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再会

 寮の外に出るとすでに辺りは暗く、星たちの時間になっていた。

 私が部屋を出て、中央棟に移動を始めたのが夕方あたり。1時間程度話していたということか。


 私はようやく分かり合えた? リディやシア、イルと話していた。

 周りでも新入生同士で友達ができ始めたからか、わいわいとした雰囲気だった。

 私は他の人たちとも話したかったのだが、なぜか私たち4人の周りには人が少なく話しかけるタイミングが掴めなかった。

 

 私は不思議に思いながらもこれからまだ時間もあるし、3人と友達になれたからいいかと思っているところに先ほどこの寮まで案内をした先生がやってきた。

 

 そして今、その先生を先頭に私たち40人の新入生はぞろぞろと星空の下を移動している。






「どこに行くんだろ?」


「特に説明もありませんでしたし……」


 周りでも同じようなことを話しているのが聞こえる。

 新入生は誰も知らないのか、夜の暗い中を歩いているというのもあって、みんな不安な気持ちで歩いているようだ。昼は太陽のおかげで暖かかったが、まだ夜は風が冷たく、余計に不安になってしまう。

 私も同様に時折吹く冷たい風に体を丸め、不安な気持ちを抱きつつ歩く。そして歩いているとなんだかお腹が空いてきた。


「え、ちょっと今の音はなんですの?」


「何か聞こえた?」


「いや、僕は何も……」


 私たち4人は夜道を先生の後に着いて歩いている。前を歩いていたシアとイルには聞こえてないみたいだが隣を歩いていたリディには聞こえていたみたいだ。

 3人が話しているときにまた鳴りだす私のお腹。


 ぐぅぅぅ~~


 お昼から何も食べていないからか、とうとうお腹が悲鳴を上げ始めた。

 できれば気づいても聞き流してほしいところだけど、リディに私の気持ちは伝わらなかったようだ。


「またっ! な、なんの音ですの?」


「今のは私にも聞こえたわ、変な音ね」


「確かに。動物の唸っているような音にも聞こえる」


 私のお腹の音に対して勝手に批評し始めた3人。その間にも鳴り続ける私のお腹。 

 お腹の音でこんなに言われるとは……、

 前を歩き続けながらも話し続ける3人に私は恥ずかしい気持ちを押さえて声をかけた。


「……それお腹が鳴る音だから」


「「「え?」」」


 3人同時に振り向く。








「へ~、お腹が減るとそんな風に音が鳴るのね」


「腹が減ることはあってもそんな風にまでならなかったからなぁ」


「もー、その話は終わろうよっ」


 シアとイルがまじまじと私を見る。多分リディも含めた3人とも食に不自由をしたことがないのだろう。お腹が鳴る、ということに無縁だったのかもしれない。

 まだシアとイルが不思議そうにお互いに顔を合わせて首をかしげている。

 どうにか今はお腹が鳴るのが止まったのでほっと胸をなでおろす。

 シアやリディならともかくイルなどの同年代の男の子にまで聞かれたのが少しショック……。

 私は空っぽのお腹をなで、肩を落としながら歩いた。



「それにしてもすごい音でしたわね」



 そういうリディに私は余計に肩を落として歩いたのだった。




 + + + +



「それではみなさん、全員ついてきましたか?」


 到着したのだろう、足を止めた先生が後ろにいる私たちの方へ振り向き、新入生全員に声をかけてきた。先頭にいる先生の後ろには大きな建物。周りは暗く、外灯も歩いてきた道に沿ってある程度足元を照らすほどにしかなかった。そのため、私たちの目の前にある建物は大きな建物としか分からなかった。


 私たちが先生の周りに集まるのを待つと、先生は私たちが全員いるのかを確認するように1度見回し、それから話を始めた。


「今から入るこの建物は、皆さんも1度来たことがあります。しかし、まだここに来て不慣れでしょうから、目的地に着くまで私から離れないこと。また、これから学院内で生活をするのに、どこに何があるのかが分からないと不便でしょうから各部屋に地図を配布しています。これは部屋に戻ってから確認すること」


 先生の話を聞いて、多分地図を先に渡さなかったのは今日の自由時間に勝手に外出させないためだったのかな、なんて思いながら話を聞いた。


「そして今から行く場所にはあなたたちの先輩である魔法科の生徒、また先生方もいます。礼儀を忘れず、そしてロータス王立学院魔法科の一員だと意識し、誇りを持って行動するように」


 先生は「ではついて来なさい」と建物の中へと入っていった。




 建物の中は外と違って明るい。それは廊下の壁から照らしている光のせいだろう。入学試験の時にも似たような廊下を歩き、同じような光が炎の代わりの明かりとして使われているのをみたので覚えている。


 しんっ、と静まった廊下を先生のあとに続く。これから先輩たちや先生たちの元へ行くからか、外ではみんな話しながら歩いていたが今は誰も話しておらず、緊張しているのが分かる。

 シアやイル、リディも外にいた時よりも硬い表情をしていることから緊張感が伺える。

 廊下には窓があり、外の様子を見ることができる。私はこの息が詰まるような雰囲気から気をそらすために外を眺めながら歩いた。

 



 立ち止まったのは巨大な扉の前。高さは2mはあると思われる扉だ。

 先生はその扉の前に立ち止まる。


「これから長い間勉学に励むことになります。しかしロータスでは勉学以外でもみなさんに学んでほしいことがあるのです。そして……、まぁ堅いことはとりあえず、今日は楽しむといいでしょう」


 先生はそういうと、前にある大きな扉に手を当て軽く押した。

 見た目は巨大でかなりの力を入れないと開かないと思われたその扉は簡単に開いた。


「では、ロータスにようこそ!」


 開いた扉からたくさんの音と光、そしてお腹を刺激するいい匂いが溢れだす。

 私たちはその扉の中へと足を踏み入れた。






「ぅわー、すごいわ」


「さすがロータスね」


 近くにいる女の子たちが話している。

 その他の同級生たちも今いる場所の様子にあっけにとられているようだ。



「ここは入学試験が行われた中庭だよね」


「ええ、魔法のために様子がすっかり違うけれど私もそう思うわ」


 イルとシアはすぐにこの場所がどこだかわかったみたい。

 言われたみれば地面は床ではなく土。周りには見覚えのある木や花たち。

 この前初めて中庭に来た時はその広さに驚いたが、今日は違う意味でもっと驚いている。


「すごいですわね、どれもすべて魔法なのかしら?」


 リディはそう言いながらすぐ近くに浮かんでいる小さな光に触れていた。

 この中庭にはリディが触っている光がたくさんあり、明るく照らしている。中庭を照らす光以外に、木には様々な色を放つ光がついており、まるで日本にいるころ見たクリスマスツリーのよう。

 また魔法の光は蛍の小さな光のようなものから、手のひら大くらいの大きなものまで様々だ。


 暖かいわ、と言うリディを見て私も光に触れてみた。

「本当だ、暖かい。不思議……」




「どうじゃ? わしの魔法は」


「わあっ?!」


「が、学院長?」

 リディと私が光の魔法を見ていると、不意に後ろから声がかけられた。

 声の持ち主は学院長でまたしても私たちのきょをついての登場だ。


 シアとイルも驚いていて口を開けたまま固まっている。

 もちろん声をかけられた私とリディもだが、双子の彼らは全く同じ体勢で笑いそうになってしまった。

 

 ほっほっほ! と笑う学院長は私たちが驚いている姿をみて満足げだ。


「みな、新入生同士で固まらず自由に過ごすとよい。今日はわしからの入学祝いとしてこの場を開いたのじゃ。同級生と仲良くなるのはもちろんじゃが、先輩たちもみなと仲良くなりたがっておるからの。そんな入り口におらずに中へ行ってみたらどうじゃ? 食べ物もたくさんあるからどんどん食べるといい」


 学院長が手をあげると、どこからかふわふわと骨付き肉が飛んでくる。

 それを素手でとるとおいしそうに頬張っていた。

 

 まだ固まったままの私たちを見て「わしがおると食べれんのかの?」といい、以前見たようにまた学院長の周りに小さな竜巻のようなものがおきると消えてしまった。


「ま、また急に消えた……」


「そ、そうですわね……」


 ついでに言うと、学院長が持っていた骨付き肉までなくなっていた。

 学院長をすぐ目の前で見ていたリディと私はまだ茫然としていた。しかしそのほかの同級生たちは学院長の言われていたように先輩たちのいる中庭奥へと歩いて行くのが見える。

 先輩たちは私たち新入生の方を伺いながらも、すでに食事を始めているみたいだ。

 

 実を言うとかなりお腹空いてるんだよねー、と私は辺りを見回す。

 

 どうやら立食パーティーのようだと思いながら、私たち4人も奥へと足を進めた。






 + + + +


 この中庭にはおそらく魔法科の全校生徒がいるだろうと思う。普通科の人数は分からないが、魔法科は私たち1年が40人と言う人数から全部の7学年を合わせても多くて300人程度ではないだろうか。

 300人という人数に加えて、先生たちの姿もあり、食べ物を置くテーブルも数多く見える。

 それを確認すると改めてここの広さを実感した。


「それじゃあ、僕たちも食べよう」


「そうね、色々あるみたいでどれもおいしそうだわ」


 ということで私たちも食事をすることにした。

 

 周りにはたくさん人がいて、先輩と思われる人たちは私たちに気軽に声をかけてくれる。

 私は先輩たちに対して「はい」「いいえ」くらいしか返せなかったけど、リディたちは初対面であろう先輩たちにも物怖じせずに話していた。

 



「すごいなー、3人とも。社交性があるっていうか……」

 私はお皿に盛った料理を口に入れながらそれぞれ別に先輩たちと会話をする友達3人を少し離れた場所から眺めていた。

 


「どうしたの? 君、1人?」


「……え?」


 私は1人、シア達3人を見ながらご飯を食べていたら後ろから突然声をかけられた。

 最初は私じゃない他の人に声をかけたと思った。けど中庭の端にいた私の周りにはあいにく人がおらず、声をかけられたのは私だとすぐに気付いた。

 

「あの、友達も一緒です……って、」

 私は返事をしようと声をかけてきた人物の方へと体をむけた。


「イアンじゃん!」


「ははっ、やっと気づいた? 久しぶりだね、ヒナ」


 後ろを向いて、そこにいたのはイアンだった。イアンはいつもの爽やかさで私に「入学おめでとう」と話しかけてきた。

 そっかイアンはここの生徒だったか、と思いながら私もイアンに返事をする。


「うん、ありがと。でもなんだか変ね感じね、同じ制服着てると。私ってすぐ気付いたの?」


「学院長がヒナのところにいたのを丁度見て気付いたんだ。友達と一緒なの?」


「そう、なんか色々あって3人と友達になったよ」


 私はそう言いながら「あそこ」と3人の方を示す。

 あ、あれ? シア達と話している先輩たち増えてないか……?

 

 私は不思議に思いながらもすでにあんなにたくさんの先輩たちと話せている3人をすごいなと思った。

 それと3人はまだそれぞれ先輩たちと話しているみたいなので、私もイアンと話していて大丈夫かな。


 イアンが大勢の先輩たちに囲まれている3人を見ると「……へぇ、もう友達できたんだ。よかったね」とにこやかに言ってくれる。

 

「イアンは今1人なの?」

 私はイアンがシア達3人をじっと見つめていたのでどうしたのか、と思い話しかける。

 するとイアンは私の方を向きなおった。


「いや、友達も一緒だけど、……1人は新入生たちに声をかけてたり、他は多分いろんな人に捕まっているんじゃないかな」

 首をかしげながら苦笑いをするイアン。「ま、俺もちょっと逃げてきたんだけどね」など呟いている。


「? 結局、友達何人といたの?」

 イアンの話からはイアンが今まで友達といたのは分かったけどよく分かんない部分が多い。

 私が目をぱちぱちさせていると「ヒナは今のままでいいんだよ」とわけのわからないことを言われた。




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