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12話 準備と会議

――意識が覚醒する


目が覚める一歩前。頭に現実感が湧き出て来て、柔らかな枕の触感を認識する。ベッドの吸着力に負けて、まだ起きることはかなわない。楽な体勢になるために、寝返りをうった。その腕のがやわらかなものに触れる。優しく手を握られ、手の位置をベッドの上へと移動される。ただし、手は握ったままで。やわらかく、いつまでも握っていたくなるような手のひらだった。ただし、ここは夢では無く現実である。

目が覚める。開けたその目にうつったのは、大きな緑の瞳だった。こそばゆく鼻に息がかかる。


「わっ。起きた」


向こうはもうとっくに目が覚めているらしく、そんな声があがった。跳ね起きるようにベッドから飛び降りていった。その恰好は普段着だろうか、正装だろうか。ぴったりと、脚の線を浮き彫りにしているパンツに太く白いベルトを通している。白いノースリーブのシャツを着ているくせに、日焼けを嫌ってだろうかロンググローブをしている。ただし、気になるところがあって、つい口にした。


「……フィン。へそ見えてる。あと腹筋割れてる」


寝そべったまま、こもった声で俺が言うとフィンが怒った。


「うっさい! あと腹筋はわれて無い! 縦線が入ってるだけよ」


「縦線……あっ、妊娠の」


「違うッ! あんたの知識は極端なのよ!」


がーっと怒り、シーツがはぐられる。起きろとのお達しらしい。

ベッドの上に座り、首を動かしたり肩を動かしたりしながら思った。


――あれ、俺、なんでフィンの部屋で寝てんだっけ


そう思うけれど、答えが出ない。というか、昨晩のことをあまり覚えていないのはなぜだろうか。


「なんか俺、記憶飛んでる。俺は、昨日……」


あわてたようにフィンが体裁を整えた。「あなた、疲れてたのよ」目を見ずに言われた。何だか少しわざとらしかった。


「俺は、お前に言いたいことを伝えただろうか」


頭を押さえたままそういうと、フィンがベッドに腰を掛けて上半身を俺に向ける。そのまま口を開いた。


「ええ。召喚士になったこと。お守りがきいたこと。そんな話を聞いたわ。それと、わたしと戦いたいってことね。望むところよ」


「そうか。それが伝わってればよかった。召喚士になって戦おうと昔約束したもんな。だから、一番最初に戦うのならフィンがよかったんだ」


そういうと呆れられたように笑われた。


「そう。そうなのね。でも、一つ言っておくわ。わたしは強いわよ」


――全戦全勝

それがフィンの成績であり、類を見ない数字である。


「お前が強いのはよく知ってる。届かないにしても、はじめてはお前がいい。ただのエゴだ」


「いいでしょう。来るものは拒まず。叩き潰してあげる。悪いけれど、誰が何を連れてようが手を抜くほどわたしは優しくないから。ただ、それでも耐えなさい」


立ち姿が絵になる。立って半身で腕を伸ばし、手を招くその姿は万人をして様々な意味で届かないと思わせることだろう。


「あ、だからね。あなたが寝てる間にアリーナを借りておいたわよ。今日の昼下がりにアリーナで戦いましょう。よもやその程度もできないとは言わせないわよね」


なんと行動のはやいことだろうか。俺が寝ている間におぜん立ては終わってしまったらしい。

有無も言わさない威圧を食らう。それを笑って跳ねのける。


「当然だ」


それに、よくできました。というような笑いが浮かべられた。

その姿を見てからベッドを出る。なぜか、いつのまにか脱いでいた服を着なおす。かけられていたシャツを手に取り、勢いよく羽織ってボタンをしめる。なぜか、すんすんという匂いを嗅ぐ音がした。

近くでフィンが怖い目つきで俺を見ている。


「だいっじなことを聞き忘れてたわ。ねえ、この薔薇の臭いはなに。返答によっては、今日の予定は全部キャンセルよ」


髪が逆立ち炎が燃え上がる。これは俺の錯覚だろうか。思わず身じろぎしてしまうような炎の熱さだった。


「薔薇の臭いがするのは俺の使い魔だよ」


「薔薇の、使い魔……なによ、素敵じゃないの! 植物系かしら。あ、ううん。やっぱり言わないで。わたし、イチゴのケーキのイチゴは最後まで取っておきたいタイプなの。そっかぁ、薔薇かあ。うーん、ちょっと楽しみになってきたわ。あ、使い魔二体出せる?」


コロコロと表情を変えるフィンの質問に頷く。


「そう。じゃ、ルールは2対2。二体ずつで勝負しましょう。わたしはカトリーヌとリタを出すから、よろしくね」


試合を始める前にオーダーをもらすのはいかがなものか。普通、そういうのも含めて召喚士の試合なはずなのだが。

それにしても、相手は最悪に近い。フィンの風龍たちが猛威を向く。だれで、どのように対抗すればいいのだろうか。


「昼下がりにアリーナだったな。少し、外に出てくる」


「うんっ。またね」


そう言って手を振られて、手を振り返す。後ろ手に部屋の扉をしめようとしたとき「アリーナでラドルフですって言えばいいからねー!」なんておせっかいが飛んできた。扉がしまりそうになるなかで、わかったと返事をしてそのホテルを出た。

ホテルを出たあたりで、羽音が聞こえたかと思いきやラルゴが俺の頭の上に着地した。


「ふっ。話はすべて聞かせてもらったっす」


「なに当然のように言ってやがんだ!? それを盗み聞きというんだよバカ野郎!」


なぜか格好つけていうラルゴをたたいた。


「ぎゃぁっ! 盗み聞きだけじゃないっす! 昨日の夜からヴラド公の城でみんなで様子をうかがってハラハラしてたんすよ!つまり、盗み見て、盗み聞きしてみんなで笑ってたっす。特に決闘の申し込みのとこはよかったっすね。けっ、けっ、けっ、ケットウ!」


「絶対にあとでお前と風龍を対峙させてやる」


意にも介さず、ラルゴが言った。


「歴史に残る泥仕合を演じて見せるっす」


「いや、いい。やっぱダメだ。お前じゃ勝てる未来が浮かばん」


「ラドルフも召喚士っぽくなってきたっすねー! ちなみに俺っちら使い魔勢は、風龍とやるって聞いたらウズウズして全員準備万端っすよー!」


翼を広げてそう言い切る。いやに頼もしかった。


「風龍と因縁でもあるのか?」


「チッチッチ。ドラゴンと因縁があるんすよ。魔王ってドラゴンと土地争いをずっと続けてきましたから。ああ、ドラゴンと言っても空をパタパタ飛ぶやつらっすよ。地龍や海龍は仲間っす」


初耳の話だった。魔王がそんな役割をもっていたというのは。さらりと規模のでかい話をするために、ついていくのがやっとだ。


「まあ、おいおい話すっすよ。ちなみに、風龍の最多キルレコードを持ってるのは白銀公っすー! そりゃスピード自慢の風龍よりも速いんすから、あいつらを相手にして負けるはずがないっすよね」


「それはすごいが……殺すんじゃなくて倒すんだ。わかってるよな」


「ふっ。生かさず、殺さず絶妙にっすね?」


口を開けて羽で顔を隠すその姿は、まるで悪巧みをしているようだった。魔王だからか、なぜかそういった表情が似合うと思ってしまった。いや、魔王も関係が無い。単にこいつの性格が悪いだけだろう。

頭に使い魔をのせて歩く姿というのは異様に目立つ。ラルゴを肩に追いやり、人気のないアリーナの観客席へと行く。その広いと思えたアリーナの舞台となる戦場も、いまの俺の目にはひどく狭いものに見えた。


「ッチ。あまりに狭すぎる。空間拡張の結界でもはらねーんすかね」


「残念ながらないな。俺もどうしようかと参っていた。普通の召喚士にはこのフィールドはちょうどいいか広いぐらいだろう。だが、俺たちには」


ラルゴが同意した。俺と同じように頭を抱えている。


「狭いっすね。白銀公の線は消えました。広げた場所か森の中なら、相手はいないんすけどね。ここで風龍相手に走らせるには可哀そうっす」


「誰を出す。二体選ばなきゃいけない」


「マスターは誰を出す予定だったんすか」


「……シルバーとベヒモス」


ラルゴは悩む。その線だと、と頭の中でいくたびもシミュレーションをおこなっているよう。


「あいつらのチームの相性はいいっす。だけど、いかんせんこの地理で風龍じゃキツイっす。それにベヒモスは決して鈍重じゃないっすけど、重い。空を飛ぶ風龍を相手にするなら遮蔽物が欲しいっす。白銀公はおそらく良い勝負するっすけど、最良の選択じゃないっすねえ」


「そうか。すまんラルゴ、教えてくれ。誰でいけばいい。俺は、誰を頼ればいい」


ラルゴは笑って俺をたしなめた。


「教えてくれじゃないっすよ。俺っちの意見を進言するだけっす。決めるのはマスターっすよ。ほら、俺っちは魔物との戦いは慣れっこっすけど、そこに召喚士が加わることでどうなるかわかってねえっすから」


たまに、こうしたことを言うラルゴの意見は正しい。信頼できる意見として、俺は聞いた。ラルゴの口から、名前が二つ出てくる。俺は思わず笑ってしまった。


――なるほど。その手があったか


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