潜入開始!
キィ……ガチャ……
外も暗かったけれど室内も同じくらい薄暗かった。
不規則に点滅している蛍光灯が不気味さを演出していた。
人のいる気配は……ない。
どうやらここは、やはりというか裏口の1つなようだ。
『裏口1‐D』と書かれていた。
辺りは雑多な研究資材が積まれていて狭い道が余計に狭くなっているので歩きにくい。
ぼくと真由さんの大人2人が横に並んで歩くのはしんどそうだ。
て事は、ここは通路というよりも物置として機能しているのだろう。
なので人が来る可能性も低いと思う。
てか、そう思わないとやってられないからね!
これは普通に犯罪だから! よい子はマネしないでね! スタッフが後でおいしく食べてるからね!
という事で、早速、潜入開始!
ハリウッドっぽいBGMを背に、コソ泥っぽく侵入していく。
ここは研究所というよりか、工場施設のように無機質な構造でところどころむき出しのパイプ管が出ている。
金属で出来た壁もゴツゴツしていて、自分から「ここは普通の施設ではありませんよ」といういかにもな感じだった。
そんな施設を真由さんと2人見つからないように慎重にそろそろと歩いていく。
キョロキョロ……ソロソロ……ふぅ。異常なしだな。
トコトコ。ピョコピョコ。
ソロソロ……ドキドキ……はぁ、誰もいないよね?
ピコピコ。ペムペム。ポムポム。
(なんで真由さんの足音だけ、ようじ……じゃなくて小さな女の子が出すような可愛い音なんだろう?)
そんな疑問符が頭に浮かんでいたのだけれども、突っ込まずに真由さんの後ろをついていく。
今のぼくにはそんな余裕は全くないのです。別にぼくは伝説のスパイでもなんでもないのだから。
抜き足、差し足、忍び……んっ?
天井からホコリが舞っていた。
そこまで人が通っていないのか……って、ふぇ……ふぇ。
「…………ぶえっくしょんっ!!」
ホコリが鼻に入って盛大なくしゃみをしてしまった。
「!」
ピコーン!
前にいた真由さんが、頭に!マークを出して飛び上がる位に驚く。
(お、おめー、なにのん気にくしゃみなんかしてんだよ! 潜入してんのにくしゃみをするバカがいるか!
2流のスパイだって、雨に打たれても、くしゃみなんかしねーぞ!)
(す、すいません……なにせ、今回が初潜入なんで……)
(ふん! 次からは気合でくしゃみを止めろよ! 絶対だぞ!)
(は、はい……)
そんな一騒動があったのだけれども、他はこれといったイベントもなく無事に狭い裏口を抜ける事が出来た。
第一関門はクリア出来たかな?
やっと、普通の通路にたどり着いた。
ここは電気もちゃんと通っているし煩雑な資材もない。
埃もかぶってないし清潔感もある。いたって普通のフロアだった。
ここらへんだと人通りもありそうだ。
うんうん。順調に難易度が難しくなってるな!
なんで徐々に難しくなるのかはわからないけど、とにかく気をつけないと!
しかし……なんというか、研究員に見つからないような隠れるにはもってこいな構造になっていた。
道も何通りもあるし、潜めそうな物陰が等間隔的にいくつもある。
なんだ? ここは潜入初級者用の施設なの? と思うくらいだ。
しかし、真由さんは警戒を怠らず壁に背をつけ、カニ歩きをしてカメのように通路へ首だけ出す。
熟練の動きで洗練されていた。
これで麻酔銃があれば完璧だな。
「……よし、通路に誰もいない……ま、誰も侵入してくるとは思ってねーだろーしな」
確かにそうだ。これで見張りがいたらどこぞのかくれんぼゲームに早代わりするよ。
「ほら、それだったら、早く行くぞ!」
真由さんの「オーバーヒアー!」の掛け声で、真由さんのいる地点までぼくも駆け寄る。
……ん?
呼び出されてその地点まで移動するって事は、もしかして、ぼくはサブキャラあつかい?
いやいや、そんな事はないぞ!
人生、誰だって自分が主人公だ。
それに、こういう時の男のサブキャラは主人公を助けるために、途中で死ぬ可能性が非常に高いからなぁ……いかん。そんな事を考えるな。
こういった場合、不本意な行動で死亡フラグが立つのをぼくは知っている。
ブルブル! 気を付けよう!
(? どうしたんですか? ユーマさん? 首なんか振って?)
(ああ、エリュエちゃん。い、いや、別になんでもないよ。雑念を払っていただけさ)
(そうですか……あっ、もしこの潜入が終わったら、この世界の事やユーマさん事を聞きたいですし、それにわたくしの話も聞いて欲しいのですが、いいですか?)
(うん、それ位、お安い御用だよ。もしこれが終わったら、ぼくは……って、ちょ、ちょっと、ちょっとーーーっ!? 今のタイミングでそんな話を振らないでよーー!!)
『もし、これが終わったら~する』なんて死亡フラグの代表例じゃないか!
危うく、もう少しで死亡フラグを立ててしまう所だった……!
(? その、さっきから仰っている、『死亡フラグ』とは一体なんなのでしょうか?)
(それは……なんて、言えばいいんだろう……迷信みたいなものかな?)
(迷信……ですか? 非科学的な根拠の事ですね。この星の人は信じているのですか?)
(うん。そうなんだ。だから、出来れば今だけは、安易に未来の事を話して欲しくないんだ……あと、過去の『こいつ、実はいいやつだった』みたいな思い出話とかも止めてね)
(はぁ……よくわかりませんが、わかりました)
おっとりとしたエリュエちゃんに釘を刺して、潜入を再開する。
ぼくの内なる葛藤に気づいていない真由さんは、結構、先の方まで行っていた。
パイプにぶら下がったり、ほふく前進をしたりして潜入を堪能している。
あっ、拾ったカロリーメイトを食べている。大丈夫かな?
それよりも、えっと、1つ言っておきたい事があります。
あの~、スカートの状態でほふく前進をしてしまうと今朝も見た、
まっ白くて穢れのない、真由さんの純白のアレが見えるんですが……い、いや、黙っておこう。
言っても言わなくても殴られるなら、言わない方がいい。ぼくは命令に従う事に徹する。
そうして、道の途中で真由さんの「待て」の合図を受けた。
ぼくは従順にその命令を聞いてその地点から全く動かない事にする。
5分後。
ピー! という音がして、目の前のドアから真由さんが出てきた。
どうやら向こうから直接、扉の鍵を開けたようだ。
「すまねーな。あたししか通れないような通気口があってよ、別行動になっちまった」
さすが、魔法少女を生み出している会社なだけはある。
ちゃんと2人用のイベントも完備されている……って、おかしくない?
なんでそんな都合のいいような構造になってるのかが疑問なんだけど……ま、まぁ偶然にしておこう。
気にせずに早く次のステージに早く行くか。
そして、ぼくと真由さんは右下に出ているNowLoadingという文字を無視して扉をくぐったのだった。