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路地裏にて

 ヒタヒタヒタ……。

 バサッ!

「ひぃぃ! ……な、なんだ、ただのゴミ袋か。あの真由さん。ここどこですか?」

 真由さんに無理やり連れて行かれてたどり着いた場所は、ジメジメとした薄暗い雰囲気を醸し出している気味の悪い路地裏だった。

 間違っても可憐な魔法少女が来る所ではない。

「あ、あの、真由さん? 聞いて、」

「うるせー! おめーは黙ってあたしについてくればいいんだよ!」

 なおも、おどおどしているぼくを足蹴にして、さっさと先に行ってしまう。

「あっ! 待って下さいよ! 真由さ~ん!」

 こんな所に1人でいたら、たまったものじゃないよ……って、エリュエちゃんもいるか……いやいや、エリュエちゃんがいたらなおさら怖いよ。

(そんな事ありません。大丈夫です。わたくしが、しっかりとツイテいてあげますから♪)

 怖がっているぼくを和ませようと、肩に手を置いてくれる仕草をしてくれるんだけど、それは全くの逆効果な気がしてならない。

 あの後、ぼくは魔法少女に変身した真由さんに、文字通りの空中散歩を堪能させられ、ここまで強制送還させられた。

 別に高所恐怖症ではなかったのだけれど、先ほどの貴重な体験のおかげで、もう一生、観覧車とかの乗り物に乗れない体になってしまった。

 このまま薄暗い路地裏にエリュエちゃんと2人きりは流石に怖いので、急いで角を曲がると、真由さんが待ってくれていた。

 いや、どうやら扉に設置されたパネルを操作していた。

「これをこうして……よっと。それで、研究員から盗んだパスワードで……」

 真由さんは不穏な言葉を口にしながら、紙に目を通しつつ、数字を打ち込んでいる。

 …………ピーー。赤いランプが青いランプに変わった。

 扉から、カチリ、と音がして…………どうやら鍵が開いたようだ。

「よし、ビンゴ! んじゃ、さっそく行くぞ!」

 真由さんが勇んで中に入ろう……とする前に、その興奮したナデ肩を掴む。

「あ? なんだよ?」

「あの、その前にちゃんとした説明をしてもらわないと、ぼくもいざという時に、その……説明が出来ません」

 いざという時、というのは警察に不法侵入で捕まった時の事である。

 せめて、洒落で乗り切れるか、乗り切れないか、ぐらいは教えて欲しい。

 だが、真由さんは、けんもほろろに取り合ってくれなかった。

「そういうのは、上で仕切るのやつが知ってればいいんだよ。舎弟は黙って、あたしについてくればいいだけだから。……ほら、心配すんなって!」

「いやいや、さっきから犯罪の匂いがプンプンするんですよ! 今から入る所って、ぼくら、絶対に招かれざる客っぽい感じですよね!?

 真由さんはこなれていそうな、ベテランな雰囲気を醸し出してますけど、こっちはペーペーだから……って、別に泥棒になりたいわけじゃなくて……

 そういう訳ですから、ちゃんと納得行くような説明をしてもらえないと、いくら真由さんの舎弟になったからって、この建物の中に入る事は出来ません!」

 そう、きっぱりと意見を述べる。

 その男らしい態度に免じてなのかわからないけれど、やれやれ、と気だるそうにしながらも、ようやくぼくに説明をし始めてくれた。

「ここは、あたしを魔法少女にしやがった、元凶の研究施設だ」

「ああ、ここが……って、えっ!? 魔法少女って会社があるんですか!?」

 真由さんは、ぼくの驚きに、「おまえは何を言っているんだ?」といった顔をした。

「そりゃそうだ。野球選手も芸人もプロレスラーだって会社があるんだから当然だろ?」

「い、いや、もっとなんか、魔法少女界は夢のある世界で、そんな物は存在してなくて、例え、あったとしても、

 お花畑の中にあるようなイメージがあったんですけども……」

「はぁ? なにバカな事、言ってんだ? アニメの見すぎじゃねーのか? 小学生向けのアニメだって、描いてんのは普通のおっさんだろ」

「そ、そう言われれば、そうですけど……」

「そりゃ、魔法少女はちっさい女限定だけどよ、それを管理してんのも可愛い女、って訳がねーだろ。常識的に考えればわかるだろ?」

 うう……至極まっとうな意見を真由さんに言われた。

 でも、なんというか、純粋な心を持った少年たちの夢が崩れたような気がする。

「そういえば、真由さんって、どういった経緯で魔法少女になったんですか?」

 思いついた事を何気なく聞いてみたのだけれども、

「うっ……それは……」

 真由さんには、その質問はウィークポイントだったらしく、詰まった声を出した。

「あー……なんて、いうか……ううー……」

「そんな言いづらい事なんですか? それだったら別に……」

 真由さんも女の子だし、言いにくい事もあるだろう。花も恥らう乙女なお年頃だしね。

「……おい、なんか勘違いしてねーか? おめーの思っているような事は、一切なかったからな。想像すんなよ」

「いや、そんな事なんて思ってませんよ。別に、嫌がる真由さんに魔の手が迫ったとか、

 抵抗も及ばず、服を切り裂さかれて、その柔肌を晒したとか思ってなんか……」

「だから、違うって言ってんだろーーっ!」

 ゴチン! 頭に特大のげんこつを頂く。しまった。思ってた事を口に出してた。

「うう、すいません……でも、その様子を見ていたら、どうしても邪推してしまって」

 やっぱり、ちゃんと言ってもらわないと、考えがそっち方面に……ねぇ。

 ぼくの、そんな考えが真由さんにも伝わったのか、

「ああ! もう、わかったよ! 言うよ! 言えばいいんだろ! 言えば!」

 と、口角泡を飛ばしながら、顔を真っ赤にして、白状する決心をつけてくれた。

 そうして、清水から飛び降りるような意気込みで、真由さんが話し始める。

「そ、その……半年くらい前に夜の公園を通り過ぎてたらさ……ステッキが落ちてて……あの、くにおくんの運動会で光るやつみたいなステッキがよ……」

「はぁ……」

 くにおくんの運動会……ってなんだ? 障害物競走にでも使うステッキの事かな?

 けれど、運動会についての補足もなしに、真由さんは説明を続けていく。

「それで……それが、何となく気になっちまって、それで、何の気なしに拾っちまって、そんで、

 それを見ていたらなぜか振り回したくなっちまってさ……そして、何気なく振っちまったんだよ」 

「は、はぁ……」

 斬新な説明だ。わかりやすそうで、わかりにくい。……いや、単純にわかりにくいな。

 そんな、真由さんの主観的な感情のみの、擬音と指示語ばかりの説明が続いていく。

「そしたらよ! いきなり、ぱぁぁ、って周りが光り輝いてさ! ……気がついたら、なんか服が、

 小学生とかが好きそうなのに変わってて、ステッキから『契約が完了しました。今からあなたは魔法少女です』とか、わけわかんねー事言われたんだよ!」

「は、はぁ……」

 つまり、一言で言うと、公園に落ちていたステッキを振ったら魔法少女になっていたと。

 ……何のドラマもない、あっけらかんとした、面白みのない設定だった。

 これが漫画やアニメだったら、もっと深い、ちゃんとした理由付けがないと採用されないのに……現実ってこんなもんなんだろうか?

「それで、真由さんはステッキを振って……魔法少女になったというわけですか」

 恥ずかしながらも、おずおずと首肯する真由さん。

「その……ほら! お前もあるだろ!? なんか1人の時にバカな事を思いついて、つい、理由もなしにしちゃう事とかさ!

 そんで、それを人に見られて、すっげー恥ずかしくなった経験とか、おめーも1回位はあるだろ? そう、それの延長線上だよ!」

 目が点になっている、ぼくの視線に耐えれなくなった魔やさんが、言い訳をし始めた。

「は、はぁ……」

 なんとなくわかるような……まぁでも、そんなバカみたいな理由で、こんな事態になるとは夢にも思ってなかったろうに。

 てことは、真由さんは犠牲者だったってわけか。

「あ、でも、なりたくてなった訳じゃないんだったら、辞めればいいじゃないですか?」

 手違いで魔法少女になったんなら、普通に辞めれると思うんだけどな。

「それが……どんな事をしても辞めれなかったんだよ」

 沈痛な表情で、顔を沈めて、そう答える真由さん。

 えっ? 魔法少女って辞めれないものなの?

「でも、ぼくの想像では、変身しなきゃいいだけな気がするんですけど……」

「だからそれが無理なんだってば。このステッキがある限り敵が近づくと反応しちまうし」

 そう言って、今朝ぼくも見たステッキを取り出す。先端に星が付いている、おもちゃと変わらない代物だ。

「だったら、それごと捨てれば……」

「はぁ~、そんなの言われなくったって、何回も試したっての!」

 真由さんのイラついた声が、ぼくの言葉を遮った。

「最初、ムカついて普通にステッキを川に投げ捨てたんだけどよ。次の日、朝起きたらあたしの枕元にそのステッキがあったんだ。

 思わず悲鳴を上げちまったよ。それで次にゴミ袋に入れてゴミ収集車に連れてかれても、やっぱ戻ってきた。

 だから、今度は再起不能になるまでバラバラに折って燃やしても、これも結局ダメだった。

 次の朝には、ぜってー元の状態で枕元に置かれてんだぜ! 次第に怖くなってきて、寝ずに1晩中見張ってた時もあったけど、

 2日目の明け方、ほんの少しだけうとうとして油断した時に、また枕元に置かれていたしよ!

 あん時は流石のあたしも発狂しそうだったっつーの!」

「は、はぁ……」

 なんか途中から、若干、ホラー要素が入ってたような……魔法少女ものなのに。

「という訳で、どうしたって、このクソステッキはあたしの元から離れてくれねーんだ。

 だから、他の方法を探し始めて、先日ようやく、このアジトを見つける事が出来たんだよ」

 そんな、念願だった悲願を達成出来そうな顔をしてみせる真由さん。

「じゃあ、ここの魔法少女の研究施設でお願いすれば、真由さんは魔法少女から解放されるって事ですか?」

「ま、そう言った所だ」

 真由さんが、大きくうなずいて答えてくれる。

「じゃあ、こんな風に闇ルートから入手したような紙を見ながら、裏口から入ろうとしなくても、堂々と普通にお願いすればいいんじゃないですか?

 手違いで魔法少女になった、ってちゃんと説明すれば、向こうもわかってくれそうなものだと思うんですけど……」

 そんなぼくの質問を、

「それは、出来ねー」

 と短く、華麗に切り捨てた。

「なんでですか?」

「ここの秘密資料を盗んで、あたしを魔法少女にした組織をぶっ潰そうと思ってるから」

「ええっ!? なぜ!?」

 魔法少女にあるまじき物騒な言葉を使う真由さん。

 それは過激すぎるだろう! B級アクション映画みたいなノリじゃないか!?

 なにかあったら潜入、突撃、爆発とバカの一つ覚えに……いや、面白いけどさ。

 いざ、自分がそれに付き合わされる身になったら、絶対にイヤだよ、そんな特攻野郎。

 だが当の本人は、州知事か、イタリアの種馬か、格好いいハゲた人か、沈黙のおっさんになったつもりなのか、かなりノリ気だった。

「こんな辱めをしたやつらをぜってー許さねー。これが理由だ……充分だろ?」

 真由さんは洋画のように格好つけて喋りだした。これはもう、手遅れかもしれない。

「そ、そんなぁ。元に戻れれば、いいじゃないですか~。犬に噛まれたものだと思って」

「ぜ っ て ー イ ヤ だ ! !」

 一言一言、はっきりと強調するように気持ちを告げてくる。

 うう……魔法少女になってた時、ノリノリだったくせに……

 だが、真由さんの信念は揺るぎそうになかった。……よほど、恥ずかしい事があったに違いない……

 やっぱり、ぼくの想像していた事とかが、実際にあったんじゃ……

「おい! にへらにへらしてないで早く潜入するぞ! 理由もちゃんと言ったしな!」

 そうして、ぼくの返事も聞かずに腕を引っ張って研究施設へと入っていった。


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