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11話 申し込み


俺たちの一連の再会を近くで見ていた少年少女は、顔を赤らめながらも目を離せないように見ていた。フィンはそのことを完全に忘れていたようで、振り返って黄色い声をあげながら顔を隠していた。

その二人といくつも言葉を交わしながら「またギルドかアリーナで」そう言ってフィンが手を振って別れている。そんな様子を二匹の風龍と戯れながら見ていた。腕を軽く噛んで見せたり、服のはじを引っ張ったり。そんな様子がたまらなく可愛く、綺麗になったな、なんて声をかけていたのをフィンに聞かれていて二匹とも帰らされた。

その後、ゆっくりと話ができる場所としてギルドのほうへ行こうとするとフィンが眉をしかめて首を横に振る。フィンが自分の泊っているホテルへと案内した。庶民である俺には縁が無い場所へと足を踏み入れる。なんでもラウンジがあり、そこで飲食のサービスを受けることができるという。そんな環境に住んでいるフィンに驚きだった。高そうだな、そうつぶやくと、召喚士の免許でもあるギルドカードを見せられる。俺のとは全く違い、希少金属で出来たそれはギルドに宿泊代を請求できるとかいうふざけたものだった。はっとして、フィンがすぐにカードを隠した。しばし、無言で通されるままに席に座った。複数人でかけれるような赤いソファーの席に、なぜか相対してではなく、同じソファーに隣り合って座る。膝を付け合せて座るはめになった。


「お腹すいてる?」


フィンがお腹を押さえながら、そう聞いてくる。昼を諸事情で食べそこなった――ソーセージが一口だったため、力強く頷いた。

フィンが慣れたように言う。


「ミートパイとマッシュを二つ、それとリンゴのサラダ」


お飲物はと聞かれる。


「ブドウのジュースからはじめさせてもらうわ。ごめんなさいね。お酒はまだ飲まないわ」


イタズラっぽくそう言うと、ウェイターは俺とフィンの顔をなんども目で往復したあげく、下がっていくときにも振り返っていた。釣り合ってないとか思ったんだろう。態度に出ている。

そんなラウンジとよばれた場所を見回すが……。


「ラウンジ……? レストランだろう」


「奥にレストランがあるのよ。それと同じものが出てくるの。ちなみにラウンジは会員制よ。しかも、いつでもやってるのよ」


さっきのカードを見せるか、金を払えば使えるってことだろう。こんなんだから召喚士は社会的地位と結び付けられるんだろうが。

だが、こちらのほうが静かで落ち着いた話ができるという点では秀でているのかもしれない。しかし、フィンはなかなか話をしなかった。召喚士の話には触れずに、さしさわりがないような話題で話をする。昔話に華を咲かせたりもした。だが、そんな楽しいおしゃべりは、食事が終えるまでだった。食事が終わり、少ししたところで俺が切り出した。


「フィン。話がある」


そう言うと、少しだけ嫌そうに下を向いてから、しっかりと俺に向き直る。


「これ、ありがとう。このお守りのおかげで、俺は未開拓地から帰って来ることができたし、どうにか命を捨てずに済んだ。本当に、ありがとう」


「うん。帰って来てくれて、嬉しいよ」


「俺も、お前に逢えてうれしいよ」


フィンの笑顔に魅了されてか、俺はそんなことを口走っていた。羞恥心からか、右手で口を覆う。そんな状態でフィンを盗み見ると、信じられないものを見たというように目を大きく広げて、また、嬉しそうに口の形がだらけきっていた。


「ラ、ラドルフ。いまの、もっかい」


「二度は言わねえ」


シュン、と見るからに落ち込んでしまった。今のは言ってやったほうがよかったのだろうか。いや、この態度を見る限りそうだろう。


「……俺も、お前に逢えて……嬉しいよ」


二度同じことをいうのが、こんなに大変なものだとは知らなかった。けれど、フィンが笑えばその苦労は報われた気がした。それだけで上機嫌になってくれるものなら、安いものだろう。


「それと、もう一つ。本題があるんだ」


「……うん」


切り替えが早いフィンは、すぐに切り替えていた。


「あのな。ずっと前からお前に言いたいことがあったんだよ。何年、かな。結構、胸に抱いてたんだが、ずっと言えなかったんだ」


「ちょ、ちょっと待って!!」


顔を真っ赤にしたフィンが、大きく息を吸う。胸に触れている手が力を入れ過ぎていて、やわらかな形の変化をみせていた。何度も長い息を繰り返して、ようやく落ち着いたフィンは俺のほうを向く。ぐっと距離をつめ、前のめりになって話を聞こうとしていた。きらきらと光る眼がまぶしく、下から見上げられていて、すごく話しにくかった。


「あ、あのさ、フィン。お前さえよければの話なんだが、いや、俺とお前の双方の同意があって初めて成立するというか、そういった類の申し込みなんだけど」


なんだか、熱い。そんな錯覚を覚えるぐらいに緊張していた。緊張する理由はフィンが近づいてくるからなんだが。


「フィン、俺とさ」


「……はい」


神妙なおもむきで、彼女が頷く。そんな様子にドギマギしてしまった。


「俺と、けっ」


いまにも俺に触れそうなぐらいに近づくフィンの目を覗き込んでしまった。近く――息がかかる距離で見るにはあまりにもその顔は整いすぎている。それでも、言いたいことはいわなければという一心で、回らない舌と口を回そうとした。


「お、俺とっ。けっ、け……」


顔を真っ赤にしながらも絶対に俺から顔をそむけないフィンを見ながら、言い切る。


「……ケットウ、してくれ」


「はいっ!」


俺の手を両手で握りしめ、あろうことか涙までためていた。


――そんなに戦いたかったのか


だが、思ってたような反応と少し違う。なんだかうまく飲み込めていないようだ。


「……は? ケッコ、ん? なんていったのよ、いま」


顔に指した朱が瞬く間に引いた。そんななかで、冷静に頭を捻りながらの言葉だった。


「決闘だよ。決闘。俺と、戦ってくれ」


俺が言いなおすと、フィンが脱力したように下を向いた。

そんな様子を不思議そうに眺めていると、フィンの顔が勢いをつけて上がった。髪が振り乱されるのも構わないようだった。そんな中で、今度は別の意味で顔を赤くし、歯を見せている。


「……バカァッ!! バカ、バカッ! ラドルフのっ、バカぁッーーーーッ!!」


そのあと「信じらんないっ」という言葉を捨て置かれ、フィンが立ち上がりどこかへ行ってしまう。怒り心頭といった後姿には聞き耳なぞついているように見えず、やってしまったという後悔だけが残った。


――――フィンの足が止まった


握りしめられていた腕が、頭部にいく。一度、首をかしげた。二度目。かしげたあとフィンは怒りに突き動かされてどこかへ行くよりも遥かに早い速度で俺の隣に座り直し、俺の手をとった。


「ラドルフッ! ねえ、決闘ってことはさ、わたしと戦うってことはさ! ラドルフに使い魔がいるってことっ!?」


本当に切り替えが早い。あれだけ怒っていても頭が回ったようだ。


「そういうことだ」


フィンは飛び上がり、自分の事のように喜んでくれる。


「おめで、とう。おめでとう。よかった。よかったぁ。おめでとうっ」


両手を合わせて、目がしらに手をあてていた。零れ落ちそうになる涙を、俺が指ですくう。


「すまん。今までカトリーヌのことでお前に気負わせた。本当に、すまなかった」


かつて風龍が召喚されたとき、フィンにあげたことを後悔したことはなかった。後悔したと言えば、それでフィンが気にしてしまっていることだけだった。


「なんでそれを、いまここで言うのよ。……えっ。ラドルフは……ラドルフはもしかして、わたしのために召喚士になったの?」


「まあ、そうなるな」


「なんで。なんでいつもそんなっ。わたしのことばかりッ」


自分を責めるように、そんなことを言い出す幼馴染に向かって言った。


「それこそ、なんで今になって言うんだよ。小さい頃からそうだったろ。俺の世界は常にお前が中心に回っているんだ。そんな環境にいるからだろうな。俺が常にお前の事を考えているのは」


フィンの口が三角のように歪められ、声の出ない声が出る。しだいに顔が赤くなって、その感情が最高潮になったところで。


「もぉ~~っ! ラドルフッ!」


なんて黄色い声を出したと思ったら同時に手も出て来て、その掌底が俺の水月を絶妙に捉えた。抑えの利かなかったらしいフィンの掌底を受け体をくの字にくねらせた俺は、意識を刈り取られた。


――これは、ない、だろう


「えっ、きゃああああっ!?」


視界が暗い中、そんな声だけは耳に届いた。



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