魔法少女の好感度が少し上がった!
今度はぼくもきちんと部屋を真面目に調べていく。
半分は真由さんのちらかした資料を整える作業だったけど気にしない。
上司の横暴を耐えるのも部下の仕事の一つだしね……って、まだ部下だと認めてないけどね!
そんなこんなで2分、3分と時が過ぎた。
基本的にはノートを1冊1冊をめくって調べるという地味な労働の継続だ。
あんな画像を見てなければ放り出したくなるくらいだよ。
「おい、もうそろそろ他の部屋にも行かねーか?」
真由さんは全ての選択肢を選択し終えたのか場所移動の提案をしてきた。
「いえ、真由さん、もう少しここを調べていきましょう。他にもあるかもしれません」
ぼくの推理通りなら、この部屋にはゲームの進行的に次の部屋にいけるキーがあるはずなんだけれどな。
移動して変化する場合もあるけれど、まだ探す余地は残っている。
「そうか、おめーがそう言うならそうするか。確かにあんな物があったって事は、この部屋はかなり怪しいしな……ん?」
ふと、机の上にあった物体に目をつけた真由さん。
「おめー、これ使えるか?」
「これって……なんですか?」
「これだよ、これ」
「これ……って、ああ、パソコンの事ですか」
これ、という指示語を使っているという事は、真由さんはPCに疎いっぽいな。
「で、おめーは、これ、使えんのか?」
「ええ、まぁ一応」
「じゃ、ちょっと、点けてみろ」
「はぁ……」
ただ単に人をこき使いたいのか、それとも、電源を入れる所からわからないレベルなのかはともかくとして、
言われた通りにPCを立ち上げる。
スイッチ、オン。ぽちっとな。
ウィーン……カリカリ……
お、さすが研究所御用達のデスクトップだ。ハイエンド完備で立ち上がりも早い。
もうそろそろ、画面の方も
パッ!
点いた点いた……って、
あっは~~ん♡ いや~ん♡
「ぬおおおおっ!? なんじゃこりゃあ!?」
思わずジーパンの履いた刑事の殉職シーンを再現してしまった。
デスクトップには、真由さんのあられもない、むふふでうふふな画像が!
「ふ、ふええっ!? こ、これ、あたしっ!?」
にゃにゃにゃにゃんで!? と大慌てで大わらわな真由さん。
手を大きく振って、このにゃんにゃんな画像は自分じゃないと否定しているのだけれども、
「どうみても真由さんですよ! って、まさか……ええ!? こんな事をされて!?」
ああ、だから、必死に研究所に潜入しようとしていたのか!
おそらく、これをネタに研究所から脅されてイヤイヤながらもこんな写真の行為を強要されて、
でも命令に従っていく内に、知らぬ間に体が覚えてしまって……
おおと、想像してしまうといけない! ……し、しかし真由さん、思ったよりも……あるなぁ。
服の下はこんな風になっているのか。ううむ、眼福眼福、ごちそうさまです。
「いや、ちげーから! あたしは、こんな事してねー! これはウソだ! デタラメだ! おい! そんな疑いの目をするな! あたしを信用しろっ!」
真っ赤になって否定する真由さん。
ここにいないこのPCの所有者に代わって、ぼくが胸倉を掴まれた。
「ぜってー信じるんじゃねーぞ! あいつらの陰謀だからな! っていうか、画面を見るな! わかったか! ほら、返事は!」
「わ、わかりました!」
画像を見たのは一瞬の事だったけれども、既に網膜に焼きついてしまって頭から離れない。
まぶたの裏に写真を貼り付けているかみたいに映像が鮮明に記録されている。
そして、今度はぼくのすぐ目の前にいる真由さんと、あの真由さんの姿を重ね合わせて投影してしまう。
ああ……あの姿の真由さんとこの真由さんは違うのに、
この真由さんもどことなく誘っている様な風に見えてしまうのは、果たして目の錯覚なのだろうか?
(いえ、あの画像は顔と体が微妙に違っています。どうやらあれは合成された物ですね)
後ろで画像を見ていたエリュエちゃんが、さっき見た画像が偽物だと冷静に教えてくれた。
(かなり精密に設計されていて、一目見ただけでは別なものをくっつけているようには見えませんが、確かに画像を加工しています)
エリュエちゃんは、一見して判断がつかないものを一見して判断してしまった。
(そうなんだ……まぁ、真由さんの性格からして、こんな事はない気がしてたけど)
なんだ、やっぱりコラージュだったんだ。
かなり魅力的な映像だけれども、あれが偽物だとわかると、途端に脳内で再生されている映像の魅力が半減してしまった。
(しかし、一体なぜこんな事をなさるのでしょうか?)
(はぁ……多分、ここの人たちは、頭のネジのどこかが壊れてるからだよ)
そうはいうものの、一旦、導火線に火がついた真由さんの怒りは、中々収まらない。
画面を叩き割ろうとして、でもそれじゃ根本的な解決にならない事ぐらいは知っていたのか、
その拳をどこに振るえばいいのか、ストレスのはけ口を見つけようとしていた。
……これは、黙っていたら確実にぼくがサンドバッグになるよね?
そ、それだけは阻止しないと。
真由さん、力を溜めすぎていて、ガード不能技っぽいパンチを放ちそうだし。
「ま、真由さん。ぼくがその画像を消しますから、どうか怒りをお鎮め下さい」
大昔の自然災害に遭った人達みたいに、弥生時代式の祈祷で真由さんにひれ伏す。
「……くそっ、あたしじゃ、出来ねーし……ったく、わかったよ。早く消してくれ」
ふぅ。どうやら、大自然のおしおきは免れたようだ。
「あ、けど真由さん。後ろを向いたままじゃ、PCのデータを消せないと思うんですけど」
PCの電源の点け方もぼくに聞く程だ。それ以上の事が出来るわけがないだろう。
「うう、そうだけど……」
やはり、ウソだとわかっていても、自分のあっは~ん♪ な画像を見られたくないのだろう。
もじもじしながら、どうしようか迷っている。
「あ、あの真由さん」
「……いっそ、これ自体ぶっ壊そうか……ん? なんだ? ユウマ?」
「画面の右か左にあるアイコン、小さな絵をクリックしてもらえますか?」
「う……あたし、実は……その……パソコンが出来ねーんだよ」
「それはわかってますから。じゃあ、ちょっとの間だけでもいいんで……」
「い、いやだ! ぜってー見せたくねー! おい、目をつぶって出来ねーのか!?」
「無茶言わないで下さいよ! そんな事、出来るわけが……」
(あの、それでしたら、わたくしが代わりに指示を出せると思うのですが)
(そうか。エリュエちゃんがいたか! あ、でもパソコンの操作は出来る?)
(任せて下さい。今は触れる事が出来ませんが、指示する位なら出来そうです)
(わかったよ。それじゃあ、任せるからね)
「……あ~、その、真由さん。わかりました。なんとか出来そうです」
「ホントか! 助かる! やっぱ、おめーを連れて来て正解だったな! よし、それじゃ、さっそく座ってくれ! ……おっと、目を塞ぐからな」
そして、真由さんの手で視界を塞がれながらも、デスクトップの画像を変えるという普通の人が見たら驚くような所業をこなしてく。
「ふぅ……よかった。ユウマ、目を開けてもいいぜ」
「はい。あ、でも、こんな画像があるって事は、他にも色んな物があるって事ですよね」
「げっ!? マジかよ……おいおい、全部消せねーのかよ?」
「ちょっと、やってみようと思いますけども……ああ、メインコンピュータからアクセス制限がかかってる。
サブに権限なし、ていうか、そもそもパスワードもわからないな……」
ぼくも少しはパソコンの知識があるけれど、流石にハッカーみたいな事は出来やしない。
「?? さぶ? アクセ? ……わけわかんねーけど、その、とにかく無理なのか?」
ちんぷんかんぷんの真由さんが上目づかいでお願い光線をぼくにぶつけてくるのだけれど、不可能な事は不可能なのである。
「端的に言うと、そうですね」
「なんだよ、役立たずだな!」
さっきまでの可愛い態度はどこへやら。
元の任侠な人格へとシフトアップしてしまった。
「なんだよ! おめーパソコン使えるんだろ?」
「いや、そうですけど、こんなハッカーみたいな事までは……」
「じゃあ、いつもパソコンで何してんだよ?」
「………………」
「おい、何で黙るんだよ? ……ああ、もう、くそ! どうすればいいんだ!」
ぼくの沈黙を無視して、PCの机をゲシゲシと蹴る真由さん。
(うーん。乱暴はいけない、って言いたいけれど、あんな事されたら、怒るのも無理はないよね……
でも、流石にハッキングまでの知識もないし、どうすればいいかな?)
(あの、それもわたくしなら出来そう……かもです)
(えっ!? エリュエちゃん、ホントに?)
(はい。わたくしの星のコンピュータと勝手が違いますが、根幹部分は同じなので……)
(ああ、そういえば、朝の時もGPSとか、衛星とかの電波を受信していたもんね。
わかった。それじゃ、エリュエちゃんに任せる。お願い、真由さんを助けてあげて)
(わかりました。任せて下さい)
よし、そうとなればさっそく実行してあげきゃ!
「真由さん、真由さん!」
「……ちっ、やっぱ、ぶっ壊すのが手っ取り早いんじゃ……ん? ユウマ、なんだ?」
「ぼく、もう少し頑張ってみます。もしかしたら、出来るかもしれないです」
「でも、さっきは出来ねーって、」
「いえ、ちょっと思い出した事があって、試してみようかと、」
「ほんとか!? それならお願いだ。ぜひ、やってみてくれ!」
「はい! 任せて下さい!」
ニッコリ♪
安心してもらえるように、満面の笑顔を真由さんに向ける。
「えぅ!? ……は、早くしろよ! もたもたしてると、見つかっちまうだろ!」
後ろでPCを見ていた真由ヤさんが、ぷい、と怒ったように顔を背ける。
なんかすこしほっぺたが上気していたけど、今はそんな事に気にしている場合じゃない。
真由ヤさんの言う通り早めに終わらせた方がいいな。
(それじゃ、ユーマさん。まずメインコンピュータにアクセスして下さい)
(了解。これでいいのかな?)
カチカチッ。
(はい。それで、ここをクリックして……次はここを……)
エリュエちゃんの半透明な指で、示されたアイコンを次々にクリックしていく。
(あ、ここを開いてください。そう、それです……)
すると、ズララララ……と膨大な量のデータ、文字の羅列が出てきた。
(それを一気にスクロールして下さい……ふむ……ふむふむ……わかりました)
……えっ? 今の一瞬でわかったの? 無機質な文字が大量にあったのに?
(はい。大体、わかりました。……それでは、このパソコンをハッキングして……)
そういうと、エリュエちゃんは今朝の時と同じような言葉をまた呟き始め、
(データ作成完了。そちらのパソコンに移転します)
と言った瞬間、いくつもの文字の羅列が甲殻機動隊のOPみたいにものすごいスピードで浮かび上がってきた!
す、すごい!? こんな事、今のPCでも出来たんだ!?
「うおおう! なんかわけわかんねーが、マトリックスみてーだな!」
あまりPCに詳しくない真由ヤさんでも感動するくらいにパソコンの画面内が動く動く。
そして、30秒ほど経った頃、ピーー! という音と共に、
『この研究所にある全てのデータを消去しました』
という文字が画面中央に映し出された。
正直、めちゃくちゃ格好いい。映画みたいだ。
(これで、一応、ユーマさんの要望に応えましたが……どうですか?)
エリュエちゃんが、朗らかな笑顔をぼくに向けて聞いてきた。
(す、すごいよ……エリュエちゃん。エクセレントだよ……ホントにありがとう)
(いえいえ、どういたしまして)
エリュエちゃんの体があれば、抱きしめたい位にぼくは感動していた。
(ふふふ……そこまで喜んでいただけると、わたくしも頑張ったかいがあります)
(あっ! ご、ごめん! 決して、よこしまな気持ちじゃなくてね)
(わかっています。真由ヤさんを助けたい一心だったのは、ちゃんとわたくしの心にも届いておりましたからね……ホント優しいお方です。ユーマさんは)
(い、いや、そんな事ないよ)
(いえ、そんな事ありますよ)
(そんな……)
(いえ……)
(そんなそんな、)
(いえいえ、)
略。
そんな謙遜し合っているぼくらの横にいた真由ヤさんが、ようやく何が起こったのかわかったようだ。
PCを知らなくても画面に出ている文字くらいはわかるもんね。
「やったー! すげーよ! なんか映画のクライマックスを見てるみたいだったぜ!」
ぎゅっ!!
ぼくがエリュエちゃんに抱きつく代わりに興奮した真由ヤさんがぼくに抱きついてきた。
「おい、すげーな! おめー、こんな特技持ってたのかよ!?」
ゲシゲシゲシ! と手荒く祝福される。痛いけれど、嬉しさも心に伝わってきた。
「いてててて……いえ、そんな訳では」
「いやいや、あたし、パソコン全然わかんねーけどよ、これがすげー事位はわかるって!
ユウマ! 正直、見直したぜ! さっきはバカバカ、って言ってすまなかったな!」
「いや、ホントにぼくはすごくないんで、ただ指示に従ったというか……」
「そんな卑下するなって! 恥ずかしい写真を消してくれたのは、本当に感謝してるし……ふふふっ、ありがとなっ♪」
手放しでかなり喜んでくれているけれども、ぼくは何もしていないから心苦しいな……
だが、確かにあんなハレンチな代物を本人の真由ヤさんの許可なく製作していたのは悪い事なので、ぼくの力じゃないけれど、結果的に消去出来て良かった。
「ふぅ……しかし、やっぱ、ろくでもない会社だったな。信じられねーくらい変態だぜ」
「そうですね。ホントにろくでもない所ですよ。この研究所はおかしいです」
「おめーもあの写真を見た時、だらしなく鼻の下伸ばしてたけどな……ま、データを消してくれたし別に咎めねーけどよ。
ほら、他の部屋にもないか、どんどん調べてこーぜ!」