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「ヒナ? こんなところでなにしてるの?」

「……んー? イアンかぁ」


 壁際に座り込み、うとうとしていた私は、すぐにはイアンの声に反応できなかった。

 暖かな日差しでいつの間にか眠っていたみたい。私は手の甲で目をこすりながら立ち上がった。


「他の3人はどうしたの?」

 立ち上がりながら頭上でイアンの声が聞こえてきた。


「3人は1度部屋に戻るからって、お昼の授業には教室棟の入り口で待ち合わせしたの。それまで暇だったから昼寝してた」

「昼寝って……」


 あきれたイアンの声が聞こえる。まぁ、昼だからって教室棟の壁に凭れかかっていたら変な人だと思われるかもしれないな。いや外にいるにしても、ほとんどの人は教室棟の中庭、あの広い中庭でくつろぐのだろう。

 

 言語の授業の後、私はシア達3人とお昼ご飯を食べた。学院の授業は朝に1つと昼に1つあり、授業数が少ない分、1つの授業時間が長い。しかし途中で休憩時間があるのであまり疲れは感じなかった。

 そしてご飯を食べてから3人と別れた。時間も昼の授業まで十分あるからと思ってたどり着いたのが今、イアンに声をかけられた場所。

 建物の扉から少し離れているし周りには木や草花があり、地面は芝生になっている。このぽかぽか陽気にお昼を食べた後ということもあって、つい寝てしまったようだ。


 それにしてもどうしてここに人がいるって分かったんだろう? 木や草花で周りから見えにくいと思ったのに……。

 私は目から手の甲を離し、少し眩しく感じる周りの明るさに何度か瞬きをした。


 そして私の前にいたのはイアンと銀眼の方のヴェルリル殿下。声はイアンのしか聞こえなかったけど殿下が一緒なのはなんとなく想像できた。それは朝ご飯の時に2人は「友達」だと聞いたから。

 そして次の授業のこともあるから。


「多分もうすぐしたら3人とも来ると思う。あと、お昼の授業はよろしくね」


 イアンは私の言葉を聞くと「わかった」と頷いた。そして殿下にもお願いします、とぺこりとお辞儀をしながら話したら「……俺はイアンのように優しくないからな」と言うのが聞こえた。


 また後で、と言うと先輩2人は教室棟の扉の中へ入っていった。

 

 太陽の光が頭の真上から降り注ぐ。2人と会話したことで目が覚めた。

 もうすぐ3人の友人も来るだろうし、このまま起きてようかな。そう思いながら、空を仰ぎ見ると朝の言語の授業を思い出していた。

 

 さわさわと吹く風が近くにある木の葉を揺らしている。空には風にのって数匹の鳥が空を飛び、そして木の葉を揺らした風が私のところへ届くと髪の毛を舞い上げる。

 私はその風でゴミが入るのを防ぐために目を細め、満腹になるまで食べて少し膨らんだお腹をさすると覚えたての言葉を紡いだ。


「ルーメ」


 右手を地面と平行にまっすぐ伸ばす。そして私が使いたい魔法、光の魔法の元となる光の妖精の存在を感じる。光の子たちは私が意識をするとすぐに数匹集まってきた。

 今日は天気がよく、太陽の光がいたるところに降り注いでいるからかもしれない。私は周りにいる妖精たちににこり、とすると朝の授業で習った呪文を言った。


 私が「ルーメ(光よ)」というと光の妖精が淡く光り出した。それは小さな光。私の人差指と親指で輪っかを作ったくらいの大きさだ。その光は私の伸ばした腕辺りをふわふわと浮かんでいる。

 目の前で見ようと両手で魔法の光を包み、顔の前でその手を開いた。


「あっ、光が消えてる」


 私の手の中にいたのは1匹の光の妖精。「どうしたの?」という感じで、魔法の光を間近で見ることができなくて残念がっている私を伺っているみたい。

 

 やっぱり呪文で魔法は難しいなぁ……。

 

 そう思いながら目をつぶってため息をつき、目を開いたら水をすくうように形作っていた両手の中いっぱいに光の妖精が溢れていた。

 私はぱちぱちと2度瞬きをして、辺りを見回す。どうやら私の周りにいた光の妖精たちが私の手の中に集まってきたみたい。

 周りにいた妖精たちは最初に私の手に包まれていた妖精に嫉妬したのかもしれないな、「ふふふっ」とかわいらしいと思いながらも妖精たちを見て笑う。

 

 私は笑みを浮かべ、目を閉じると今度は呪文を唱えずに妖精たちが光る様子を想像した。

 そして目を閉じても感じる光に私はそっと瞼を開ける。そこには溢れんばかりの光。

 また光る色も赤・青・黄・緑など様々で、大きさはどれも呪文を唱えて光魔法を出した時のと同じくらい。その光を手で持ったまま頭上に持ち上げ、一斉に離す。とたんに周りに広がる光。

 きっと夜の暗い中だったらもっと鮮明に見れたかもしれない。


「呪文を使わない方が私には魔法を使いやすいかも……」


 周りにはふわりと舞う光魔法が上から地面へと落ちていく。空からふわふわと地面へ落ちていく様は、まるで子供のころ遊んだシャボン玉のよう。

 地面へ落ちたらシャボン玉が消えたように光魔法も消え、妖精の姿へと戻っていった。

 最後の1つが消えるのを見届けると、後ろから声がかかった。



「ヒナー! 待った?」


 聞こえてきたのはイルの声。地面を見ていた私は頭を上にあげて声のする方へと視線を向けた。


「大丈夫、3人とも一緒だったんだ」

「えぇ、私とリディが一緒に寮の外へ出るときに、イルも丁度会ったのよ」


 シアの言葉に「そっかぁ」と言いながら建物の扉まで歩く。

 リディが私のいた辺りを振り返っていた。


「今まで何をしていましたの?」

「えと、朝習った魔法の練習」


 私がそう言うとリディは「なるほど」という感じで頷いていた。


「魔法の練習? 昼の授業は実技だけどヒナ、大丈夫か?」


 イルが朝の授業を思い出しながら私に尋ねてきた。朝の言語の授業では講義と教室内で少しばかりの実技。イルやシア、リディはもちろん他の1年生はある程度すぐに魔法を発現できた。

 私も先生に習ったように周りの妖精を感じながら呪文を唱えるんだけど、上手くできなかったのだ。

 一応発現するんだけど力が弱くて、すぐに消えてしまう。それは先ほど1人で練習した光魔法のときみたいに。

 

 それを思い出した私は「はぁ……」と肩を落とす。シアやイルが「これから練習すればもっと上手くなるよ!」「ここに入学できたのだから自信を持つのよ!」と励ましてくれる。


「ありがと……」

 私はそう言うと4人で次の授業場所へと向かった。



 次の授業場所は教室内ではなく、外、中庭だ。この中庭は実技の授業や昨日の歓迎会のようなイベントなど、様々なことで使われるそうだ。

 私たちはその中庭に来ている。すでに何人もこの中庭にいて、自由に話したり魔法を使ったりしている。


「思った以上に人が多いわ」

 

 中庭に入り、最初に声を出したのはシアだ。周りを見渡すとシアの言うとおり、たくさんの人がいる。

 制服の左胸にある校章の色から、同じ1年生だけではなく先輩もいることが分かる。


 朝の授業で先生が昼にある実技の授業について説明してくれた。それによると今日の授業では4,5年生の先輩たちも一緒なのだそうだ。

 実技では他学年と合同で授業を行うことがほとんど。授業では先輩の学生が後輩に魔法の扱い方を教える。もちろん先生もいるが、誰かに教えることは教える側にとっても良い勉強になり、また違う学年同士の交流にもつながるので、そういった授業方針をとっている、と言語の先生が言っていた。


 私たちは周りをきょろきょろと見ながら中の方へ足を進める。リディが「あちらに先生がいらっしゃいますわ」と中庭中央に顔を向けていた。

 そこにいたのは朝の授業の先生。周りには見覚えのある学生たち。多分1年は最初にあの場所に集まるのだろうと思い、私たちもそこに向かった。

 私たちの後に何人か1年生が来ると、先生が辺りを見渡し全員がそろったと判断したようだ。



「全員集まりましたか? 今からの授業では朝、説明したように実技を行います。周りを見ても分かるように先輩たちもいますから、分からないことがあったら遠慮なく質問してください」


  先生はそう言うと私たち1年を2グループに分けた。どうやら4,5年生にそれぞれ振り分けられるらしい。

 そして私はリディと5年生側に、シアとイルは4年生側にそれぞれ分かれることになった。



「別れたところで、では授業を始めましょうか。1年生は初めての実技ですが、緊張せずに頑張りましょう」


 担当の先生は言語の先生と同じみたい。私たち1年生は半分に別れたため20人だが、5年生はその倍はいる。1年と5年というだけあって、体格差もさることながら雰囲気も大人に近い気がする。―――年齢でいえば私と5年生は同じくらいだけど、そう見えないのが少し悲しい……。


 入学してから最初の内は基礎魔法、簡単に言えば魔法を総合的に学ぶ。総合的、というのは魔法には様々な種類があり、例えば攻撃魔法や防衛魔法、医療魔法と分かれている。

 私が魔法というのはそんなに色々とあるのを知ったのはついこの間。1年生は学科でも実技でも広い範囲で学び、ある程度してから自分の専門を選択するのだそうだ。

 

 上の学年に進級するたびに同学年全員での授業は少なくなるのだが、今日のように1,2年の実技では教える側となって先輩たちも一緒に授業を受けるのだ。


「最初は朝の復習をしましょうか。……5年生は適当に1年生の元に分かれて見てやって!」


 適当にって……、真面目な先生と思ってたのにそんなんでいいの? と思っていたのは私だけじゃなかったようで隣にいるリディも「適当……」と呟いていた。


 1年生20人の中には1人でいる子や私とリディのように2,3人でいる子たちもいる。1人でなくてもいいようだ。周りの1年生に次々と先輩たちがつく中、私たちにはどんな先輩がつくのかな、と先輩が来るのを待った。



「……あ」

「どうしたの、リディ?」


 一緒にいるリディが何かに気付いたのか、ある方向を見つめている。

 私が声をかけても聞こえていないみたいで、何があるのかと私はリディの視線の先を辿った。


「……あ」

 

 今度呟いたのは私。隣ではリディが「ヴェルリル殿下……」と言っているのが聞こえた。

 確か殿下は5年生だったと思いだす。イルやシアが朝ご飯の時に言っていたように殿下は1人でいるようだ。私がさっき外で会った時はイアンといたが、そのイアンは4年生だから今は一緒ではないのだろう。

 殿下、王子という立場だから周りの人も近寄りがたいのかもしれない。それは周囲の人がちらちらと殿下を伺っているのから分かる。話しかけたいけど話しかけにくい、みたいな。

 殿下はなんというか、冷たい外見と表情の薄さが重なっていてそう感じるのかもしれない。

 

 そしてリディと私がなぜ「……あ」と呟いたのかというと――――――


「相手がいないんだったら俺が見てやる」


 殿下がこちらに歩いて来ていたからだ。

 私がリディの視線を辿って殿下を見た時にはすでにこちらへと向かっていた。そして私が「……あ」と言った時にはもう目の前にいたのだ。

 そして私たちを見降ろしながら殿下が私たちに声をかけてきた。


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