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天然小悪魔(主人公が)

 ほどなく山盛りの2段重ねのアイスクリームがぼくと真由さんの手に渡り、

 天気もよかったので外の白いデッキでアイスクリームを頬張る事にした。


「あっ、ほへーのも、おひひほうだな? ひとくちくりゃれ?」

 座るまでに、既に上段のストロベリーを半分食べ終わっている真由さんがぼくのアイスにも手を伸ばしてきた。

「いいですけど、まず先に口の中の……ってああ!? 一口って、そんなに食べて!?」

 なんてこったい! 一気に半分以上食べられてしまった!

 小さな口をハムスターのように膨らませて舌鼓をうっている真由さん。

 少しは文句も言いたいところだったんだけれど、

「ふふふー! おーいひー♪」

 あんな顔されちゃ何も言えないか。


 それにしてもホントに幸せそうだなぁ……こんな風にいつも可愛い顔をしていたら、どんなわがままも全部許せちゃうよ。

 なんだか妹を見ているみたいだ。

 そんな真由さんはアイスを食べるのに夢中でほっぺが汚れている事に気づいていないようだった。

「ああ、ほら。口の端がアイスクリームで汚れてますよ……ちょっと、こっち向いて」

 ふきふき。

「ん……ありがとう。……お礼にあたしのも少しあげるからさ……ほらっ」

「あ、ありがとうございます……あーん」

 ぼくはいつも妹とする感じで、無意識に目を閉じ、小鳥のように口を開けた。

「!? なにバカな事…………しょ、しょうがねぇな…………あ、あ~ん」

「……あ~ん……むぐむぐ……うん! 真由さんのも美味しいですね!」

「そ、そうか……そりゃ、よかった……」

「あれ? なんで、そっぽ向いちゃうんですか?」

「うるせー! この……このっ! うう、あたしばっか恥ずかしがって不公平だっつーの」

 ? なんか怒っているようだけど、触らぬ神に祟りなしだから、そっとしておこう。



 ……パクパク……モグモグ……って、あれ? これって、普通にデートなんじゃない?

 そういえばそうだ。

 恋人ではないけれど女の子と遊んでいる。

 隣には、口元を汚しながらも美味しそうにアイスを食べる小さな同級生。

 そのヤンキー口調の口を開けなければ愛玩動物のように小さくて、とてもかわいらしい。

 傍から見たら、上機嫌な真由さんと下校デートを楽しんでいるイチャイチャカップルなんじゃ?

 事実、道を歩いている男性諸君らに嫉妬の目で睨まれている。ま、実態は全然違うけど。

(うう。でもじろじろと見られるのは、ちょっと恥ずかしいな……あっ、けど、ぼくは高校になったらこういう事をしたかったんだった。

 しかもしゃべるだけじゃなくて、下校中に女の子と2人きりでデザートなんて……いっきにレベルが3つくらい上がった感じ)

 そう思うと少し感慨深くなる。 

 真由さんに振り回されたのも案外悪いものではなかったのかもなぁ……と思ってしまう。現金だな、ぼくは。



 上段のアイスを食べ終わった頃、ふと思いついた事を真由さんに聞く事にした。

「そういえば、真由さんは、なんで魔法少女がイヤなんですか?」

「ああん? なんでそんな事、聞くんだよ?」

「だって……まぁ、研究所みたいな事をされるのはイヤだと思いますけど、基本的には正義の味方じゃないですか?

 別に嫌がる理由もないと思うんですけど」

「それは……はぐはぐ……イヤなもんはイヤだからだよ」

 けんもほろろに突っぱねられた。

 嬉しそうな顔で食べていたのに急にアイスがマズくなったかのような表情をしている真由さん。

「うーん、でもカワイイじゃないですか?」

「その可愛いのがイヤなんだよ! あたしはカッコいいのがいいんだよ!」

 怒って机を、バンバン叩く真由さんだが、口にアイスをつけた状態じゃ説得力もない。

 だって、その姿がめちゃくちゃ反則的にかわいいんだもの。

「そうなんですか……真由さん、小さくて可愛いから、お似合いだと思うんですけど」

 まだ説得するぼくにちょっとムッ、としたのか小さい透明なスプーンを突きつけてきた。

「ああ、それと、あたしは小さいって言われるのもイヤなんだよ。人をいちいち見上げなきゃいけないのがムカつくしさ」

「あー、わかります。ぼくも身長が低いですから」

「そーだな。おまえも男にしてはちょっと背が小さいかな」

「むぅ……それは、ぼくも気にしてるんですけど……」

「なっ? イヤだろ? だから、あたしにも小さいとか可愛いとかは言うなよ?」

「確かにそうですね。わかりました……あっ、でも」

「んー? ……もきゅもきゅ……なんだよ?」

「それだったら真由さんは、ぼくといる時は見上げなくてもいいですね!」

 ニコッ♪


「!!?」ドッキーーーン!


(な、なんだ!? こいつの笑顔は!

 さっきの時も、ちょっとは男らしかったし……しかも今は、爽やかな笑顔を無防備にあたしに向けてきて……

 もしや……いやいや! あたしは父さんのように、年上で男らしくて格好いい人が理想のタイプなんだから!

 その点、こいつは笑顔が可愛いやつで、全然父さんと違って……でも、あたしをかばってくれたり、気配りもちゃんと出来てて……

 いつかこいつとキスする時、おんなじ位の身長だから無理せずに……い、いや! まだキスとかそんな関係じゃねーし!

 あっ、『まだ』とか、そんなんじゃなくて!)

 

「? あの、どうしたんですか? 真由さん?」

「……エヘヘ……へっ!? い、いや、なんでもにゃい! なんでもにゃーから!」

「でも、急に考え込んだと思ったら、赤くなったり、ニヤけたような顔になったり……」

「う、うっせー! ……ハグハグ……ごっくん……ごちそうさま! あたし帰るから!」

「えっ? あ、あれ? もう帰っちゃうんですか、真由さーん? 真由さーんっ!」

 真由さんはなぜか突然ぷんぷんと不機嫌になり、肩をいからせて帰っていってしまった。


 ぼく、何か怒らせる事をしちゃったのかな?

(エリュエちゃん。なんで真由さんが怒ったのかわかった?)

(うーん。わたくしにもわかりません)

 仲良く頭をかしげる鈍感な2人。

 しかし、理由はどうあれ、ぼくと真由さんの初デートは残念ながらここで終わってしまった。

 いや、これはこれでパーフェクトコミュニケーションだったのかな?


 そんな事を考えているともうずいぶんと遠くの方にいる、豆粒程になった真由さんが、大きな声をあげてきた。

「ユウマーーーッ! あたし、おめーの事、気に入ったから、また色んなとこへ連れて行くぞ!

 それに、もうちっと頼りがいがあれば、舎弟から弟分に昇格してやるからなーーーっ! わかったかーーー!」

「あ、あはは……」

 悪の道に行きたくないし、それに出来れば舎弟や弟分じゃなくて、友達とかがいいんだけどなぁ……

 そんな、ぼくの気持ちを全く知らずに、

「あとー! これから、あたしに敬語を使うんじゃねーぞー! それじゃーなー!」

 真由さんはそんな事を言い終わるや否や、ピュウー! と角を曲がっていった。


 ……やれやれ、なんだか嵐みたいにパワフルな人だったな。でも……楽しかったよ。


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