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「そっか、それじゃあヒナが学院に慣れてしばらくしたら一緒に家に戻ろうか」

「本当? そうしてくれると助かる。1人でも大丈夫と思うけど、イアンがいたら安心するもん!」

「……ヒナ、他のやつにはそういう風にあんまり言わない方がいいよ?」


 私はシア達が帰ってくるまで(まだ先輩たちと話しているみたいだから)イアンといることにした。

 イアンの方も友達がまだ来ないらしく(なんか人に捕まっているみたい?)、その友達が来るまで一緒にいてくれるみたい。ついでにその先輩たちも紹介してくれるとのこと。

 まだ入学したてで、知り合いが少ないので先輩とかと知り合えると助かる。

 勉強なども含めてこれからのことを教えてもらえるから。


 そして今、イアンとリコット亭のことについて話していた。

 私が慣れたら一緒に時間があるときに帰ってくれるみたい。イアンがいてくれると安心すると話していたんだけれど、なぜか眉をひそめられた。


 私が「何で?」というと、イアンにため息をつかれた。

 イアンが苦笑いしながら「はぁ……、」と息を吐き出すのを見た私は、理由が分からず首を傾げる。



「イアンー! ここにいたんだー」

「……イアンが勝手に消えたからこいつ連れてくるのに時間かかってしまった」


 私が傾げていると後ろから小さいけどはっきりした声が聞こえてきた。私たちがいる場所は中庭の端っこ辺りなのであまり人はおらず、呼ばれているのは私の目の前にいるイアンだと分かった。

 声をかけられたイアンは「ごめん、ごめん」と言いながら私の後ろにいるであろう人に手を振っている。

 さっき言っていたイアンの友達? と思いついた私は傾げていた首を元に戻す。するとイアンが私の考えていることに気付いたのか、説明してくれた。


「さっき話した俺の友達。あと2人いるんだけど、まだ女の子たちにでも捕まってるのかな?」

「女の子……?」

 そういえばちょっと前にイアンが色んな人から逃げてきたっていってたけど、それは女の子たちだったの? 1つ解決したと思ったらまた1つ疑問が。私は縦に戻した首を再び傾げた。


「なになに? イアンってば急にいなくなったと思ったら女の子といたの? 意外とやるねー」

 

 私の後ろから聞こえる声がだんだんと近づいてくる。声の低さからして男の人だと分かるが、この独特な子供っぽい話し方……、以前聞いたことがあるような。

 私はまさか、と思いつつも2度あることは3度あるとも言うしなど考える。

 もし予想通りだったら振り向きたくないかも………。


「なんだ? 新入生に知り合いでもいたのか、イアン?」

「まぁね、……ヒナ? どうしたの?」

 

 イアンが首を傾げたまま顔を俯かせた私を不審に思って、肩に手をかけてきた。

 そして「ヒナ?」と声をかけてくる。

 おおーい、私に話しかけてくれるな! 紹介とかいいからそのままそっとして、友達同士で話してくれ。―――なんて私の考えていることが伝わるわけでもなく、いや先ほどは伝わったはずなのに、と思っている間もイアンは私の名前を連呼する。


「え、その子ヒナって言うの?」

「ん? ヒナのこと知ってるの、ヒース?」


 やっぱりーっ! この話し方聞いた時点でなんとなく気付いていたけどはっきりと名前を聞くまでは違う人かも知れないと思ったのだ。

 しかしその声の持ち主はヒースだったみたい。以前、私が村で出会った同年代の男の子たち。またその後私が王都へ来て初めて行った図書館で1度再会したこともあったので今回会うのは3回目となる。

 

 俯いている私に顔を覗かせるヒース。彼のさらさらとした長い銀髪が私の頬にあたり、少しこそばゆい。私よりもかなり高い身長なので腰をずいぶん曲げているみたい。

「やっぱし、ヒナちゃんだ」

「おまえここの新入生だったのか」


 ヒースに顔を覗かれその澄んだ翡翠ひすい色の目と合うと、あきらめて私は顔をあげた。すると案の定、前に会ったことのある2人だった。意外にも2度目に会ってから時間が経っているにも関わらず、私のことを覚えていたようだ。

 私の方はまぁ、忘れたくても忘れられなかった。何度見ても思うが、なんせ種類は異なるが2人とも美形だから。そして前も感じていたけど苦手なんだよね。美人なところは差し引いてもヒースの軽い感じとかが。ほとんど無表情といえるアスフィも変わらないんだけど……。


 私はイアンの友達だと思われる2人を見て挨拶をした。私とこの2人が知り合いなのを知らなかったらしいイアンだけが状況を飲み込めていないみたい。私たち3人の顔を見ながら、どういうことなのか説明しろ、という風に見える。

 私はイアンに私たちがどのような関係なのか、いつ出会ったのかなどを簡単に説明した。その説明している間にヒースが「うんうん、僕たちって運命の絆でもあるのかなー」なんて言っていたのは無視。それをいうならアスフィとも運命の絆があるってことになるじゃないか。



「―――なるほどね。最初に会った村の時は俺は行ってなかったから知らないはずだな」

「そのあとの図書館でもイアンはいなかったしな」

「あぁ、あの時は俺がヴェルについてきてもらって家に帰った時か」


 イアンとアスフィが確かめ合うように話している。私たちの関係がようやく分かったらしいイアンが納得するように頷いていた。


「それにしても偶然だねぇ」


 ヒースが間抜けな声で呟いた。

 その話し方をやめてもっと礼儀正しくすれば文句ないのに、と思うが声には出さない。しかし今ヒースが呟いた言葉には私も頷く。

 なぜなら国一広いと言われる敷地の王都なのに、偶然が重なり会うのが3度目だからだ。

 王都の中では2度目だが、まったくの他人同士で出会うにしては偶然すぎる。先ほどヒースが言っていたようにそれはいかにも……


「本当に運命かもしれないねぇ」


 いや、運命ではない、はず………。



 


「それにしても2人は入学試験見なかったの?」

 私はヒースとアスフィに聞いてみた。イアンはこの中庭であった入学試験を見てくれていたみたいで、2人で話していたときに感想も言ってくれた。

 合格までは知らなかったみたいだけど、試験を応援してくれたのがちょっとうれしい。


「だって面倒くさいじゃん」

「部屋で寝てた……」


 ……うん、イアンって本当にいいやつだ。

 話を聞くと入学試験当日、イアンたちのような在校生はお休みだったらしい。でも特に入学試験を見学したらいけないとは決まっていなかったので、たくさんの在校生の先輩方が見に来ていたというのだ。

 中にはヒースやアスフィのように見に来なかった人もいるらしいが、それはほんの数人とのこと。

 イアンも飽きれているのか「だからあの日いなかったのか」と話している。


 話していて気がつかなかったが、そう言えば3人とも先輩なのだ。イアンは同い年、ということもあって特に気を使わずに話していたが残りの2人にもイアンと同じように話してしまった。

 イアンは2人と親しげに話しているので、年は変わらないのかもしれない。でも一応(ここ重要)先輩なので敬語がいいのかと思ったのでこっそりとイアンに聞いてみた。


「敬語? ははっ! いいよ、今まで通りで。逆に今さらって気もするし」

「そ、そう?」

「えー、どうしたの? 2人で内緒話?」


 こっそりのはずがヒースたちに聞こえていたみたい。するとイアンが今私が言っていたことを話してしまった。


「……確かに今さらだな」

「だねー、それにしても僕らのことを先輩だと敬ってくれていたんだ」

「いえ、ちっとも」


 ヒースの一言に即答してしまった。あわてて口に手を当てるが、結局は後の祭り。口に手を当てても吐き出した言葉は元には戻らない。

 さすがに3度目とはいっても初対面に近い相手に今のような言い方はまずいと思う。

 あわあわと口に当てた手を握り締めた状態で私よりも高い位置にある2人の顔を見上げた。


「………へっ?」

 そう口に出した私は顔をあげたまま固まる。

 見上げた先には目をぱちくりさせた2人。美麗といえる2人は目を見開いたまま固まっていても、やはりかっこいい。……ではなく、私は動かない2人を見て、まずったと思いイアンに目を向けた。


「………はっ?」

 目を向けた先には声を殺して笑うイアン。片手を口元に当て、肩を震わせている。

 後ろには目を見開いた2人に前には笑っているイアン。えーと、どういうこと?


 相当困っている顔でもしていたのか、イアンが笑いを押さえながら話してくれた。

「うん、大丈夫だよヒナ。ただ驚いているだけだから」


 その大丈夫は安心してもいいということ? はっきりと言いすぎちゃったけど大丈夫ってことよね?


 私は声に出さずにイアンに訴えかける。イアンの言葉で後ろの2人は怒ってないということだが、それにしてはなぜ黙ったままかと、まだ不安なのだ。

 もし年が同じでも先輩には敬語じゃないといけなかったのでは、と心配になってしまう。


「別に怒ってはいない」

 最初に口を開いたのはアスフィ。私はアスフィの声を聞くと後ろを振りかえった。

「僕も怒ってないよー。でもイアンが言うようにびっくりしちゃった」

 次に言うのはヒース。子供っぽい口調とは裏腹の大人っぽい頬笑みに一瞬ドキッとしてしまう。


「でしょ?」

 最後にイアンがヒース達の方へ移動しながらにこやかに私に言ってきた。こくん、と頷く私を見てまた笑っていた。



「ヒナって珍しいね。新鮮な感じだよ」

「……だがあえてそう振舞っているのかもしれん」


 ヒースは緩やかに口角をあげ、アスフィは鋭い目つきで私を見据える。

 美形の2人に見つめられている私は、きつねに睨まれた兎のようにふるふると震える。そして頼みの綱であるイアンはにこやかに笑いながら私たちを見つめているだけだった。





「ヒナー? どこにいるんですの?」

 居心地悪く肩を小さくしていた私の耳に、今日できた友人の声が聞こえてきた。

 

 当初、私といた3人の友人は多くの先輩に囲まれ談笑していた。私もそこまで人見知りではないとは思うけど、3人のように話せるほど社交的でもない。中庭の端で友人たちを眺めながら食べ物をつまんでいるとイアンに声をかけられたのでそのまま話していたのだ。

 途中でヒースとアスフィも加わり、もしかしたら思っていた以上に話しこんでいたのかもしれない。


 私がいる位置は友人、リディ達には見えないみたいだ。それは私の前に立っている3人の男の子に隠れているから。今の声が私以外の3人にも聞こえたようで、イアンは「ヒナの友達?」など聞いてきた。


 私はイアンの言葉に頷くと、3人にリディを連れてきていいかと尋ねる。いいよ、という言葉が出たので声をあげてリディを呼ぶことにした。


「リディ! こっち、……違う、後ろよ!」

 きょろきょろと私を探している友人に声をかけていると、最初に私に気付いたのはリディではなくシアだった。シアはリディに声をかけると、こちらへイルも一緒に歩いてきた。


 手を振る私自身にもようやく気付いてくれたみたい。イルは私に手を振り返してくれている。

 そして私は3人が歩いてくるのを待っていたのだが、近づいてくるたび鮮明になる表情に3人とも信じられない、という顔をしていた。


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