「まあ、あの爺さんだから仕方が無いと言えばそうなだがな、今回お前さんが襲撃されたと一報が入った時に、真っ先に中国艦隊と東インド艦隊に臨戦態勢取らしたのは爺さんだからな」


「爺さんがか」

「まあ、あの爺さん、口じゃ色々悪たれ叩くけど、我が親友を頼もしく思っていることは確かだしな」

「それは、判るさ」


「まあ年寄りの冷や水の思ってやれば良いじゃないか」

「まあそうだな、60越えてあんなに元気なのは肖りたいな」

「全くだな」


あの爺さんも可愛いところがあるもんだよな。

「それで、こっちは約束通りに12月2日に竣工だが、良いんだよな?」

「安心してくれ、それは間違い無いからな。けどその怪我で大丈夫なのか?」


この禿も心配してくれるとはな、有りがたいから禿禿言うのは止めてやろうかな。

「ああ、2ヶ月も経ったんだから大丈夫だよ」

「なら安心だな」


「これで、画期的な戦艦がイタリア、グレートブリテンで誕生するわけだ」

「まあ、3日後が楽しみとしようか」

「なんだ、来るのか?」


「まあな、今の俺は国王陛下から大英帝国全権大使に任命されているから、大いに歓待してくれよ」

「全く食えない男だな」

「馬鹿言え、俺が大人しくしてたらお前どう思うよ」


「確かに、何か企んでいると思うわな」

「だろう、だからこそ大仰に動くのが一番と言う訳だ」

まあ、この禿も俺とシアの事を考えてくれて憎まれ口を叩いてくれているんだよな。良い友だよ。


1906年11月29日夜間


■イタリア王国ローマ ジェノバ公爵ローマ邸


禿が英国大使館へ帰った後、駐日大使からの連絡が来た。日本では、西園寺公が総理を辞任し、駐英大使の小村寿太郎が罷免され本国召喚。代わって総理には桂太郎が再任、外務大臣には加藤高明が、駐英大使には林董の再任が決定したそうだ。


やっとという気もするが、この所の日本は騒動で戒厳令直前まで行ったが、乃木閣下が『人の不幸を願うとは何事ぞ』と民衆の前で叱咤した結果、騒動が収まり、西園寺公は天皇に心労を懸けたという名目で辞任した。名目上は天皇に対する事だが、親書では此方へのケジメを付けるための辞任だそうだ。


下手人の河本大尉は軍籍剥奪の上、2件の殺人未遂で無期懲役が言い渡されたとのこと、この際には、相当もめたらしいが、西園寺公の片腕である内務大臣原敬殿、司法大臣の松田正久殿が自らの信念を持って脅しなどを無視して決定したそうだ。ただ悔しいことに、胎児は一個人では無く、母親の一部であると各国とも刑法に記されているので、胎児の殺人罪には問えなかったそうだ。それもあって、西園寺公は身を引いたわけだ。


しかし皇太子殿下も立派だが、西園寺公、原殿、松田殿も立派なお方だな。こう言う方が長生きしていれば日本ももう少し良くなったのであろうに、原殿は暗殺され、松田殿は胃潰瘍で亡くなるから、この辺を何とか出来れば変わるかも知れないな。


暗殺は一度防いでも次が有るかも知れないが、胃潰瘍ならイタリア資本で病院を作れば何とかるかも知れないな。検討してみよう。


さてそろそろ寝るか。

”トントン“

ん? 

こんな夜中に誰だろう?


「貴方、夜遅くまで御苦労様です」

「シアこそ、早く寝ないと駄目だよ」

驚いたことにそこにはネグリジェ姿のシアがいた。


「えーとね、トリアお姉さんから貰ったのよ。でね、一緒に寝ない?」

「良かった。シアがやっと明るくなってくれた。無論一緒に寝るさ!」

「嬉しい、じゃあ寝室で待ってるね」

「判ったよー」


早速着替えて寝室へゴー!

暗くなった寝室のキングサイズベットにはシアが顔を出して待ってきた。

「貴方」

「シア」

ルパンダイブでベットに潜り込んだが、まさか翌日にビックリ仰天するとは俺はこの時考えも浮かばなかったのである。

三田三巻の作業中です。三田本編は来週にでも書きたいと思っております。


三田三巻は4月25日発売予定です。修羅場ってます。

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