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ていうか、この研究所、おかしいよね?

 そうして、真由さんが意気揚々と部屋から出ようとしたのだけれども、

(ユーマさん、向こうの通路から人が来てます。このままじゃ鉢合わせしてしまいます!)

 エリュエちゃんの慌てた声がぼくの耳に伝わってきた。


 言われてみれば……ホントだ。向こうから数人の足音が響いている。

 真由さんは……あっ、気づいていない!

 早くよけないとっ! 否、ムリ、死っ!? 


「危ない真由さんっ! 隠れてっ!」

 扉を開けようとしていた真由さんの腕を強引に引っ張り、ちょうど2人が入れそうな物置へと連れ込む。

「きゃっ!? ……なにすん……もふっ!」

 大声で叫ぼうとした真由さんの口を押さえる。

 噛み付かれそうだけど、ここは我慢だ。

 目を白黒とさせて怒ってくるが今動くと危ない。

 必死に体を拘束しておく。


(ふもーーっ!? ふもっ! ふもふも! ふもっふ!!)

(しーーーっ! 黙ってて下さい! ほらっ! 誰かが来ています!)

(ふもっ!?)

「ここかっ!!?」

 5・6人の白衣の研究員たちが、この部屋になだれ込んできた。


「本当にここからなのか!? 田中スティーブ!?」

「ええ、斉藤ジャック。アクセスを探知した所、ここからデータを消した模様です」

「あんな短時間でいくつものプロテクトを破るなんて、プロの我々でも不可能だぞ」

「ハッカーを越えたハッカーか……どんな恐ろしいやつなんだ……化け物めがっ!」

「そんな事はどうでもいい! 大事なのは、真由たんの写真が消えたという事実だ!」

「ああ、畜生の仕業だ! 血も涙もない悪魔めっ! くそったれ! クレイジーだぜ!」

「ジーザス! こんな事になるってんなら、マムの家に保存しておけばよかったよ!」

「くそっ! 誰がやったんだ! 俺達の血の結晶(H画像)をなんだと思ってやがる!」

「半年間、寝る間も惜しんで作り上げてきた芸術品(萌え萌え写真集)が……くぅ!」

「泣くな同士! 気持ちはわかるが、今は泣く時じゃない! 心を1つにするんだ!」

「そうだ! 今は一刻も早く、にっくき犯人を見つけて血祭りにあげるべきだ!」

「その通り! 俺達の宝を奪ったやつを生かしておけない! サノバビッチッ!」

「俺のご自慢のジョンソンでぶっ殺してやる! ハハッ! パーティーの開始だっ!」

「ファック! 女神(真由りん)の仇は絶対取るからな! 最高にシットな気分だぜ!」

「行くぞ! 手分けして探すんだ! 見つけ出して、やつを蜂の巣にしてやるぞっ!」





 そうして統率のとれた足音が小さくなっていった。

 ……もう、みんな行ったかな?

 物音が完全にしなくなってから、ようやく脱力する。

 会話の内容はアホ丸出しだったけれども、みんな目が血走ってたよ。

 見つかってたら……多分、いい死に方はしなかったと思う。

 そう思うと、この侵入がいかに危険なのか、いやがおうにも再確認してしまう。

 こ、これは寿命が縮むな。ぼくには潜入捜査は向いていないよ……

「……ふぅ、危なかった……あ、真由さん大丈夫ですか?」

 途中から大人しくなり、今はぼくの胸の中で、全く動かなくなっている真由さんに様子を聞く。

 必死だったので抱きしめる感じになっていたけれど、それはしょうがない。 

「う、うん……まぁ……ていうか、この状態を早く…ああ、もう、離せってば!」

「あ、すいません。わかりまし……っ!? また足音が近づいてきます!」

 更に強く抱いて、見つからないように小さくなる。自然と頬や体が密着する。

「ひぅ!? …………ぅぅぅ…………」

 真由さんは顔を赤くして湯気が出そうな程だが、残念ながら、ぼくは気付かなかった。

 バンッ! 先ほどの、「真由たん」と連呼していた職員が音を立てて入ってきた。

 そして、顔色の悪い顔に笑みを浮かばせて、

「見~つ~け~た~ぞ~。早く出て来い~」

 とホラー映画に出てくる怪物なみの声を出してきた!

 ひ、ひぃ~!!? なんでバレたの!?

 ……ヒタ、ヒタ、ヒタ、ヒタ……

 ああ! ぼくたちの隠れている物置に、気持ちの悪い音を立てて近づいてくる!

 も、もうダメだ!! せめて、なんでバレたかだけコンテニューした時の為に教えて! とかなんとか思っていると、

「……やっぱ、いないか。こうすれば、どこかから出てくるかと思ったんだけどなぁ」

 そういって頭をポリポリと掻いて、研究員は、すごすごと部屋を出て行った。



 ……は?

 もしかして、さっきのは、ハッタリ?

 ま、まさかウソだったとは……でも、もう少しで諦める所だった。

 心臓もバクバクいっているし、今のはすごい寿命が縮んだよ。

 というか、恐怖で足がすくんでしまってる。

 もしあれで、大きなハサミとか持って迫られたら逃げるどころか失神してるな。


(ふぅ……怖かった。エリュエちゃん、どう? 研究員の人はもう行っちゃった?)

(はい。角を曲がっていきました)

 そうか。良かった……死ぬかと思った。

「もう大丈夫ですよ。真由さん」

 ようやく密着させていた体を離したのだけど、糸の切れたマリオネットみたく体を弛緩させていて動かない。

「? どうしたんですか? 真由さん?」

「こ、こわいよ……こわいのやだなの……ううう……お父さん……」

「お父さん……? どうしたんですか? 大丈夫ですか?」

 目をつぶって、小さな声で、まだ何かを呟いている真由さん。

「ほら、目を開けて……もう大丈夫だから」

「……お父さん……? ……え、あっ!? お、おぅ!? な、なんでもねーよ!」

 ぱっ、と必要以上にぼくから離れる真由さん。そんな、そこまでイヤがらなくてもいいのに……

 ていうか、さっきぼく、真由さんのお父さんと間違われてた?



 そんな真由さんは、さっきまでのしおらしさなんてウソのように元気を取り戻し、

「あいつらの驚きようを見てたら、やっぱ全部消えたって事だろーな! あのピー野郎め! ピーがピーでピーしちまえばいいんだ!」

 と放送禁止用語を連発していた。


 過激な表現はともかく……確かにそうだ。

 この部屋に来た研究員の人はみな目を真っ赤にさせて憔悴していたし、真由さんの恥ずかしい画像を含めて全てのデータが消えたんだろう。

 あ、でも他の大切なデータも消してよかったんだろうか? ちょっと、ヤバいかも…… 

 現実派であるぼくは自分の罪状に危機感を覚えていたけれども、

 冷徹な主犯格さんはそんな事を全く気にせずに、次はどんな凶行をしようかと意欲満々なようだった。

「とにかく他の部屋も探そうぜ! まだまだぶっ壊したりねーしな!

 見つかりそうになってもおめーがいるから最悪、囮にしてもいいし派手に出来そーだぜ!」

「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいよ! いくらなんでも囮って!?」

 真由さんは時々、過激で物騒な発想をしてくるな。

 こんなマッドな施設に捕まったらバッタとかと配合されて、見た事もない怪人にされちゃうよ!

「うそうそ。冗談だよ! いや、でもおめー、やたら勘がいいから1人でも逃げれるかなー、と思ってさ。

 後ろから来た物音とか気配に敏感だろ?」

(それは、わたくしがいるからですね)

「そ、そうですね……」

 確かに敏感ではあるんだけど、幽霊がいるからわかるんです、とは言いづらい。

 電波扱いされてしまう。

 しかし、真由さんはぼくが念能力者で円の達人だと思っているのか、人の気配がわかるという不可思議な力に疑問を持つ事はなかった。

 ま、宇宙人とか魔法少女を研究する会社があるんだし、この世界には不思議な事があるんだろう。気にしないでおこう。

「んじゃ、さっきみたいに、あたしの行く道に危険がないかわかったら教えてくれよな」

「わかりました」


 そうして、真由さんが先頭を切って部屋の外に出てみると、今まで閉まっていた全ての部屋が開けっ放しになっていた。

 多分、データを消した犯人、つまり、ぼく達を探すためだろう。

 でもさ、あんな厳重な仕掛けをしていても、ドアを開けちゃっていたら元も子もないような気がするけれど……

 って、なんだあれ? 一つだけ仰々しいオーラを放っている扉がある。

(あそこだけ扉の色が違いますね。他のより赤っぽいというか……装飾も派手ですし)

(うん。なんというかボスの部屋とか、大切な物が保管されているような部屋だよね) 

 でも、まさかそんなベタな事があるわけないよね?

 普通に考えて罠に決まってるよ。

 こんなのに引っかかる人なんているわけが、

「おっ! あそこだけ良さそうな部屋だな。ユウマ、あたしはこの赤い部屋を選ぶぜ!」

 ……いた。


 真由さんが見た目通りの豪華な扉の部屋へと入っていってしまった。

 うそっ!? まんまと虎穴に入らずんばしたよ!?

 絶対に爆発するに決まって……あれ? しない。

 おかしいな。じゃあなんであんな外部からわかるように禍々しい気を放ってるんだろう?

 そんな事を考えていると、

「おい! いつまでそんな所でぼやついているんだよ! 早く来いよ! カムヒアー!」

 と真由さんがプンプンしながらぼくに指示を出してきた。


 ……うん、ひとまず大丈夫のようだ。

 なので、ここにいても仕方がない。ついていく事にしよう。


 ガチャ、キィ……


 部屋の中は……思ったより普通だった。

 いきなり鉄格子が降りてくる罠も、不自然な影で顔が見えなくなっている黒塗りのボスも、

 ライフの最大値が増えるハートのかけらみたいな重要なアイテムもなかった。


 なーんだ、拍子抜けしたよ。入ったらイベントが始まるかと息巻いてたのに。

 ぼくは安堵し、ほっと溜息をしつつ電気の点いていない部屋の中を見回してみる。

 何かの作業中だったのか、PCの電源だけは灯っていたけれども、全体的に暗い。

 ええと、スイッチはないかな。部屋を明るくするスイッチは…… 

 そうして、2・3歩ほど、歩を進めた時、


 コツッ。


 と、何かがぼくの足に当たった。


 ……なんとなくイヤ~な予感がする。

 しかし、冷や汗を流して固まっているだけでは話が進まない。

 ぼくはそれを拾い上げた。

 なにかのスイッチのようだ。

 ん? 何か書かれているな?

 えーっと、『危険、押すな! 爆破スイッチ!』





 …………………………は?

「真由さん……こ、これって……」

 震えながら、手の中にある危険物を真由さんに見せる。

 と真由さんはそれをサッと取り上げて、

「ああ、当初の目的とは違ったけれど、いいもん見つけちまったな……」

 ふふふ……と怪しい、悪巧みを考えているような笑みを浮かべた。


 ま、まさか……!?

「真由さん! は、早まっちゃダメだよ! ここにいる人たちにも生活が、」

「ポチっとな」

「あああー! 部屋に入って1ページも経たない内に押したーー!!?」

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