ただいま潜伏中。。。
入った施設の内装は、工場のような外壁から木作りの洋館風に変わっており、通路の左右に等間隔で扉が続いていた。
扉には小さなガラスがあり、そこから部屋の中を見渡せたので、
中に人がいるかどうかの確認が出来たので、そーっと覗いてみる。
幸いどの部屋にも人がいるような気配はなかった。
あれ? というか、この施設に潜入してから誰も見ていないな。
今日は誰もいないのかな? それとも、気づかない内にイージーモードを選択したとか? エンカウント0の親切設定?
そんな疑問はどうでもいいとして……
真由さんが辺りを注意深く見つつ、一番手前のドアを開けようとしていた。
『……ガチャガチャ、開かない』
『どうやら鍵がかかっているようだ。鍵穴には太陽のマークが描かれている』
ん? なんだ?
真由さんは、さらに隣のドアも開けようとするが、
『……ガチャガチャ、開かない』
『どうやら鍵がかかっているようだ。鍵穴には獅子のマークが描かれている』
ぼくも目の前のドアを開けようとしたけれど、
『……ガチャガチャ、開きそうにない』
『どうやらこの扉は壊れているようだ。鍵穴がめちゃくちゃになっている』
と、ドアを開けようとする度にこんな注意書きが出てきた。
? なに、これ? なんで扉を調べる毎に鍵穴の特徴なんか出てくるんだ?
意味がわからないよ。
でも、なんだかわからないけれどゾンビが出てきそうな気がする。
き、気のせいだよね? 雰囲気がそれっぽいだけであって……いかんいかん。考えるな。
結局、全てのドアを調べてみたのだけれど、どの部屋も開いていなかった。
まぁ、研究結果の資料とかを置いているんなら、鍵を閉めているのも当然だしね。
しかし、これで前のフロアに引き返さないといけなくなった。
……はぁー。こういうのメンドくさいんだよね。手がかりを見つけてなくて、
しらみつぶしに探さないといけないのって。でも、現実はこういう事の方が多いんだし……
しょうがない、戻るか。
「しっ! 隠れろ!」
その時、何かに気づいた真由さんが、小さな声で、しかし鋭い声で声をかけてきた。
ドン!
真由さんがぼくを強引に押し込んで物陰に潜む。
(ええっ!? まさか、ゾンビが押し寄せてきたとかっ!?)
銃の弾もナイフも持ってないし落ちてなかったよ!?
(バカッ! 何言ってんだよ! 研究員に決まってるだろ!)
真由さんの言う通り、向こうから研究員らしき人物が歩いてきていた。
(ほっ、良かった……ゾンビじゃなくて……)
(だから、なんでゾンビなんだよ? 意味わかんねーよ)
(いや、さっきの雰囲気とか、この館っぽい舞台からして……)
(はぁ? よくわかんねーな……って、こっちに向かってくる。静かにしてろっ!)
そういって、小さくなっている体をさらに縮めた。
白衣でメガネの、「理系の研究者を体現してみました」といった人がぼくらの横を足早に通り過ぎていく。
ふぅ……こちらに気づいてないな。
ん? 何やらぶつぶつ言っているぞ。
「えーっと、2F東の会議室の棚の、引き出しに入っている星型のバッチとB2Fの研究室Eにある月型のバッチを組み合わせて、
大会議場の仕掛けを動かして、それで大会議場にあるトロフィーを動かして、1F北の鍵を取って……ああ、早くしないと漏れる!」
どうやら、あの男性はトイレに行きたいようだ。
内股で股間をモジモジとさせて何とか崩壊しないようにと我慢していた。
そんな研究者の人は大量の冷や汗をかきながらも、メモを頼りにぼくらの事も気づかずに去っていった。
「どうやら、トイレに行くにも一苦労みたいですね」
「ああ。かなり厳重な施設だろ? この研究所の、恐ろしさの片鱗を見ちまったぜ」
「いや、そうですけど、なんか違うというか……」
(トイレに行くのに、いちいちあんな事をしていたら、効率が悪いですよね)
エリュエちゃんのするどい突っ込みが入る。
というか、ぼくもそう思う。
男性が部屋に入り目的のブツを手に入れたのか、
少し和らいだ表情をして、部屋の鍵を閉めずにこのエリアを出て行った。
「……しめた! あそこに入ろーぜ!」
意気揚々と真由さんが入っていくのだけれども……
(うーん。なんだか、うまく行き過ぎている気がする……)
(? はて? ユーマさんの言っている意味がわかりません。
どうして、うまくいってはいけないのでしょうか? 見つかった方がいいのですか?)
(いや、そういう訳じゃないんだけど……進めるのが詰まったら、こうしてタイミング良く部屋が開いたりしてさ。
なんか、ちょっと都合がいいんじゃないかな~って)
(都合がいいなら、それに越した事はないですよ。ふふっ、心配性ですね。ユーマさんは)
そういう問題なのかな? エリュエちゃんの言う通り、ぼくの考えの方がおかしいのかな?
そう思い直して、開いている部屋の中に入る。ちゃんと扉は閉めておく。
一応、鍵は閉めておかなかった。
急に天井が降りてきてもすぐ逃げれるように……あれ怖いよね。
先に入った真由さんは、引き出しに入っていたであろう資料をひっちゃかめっちゃかにかき乱しており、
この部屋の利用者にとっては阿鼻叫喚の絵図になっていた。
「ちっ、なんか弱みを握れるもんはねーかな……」
そんな物騒な事を呟きながら、乱雑に資料を調べている。
「おめーも、ぼさっとしてねーで調べろよ。重要なの見つけたらすぐに教えるんだぞ!」
「は、はい。わかりました」
「ホント、返事だけはしっかりしてるんだから……ん? なになに……パラパラ……D課長とA子が不倫している? いらねーよ、そんな情報!」
OLの落書き帳みたいな資料を、クシャクシャにしてゴミ箱に放り投げる。
どうやら、いらない資料もいっぱいあるようだ。
そりゃそうか。部屋中に資料があるわけだし、そう簡単に重要書類が見つかる訳がない。
ゲームみたいにさ、重要なキーアイテムだとわかるように、
なんの変哲もないただの紙が光ってる事なんて…………あ、あった…………!
机の上に、時折り、キラリと光り輝くファイルが!
なんて親切設計なんだ!
……というか、真由さん。これ位、気づきなさいよ。
真由さんは依然として気づいていないようだったので、ぼくはそのキーアイテムを拾うことにした。
「ペラ……こ、これは!?」
『魔法少女プリキャラのパンチラショット集Vol.B3』を発見した。
な、なんという、どストライクな本が! しかも、ボリュームB3って! 何冊目!?
これは、見てはいけないものだけれども、男として気になる……
ごくり……
さっそく使いますか? ▽はい いいえ
「……………………」
ピッ。▽はい
パラ、パラ……あっは~ん♪ うっふ~ん♪ いや~ん♪
「おお……こ、これは、すごい! さ、流石、研究所っ! 叡智の集合体だ……うわっ!
こんなきわどいシーンも!? ええっ!? これはどうやって撮ったの!? こんな事をしたら捕まるんじゃないの!?」
たらーっ。
(ユーマさん、どうしたのですか? 鼻血なんて出して)
ああ!? そうだった! ぼくの後ろにエリュエちゃんがいたんだった! 忘れてた!
(い、いや、なんでもないよ! 時々、意味もなく垂れちゃうんだ。ハハハハ……)
(はぁ……それならいいですけど)
(うん。こっちは大丈夫だから、手分けして探そうか)
(了解です。それじゃあ、触れる事は出来ませんけど、あちらの方を探しておきますね)
ふよんふよん。
(……よし! これで邪魔者はいなくなったし、ゆっくりこの本をば……)
そうして、またお宝を堪能しようとした時、
「ん? おい、ユウマ。何見てんだ?」
あちらをあらかた探し終えた感じの真由さんが、こちらに近づいてきた。
「ひっ!? い、いえ……何にも見てませんよ。この部屋に入ってから何も見てません」
「そんな事ないだろ……何持ってんだ? ……って、ああっ! それは!?」
慌てて背中に隠したけれども、やっぱり見つかってしまった。もちろん取り上げられる。
「没収! この本は没収だから! つーか、先に報告しろって言っただろ!」
ゴチン!
「す、すいません! どんなものが写っているのか、中身を調べようと思って……」
「それは、あたしがするから! ……てか、この写真どこから撮ってやがるんだ。
くそっ! 変態ヤローどもめ! 死ねっ! 死ねっ!! キモいんだよっ!」
ビリビリ!!
ああああー!? なんて事を!?
「……おい。なんで、そんなムンクみたいな顔になってんだ。もしかして、おめーも、この変態研究所のやつらと同じなのか?」
ギロッ!
「い、いえっ! 滅相もないです! はい! どうぞ、存分にお破り下さい!」
へへ~、と頭を下げて、ごまをすって真由さんの太鼓を持つ。
生き残るための手段だ。
「………………ふん!」
不機嫌な真由さんに抵抗出来る訳もなく、執拗なまでに研究所の人たちのお宝を再生不能の紙くずに変えていった。
そして、他の写真集も見つけ出し全て破棄していった。
……ああ、もったいない。
けれど、確かにここは魔法少女にとって害をなす存在だと言う事がわかった。
真由さんの為に、ぼくも一肌脱ごう。……決して変な意味じゃないからね!