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お嬢様と侍女

 ホワンホワンホワン…………。


 ピピー、ガーガー。


 ウイン、ウイーン……ピコピコ、ピコピコ。


 ピロロ、ピロロ、ピロロ、ピロロ。


 ピー、ピー、ピー!


 ……ザザザ……ザザ……ザ……


 ピコーン! 送信シマシタ。確認シテ下サイ。


 ポポピポプペペポ……プルルル、プルルル……


 ジジジー、ザザー、ウィンウィン。


 ……ん? なに? 擬音ばっかりじゃ駄目?

 何が起きているかわからない? 大体わかるでしょ? イマジネーションを働かせて……

 え? 手抜きじゃないかって? 失敬な! ……コホン。

 ここは小さな部屋の1室。

 6畳部屋よりも少し広いようだが1つも窓がなく、密閉閉鎖された空間なので体感的にはかなり狭く感じられる。

 そのかわり、と言わんばかりに、天井までは3~4m程の吹き抜けがあり、1つの部屋というよりも、現代的なアートのような構築だった。

 ただ、アートと称するには少しシンプルすぎる。

 生活用品もインテリアも一切置いておらず、部屋のメタリックな様相も相まって、より一層、無機質な部屋に見えてしまう。

 リノリウムのような金属で壁が構成されているのも、無機質感を更に引き立たせていた。

 壁面に電気が通っているのか、ところどころ一筋の虹色の光が走っていてとてもオシャレなのだが、どうやらそれは通信をする際に必要なものらしい。

 それらの情報をまとめて、しばし考慮する。

 なるほど……どうやらここは、TVでよく見る司令室のようだ。

 なぜなら、部屋のプレートに『司令室』と書かれていたからだ。だから間違いないだろう。

 決してプレートを見てはじめて気付いた、というわけではない。


 その司令室には、1人の女性だけしか居らず、さっきから忙しそうに手を動かしている。

 何をしているかというと、近未来の設定でよくある、空中に浮かぶディスプレイのような半透明のパネル、

『アレ』をいくつも浮かばせており、それを物凄い早さで操作していた。

 次々と画面を点けたり消したりとせわしない。

 うーん。いつも思うのだけれども、本当にちゃんと操作できているのかが疑わしい。

 ていうか絶対ムリだろあんなの。

 画面が点いたり消えたりしてたら効率も悪いはずだし……おっと、そんな事はどうでもいいとして。

 その華麗な手さばきを披露しているのは、25・26前後の妙齢で、紫の髪をなびかせている女性だった。

 見た所、人間のようにも見えるけれど肌の色が若干青白く、人間のそれとは違う。

 パネルにいくつもの星が見えている所から推測するに……どうやら彼女は宇宙人のようだ。

 という事は、ここは宇宙船の操作室か。

 すると、この小説は壮大なSFファンタジーなのだろう。期待しているよ。

 最近、宇宙物が少ないからね。……ああと、また話が脱線してしまったな……話を戻して。


 その女性は、長時間ずっと画面を見ていたのだろうか目頭を押さえて、

 しかし、また次々と雪崩のように来る連絡を迅速に1つ1つ対応している。

 耳にはインカムのような物(多分、それ以上の性能だろう)をつけており、今もどこかの誰かと通信を取っていた。

「……わかりました。はい、はい……はい、ありがとうございます。その件に関しては、また追って連絡いたします」

 ディスプレイに映っている何者かに、何度もお礼を言いながら通信を切る。

 そして、また作業へと戻っていった。

 いくつもの業務を1人でこなしており大変そうだ。他に添乗員はいないのだろうか?

 だが、女性は文句の1つも言わず次々に資料を読み上げて、コエンマ大王みたいにハンコを押してる。

 ……そこだけ、ずいぶんとアナログだな。

 そうして、全部の資料にハンコを押し終え、自分で自分の肩を叩いて、伸びをする。

「ふぅ……急な予定変更だと、様々な方面に頭を下げて、申請しなければいけないのが辛い所だな……しかし、お嬢様の為だ。頑張らねば」

 彼女はそう自分に言い聞かせて、作業を再開するが、


 ピーピーピー。


 どうやら、またどこかから通信が来たようだ。


「こちら、……ザザ……M8……ザザ……星雲……からです。先ほどの質問の回答についてです。今、大丈夫ですか?」

「はい。大丈夫です」

 少し電波の調子が悪いようだけれども、気にせずに通信を継続する。

「そちらの言っていた『星』の治安は、私どもも最近、飛来していないので確証は出来ませんが、それでも他の惑星に比べれば十分に安全かと思われます。

 滞在を目的としているのならば、断然こちらをおすすめします。昔は宇宙から敵が毎週攻めてくる事もあったのですが、

 最近は怪獣と戦うのも流行らなくなって、スポンサーもつきにくく……ゴホンゴホン、いえ、めっきり怪獣が現れなくなったので、それも大丈夫でしょう」

 スプーンのような目をした星人が饒舌に……フリップに文字を書いて筆談してくる。

 ? この人はしゃべれないのだろうか? 彼女もご丁寧にメールで応じ始めた。

「この惑星の住民とあなた達とでは体の比較が違うので、この星の事を知っていたと聞いた時は驚きましたが……そうですか。ありがとうございます」

「いえいえ、お気になさらず(笑)……それにしても遠い所からこんな辺鄙な所まで来られて、さぞかし大変な旅だったのでしょうね。

 お体に気をつけて下さい。こちらからは以上です。デュワ! ……じゃなかった、では!」

「わかりました。質問に答えていただき、感謝致します。そちらも体に気をつけて」

 胸にカラータイマーを着けた人物との通信を終える。


 どうやら彼女は、今から向かう惑星と関わりのある人物たちと連絡を取っているようだ。

 ピーピーピー。

 またどこからか通信が来た。


「はい、もしもし。こちら、ウル星ヤトゥーラ国の『サラ』です」

「こちら、この惑星の駐在監視員です。今回は急の予定で、こちらに不時着されるとの事ですね? 何かあったのですか?」

 今度は赤紫っぽい髪のメガネをかけた、うら若い女性が画面に出てきた。

「はい。我々の大切なお嬢様が、長旅のせいか体調を崩されてしまい、大事を取って、一旦休養を取る事にしたのです。

 病原体や未知の病気といった類ではありませんので、心配なさらないで下さい。既にこの惑星の滞在許可も取りました」

 理由を聞きながらも女性は、先ほど送った書類に、サッ、とメガネを光らせ、こちらの言っている事にウソはないか、目を通している。

「そう、ですか……確かにこの書類にも、そう書かれてありますね。わかりました。こちらでも、ちゃんと情報を伝えておきます」

「了解です」


「あと、事前に少し調べてみましたが、あなたたちの惑星とこちらの惑星では、あまり体の差異がないようですね。

 なので、擬態や変身をせずに滞在しても問題ないと思います」

「わかりました」

「この惑星の人々は、まだ宇宙人の存在を知らないので、大気圏に突入する際には、くれぐれも気をつけて下さい。なるべく、秘密裏にお願いしますね」

「ご忠告ありがとうございます。そちらも教鞭を執られていて忙しいはずなのに、わざわざ時間を割いてまで調査して下さり、大変恐縮です」

「いえいえ、最優先事項ですから! それに『おねがい、先生!』なんて言われたら断れないですし……って、あっ、あの人が来ちゃった!

 ど、どうしよう! あの、すいません、これで通信を終わらせてもらいますね!」


 プツン。

 向こうが慌てた様子で回線を切り、慌しいやり取りが終わった。


「ふぅ……ようやくこれで、やっと通信から解放されたか……」

 どうやら、今から向かう星について、この女性が質問をした人達からの回答が出揃ったようだ。リストに最後のチェックを入れている。

「それでは、さっそく、まだ残っている資料を、と……どれどれ……」

 先ほどの通信で、もらったであろう資料に目を通していく。

「……ふむ。惑星を知っている連中の話しと照らし合わせてみても、お嬢様をこの星に滞在させても大丈夫……か。問題は滞在中の場所や施設等だが……」


 プシューッ。

 その女性のつぶやきは、後ろのドアがスライドして、開いた事によって途切れた。


「……サラ? まだ起きていたの?」

 そこには、深窓のご令嬢と言っても差し支えない、いや、まさにその言葉がふさわしい15・16才位の女の子が、少し顔色の悪い表情をしながらも立っていた。

「お嬢様? どうしたのですか? もう寝ている時間じゃ……」

「うん。少し目が覚めてしまって……」

 そんな寝ぼけ眼のお嬢様が、サラの目の下のクマに気づく。

「あっ、サラ、ごめんなさいね。わたくしが体調を崩してしまったせいで……」

 という事は、この子が先ほど話に出ていた、体調を崩したお嬢様なのだろう。

 女の子の申し訳なさそうな言葉を打ち消すかのように、サラが明るい顔を投げかける。

「なにを仰られますか。この旅はお嬢様の為のものなのですから、お嬢様の健康を一番に考えなければなりません。

 それに、今回の事はちょっとした小旅行だと思えばいいじゃないですか」

「でも、サラの仕事が増えてしまったし……」

「いえいえ、私も長らく続く船舶内での退屈な業務に、少し気が滅入っておりましたので、ちょうど良かったところです。

 別段、お嬢様が気に病むことなんてありませんよ。ささっ、気にせずに安心してベッドでお休みになっていて下さい」

 サラは、本当にお嬢様の事を一番に考えてくれているようだ。

 なので、お嬢様もサラの言葉を素直に受け取る。

「ありがとうサラ。言われた通り、もうちょっとしたら、わたくしも寝る事にしますから」

「はい。こちらもあと少しで、惑星に着きますので」

「そうなの……あ、でも、無理をしないでね。わたくしのせいであなたが倒れてしまったら、

 今度はわたくしが、あなたを看病しなければなりませんからね……ふふっ」

「そんな! 私にはもったいなきお言葉です。お嬢様は、ご自身の事を考えていればいいのですよ。私を看病するなんて事はなさらなくて結構です!」

 お嬢様の軽口に大げさに反応してしまうサラ。その反応を見て少女は頬を膨らませた。

「もう! 冗談で言ったのですよ! そこは

『それは困ります。お嬢様の看病は危なっかしいので余計に体調が悪くなります』等、ウィットに富んだ返答をして欲しいものです!」

「そ、そうでしたか……申し訳ありません」

 頭を下げるサラ。確かにこの女性は、見るからに堅物で少し融通がききそうにない。

「全く、サラには冗談というものが通じないのですから……サラは無理をし過ぎなのですから、本当にお休みになりなさい。

 これは命令ではなくて、サラの事を思って言っているの。わたくしのせいでサラも体調を崩してしまったら、わたくし、眠るに眠れませんわ!」

 きっとそこまで強く言わないと休んでくれないのだろう。ようやくサラも首を縦に振った。

「わかりました。これが終わったら私も休みますので……」


 サラの言葉に安心したお嬢様が、今度は別の事柄に興味を示した。

「あっ、あれが、今回不時着する予定の星ね」

 サラの操作しているパネルの中でも一際大きなディスプレイに、青々とした美しい星が映し出されていた。

「はい。見た目通りの安全な星だそうです。80年代はある国がバブルで、それを目当てに様々な宇宙人が頻繁に飛来しており、

 少しばかり治安が悪かったようですが、最近はその国が不景気らしく、宇宙から偵察をする者も減ったみたいで、今は危険ではないようです」

「そうなの……」

 サラの話も半分に、彼女の緑色をした宝石のような両目は、パネルに映し出された蒼い星に釘付けとなっていた。

 それは私たちも見慣れた、馴染みのある星だった。


 というか、ぶっちゃけ地球です。


 少女はその青々としている星をうっとりと眺めながら、


「……それにしても……本当にきれい……」


 と小さく呟いた。





ここまでお読みいただいてありがとうございます。


今回が初めての投稿ですので、

「ここをこうしたらいいよ」

等のアドバイスをいただけるととても助かります。

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