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あの生徒会長はモブキャラに違いない

「……なのです。えー、みなさんは人という字を知っていますか? 人という字は……」

 先ほどから学校長の話が延々と、冗漫に続いていた。

 入学式は、非常に退屈なものだったけれど、何事も起こらず滞りなく進んでいる。

 ぼくとエリュエちゃんは束の間の平穏をゆったりと過ごしていたのだけれども、

「……ボールを渡し、私は少年に対してこのように言ったのです。諦めたらそこで……」

 学校長の話は一向に終わる気配が来ない。

「そこで言いましたとも。『それは“ホコリ”まみれだったでしょ?』と。そして……」

 えー、まだ喋るの? いくらなんでも長すぎるよ。

 それにどこかで聞いたような話ばかりな気がするんだけど!

(もうっ。何も起こらないのはいいけど、早く終わってくれないかな?)

 長すぎるし、面白くないし、話してるのはおっさんだし、の3重苦だよ。

(あの……ユートさん。先ほどから行われている、これは一体何の儀式なのです?)

 エリュエちゃんが、校長の実のない話の意味を突っ込んできた。儀式か……言いえて妙だな。

(えーっとね、これはお偉いさんがたの自己満足に、ぼくらがつき合わされているのさ)

(ふーん。そうなのですか……確かに皆さん、非常に退屈そうにしていますね……はぁ、この星の人たちは変わった事をするんですね)

(うん。ぼくも本当にそう思うよ……ふあ~あ……)

(……あっ、ユートさん。あれは一体なんなのですか?)

(ん? あれ? あれは……開店祝いとかお祝いとか、おめでたい時に飾る、花? 造花かな? まぁ、そういった物だよ)

(おめでたい時には大きな花を飾るのですか……でも、あの1輪だけですか?)

(うーん。ぼくも、そこまで深くわからないけども、そうだと思うよ)

(ほぅ……やはり、星ごとによって、様々な風習があるようですね。興味深いです)

(いや、この国の人はそんな事、あんまり考えていないんじゃないかな?)

(そうなのですか? 自分達の星の事なのに、ですか?)

(う~ん。そう言われると苦しいけど……)

 そんな風に、エリュエちゃんとカルチャーショック話(?)のような会話で退屈を紛らわしていると、

 ようやく学園長の長ーい長い、ありがたい話が終わってくれた。

「続きまして……生徒を代表して、現生徒会長から訓辞を致します」

 その言葉と共に、キリッ、とした女性が壇上に上がっていく。

「1年生の皆様、ご入学おめでとうございます。上級生の私が代表して、入学の言葉を送りたいと思います」

 へぇ……凛とした声だし、眉目麗しい、美しい女性だなぁ。

 でも、どこかで見た事のあるような気もするんだけど、どこだったかな……

 えっと、幼稚園の時かな……小学校の時……何かがあったはずなんだけど……めそ……

 あれ? 今、何か思い出したような気がしたけれど、何かが引っかかって思い出せない。

 ……もしかして、本能がそれを拒否している?

 綺麗な人だけれども、あの人を見ていると、なぜだか震えが止まらなくなってきた。

 ……あわわわわわ、なんだ! この迫り来る恐怖は!? ブルブル……うう、怖いよう。

 ト、トラウマが……頭も痛くなってきた。呼吸も苦しくなる。あれ、息が出来ない!?

 いけない! 落ち着いて……深呼吸……フラッシュバックしそうなのを理性で遮る。

 どうやら、世の中には思い出してはいけない事があるようだ。パンドラの箱をわざわざ開ける必要はない。

 ぼくは処世術として、あの女性について考えるのを止める事にした。

 そんなぼくをよそに、生徒会長さんは入学してきたぼく達の歓迎の言葉を、紙を時折り見ながらもスラスラと流れるかのように喋っていた。

 さっきの学園長の話が冗長だったので、余計に格好良く見えてしまう。

「これで、第71回○○高校在校生からの、入学の挨拶を終わりたいと思います」

 ほっ……入学式は、何も起こらずに終わってくれた。

 そんな安堵の表情を浮かべた時、生徒会長さんがこちらをチラリと見た気がした。

「○○高校2年い組、在校生だいひょ……っ!?」

 その途端、生徒会長さんはピシリ、と石にでもなったかのように動きと声が止まった。

 …………? 何が起こったんだ?

 相変わらず、こちらの方を見たまま、全く微動だにもしなくなった生徒会長さん。

 さっきまでは、少しもつっかえる事もなく喋っていたのに、どうしたのだろうか?

 周りの人たちも、これはおかしいと思ったのか、ザワザワとし始めた。

(あの人、ユートさんをずっと見ていますよ?)

 エリュエちゃんが、ぼくの耳に手を当ててそう言ってきた。

(いやいや、まさかぁ! こっちの方を見てるだけで、別にぼくを見ているわけじゃ、)

(いえ、ユートさんとわたくしを見ています。こちらをじっと)

(……………………マジ?)

(マジというのが、本当という意味でしたら、マジです)

 えええええ、な、な、なんで!? これ以上、イベントを増やしたくないよ!!

 こっちは朝の事とか、エリュエちゃんの事とか、魔法少女の事とか、冬音姉の事で頭がいっぱいなんだから!

 いや、本当に多すぎるよ! もうカルテットだよ! クインテットなんて無理だから! そもそも供給過多で需要はもう間に合ってるから!

 キャパシティーオーバーでヒートアップして、ハングアップだよ!

 讃美歌オラトリオ執行猶予人モラトリアム大泣ヘクトパスカルきだから!

 ああ、何を言っているのかわからなくなってきた! 結局、何が言いたいかというと、頼むから悩みの種を持ってこないでくれって事!

 そんなぼくの祈りが通じたのか、それとも教頭の言葉で我に返ったのか、生徒会長さんは自分の名前も言わず足早に壇上を降りていった。

 ざわざわ……一体何が起こったの? ……ざわざわ……

「え、ええ~。以上を持ちまして、入学式を閉会したいと思います」

 教頭の慌てた声で、ぼくらの入学式が、多少、強引に終わった。

 なんだか、ぼくの今後の人生を暗示している気がしてならないのは、気のせいだろうか。

「は~い。ろ組のみんな~、教室に戻ろうね~!」

 教師が、次々に自分達の受け持っている生徒に発破をかける。

 その中でも冬音姉はやっぱり初々しい。でも、それが冬音姉のいい所なんだよな。

(何事なく、つつがなく閉幕しましたね)

 そうだね……途中で、というか最後、生徒会長さんにじっと見つめられていたけれど、それ以外は何も起こらなくて良かったよ。

 ぼくの方を見ていたというのも偶然だろうし、話かけられなかった、という所を考慮すれば、

 たぶん、生徒会長に対してフラグがちゃんと立ってなかったんだろう。

 だって、全校生徒の前で生徒会長が1人の生徒に向かってしゃべる、という美味しいイベントを小説や漫画だったら見逃すはずがないからだ。

 だから、フラグも立ってないし生徒会長もこの物語に関係してこない。

 生徒会長さんはモブ的なキャラなはずだ。そういう事にしておこう。いや、そうであって欲しい。


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