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「最初よりはマシになったな」

 

 殿下とリディが今の光魔法についての感想を言ってくれた。

 魔法を習いたてにしてはまぁまぁだが、これから改善の余地あり、だそうだ。

 妖精を感じ、周りに引き寄せるのはそれなりに上手いが、その後に呪文を唱えてから魔法を発現させるまでの時間が長いらしい。それは何度も練習して、自分なりのコツを掴むしかない。

 2人は私に的確に助言してくれ、しかもその助言は分かりやすいものだった。


 そして今日2度目の「ありがとう」を言うと、周りで光っていた光の妖精たちが次々に元の姿へと戻っていた。


「……ここまでにするか。途中で休憩を入れていなかったからな」


 殿下はそう言うと時間を確認するかのように空を見上げた。

 昼の授業が始まったころは太陽が真上から私たちを照らしていた。しかし今では横に傾き、もう少ししたら夕方の時間になるのでは、と思うくらいだ。


「ヒナ、体は疲れていませんの?」

「体?」


 リディが私に体の様子を聞いてきた。それは私が授業の間ほとんど魔法を使い続けていたから。

 しかし私はリディの心配に反して特に疲れを感じていない。

 そのことを伝えると横で聞いていた殿下が「ふっ」と笑うのが聞こえた。


「成功したのは最後の1回だけと言ってもいいからな。それまではほとんど魔力を消費していないだろうし、疲れを感じなくとも当たり前だ」


 殿下の言葉に頷くようにリディも「確かにそうですわね」と笑っていた。なんとなく小馬鹿にした言い方に、私は唇を尖らせながら「えー」と言った。

 

 殿下が最初私たちに声をかけてきて、魔法を教えてくれることになった時はどうなることかと思ったけどなんとかなってよかった。

 初めて殿下を見た時から怖い人に見えたけど、話してみればそこまでなかった。リディの時もそうだったように1度や2度、会ったり話したりしただけではその人のことは分からないってことだ。

 殿下はともかく、リディやシア達ともこれから一緒にいることでもっとお互いに知り合い、仲良くなれるだろう。―――そうなったらいいなとは、私の一方的な思いだけど。


「周りも何組かは終了しているな」

「終わる時間は明確に決まっているのですか?」

「いや、……多分あそこを教えたら終わりかもしれん」


 あそこ、というのは私たちがいる場所から少し離れた中庭の壁側で、先生と数人の1,5年生が話しているのが見える。時折、1年生と思われる女の子が魔法を使っている。その他では終わりの時間に近づいているからか、授業、魔法の練習というよりは談話になっているみたい。殿下は周りのそんな様子を見ながらリディの質問に答えていた。

 今ではもう、リディは普通に殿下に話しかけられるようになったみたい。ほんの数時間前までのリディだったらありえない光景だ。


 そんな2人を眺めながら、私はシアとイルがいる方を眺めた。中庭半分で4年と5年に分かれて授業をしていた。


「あ、シア達はイアンと一緒にしているみたい」


 少し離れているが、見事といえる金髪の双子は少し遠くても気づくことができた。他の学生にも金髪の者はいるが、シア達の髪は一段と輝いており比べ物にならない。

 どうやらイアンは4年の同級生2人と一緒にイル、シアに魔法を教えているようだ。


 私がポツリ、と言った言葉に反応してか、一緒にいるリディと殿下も私の見ている方へ顔を向けた。


「やはりあの2人にはイアンがついたか」


 私は殿下が従姉弟であるシア達を見ながらそう言っているのに頷く。イアンとイルはいつの間に意気投合したのだろうか、仲よさげな感じだ。シアを含めた3人も真面目に練習しているように見える。


「そう言えば私、イアンが魔法を使っているところを見たことなかったな……」


 離れた場所から眺めながらふと、思った私は小さく独り言を言った。

 その独り言が聞こえたらしい殿下が目線はイアンたちに向けたまま、話しかけてきた。


「イアンは4年だが上級生にも劣らず優秀で、このままいけば卒業と同時に国の魔法士団に引き抜かれるだろうな」

「魔法士団、ですか?」


 聞き慣れない言葉を聞いた私は説明を求めるため殿下に聞き返した。

 ちらりと顔を見上げると、眉を寄せ私を見降ろした殿下と目があった。誰もが知っている、あたりまえのことなのかもしれない。私が知らないという言い方をしたために、変な目で見てきたのだ。

 しかしそれは一瞬のことで、次の瞬間には目線をイアン達の方へと戻し説明を始めた。


「魔法士団とはその名のとおり、魔法士、魔法使いと言われる者の集まりだ。通常は魔法の研究や鍛錬、医療士として働いている」

「へぇ、そうなんですか」


 仕事の内容は聞いても今の私にはあまり想像できない。でも優秀と言われているイアンが引き抜かれるかもしれないというのだから、エリートな集まりなのだろう。

 深くは考えず、殿下の説明にただ相槌をうつ。その相槌を打った後に「こいつ分かってんのか」というような視線を感じたのは気のせいだろう。

 私の曖昧といえる相槌のあと、リディが付け加えるように言葉を繋げてきた。

 

「魔法士団は国の象徴なのですわ。他国にもわたくしたちの国の魔法士団と同じような組織があります。魔法士の方々が研究する技術や医療術は国の発展に貢献し、また戦闘でも優れた人材を多く持っていればいるほど国として一目置かれるのです」

「そうなんだ。じゃあそんな所に引き抜かれるかもしれないイアンってすごいんだ」


 国の象徴とまで言われる組織なのだからすごいと素直にそう言った。もちろん実際に見たことがあるわけではないが話を聞く限りでは、だが。

 私がそう言うと殿下は「ようやく分かったのか」と呆れ気味だった。

 ははは、と苦笑いの私は逃げるようにリディの方へと顔を向ける。


「……リディ?」


 リディは少し眉を寄せた顔でイアンたちを見ていた。苦々しい、とまではないが気に食わないことでもあったのか、と思わせる顔だ。

 私がリディに声をかけると「はっ」としたように、澄ました顔で私の方を向いた。


「まぁ優秀だからといっても問題はあるんだがな、この国には……」


 リディが私の方を向いて「何でもないですわ」と言うのと同時に先生が「そろそろ終わりにしますから集まって」と大声で言うの聞こえてきた。

 そのあとに聞こえる学生たちの返事がざわめきとなって辺りを包む。

 だからか、私には殿下の小さな呟きは届かなかった……。


 

 先生が本日の授業終了を伝えると、ぞろぞろと学生たちが中庭から出ていった。時間帯はもう夕方といっていいほどで、空は夕日によって赤く染まっている。

 ほんの数時間前まで暖かかった空気が少しずつ冷たいものとなってきている。しかし今日はいつもよりも気温が高いようでいくぶん過ごしやすい。

 私は季節の変わり目の雰囲気を味わうように深呼吸をした。王都ではあまり感じることのなかった木や花の香りがほのかにする。その香りは私が初めてこの世界に来てお世話になった村、トリアおばあちゃん達の住む村を思い出させた。


 そんなことを1人で考えながら懐かしく思っていると、友人たちが私を呼ぶ声が聞こえてきた。


「ヒナは今日の実技どうだったの?」

 

 私に話しかけてきたのはシアだ。

 授業が終わった後、シアとイル達がいる4年生のクラス側が終了するのを待っていた。そしてシアとイルを待っていた私とリディは今、寮へと戻っている途中だ。

 先ほどまでイアンと殿下も一緒だったのだが2人は先に夕食をとるらしく、途中で別れた。


「んー……、まぁまぁ、かな?」


 最後の1回は成功と言っていいだろう。しかしたった1回なのだ。完璧とか上出来とは程遠く、それを言い表すにはまぁまぁ、としか思いつかなかった。

 私が言葉の最後に疑問符をつけたからか、シアと横にいて話を聞いていたイルが「「どういう意味?」」と笑いながら聞いてきた。


 同じタイミングでしかも同じ言葉で言ってきたのにはさすが双子だと感心してしまった。

 その感心のために2人の質問に答えるのを忘れてしまい、代わりに一緒に授業を受けていたリディが答えた。


「はっきりと言いますと下手ですわね」

「リ、リディ……はっきり言うね~」


 遠回しな言い方ではなく直球な物言いにたじろぐ私。初めて会ったときからリディは私のことに対してはっきり物をいうふしがある。今回もそんなリディの直球な言葉で今日の私をひと言で表した。


「あら、本当のことを言ったまでですけれど。……まぁ最後の魔法は下手とまでは言わないでおきますわ」

「ははは……、ありがと」


 さっき、最後に魔法が成功した時には褒め言葉を言ってくれたのに、2度は言ってくれないみたいだ。

 また「下手とは言わない」という言い方はリディらしさが見えた気がした。―――多分面と向かって何度も褒めたりすることはしないのだろう。


 私たちのやり取りを見ていたシアとイルは「いつの間に仲良くなったの?」と聞いてきた。どうやら今の会話の様子で2人は私とリディが仲良くなったと思っているみたい。……仲良くなっているのか?


 私が首を傾げていると「な、仲良く?」と戸惑っているリディの姿が見えた。シアとイルはそんなリディを見ながらにこやかに笑っていた。


「……あ、そう言えば私達はシア達を見てたよ。イアンとやってたんだね」

「そうそう、僕たちにはイアンと後2人の先輩がついたんだ。練習とはいっても基礎だし、あまり習うことはなかったんだけどね」


 イルの話を聞いていると今日練習したような魔法はすでに習得済みだったようだ。……そういえばリディもすぐに殿下の合格点を貰っていたし。

 私はきっとこの世界の人も私が小さい頃おばあちゃんに魔法を教えてもらったように、魔法が使える人は幼い時から魔法の練習をしていたのだろうと考えた。


「そうなんだ。私なんか失敗ばかりで大変だったよ」

「僕たちはある程度の魔法は練習して習得しているからね」


 魔法科には基本的に身分関係なく合格すれば入学できる。しかし学生のほとんどは貴族や豪商といった出のものばかりで、それに比べると国民の大半を占める平民の学生はほんの一握りだ。

 

 私がイルの言葉に「入学する前から勉強してたの?」と聞くと魔法科の現状について教えてくれた。

 ―――魔法科の学生には貴族階層の者が多い。それは幼い頃から家庭で基礎魔法教育が行われているから、だそうだ。


 イルはそう教えてくれると「ただ出発点が違うだけで伸びる可能性はヒナが高いかもしれないし」と言ってくれた。


「確かにそうかもしれないわ。だって魔法科に入学するために屋敷へ教師を招いて学んだ人も多いのに、それでも入学できなかった人もいるくらいなのだし」


 話を聞いていたシアが横から入り、イルの言葉に賛同した。

 私は急に声が聞こえたからではなく、シアの話す内容に驚いた。


「教師を招いてって……」

「だからそのような人達ではなくて、ヒナのような人が合格するのは可能性を見出されるからよ。イアンがいい例だわ」


 私が「へぇ~」と言うとイルとシアが「……今のところそんな風には見えないけれど」「僕もそう思う」と顔を見合せながら話していた。


「えー、それってどういうこと?」


 くすくす笑う2人に加えて「わたくしもお2人に賛成ですわ」と目をつぶりながら言う。

 そんな3人に目を向けながら私は頬を膨らませた。


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