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斑鳩さんの過去

 なぁんだ。それ位なら別にどうって事ないな。それだけか。

 だが、驚かないぼくの反応を見て、逆に斑鳩さんが驚いた。

「ええっ!? ゆうま、君はなんで驚かないんだ!? 異世界から来たんだぞ!? この世界じゃありえない事だろ!?

 異世界人の到来を渇望している女子高生もいる位と聞いているのに!

 というか普通驚くだろ!? この世界に来て、ずっと秘密にしていたのに!」

「えっ、いや、今日だけで色々ありすぎて、もう麻痺してるからというか、

 別にそれくらいだったら、わかりやすいし、設定的にも普通かな~って」

 ぼくのその発言に呆気に取られている斑鳩さん。

「そ、そうなのか……告白しようか悩んでいた私の方がバカらしくなってきたぞ……」

 うな垂れそうな頭を右手で支える斑鳩さん。深くため息を吐いていた。


「まぁまぁ、いいじゃないですか。……あ、それで、魔法の練習というのは?」

「ああ……その、本当に簡単な事なんだ。なに、君を丸焦げにしたりはしないさ」

「………………」

 そんな事を言う時点で、その可能性がある、という事を意味しているようなものだ。

 ちょっときな臭くなってきたぞ。詳しく知っておかないと、後で痛い目に遭いそうだ。


「あの、出来れば、具体的な事を先に、お聞きしたいんですが……」

「いや、な……私のいた世界では、魔法というものは誰にでも使えるものだった。

 ただ、私には魔法の才がなくてな。そのハンデを力だけで乗り越えてきたんだ」

「はぁ……すごいですねー。魔法を使える世界で、体一つで立ち向かっていくのは大変な苦労だったでしょうに」

 素直に思った通りの感想を述べると、斑鳩さんは少し照れた。

「そんなおべっかはいい。……それで、だな。1人山奥で修行を繰り返し、魔法に頼らなくても充分に強くなった頃、私は女勇者と出会った」

「勇者にですか? すごい偶然ですねー」

「いや、勇者というのは後付けなんだ。なにせ魔王を倒そうとする者は、みな勇者なのだから。私の世界では、自称勇者がごまんといた」

「はぁ…………」

「それで途中に出会った、女僧侶や女賢者らと共に旅をして、道中さまざまな敵たちと戦いながらも、1年前に見事、魔王を倒したのだ」

「はぁー……魔王を……ですか……」

 あまりに凄過ぎて、嘆息する。ぼくには全く想像がつかない。

 だが、そんな荒唐無稽の話も、斑鳩さんの強さを見た今なら信用出来てしまう。


「無事、世界は平和になったけれども、私は更なる強さや、私より強いやつを求めて旅に出たのだ」

 なにやら求道者っぽいな。ストイックなのだろう。そういう所も含めて格好いい。

「だが、隠しダンジョンの裏ボスも倒して、やる事がなくなってしまってな。そんな時、ふと、小さい頃からの夢を思い出したんだ」

「それが魔法を使う、という事ですか?」

「その通りだ。早速、その目的を達成しようと、すぐに大魔法使いの門を叩いたんだ」

 なんか斑鳩さんらしいというか、決めたら即実行!

 でアポイントメントなしだったんだろう。大体、想像がつく。

「3日3晩、門の前に座り込んで、無理やり、弟子にしてもらったまではよかったんだが、如何せん初級の魔法も使えずに……破門の危機に立たされたんだ。

 いや、その前にも1度、師匠の大事にしている蔵を派手に壊してしまい、破門にされそうになったけれど、強引に……実力行使で……

 そして、今回もなんとか条件付きで破門は免れたんだが……」


「………………」


(エリュエちゃん。今、小さな声で、『実力行使』って言わなかった?)

(はい。聞こえない位、小さかったですけれど、確かに言いましたね)

(というか、素手で魔王と渡りあえる位なんだから、魔法が使えなくても、その大魔法使いの師匠より強いんじゃないのかな?)

(確かに、魔法を使わなくても、充分に実力のあるお方ですからね)

 そんなぼくと、エリュエちゃんのやり取りに気づく事もなく、斑鳩さんは喋り続けている。

「……なんだがな。本当に参ったよ……ん? ゆうま、聞いているか?」

「あっ、はい! 聞いています! それで、どうしたんですか?」

「ああ、それでな、半年前に条件を出されたんだが……まだ、1つもクリアしていない」

「はぁ~、魔法を使うのって、そんなに難しいんですか……で、その内容とは?」

「1つずつ言うと長くなるから、端的に言うが、君の使える、君というのは私だな、

 その私の使える『異世界を飛ぶ魔法』を使って様々な課題をクリアしなさい、と言われた」

(ああ、それでこちらの女性はこの世界に来たようですね。異世界を飛ぶ魔法というのは、わたくし達でいう所のワープといった所ですか)

(ぼくの世界じゃ、どっちも使えないけど、言葉くらいは知ってるな……って、あれ?)

「異世界を飛ぶ魔法、って斑鳩さん、魔法使えてるじゃないですか」

「い、いや、それは魔法と言うか体質なんだ」

「体質?」

「私には自分が必要としている物や場所、条件が揃えば、違う世界に飛ぶ能力があるんだ。確かに他の誰も使えないが……残念だが、これは魔法ではない」

「でも、みんな使えないのなら、定義的には充分、魔法なんじゃ、」


「いや、私はみんなが使っている『普通』の魔法が使いたいんだ!」


 そう熱演する斑鳩さん。

 普通の魔法って……特殊な魔法の方が絶対にいいと思うんだけど……

「そんなに魔法が使いたいんですか? 別に魔法が使えなくたって、斑鳩さんは魔王を倒せる程、強いんだから、別にいいんじゃないですか?」

 そう言うと斑鳩さんは、なにやらまたモジモジし始めて、

「うっ……だから……その」

「? なんですか?」

「……その、魔法使いって可愛いだろ……?」

 小さくなり、俯きながら上目づかいでこちらに同意してくる。


 うっ!? これは可愛い!! これは納得せざるおえない!


「そ、そうです。かわいいですよね……って」

 ……あっ、今のは斑鳩さんの仕草が可愛いのであって、別に魔法使いが可愛い、って言ったわけじゃないです!

 と言いたかったのだけれども、斑鳩さんはぼくの同意を聞いて、水を得た魚のようにイキイキとし始めた。

「そうだろ! 私もあの黒いローブを羽織って魔法を使いたいんだ! 部屋に篭って難しい魔導書を知的に読みたいんだ!

 しかし、誰もみんな私のいう事に同意してくれない。勇者も僧侶も苦笑いをするばかりだし、賢者に至ってはバカにしてくるんだぞ!

 魔法使いになりたい、というのは私の目標であって、どんなささいな事でも個人の考えは誰にもバカにする事は出来ないんだ! だから、私は決して諦めはしない!」

 元気にブンブンと腕を振り上げて演説する斑鳩さん。

 その姿は軍を鼓舞し、士気を高める精悍な騎士とダブって見てしまう位に勇ましい。

 決して、薄暗い部屋の中で1日中、本を読んだり、怪しい液体をぐつぐつ煮ているような魔法使いの姿には似合っていない。

 ……けど本人がしたいって言ってるんだし、いいか。

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