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こきつかわれる舎弟の図

「ふふん。あたしを舐めんじゃねーっての! ざまーみやがれ、へへへーんだ!」

 真由さんは上機嫌のようだけれど、逆にぼくの顔には縦線が入りだしていた。


 あぁ……冷静に考えると、ぼくは大悪人の手助けをしてしまったんだよね。


 正義の使者が破壊活動を行うなんて……設定が新しすぎて、ついてけないよ……。


「ほら! そんなに落ち込むなよ!」

 真由さんが背中をバンバンと叩いて励ましてくれるが流石に現実的に考えると後味が悪い。

「そうですけど……やっぱり経済的にも、環境的にもあんな事をしたらと思うと……それにこのボートも盗んだわけだし」

「気にしない、気にしない! 漫画の主人公もゲームの主人公もおんなじ事をしてんだからさ!

 それよりも、ほらっ! 丘も見えてきたし、早く降りるぞ~!」


 その後、ちょうどガソリンの切れたボートを川に捨てて、ぼくたちのいた町に戻った。


 というか、まさか、地下水道が学校の裏に続いていたとは……

 なんか陰謀を感じるけれど、ぼくは善良な、か弱い一市民なのでどうする事も出来ない。

 そういえば、理事長は傘の製造会社の会長も兼任してるとか言っていたな。

 ええと、傘って英語でなんて言ったっけ?

 ……ブルブル! 考えるのはよしておこう!


「? 何、首振ってるんだ? 今さら怖くなったのか?」

「い、いえ、そんな事はないですけど……」

「ま、どんな形であれ、おめーも共犯って事に変わりはねーからさ」

「そんな怖い事を言わないで下さいよ……あっ、でも、これで真由さんは魔法少女じゃなくなって普通の女の子になったわけですね!」

 ぼくがそう聞いたのだけれども、真由さんは苦虫を噛んだような渋い顔をした。

「いや、侵入した時にちょっくら資料を拝借したんだけどよ……その、こういった施設はいっぱいあるらしくて、全部壊さねーといけねーんだ。

 しかも『あの施設はここ一体の四大施設の中でも最弱で、ここを破壊した所で全く問題はなく我々の敵ではない』って書いてあるんだよ。ほらっ、ここに」


 どれどれ……ホントだ。確かにそう書いてある。


 けれど、なんか侵入されて破壊される事、前提で書かれているような。

 今考えると、なんであの爆破スイッチがあったのか不思議だし……そもそも用意するメリットがないし……うーん、謎だ。


 そんな事を考えているぼくとは違い、真由さんは非常にあっけらかんとしていて、

「だからさー、そういう訳で、まだまだ施設を壊さねーといけねーんだよ」

 チラチラッ、とぼくに何かを期待する目で見てくる真由さん。


 ……これはマズい。

 目は口ほどに物を言うというのが良くわかる例だ。


「ソウデスカ。デハ、ボクハ、コノ辺デ……」

 ガシッ!

「まぁまぁ、そう言わずに」

「い、いやだ! これ以上、罪を重ねたくないんだ! 良心の呵責があるんです!」

「いやいや、こっちも参ってるんだからよ。あたしの為に慈善事業をしてくれたら、

 おめーの寛大な良心も納得してくれるはずだって」

「ううう……それはそうですけど……」

「まぁまぁ、これからもあたしと舎弟のおめーで、仲良く破壊活動して行こーな」

 ギリギリ……!

 にこやかな笑顔なのだが、真由さんの手は万力のようにぼくの肩にめり込んでいく。

「い、いたたた……! わ、わかりました! これからも真由さんについていきますから! だから、もう放してください!」

 そう、無条件降伏を宣言をすると、やっと偽物の笑顔が本物へと変わってくれた。

「へへっ! 約束だからな! これからも一緒に行くんだぞ!」

「わ、わかりましたよ……とほほ」

 ああ、実際に『とほほ』なんてセリフを使う日が来るとは……。


「よし、そうと決まったら祝勝祝いにどっか寄ってこーぜ! おっ! あそこのアイスクリーム屋がいいな!」

 そう言って、元気にトコトコと先に走っていく真由さん。

(真由さん。見ている分には可愛くて素敵な子なんだけどね)

(そうですね。なんだか、ぬいぐるみみたいな女の子で見ていて楽しいです)

(そうだけど……関わっちゃうと大ヤケドしちゃうのが、玉に致命傷だよ……)

 そんな火の玉ガールは、キャッキャと、どのアイスを注文しようか嬉しそうな顔をして迷っていた。

 うーん。やっぱり小さくてかわいい。なんだか性癖が変わりそうだ。


「えーっと、これもおいしそうだしなぁ……これもなかなか……って、ほらっ!

 ユウマ! 早く来いって! もうすぐ、あたし達の番だぞ!」

「あ~、はいはい。わかりましたから、そんな大声で喋らないで下さいよ」

 周りから生暖かい目で見られながら、アイスクリーム屋へと入っていく。


「遅い! おい、舎弟なんだし、男だし、今日はおめーがあたしにおごれよな!」

「まぁ、アイスクリームくらいならいいですけどね」

「ふふふっ! 少しは男らしいじゃねーか! ……これなら、あたしの……」

「えっ? なんか言いましたか?」

「っ!? なんでもねーよ! ……ほら、あたしらの番だぞ」

『いらっしゃいませ! ご注文はいかがなされますか?』

「あたしはストロベリー&パインアップルで」

「じゃあ、ぼくは……オススメの、マーブルプリン&キャラメルにしようかな」

『はい、ストパンが1、プリキャラが1ですね?』


 ギロッ!!


「……おめー、あたしに当てつけてんのか?」

「えっ? なんで……って、ああ! 真由さん、プリキャラだった……ふぐっ!?」

 慌てて口を塞がれてしまう。

(バカッ! だから、それは秘密だって言ってんだろーがよ!)

(す、すいません! つい、てっきり、すっかり……)

(てっきりはわかるけどよ、すっかりってなんだよ……はぁ)

 ため息と共に、口を押さえつけていた手を離してくれる。

「まったく、おめーはうかうかしてるから、今みたいに口が滑らないか心配だぜ!

 これじゃ、あたしがちゃんと見張ってないといけねーな! ……センコーとの事もあるし」

「えっ? 最後、何か言いましたか?」

「何も言ってねーよ、この鈍感バカ! いつも都合よく耳が聞こえなくなりやがって!」


 バキィ! いてぇ!? なんで殴られるんだ? 理不尽極まりないよ……。

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