絶体絶命大ピンチ
エリュエちゃんはまだ事態の緊急性がわかっていなさそうだ。
（ここは一刻も早く逃げるべきだよ！ ぐずぐずしてたら本当にゲームオーバーになっちゃう！ めいれいさせてよ！）
（う～ん。確かに話が通じそうにない相手ですね……わかりました。
それじゃ、ユーマさんに任せます。めいれいしてください）
よし！ すぐさまコマンド、にげる！
ユーマは逃げ出した！ しかし、まわりこまれてしまった！
（ぎゃーー！ 確かにレベル的にはそうだけれども！！）
ダメだ！ このまま何かの法則に縛られたままじゃ、王様に罵られるよりも早く天国に旅立ってしまう！ いったい、どうすればいいんだ！？
（あの……回り込まれた、とありましたが、あそこを抜ければいいのでは？）
（……ん？）
エリュエちゃんの指差す方向に目を向けると、
「ぴぎーーー！」
そこには、必死でぴょんぴょんと跳ねているスライムの姿が。
あ、そうか。回りこまれてもスライムを無視して突っ切ればいいのか。
スライムの攻撃だったら喰らっても大丈夫そうだし。
「ぴーーーっ！？」
大人しく攻撃が出来る、と甘んじていたスライムを無視して突っ切った。
ユーマたちは逃げ出した！
やった！ なんとなく宇宙の法則をみだすことが出来た！
そうか、ここは現実だからルールなんて無視しても……
「ぐおおおおおぉぉぉ！！」
けれど、法則を無視したぼくたちに怒り狂ったゴーレムが見かけによらず、すばやい動きでぼくたちを追いかけてきた！
なんでだ！ あのゲームはエンカウント制なはずでしょ！
歩いてないのにまた遭遇しちゃったよ！？ シンボルエンカウントの方に変わっちゃったの！？
（それも法則を無視したから、臨機応変に変化したのではないでしょうか？）
（そんなんだったら、確実にあっちが有利になるじゃないかーーーー！！）
だが、文句ばかり言ってもしょうがない。
地の利を生かして、狭い道を選んで走る。これならゴーレムも追いかけにくいはずだ！
どしん！ どしん！
けれど、みのこなしもいいのか、なかなか振り切る事が出来ない！
ゴーレムが１歩、足を動かすたびに、まるで重機が動いているかのように振動が走る。
いや、まさに重機そのものだろう。すさまじい重圧だ。
くっ！ 勇者たちは、よくあんなのを倒したり仲間に出来たりするなっ！
（危ないです！！）
ぼやっ、としていた所にエリュエちゃんの声が響いてきた。
（ユーマさん！ 後ろ、後ろっ！）
言われた通り振り向くと、ゴーレムが組んだ両手を振り降ろそうとしていた所だった！
ブオーンッ！
「うひゃあっ！？」
とっさに横っ飛びで避ける。
またもや、間一髪、避ける事が出来た。
ゴーレムは茶色いドラム缶を派手に壊していた。
壊されたドラム缶の中から色んな物が辺りに飛び散り、鉄パイプや角材が転がった。
……ん？
なぜか、他にもドラム缶から焼きたてのローストチキンが出てきたぞ？
（美味しそうですね……食べると体力が全快しそう……あ、あのガムもそんな気がします）
いやいやいや！ ローストチキンとか、落ちてるガムなんて食べたらいけないでしょ！
普通ありえないから！ 絶対にお腹を壊しちゃうよ！ しかも食べるのに時間かかるから無理に決まってるよ！
そんな意地汚い事をしたら、半裸マッチョの市長も怒るよ！
謎のローストチキンを無視して、ぼくらは路地裏の奥へと逃避行を続けていく。
くそ！ やっぱり避ける事しか出来ないのか！ 自分の弱さが歯がゆい！
けれど、一体どうやって倒せばいいんだ！？
石で出来た大岩を砕くなんて、人の手じゃできっこないよ！ ずっと逃げ回るしかないのかな。
あっ！？ ツルリンッ！ どてんっ！
なぜかバナナの皮が落ちており、でも普通だったらバナナの皮を踏んだくらいじゃ滑るはずないのに、
運が悪い事に今回は豪快に１８０度回転して転倒してしまった。
（ユーマさん、大丈夫ですか？ ああ！ ゴーレムが！？ キャアアア！！）
エリュエちゃんが、ぼくにしか聞こえない声で悲鳴を上げた。
追いついたゴーレムがぼくを踏み潰そうとしていたからだ。
逃げようとしたけれども、あまりの恐怖で腰が抜けて起き上がれない。
（あっ、これはもうダメだ……自分は無傷なのにお供のモンスターが負けたトレーナーと同じように、なぜか目の前が急に暗くなってるもん）
諦観し、薄暗い路地裏でぼくが絶望に打ちひしがれたその時！
空から華麗に、３回転半ひねりをして登場した人物がぼくの前に降り立った！
