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ぼくのかわいい妹

 ゆさゆさ、ゆさゆさ。

「おはよ~、お兄ちゃ~ん。朝だよ~。朝ご飯食べて学校行くんだよ~」

 いつも通りの心地のいい揺れで、この物語の主人公のユウマは目覚めた……のだが、

「うう、あと5分……むにゃむにゃ……zzz」

 いつも通りにぼくの意識は夢の中へと沈んでいった。

「……うーん、もう食べれないよ~」

 そんな、いかにもな寝言を呟いている兄を見て妹のメイは頬をぷっくりと膨らませる。

「もぅ! 今日から新しい学校に行くんでしょー? 入学初日に遅刻はダメだよ~」


 ゆっさゆっさ、ゆっさゆっさ。

「んんっ……」

 意識はあるのだけれども、やはり朝の睡魔には勝てない。

 妹にこうして毎朝起こしてもらわないと遅刻してしまうくらい、ぼくは朝が弱い。

「も~、ホント、お兄ちゃんってお寝坊さんなんだから~。これじゃあ、一生わたしが面倒みないといけないよ~!」

「うーん……それはいい案だ……zzz」

「あ、そっか。そうだね。えへへ、わたしもそれでいいかも♪ ……じゃなくて、」


 ぐらぐら! ぐらぐら!

「起ーきーてー! お兄ちゃーん! ちーこーくーだーよー!」

「……zzz……まだこんなにあるの~? これじゃ、食べきれないよ~」

「ちょっと!? お兄ちゃん! いつまで夢の中で食べているのよ! 早く起きないと、わたしにも考えがあるんだからねっ!」

 そんな事を言っている妹だが、顔は全然怒っておらず、むしろ好都合♪ といった感じでベッドへと登り始めた。

「うふふ。全然起きないお兄ちゃんが悪いんだからね? それじゃ……えーい!」

 そして、ぼくの胸に馬乗りになってジャンプ! 体重を乗せてのしかかってきた。


 どっしーーーーん!!


「ぐふぅ!?」

 妹のちっさい体でも勢いをつけて乗っかられると息が出来ない。

「げほっ、げほっ……急におっきなパンが落ちてくるなんて……って、あれ? ああ、なんだ夢だったのか」

 妹の過激な目覚ましによって、ようやくぼくは完全に目が覚めた。

「うーん、なんだかいい夢を見ていたような気もするんだけど、今の衝撃ですっかり忘れちゃったな。

 ま、目も覚めたし、そろそろぼくも起きようかな……って、んぐっ!?」

 な、なんだ!? 何が起きたんだ!?

 急に息ができなくなったぞ!? どういう事だ!?

 胡乱な意識を凝らしてみると、甘えるような声と共にほのかに香る妹の匂い。

 そして口に広がるやわらかい感触。

 それに……ペロ……この味は……もしかして、

「んちゅー……おにいちゃん~……早く起きてよ~……」

 やはりというかなんというか……


 そこには目を閉じて顔を赤らめる妹の顔が!


 なんと妹は、ぼくが起きているのもお構いなしに、お目覚めのキスをしてきたのだった!


「うおおおおい! メ、メイ!?」

 慌てて引き離そうとするけども、

「んっ……お兄ちゃん……もうちょっと~」

 とまた抱きついてきた。


 妹よ……なんで今日に限ってこんなにしつこいんだ!?


『いつも』はそこまで激しくないのにさ!


 まあ、別にお兄ちゃんとしても、可愛らしい妹のスキンシップが嬉しくないわけじゃないし、

 というよりか今日が休日だったのなら、もっと『兄妹』として仲良くしていたいんだけれども、残念ながらそうもいかない。

 というか、このままじゃ窒息してしまう。

 早く妹を止めなければ!

「ん……メイ……んんっ……ぷはっ! 起きてるから! 結構前に起きてるから!

 こら、メイ! お兄ちゃんは起きたから、もうキスはしなくていいよ!」

 タコのような口をしている、しかし、それでも十分に可愛らしい妹を引き剥がす。

 が、それでも妹はまだ目をつむり、キスをしてこようとしていた。

 あまりにしつこいので、ぼくは心を鬼にして妹の頭を……こつん、と軽く小突く。

 いた~い、と妹は叩かれた頭をさすりながらペロッと舌を出す。

 そんな仕草も、お兄ちゃんにはたまらんのです。


「えへへ~。お兄ちゃん、おはよ~! 昨日、キスしそびれちゃったから、その分も込めたんだけど~、どう?」

「どう? って……びっくりして、すぐに目が覚めちゃったよ」

「う~、もうちょっと寝てても良かったのに~!」

「眠ってる時にあんな感じでちゅーをするのは心臓に悪いからダメだぞ? はい、今日のキスはもう終わり!」

「え~! それなら、あんなジャンプしなきゃ良かった~」

「それはもっと禁止! あんなのを毎日されると、いつか死んじゃうよ。というよりか、あんなのどこで覚えたんだ?」

「それはね。お兄ちゃんのベッドの下に隠してあった……」

「ダメ! あれは絶対に禁止だから! というか、あれは子供の見るもんじゃないから!」

「え~!? お兄ちゃんも子供じゃない~!」

「お兄ちゃんはいいの! 今日から高校生だし、もう大人なんだから!」

「あれ? でも、あの本の表紙には確か~、じゅうは……」

「いいの! 問題ないから! 全国の高校生の男性諸君なら、みんな持ってるから!」

 慌てて非難するぼくに対して、ごめんねっ♪ と可愛らしく首をかしげながら謝る妹。


 ……もう! そんな顔をされたら、許すしかないじゃないか!!


 顔がにやけそうになるが、ここは兄としての威厳を保つために厳しい顔をする。

「まったく……早く起きてとか、もう少し寝てて、とか、わがままな妹だな」

「妹はわがままでいいんだよ! えへへっ☆ お兄ちゃん、だからおはようのキス!」

 そういって、まだし足りないのか、ん~、と目を閉じて手を伸ばして迫る妹。

「はいはい。もう中学2年生なんだからそんなに甘えないの」

 そんな妹の攻撃を上手くかわして起き上がる。

 これも毎日の日課なので手馴れたものだ。

「ぶー。お兄ちゃんだって今日から高校生なのに、毎朝わたしに起こされてるじゃない」

「それはそれ、これはこれ」

「もー!」

 文句を言う妹を部屋に残して、さっさと下に降りるのだった。




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