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 同じ新入生である3人の友人は驚いた顔をしながら、私のところへやってきた。

 中庭ではまだたくさんの生徒が和気あいあいと談笑したり食事をしたりしている。

 春の夜で普段は冷たい風が吹いたり、それでなくとも肌寒さを感じるはずなのに私たちのいる中庭は暖かい。これも暖かい光を放っている光魔法と同じく、学院長が何らかの魔法を行使しているのかもしれない。

 私がこちらへ歩いてくる友人を見ながらそう考えていると、もう目の前まで来ていたシア達に声をかけられた。


「ヒナ、ごめんなさいね。一緒に食べようと言っていたのに」

「僕もごめん。4人でゆっくり食べたかったんだけど……」

「ううん、大丈夫よ。でも実を言うとお腹すいてたから先に食べちゃった。だからこっちこそごめんね?」

 シアとイルは4人で食べられなかったことについて謝ってきた。それと他の先輩たちと話していたことについても。確かに最初はちょっと寂しかったんだよね……。

 

 でもイアンたちと話していたおかげでその寂しさもなくなってたんだけど。


 私はシア達3人にイアンたちを紹介しようと思って口を開こうとした。

 そのとき、リディは私がシアとイル、3人で話している横で元々ぱっちりとした目をそれ以上に見開き、口も半開きの状態で私と一緒にいた先輩たちを見て声をあげた。


「ど、どうしてヒース様とアスフォディル様がここに?!」

「え? アスフォディル? リディ、2人のこと知ってるの?」


 私がそういうと信じられない、という目つきでリディがせきを切ったように話し始めた。

 それによるとヒースは意外にも学院一、医療魔法が得意らしい。アスフィはアスフォディルというらしく、こちらは見た目通りで攻撃魔法では学院内でも有名なのだそうだ。

 そして2人に共通するのが中級貴族出だということ。中級貴族といっても国の中では上級貴族と変わらないほどの扱いだとか。学院内でもそうだが、学院外でも将来の有望株として扱われているそうだ。

 それにこの2人の名前が知られているのは家柄や能力だけではなく、その容姿も彼らが注目される要因なんだとか。


 確かに女性から見てもつい「きれい」と言ってしまう外見のヒース。そしてヒースとは反対の一見、朴訥ぼくとつとした感じのアスフィ。アスフィは私からすると取っつきにくい気がするけど顔かたちは恰好いいと言える。その艶やかな黒髪と瞼にかかる程度の前髪から覗く鋭い眼光が彼をより魅力的に見せている。


 私も今まで話していて思ったが、確かに2人とも人目を引く顔立ちだ。しかし恰好いいとは思うが、それだけで、他は成績がいいのか、と思うくらい。まぁ私がロータス王国や学院についてまだよく分かっていないから彼らのすごさが理解できていないだけかもしれないが。

 それにあまり美形すぎる人には緊張してしまう気もするし。2人のように恰好いいとまでいかなくても、例えばイアンのような爽やかで人当たりがよさそうな人の方がいいけど……。


 ―――なんて1人、話のずれたことを考えているとリディに「ちょっと、聞いていますの?」と言われ私はリディに顔を向け直した。


「あぁごめん。聞いてたよ? 2人とも有名なんだね」

「んもぅ! だから先ほどからも言っているように、なぜそのお2人といるのかと聞いているのですっ」


 どうやらリディの問いに的外れな解答をしていたらしい。私はリディの早すぎる言葉についていけず、聞き流したりしていた。眉を寄せているリディに次はきちんと答えるように今度はリディの問い、どうして一緒にいるのか、を簡単に説明した。説明ついでにイアンのことも紹介したけどリディは知っていたみたい。


「……知っていますわ。4年のイアン・リザーズですわよね」

「うん、そうだよ。イアンのこと知ってたんだ?」

「僕も彼のこと知ってるよ。かなりの秀才で、学院内だけじゃなくて王宮からも注目されているらしいね」

 

 へー、イアンって秀才なんだ。

 イアンの話になると口数が少なくなったリディに代わり、イルが語ってくれた。イルによるとイアンは優等生に位置付けられ、先生たちにも一目置かれている生徒、だそうだ。


 私はイアンの方をあまり見ようとはしないリディに首を傾げながらもイルの話をきいた。途中、その私の仕草に気がついたらしいシアが息を吐きながら「やれやれ」と首を横に振っていた。


「ねぇーヒナ、僕たちには紹介してくれないの?」

「ぅわ! ヒース?」


 にょき、という感じで私の首横から急に顔を出したヒースが声をかけてきた。急に、しかも顔の横に現れたヒースに対して私は「びくっ」と肩を揺らす。リディは私がヒースを呼び捨てにしたことに対して何か言っていたようだけど、驚いている私には聞こえなかった。


「僕は別に紹介なんて必要ないよー」

「そうね、イル。私も特に聞かなくていいわ」

「えぇ~酷いなぁ、イルディアサマとセレシアサマは。んじゃあ、そっちの赤毛の娘は紹介して貰おうかな」

「わ、わたくしですか?!」


 話を聞いていると、ヒースはシアとイルのことを知っていたみたい。今はリディのことを聞いているようだ。

 それにしても私の時もそうだったが、初対面の人物であってもその他の人物であっても態度は変わらないのか……、とある意味すごいなと思ってしまった。

 その様子をしばらく見ていたら、イアンの横にいたアスフィがヒースの首根っこをつかんで引き戻していた。「いたいよー、アスー」とぶつぶつ呟いているヒースにお構いなしだ。アスフィはイアンのところまで連れて行くと、今度はイアンがヒースに耳元で話していた。


「……うん、リディだっけ? よろしくね。その他の新入生たちも、僕ら先輩に聞きたいことがあったらいつでもどうぞ!」


 イアンが何か言ってすぐ、ヒースはアスフィに引っ張られてだらけていた体を元に戻し、いきなり真面目に話し始めた。私たち、リディ、シア、イルはその変わりように目を丸くした。

 

 


 イアンの一言で大人しくなったヒースを中心に私たちはテーブルにある料理を食べたり、話したりしていた。改めてイアンたち先輩組とお互いの軽い自己紹介を終え、これからの学生生活などについても話した。

 その中で私が「ヒースとシア、イルの3人は元から友達だったの?」とさっきの会話で気づいたことを質問した。するとその3人は顔を合わせたかと思ったら笑われてしまった。

 

 私は3人を見て、何かおかしなことでも言ったのかと目をぱちぱちさせる。

 3人はあざけった感じの笑いではないが、隣にいるリディは明らかにあきれた、というようなため息をついていた。


「どうしたの? そんなに笑って」


 3人の笑い声に対して、ため息をついているリディ、私を見てにこやか顔のイアンやほとんどしゃべっていないアスフィ達ではなくその他の人物の声が聞こえてきた。

 その男性にしては少し高めの声、青年の澄んだ声が私たちから少し離れた場所、中庭の中央側から聞こえてきた。 


「……こんな所にいたのか」


 次に聞こえてきたのはさっきの声よりも若干低めの声。どちらも大きい声ではないがよく耳に届く澄んだ声だ。ここにいる全員に聞こえたのだろう、ここにいた7人はその声の主の方へと一斉に顔を向けた。



 中庭の中心の方から歩いてきたのは2人の少年。いや、体格などからして私よりもいくつか上のように見え、青年と言ってもいいかもしれない。その2人ともきれいな金髪だ。しかしシアやイルのような透けるような金髪ではなく、収穫前の小麦のような金髪だ。

 私はその2人を見ると茫然と立ちすくんでしまった。

 髪にも目はいくが、その瞳の色にも目はいってしまう。1人は金色の目でもう1人は銀色の目。この世界に来て、日本では珍しいと言われていた私の紫の目が特に何も言われない理由がなんとなくわかる。

 様々な色をこの世界の人は持っているからだ。


 しかし私が立ちすくんだのはその見た目だけではない。


「ラン達遅かったねー。僕たちはもう結構食べちゃったよ」

「まったくだ、だがヴェルが来て助かった。こいつの世話頼む」


 彼らもまた1度会ったことのある人物たちだったからだ。




「またヒースが何かしたのか?」

「はぁ、僕たちも少しはつまんできたから大丈夫だけど」

「別に何もしてないよー。アスの思い過ごしだからー」


 新しく現れた2人がヒースにあきれたような目線を送っている。だがヒースは別に気にもせずその視線を受け止めていた。 

 私はこの2人のことについて説明を求めるようにイアンに視線を向けた。するとそれに気付いたイアンが「さっき言った残りの2人。俺の友達だよ」とにこり、笑顔で教えてくれた。

 そういえばこの2人に出会ったときはヒース達も一緒にいたな、とふと思ったがそれにしても世界は小さいなとも思ってしまう。いや、彼ら2人が私のことを覚えている可能性は低いのだけれど。


「ちょっと、2人とも僕たちには声をかけてくれないの?」

「イルの言う通りよ。従姉弟いとこの私たちが目の前にいるのに」

「ん? 気付いていたよ、でもここは後輩の君たちから声をかけてくるのが当たり前かと思ったからあえて話しかけなかったんだ」


 イルが「えー」と言い、シアは「確かにそうかも」と納得している様子だ。

 そしてイルとシアに答えたのは金髪金眼の方。にこにことした雰囲気はイアンにどことなく似通っている。


「ちぇ、僕はイルディア・マム・デモール。これからよろしくお願いします」

「私はセレシア・マム・デモールです。よろしくお願いします、ラン兄さま、ヴェル兄さま」

「はい、よろしくね。2人とも」


 知り合いらしいのに丁寧に自己紹介する2人を眺めていた。するとシアが突然こちらを向き「私たちの友達なの。紹介するわね」と手を振られた。

 急にこちらを向かれてうまく反応できず、とりあえず隣にいるリディに対応してもらおうと横を向いたら……。


「リ、リディ? どうしたの?」


 リディは人形のように固まっていた。

 私がリディに話しかけるとようやく「―――っは!」と意識を取り戻し、そして少しふらついていた。


「大丈夫、リディ?」

 

 ついさっきシアに話を振られた私も動揺していたが、ここまではなかった。それに先ほどヒースたち会った時もここまでリディは取り乱してはいなかったので、今の状況に少し驚いた。

 

 私がどうしたのか、と思っているとリディが急に膝をつきこうべを垂れた。

 それを見た私はリディがおかしくなってしまったのかと慌てふためく。そして慌てふためく原因のリディが言葉を発した。



「わたくしはリデーレ・レソン・パッセルと申します。シア様とイル様の元にについております。……この度はお会いできたことをうれしく思います、両殿下」



 いきなり頭を下げたかと思ったら話しだしたリディ。私が声をかけてからの動きがあまりにも機敏すぎたので途中で話しかけることができなかった。……が、間で気になることを言っていなかったか?


「は? ……殿下?」


 でんか、殿下……、貴族という言葉も馴染みがなかったが、殿下という言葉も私にとってまったく馴染みがない。そのためリディが言った言葉を脳内で変換するのに暫く時間を要した。

 私が1人、うーんと唸っていると殿下と言われた2人が動いた。


「頭をあげて、……ここは学院だからね。僕もヴェルもみんなと同じ学生だよ」

「しかし、ランセル殿下……」


 膝をついたままのリディに手を差し伸べたのは金眼の方の先輩だ。もう1人の銀色の目の先輩は腕を組み、成り行きを見ている。差し伸べられた手を見てうろたえた様子のリディだったが、ついにはその手をとり立ち上がっていた。

 リディをみるとほんのり顔が赤くなっているのがわかる。また顔を俯かせたまま、今までの態度とは違いしとやかにふるまっている。


「ほらラン、あまり彼女の手を掴んだままだと彼女、ずっと俯いたままだよ」

「そうだよー、まったくいつも僕にばっかり注意してさ。ランも人のこと言えないじゃないか」


 イアンとヒースの声で「そう?」と言いながらリディの手を離した。「大丈夫?」と最後につけたしながら手を離していたが、リディは小さく「はぃっ」と答えるので精いっぱいのようだ。


「ラン兄ってば無自覚のタラシなんだから」

「ちょっと、イルってば! ―――今のが友達の1人のリディ。パッセル家は聞いたことあるでしょ?」

「あぁ、聞いたことあるよ。そうかシア達と同じ年代の子がいたのを聞いたことがあるよ」

「なるほどな、ではあそこに立っているやつは誰だ?」


 シア達の従姉弟らしい2人はリディのことは分かったようだ。どうやら貴族同士だとどこの家のものかで判断がつくみたい。そういう世界にまったく無関係だった私はへぇーと頷いていると、いきなりみんなの目がこちらを向いた。


「あっと……私?」


 ここにいるほとんどがに美形に属しているため、急にその人たちに注目されるとなんだか尻込みしてしまう。私は「うぅっー」と声にならないうめき声を洩らすだけだった。


「ヴェル兄さま、そう睨まないでよ。えっと、この子も私たちの友達でヒナというの。今日友達になったんだけど、ここにいる先輩方とも偶然にも知り合いだったみたい」

「えっと、ヒナ・フローリスです。よろしくお願いします?」


 自分で名前を言ったのになぜか疑問口調になってしまった。でもそれ以上何か言える雰囲気ではない気が。それは私をじっと睨んでくる殿下? の眼光のせいだ。ひくひくと口角がひきつる。


「……おまえ以前どこかで会ったか?」


 目をひそめて私を見たと思ったらそう聞いてきた。聞かれた私は驚いて「え?」というだけ。

 確かに一度図書館でヒース達と会ったときに帰る際ぶつかった記憶はあるが、それは「会った」内に入るのだろうか?


 私が答えに困っていると横から助けの声が聞こえてきた。


「ランばかりじゃなくてヴェルもー? まったく2人して、僕たちのことはほったらかし?」

「ヴェル、ヒナのこと知ってるの?」


 ヒースの声で私を見ていた銀色の目が横にそれほっと息をつく。そしてイアンの質問には「……いや、気のせいだ」と返し最後にちらりと私を見たかと思うとイアンたちの方へ移動していた。


「ヴェル兄ってば……。ヒナ、気付いたかもしれないけどこの2人は僕たちの従姉弟。金色の瞳がランセル、銀色の瞳がヴェルリルだよ。あ、ちなみに2人は兄弟だから」

 

 もちろん知っているよね? と付け足すと、私の反応を待つ。どうやらその他のみんなも私の反応を待っているようだ。心なしか後ろの方にいるイアンがにやけ顔なのが気になるが……。

 でも知っているよね、といわれてもこの国出身ではなく、また今まで貴族などに関わりがなかった私がたとえ殿下といわれる人たちであっても知るはずがない。というか、イアンは知らないのだろうか、私がこの国に疎いということを。

 

 当たり前のことが私にとっては当たり前じゃないのでどう答えたらいいかを十分に考え、それを言葉で紡いだ。


「えーと、2人は王子さまだよね。殿下だから。………多分?」


 自分の言葉に自信がなくて結局はまた疑問口調になってしまった。そして言ってしまった後で「本当にそうだったらこの言い方はいけなかった?」とか「リディみたいに頭下げるべきだった?」とか考える始末。こういう機会はこちらでも日本でも全くなかったので対処法が思いつかない。


 先ほどのヒースやアスフィ達の時のように1人でおろおろしていると、後ろで腕で口を押さえているイアンが見えた。




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